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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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四年後の戦場で

 今回から新章が始まります。

 アルテラ歴八百三十年の夏。冥王蠍の魔人である私が率いる魔人部隊は、共和国軍の輜重車部隊を守っていた護衛部隊を壊滅させた。我々は生き残りがいないことを確認すると、食糧と使えそうな物資を拝借した後に輜重車と残りに霊術で火を放つ。


 すると、木製の輜重車は激しく燃え上がった。物資の中に機鎧の手入れに使う油が積まれていたことは嗅覚が鋭い仲間によって確認済み。この調子なら大した時間もかからずに全て灰になることだろう。


「助かったぜ、ボス。しくじっちまった」

「無事なら、良い」


 私は戦闘中に膝を撃ち抜かれてしまったティガルの腕を掴んで持ち上げ、肩を貸して歩き出す。外からだと傷は既に治りつつあるように見えるが、関節のような複雑な部位は完治するまで時間がかかる。まだ少し力が入らないのはこれまでの戦いで何度も経験して知っていた。


 帝国におけるカルネラ港を奪還する戦いは、両軍にとって痛み分けに終わった。帝国軍はカルネラ港を奪還したものの、潰し損ねていた共和国艦隊からの砲撃を受けてカルネラ港は徹底的に破壊されて瓦礫の山となったからだ。


 私の仲間達は砂のクッションがあったので、誰一人として落下死している者はいなかった。だが、全くの無傷ではない。瓦礫に手足を挟まれて動けなくなったり、運が悪い者は骨が折れたり四肢の一本が潰れたりしていた。


 骨折くらいならすぐに治るのだが、四肢の欠損になると完治しない者もいる。魔人の治癒力に加えて闘気を活性化させても、そこまでの大怪我だと治らないこともあることが明らかになった。


 それでも死者までは出なかった我々は幸いだったと言える。砲撃に対処出来なかったカレルヴォの魔人や反応が遅れてしまった帝国兵は悲惨としか言えない。外壁の上にいた者は地面に叩き付けられ、地面にいた者も砲撃の爆風に吹き飛ばされ、落ちてきた瓦礫に潰されてしまったからだ。


 それでも魔人は持ち前の頑丈さで生き残っている者の方が多かったが、カルネラ港に地下から侵入した帝国兵はその半数以上を失った。それも外から圧力を掛けていた帝国軍が逃げる共和国軍の追撃は最低限にして救出を急いでくれたからこそであり、遅れていれば死者の数は倍以上に増えていたことだろう。


 どうやらあの時の将軍は部下を見捨てない方針だったらしい。戦いにおける最低限の目標であるカルネラ港にいる共和国軍を追い出すことに成功したのだから、それ以上の手柄よりも部下の命を優先したのだ。


 生き残っていた我々も救助に尽力し、瓦礫の隙間で呻いていた多くの帝国兵を救った。その中には我々の指揮官であったマルケルスやデキウスも重傷ではあったが含まれている。顔馴染みを死なせずに済んで本当に良かった。


 戦いの後、我々を含めた魔人部隊の活躍と有用性は帝国に高く評価されたらしい。帝国軍はすぐに魔人だけで構成された部隊、それも必要だと判断されれば即座に戦場へ送り込む部隊を編成することになる。そこには当然、オルヴォに作られてカレルヴォが『失敗作』だと吹聴している私達も含まれていた。


 新しく編成された部隊の名は『魔人連隊』。指揮官以外は全て魔人という、帝国軍でも特殊極まりない部隊であった。その中でも我々は『特殊作戦部隊』、略して『特戦隊』という部隊にされている。それからこれまでの四年間、『特戦隊』として東方戦線と中央戦線の二つの戦線を飛び回りながら戦って来たのだ。


 魔人の作り方を知っているのはオルヴォだけである以上、奴は帝国軍に所属している訳でもないのに魔人部隊の編成や方針に口出しすることが出来る。そして奴は弟にして魔人を生産する技術の真の生みの親であるオルヴォが作った我々を疎んじていた。


 その結果、東方戦線ならば最も戦況が厳しい場所に送り込まれ、中央戦線から援軍の要請があれば真っ先に派遣する部隊として我々を利用することにしたのだ。この四年間で戦場に出た回数はきっと我々の部隊が断トツで最も多いだろう。


 カレルヴォとしては連戦によって磨り潰されることを望んでいたに違いない。しかし我々は魔人である。疲労し難く、またその疲労もすぐに癒えるのだ。無論、これまでの戦いで死者は出している。しかし、部隊としてはこの四年間を生き残ってみせた。


 それだけでなく度重なる戦いを経て我々は部隊としても大きく成長している。『特戦隊』を構成する約()名の結束はより強くなり、個人の力量も磨き上げられた。


「大丈夫か、父ちゃん!?どっか撃たれたのか!?」

「オイラが運ぶブモ?」


 更に当時は戦力とは言えなかった者達も肩を並べて戦えるようになっている。私とティガルに駆け寄って来たのはレオとシユウであった。まだ子供ではあるものの、去年からレオは戦場に出ている。今回の奇襲作戦ではザルドに指揮を任せていた方の部隊で戦っていた。


 レオが合成されたのは私が闘獣だった時、新人戦でも見たあの輝獅子である。私が瞬殺した陸王鳥に敗北した生物だが、素材にしたいオルヴォと共に捕獲へ向かった時には死を覚悟したものだ。野生の輝獅子は新人戦の時の個体とは違って全く油断していなかったからである。


 立派な鬣から近付く敵を全て焼き尽く熱量を放ちつつ、しなやかでありながらも力強い身体を存分に使ってのし掛かり、鋭い爪牙で確実に仕留めにかかるのだ。溶岩に浸かっても死なない熱への耐性と爪牙を防ぐ頑丈な外骨格がなければ返り討ちにあっていたかもしれない。


