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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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カルネラ港奪還作戦 その二十九

 我々が勝鬨を挙げている最中に、ようやく帝国軍は外壁の上へとやって来た。先頭集団の中にマルケルスの姿を見つけた私は、即座に砦を構築していた砂を操る霊術を解除する。それによって役割を終えた小さな砦はあっさりと崩れ去った。


 戦闘は終わったので魔人形態を解除して、邪魔にならないように砦の残骸を通路の脇に寄せていると、マルケルスと彼が率いる一団が近付いて来た。我々に勝るとも劣らない激戦だったらしく、マルケルス本人を含めてその部下の鎧も盾もボロボロで、本人の血と返り血の両方で汚れて真っ黒になっている。


 この分だと武器も似たようなものなのだろう。刃こぼれならまだマシで、場合によっては折れてしまった者もいそうだ。仲間達にも武器が壊れた者はいたが、ちゃっかり拾っていたから問題はない。そして私の剣はどうせミカが手入れしてくれるだろうからやはり問題はなかった。


「勝鬨を挙げていたみたいだが、どうなっているんだ?向こうの外壁の扉が開いているようだが……」

「それについては私の方からご説明致します」


 我々の中で最も目上の人物と会話することに慣れているミカが、この場所で何が起きたのかを要約して説明していく。それを聞いたマルケルスは何度も頷きながら「勝利の瞬間を見逃したな」と苦笑していた。


 マルケルスは戦いが終わったこと、そして勝利したことを彼の部下に伝えた。すると帝国兵は最初こそ戸惑っているようだったが、少しずつ状況を飲み込んでいるようで勝鬨を挙げ始める。


 その中には特に大きな声を出していたり滂沱と涙を流したりしている集団がいた。この場所に何か強い思い入れがあったのかもしれないな。


「それにしても……お前達もボロボロだな。私も他人のことは言えないが」


 マルケルスの言う通り、彼らと同じかそれ以上に我々も傷付いている。全くの無傷と言える者は存在せず、私も既に塞がっているが身体に幾つも風穴を空けられた。


 誰も彼も満身創痍と言っても過言ではない。激しい戦闘だったのに我々に辛うじて死者が出ていないのは、魔人としての治癒力があってこそだろう。悔しいが、オルヴォの技術のお陰で生き延びたと言えるな。


「マルケルスさん、そちらの方々は誰ですカ?」


 そんなことを考えていると、マルケルスの背後からひょっこりと顔を出した者がいた。その顔を見た我々は、思わず魔人形態になってしまう。何故ならその人物は青い肌のカン族の男だったからだ。


 背丈は平均的だが体つきはかなり細く、立ち姿からは戦いの心得があるようには見えない。だが、その身体には変な臭いが染み付いていて……濃密な新しい血の臭いを漂わせている。何だ、こいつは?


 我々からの敵意を一身に受けているはずなのだが、カン族の男は全く怯える様子がない。それどころか両目をキラキラと輝かせて我々に駆け寄ってきたではないか!


「変化するヒト種なんて聞いたこともありまセン!この大陸にはこんなヒト種がいるのですカ!?」

「……!」

「待て!殺すな!」


 私はえも言われぬ恐怖と危機感を感じたので、そのカン族から仲間達を庇う位置に移動してから毒針を突き刺すべく尻尾を伸ばす。だが鋭い針が首に突き刺さる直前、マルケルスが慌てて制止したので私は尻尾の動きをピタリと止めた。


 その尻尾をカン族の男はガッシリ掴むと、撫で回しながら観察しようとする。触れられた瞬間に怖気を覚えた私は即座に尻尾を戻したのだが、カン族の男は今度は私の身体を触ろうと手を伸ばして近付いてきた。


 その瞬間、私だけでなく後ろにいる魔人達は警戒心を露に武器に手を掛ける。抜かないのはマルケルスという話のわかる上官への義理と『殺すな』という命令に従ったからでしかなかった。


「皆、落ち着け!それに、ハディン殿も自重していただきたい。まだ貴方の処遇は決まっていないのですから」

「ウーン、仕方ないですネ」


 ハディンと言うらしいカン族は、マルケルスに厳しい口調で諭されたことで渋々私に近付くのを止めた。だが、チラチラと私を含めた魔人達に熱っぽい視線を送るのは止めていない。何なんだ、この気持ち悪いカン族は?


 マルケルスはハディンが落ち着いたことを確認してから、我々を納得させるためにもこのカン族が何者なのかを語ってくれた。その説明によるとこのラルマーン・ハディンと言う男はカン族の研究者であり、帝国軍に降伏してこれからはその頭脳を帝国のために用いると言っているようだ。


 ははぁ、なるほど?この男はオルヴォと同じタイプの人物だな?自分の研究と好奇心を何よりも優先するのだ。先ほどだって明らかに危険な私の毒針を食い入るように見ていたし、今も我々に注意は向いていることからもこの推測が的外れということはないだろう。


「ですが、この人達が何者かくらいは教えて下サイ。このままだと、気になって夜も寝られまセン」

「はぁ……そのくらいなら良いでしょう。彼らは魔人と呼ばれている、他の生物を霊術によって合成させられたヒト種ですよ」

「ヒト種の……合成獣……ですっテ?」


 驚愕しているからか口をパクパクと動かすハディンだったが、奴は自分に幾つもの厳しい視線が向けられたことに気づいていなかった。元が蠍であった私は気にしていないのだが、他の魔人達は自分達のことを合成獣と言われるのを嫌がる者は多いのだ。


