呼び出された理由
「ふぅ……ふぅ……先ずは戦果についての報告をしろ」
男の命令に従って我々は共和国の占領地における破壊活動の成果について正確に報告する。男は椅子の背もたれによりかかりながら聞いていた。
興味なさげな表情を装ってはいるが、口元が上がっているし鼻の穴がヒクヒクと動いている。現場に同行していなかったとしても、我々の成果は指揮官であるこいつの手柄だ。我々が作戦を成功させればさせるほど、こいつの手柄として報告される。きっと内心では笑いが止まらないのだろう。
その上万が一にも我々が全滅したとしても、カレルヴォにとっては都合が良いので罰せられることはない。どれだけ戦ったとしても待遇が改善される訳でもなく、だからと言って手を抜けば戦場で屍を晒すか役立たずとして処分される我々とは大違いだ。
「ふん、まあまあだな。それでお前達を呼び戻した理由だが……喜べ。本国から補充の人員が来たぞ」
「補充……ですか?」
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら、目の前の男はそう言った。普通に考えれば常に人手不足である特戦隊に補充の人員が来ると言うのは喜ばしいことだと言える。人数が増えると隠密行動は難しくなるが、戦術の幅は広がるからだ。
だが特戦隊が結成されてからこの四年間、補充の人員が来たことなど一度もない。大体、我々はカレルヴォに言わせれば失敗作を集めた部隊だ。カレルヴォが魔人を作っている現状、我々に補充の人員を送ると言うことは自分が失敗したと認めることになる。あのプライドの高そうなカレルヴォがそんなことを認めるとは思えないのだが……?
「そう、補充だ。以前より客員霊術士殿が重用しておられたカン族を知っているか?カルネラ港でお前達と会ったと聞いているのだが」
「……連隊長が連れていたのは覚えています」
カルネラ港で会ったカン族だと?ええと、確か……そう、ハディンとかマルケルスが呼んでいた奴がいたのはよく覚えている。あの後すぐに艦隊からの砲撃を受けたんだっけ。我々を舐め回すように見ていた視線は忘ようと思っても簡単には忘れられない。
「足りない頭でも覚えていたか。その方は客員霊術士殿の助手となっていたのだが、ついに魔人の生産を任されるようになったらしい。その習作として作られた魔人が、お前達の補充人員になるということだ」
「習作、ですか。承知しました」
習作という表現には吐き気がするが、どうしてその魔人達が我々の部隊に補充されることになったのかは理解した。ハディンが練習として作り出した魔人は、練習であったが故に何か問題があったのだろう。それを我々に押し付けることにした、と言ったところか。
補充されるのがどんな者達なのかは知らないが、出来ることなら仲良くやっていける性格だと良いなぁ。我々の立場は決して磐石ではなく、だからこそ結束力は重要だ。どれだけ修練を積んで強くなったとしても、内輪揉めで自滅したらどうしようもないのだから。
「補充の人員はもう届いている。特戦隊の居残り組とはもう合流させたから、そのつもりでいろ。わかったらさっさと出ていけ」
「それでは失礼します」
言いたいことは言い終わったのか、指揮官は羽虫でも追い払うように手を振った。我々も同じ部屋に長くいたいと思える相手ではないので、言われた通りにさっさと出ていくことにした。
守衛に預けた武器を受け取ってから我々は兵舎の外に出る。我々の使っている天幕の場所は変わっていないだろうからそこを目指して歩き始めると、ティガルが盛大な舌打ちをしていた。
「あのクソ野郎……何時かブチ殺してやる」
「抑えろ。誰かに聞かれたらどうなるかわからないぞ」
『その通りだ。罵倒するなら直接ではなく、念話でやれ』
苛立ちを露にするティガルをザルドは声を抑えつつ宥めていた。私もあの男は嫌いだが、ザルドの言う通り他の者に聞かれて告発されれば何をされるかわからない。私は大抵のことなら平気だが、万が一にも子供達が対象になれば大変だ。滅多なことは口にするべきではない。
だが念話ならばかまわないだろう。実はこの四年間で私も含めた多くの大人達が念話を習得している。私は適性があまりなかったからかかなり苦労したものの、何とか使えるようになった。念話を使うことで離れた場所にいても連係した作戦を行えるようになったのだ。