 そんな輝獅子の魔人となったレオは、すでに我々の中でも上位の強さを誇っている。父であるティガルに似た豪快な剣術によって小さな見た目からは想像を絶する一撃を繰り出しながら、輝獅子のように凄まじい熱を放つのだ。


 特に熱は本来の輝獅子を遥かに超えており、一度白機兵に不意討ちされて危機に瀕した時にはその機鎧を溶解させるほどであった。本人の資質もそうだが、よほど相性が良かったのだと思う。それこそ私と合成されたレカ族のヤロのように。


「平気だ……って言いてぇところだが、さっさと撤収せにゃならんからな。頼むわ」

「合点だブモ!」


 そして脚がまだ上手く動かないティガルをひょいと持ち上げて肩に担いだのは、魔人形態になったシユウである。この四年間で、シユウとアパオはただ荷車を曳くだけの仲間ではなくなった。魔人形態ならば日常会話が可能なほどディト語を習得し、戦闘になれば武器を持って戦うようになったのである。


 私と同じくヒト種ではない生物の魂が入っているのだが、流石はオルヴォ製と言うべきか肉体の性能は他の魔人と大差ない。元が家畜だった二人も勉強をすれば言葉を流暢に話せるようになったのだ……元が蠍だった私が言うのもどうかと思うが。


 ただ、精神年齢はかなり幼い。本人達によれば、魔人となった時までの記憶は曖昧であるらしい。それ故に彼らの主観ではまだ四歳なのである。初めて会った時のラピよりも幼いくらいだ。むしろそれにしては成長が早いと言うべきかもしれない。


 言葉と言えば、最近になって私もようやく違和感のない声を出せるようになった。声を出す器官がヒト種とは大きく異なっていたせいでガラガラとした音しか出せなかったものの、四年かけて声を出すコツを掴んだのである。話せるようになって、本当に便利になったものだ。


 ティガルの他にも負傷者はいたものの、歩けなくなった者はいなかった。馬車の残骸が上げる煙を背に、我々は急いで撤退する。向かった先は街道から南に下った場所にある草原だ。そこには霊術で穴を掘っていて、そこにはここにいない仲間達を待機させているのである。


「それにしても、まさか共和国軍が馬車を使うとは思わなかった。運べる物資の量は明らかに減るし、馬の世話もしなければならないのに……」

「そうですね。ですが、そのせいで索敵は難しくなりました。あの馬車には音を消す霊術が施されていましたから、恐らくは音を頼りに索敵をしていることに気付かれたのかもしれません」


 草原を走りながら、共和国軍が馬車を使っていたことについてザルドとミカが馬車について話し合っている。確かに共和国軍が馬車を使っているのを見たのは初めてだ。お陰で輜重車を見付けるのがとても難しくなっていた。


 ミカが言うように我々が音を使って敵を見付けていることがバレた可能性は高い。一度に運べる物資の量を減らしてでも音を消すことに注力しているのだからほぼ間違いないだろう。


 同じ消音の霊術を自走車に掛ければ良いと思うのだが、共和国軍は前からその霊術を使っていたらしい。しかしながら、対象が大きくて複雑な仕組みだとどれだけ努力しても音は消えないとミカが言っていた。その対策として馬車に変えたのだ。


 これからは音による索敵は難しくなるかもしれない。敵を見付け出すのが面倒になるかもしれない、と考えながら我々は何の変哲もない地面に向かって跳躍した。


 地面に着地することはなく、我々は地面をスルリとすり抜けて地下へと落ちていく。ここは仲間達が隠れている穴の入り口になっていて、リンネの幻術によって隠蔽されていたのだ。


 穴の上に投影された幻術は完全に溶け込んでいて、違和感を全く感じさせない。幻術で投影された草木が周囲に合わせて風で揺れるほどだ。正確な位置を知らなければ、私ですら本気で霊力の動きを探ってもわからない。リンネは直接的な戦闘力こそ低めであるものの、彼女の幻術は部隊に多大なる貢献をしていた。


「あっ。あにき、お帰り」


 私を出迎えたのはラピであった。ラピは穴の底に着地すると同時に私の頭に飛び付き、素早く身体を動かして肩車の要領で私に跨がる。最近は私で肩車をするのがお気に入りなのだ。


 ラピもまたレオと同じく上から数えた方が早い実力者であり、既に実戦で機鎧兵を撲殺した経験もある一人前の戦士になっている。ただ、まだ幼いのでなるべく実戦からは遠ざけるようにしていた。今回もこの隠れ家の守りという名目で留守番をさせていたのである。


 隠れ家の守りも重要な役割なのだが、本人はついていきたいと思っているのを知っている。だからこそ、しばらくは可能な限り言うことを聞いてあげようと思う。


 私はラピの脚を優しく掴んでから穴の中にいる仲間達の様子を確認する。何か問題が起きた様子もなく、帰還した我々を見て安心しているようだ。どうやら今日も生き延びることが出来たらしい。私は無事を確かめ合う仲間達を見て胸を撫で下ろすのだった。

 次回は9月25日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 平穏な時間が長くは続かないとわかっているからこそ、みんなを思いやりながら過ごす時間はそれぞれに大切であり、また、絆を深める時間でもありますね。  サソリ君も言葉でのコミュニケーションが取れる…
[気になる点] 流石に4年間最前線送りにされて戦死者なしとはいかなかったから… にしても100名程も魔人部隊って人数いたっけ?
[一言] おおー、ついにサソリも喋れるようになったんですねー そして牛と馬のあの二頭も会話できるまで成長するとは 環境は前以上に劣悪みたいですが皆、今の所は無事みたいで一安心ですわ
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