 自分の中で折り合いはつけていても、他者に改めて指摘されるのは不愉快なのだろう。これが平時で相手が帝国兵ならば後のことを考えて堪えるのだろうが、今は戦いが終わったばかりで殺気立っている上に相手は敵の捕虜だ。皆の視線に遠慮はなかった。


 マルケルスがわざわざ『合成させられたヒト種』だと言った真意をまるで理解していないハディンだったが、仲間達の視線を浴びても全く動じていない。胆が据わっていると言うより、空気が読めていないのだろう。これまで以上にマジマジと我々を観察しているのだから。


「どのような手段を用いレバ、そんなことが可能なノカ……マルケルスさんは誰がこの革新的な技術を編み出したのかご存知ですカ?」

「知っていますが、私には会わせる権限はありませんよ。会いたければ、精々お偉方に自分を高く売り込むことですね」

「ええ、必ず会って話を聞かせてもらいマス!」


 マルケルスはあえて嫌味っぽい言い方をしたようだが、ハディンは額面通りの激励と受け取ったようで鼻息を荒くしている。どうやら空気が読めないと言う点では、ある程度政治的なことも考慮していたオルヴォよりも上なのは確実だ。


 ただし、オルヴォほどかはわからないが優秀なのも確実である。これまでスルーしていたが、このハディンという男は当然のようにカン族の言語ではなく我々の使っているディト語を使いこなしているからだ。


 侵略が始まってから数年経過したとは言え、連中は大陸の住民を虐殺している。つまり、言葉を教えてくれる者がいない状況で言語を一から習得したと言うこと。頭が悪い者には不可能であろう。


「ハイハイ、無駄話はこの辺で終わりにして降りますよ。どうやら外壁の内側に罠が仕掛けられているようですから、万が一にも罠が起動したら崩れてしまいます」

「わかっ……?この音ってどわああああっ!?」


 デキウスの進言にマルケルスが応えようとした瞬間、遠くから雷のような轟音が聞こえたかと思えば外壁が激しく揺れた。この轟音は共和国軍との戦争を通して聞き慣れたものになっている。そう、砲撃の音だったのだ。


「何処からの攻撃だ!?」

「う、海です!まさか艦隊が残って……!?」


 砲撃の発生源はカルネラ港から離れた海上に浮かんでいる艦隊であった。あれを潰すために飛行の霊術を使える者達が大量の爆弾を担いで行ったんじゃなかったのか?我々が持っていった時よりも遥かに数が多いと聞いていたのに……失敗したのかよ!


 その艦隊も無傷ではない。爆発によってダメージを負っている戦艦もいるが、その数は十隻を超えている。そこに搭載されていた長大な大砲から放たれた砲撃がカルネラ港の繁華街や倉庫街、そしてこの外壁に着弾していた。


「この無差別な狙い方……まさか、連中はここを更地にするつもりか!?」

「取り返されるくらいなら全てを消し飛ばす。共和国らしいやり方ですヨ」


 信じられないと言いたげなマルケルスの叫びに対して、ハディンは当然のことだと冷静に現状を受け止めていた。その直後に再び砲撃が外壁に幾つも着弾し、腹に響く音と共に我々の足場が激しく揺れる。


 立っていられないというほどではないが、このままここにいるのが非常に危険なのは間違いない。私は霊術によって空気を沢山含んだ柔らかな砂のクッションを地面に作り出し、その上に飛び降りろと皆に指示しようとした。


 だが、その前に第三の砲撃が外壁に着弾して……内部の罠が反応したのか内側から大爆発を起こした。爆風によって今まで立っていた足場も吹き飛ばされて空中へと投げ出される。不意に自分の身体を襲う浮遊感に耐えながら、私は急いで砂の腕を作り出して仲間達を柔らかい砂へと投げておいた。


(チッ!気を失っている者が多い!爆発の衝撃で頭を強く打ったのか!)


 頑丈な外壁が弾けるように爆発したこともあって、失神している仲間達は多い。ティガルやミカを始めとした手練れですらそうだった。むしろ私以外で失神していないのは数人しかいなかった。


 そして失神していないからこそ、パニックになって手足をバタバタと動かしている。暴れるな!落ちても無事な場所に投げるから!思わず変化しているからか、無駄に力が強いぞ!


(ふん!よし、これで仲間達は無事だろう。私も適当に足場を作って……!?)


 仲間達の無事を確認したところで私も自分が作った砂のクッションに降りようとした。だが、その前に外壁の残骸に再び砲撃が降り注ぎ、それによって私の頭よりも大きな瓦礫が高速で飛んできた。慌てて尻尾で振り払ったものの、腹部に直撃したせいで私はあらぬ方向へ飛んでいく。そして積み重なった瓦礫の中へと墜落するのだった。

 次回は9月17日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一難去ってまた一難。闘いは終わったと思っていたのに、相手は降伏したのではなくて、次の手を打つために退散したということだったのですね。 皆無事だといいけれど。 爆破が済んだら今度こそ逃げていく…
[一言] サソリが本能的に殺ろうとするレベルですかー やっぱ絶対ヤバい奴ですよねえこいつ そしてハディンが会いたがってるオルヴォが既に葬られていると知ったらどんな顔をすることやら
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