ちなみに我々は作戦のために伝言球を支給されているが、あれは一つしかない上に受信しか出来ない欠陥品である。あれを使って作戦を実効することは出来ない。理不尽な扱いをされることはもう諦めているが、伝言球は量産されつつあるという話も聞いているので少しくらい分けてくれてもいいのにとは思う。
『へいへい、わかりましたよっと。それでよ、あの話はどう思う?』
『補充の人員の話か?どう思うも何も、我々には拒否する権利すらない。受け入れるしかないだろう』
『いや、そりゃあ俺もわかってんよ。俺が言いてぇのはどんな奴なんだろうな、って話だ』
『ああ、そっちか。確かにそれは気になるな』
ふむ、二人とも補充の人員が何者なのか気になっているようだ。かく言う私も同じであった。部隊に波風を立てない者であって欲しいというのが大前提になるが、その上でどんな者なのかは気になってもしかたがないだろう。
そうだな、何故習作の素材として選ばれた理由は何かを考えてみよう。思い付く理由は二つある。一つはどんな指揮官だろうと扱えないほどに凶悪で手に終えない性格だったから。もう一つは何と合成したところで大した戦力にならないと判断されたからだ。
個人的には後者であって欲しい。前者だと他の部隊にいる好戦的な魔人よりも質が悪い奴になりそうだからな。後者ならば我々の手で鍛えてやれば良いだけである。その意思があるのなら、であるが。
『ボスはどう思うよ?どんな奴等が来ると思う?』
『さあな。何れにせよ、我々に押し付けている時点でカレルヴォの作った他の魔人と何かが違うのは間違いない。その違いが我々にとって良いものであることを願うだけだ』
『厄介者の吹きだまりに放り込まれるのは問題児だけってことか。ムカつく話だ』
ティガルはフンと鼻を鳴らしながら念話で吐き捨てた。腹立たしいと思っているのは私とザルドも同じことだ。しかし、何度も言っているがその気持ちを表に出してはならない。念話に乗せていなかったのだが、ティガルは私の言いたいことを察したのか憮然とした顔で肩を竦めてみせた。
『助手に作らせたとの話だったが、本当だと思うか?自尊心の高そうなカレルヴォが自分の技術を他者に話すとは思えないが』
『ミカに聞かないとわからないが……弟を謀殺して盗んだ技術で身をたてようとする男だ。権力か富かはわからんが、何らかの餌をちらつかせた帝国に魔人を作れる者を増やせと命令されればその通りにするかもしれない』
ザルドの疑問に対して私は持論でもって答える。ザルドにはそう言ったが、私は十中八九そうだろうと思っている。研究者としてはオルヴォよりも劣るものの、代わりに世渡りの上手さは遥かに上だ。メリットを示されればアッサリと技術を開示する可能性は十分にあるだろう。
技術を独占しておきたいという思いもあるかもしれないが……元々はオルヴォの技術だ。手放すのを惜しいと思う気持ちも弱いだろうし、むしろそれが最大限に自分の役に立つのなら喜んで手放すかもしれない。
『帝国とカレルヴォの思惑に振り回されるのはいつものことだし、何を考えたところで我々に出来ることは何もない。今はその補充の人員に会って見極めることだけを……ん?』
私がここまでの会話を総括しようとした時、我々の天幕の方が騒がしいことに気が付いた。天幕があるのは要塞の外壁のすぐ内側にある空き地だ。ここは元々天幕を張るためのスペースなのだが、我々に割り当てられたのは厩舎の近くである。最も嫌がられる場所の一つであるが、この扱いには慣れているのでもう気にならなくなっていた。
ちなみに、中央戦線の連合軍が所有している魔人に割り当てられているのはゴミの集積所の近くだ。厩舎の近くよりも嫌がられる場所であり、魔人の扱いがどの国でもにたようなものだというのがよく分かる事例と言えた。
閑話休題。天幕から聞こえてくる声は甲高く、まだ幼い子供のものだ。子供ならば何人もいるが、聞いたことのない声である。その正体を半ば察しながら、私達は顔を見合わせてから天幕を目指して駆け出すのだった。
次回は10月7日に投稿予定です。




