カルネラ港奪還作戦 その二十八
砦から飛び降りた私は、姿勢を低くした状態で通路を駆け抜ける。そんな私に向かって重装の機鎧兵は鎧の腰の部分を銃に変形させると、私に向かって即座に発砲した。小さな弾丸を詰めているタイプであり、直撃したことで激しい衝撃が私の外骨格に伝わってくる。
しかし、今さらただの弾丸で私を止めることなど不可能だ。姿勢を低くしているので弾丸は当たり難く、仮に当たったとしても気合いで前に進む。闘気で強化した外骨格を貫くことは出来ないとわかっているのだ。少し強く押されたくらいでは、私は決して止まることはない。
「■■■」
銃弾に曝されながらも猛然と突き進む私を見ても、重装の機鎧兵達が慌てることはなかった。背中の一部が変形すると、先端が尖った太い筒となって腕に装着される。何だ、あれは?
何かはわからないが、私の直感があれはとても危険なモノだと告げている。少し前も私の直感が白機兵の斧槍が危険だと告げていた。それを信じたからこそ、急に伸びた斧槍を防げたのだ。その直感を無視する気にはならなかった。
だが、ここで止まることも出来ない。私は何時でも避けられるように意識しながら外壁上の通路を駆けた。
「■■■■」
「!」
そして直感に従って警戒していたからこそ、攻撃に反応することが出来た。筒の先端についていた尖った部分が、大砲を撃った時のような轟音と共に弾丸のような速度で放たれたのである。備えていた私はその場で跳躍して回避し、私が直前までいた場所に鋭い先端が突き刺さって……いない!?
私は回避したはずだ。通路の床にも鋭いモノで穿たれた痕が残っている。つまり、飛んできたのは私の気のせいではないはず。では飛ばしたはずの先端はどこに……!?
私が混乱していたのは、ほんの一瞬だった。しかし、一瞬でも戦場で呆けていたのは致命的な隙となる。しかも今私は跳躍していて回避が出来ないのに、である。
「■■■!」
「がふっ……!?」
その隙を機鎧兵達は見逃さなかった。再び銃弾のような速度で大きな筒から放たれた何かが数本、私の外骨格を貫いて身体に直撃したのである。反射的に腕と剣で頭などの急所は守ったが、左肩と右脇腹、そして両脚の太腿を串刺しにされた。
私を串刺しにした何かは素早く引き抜かれ、支えを失った私は通路に転がされた。自分の身体に風穴を空けられてようやく、私は連中が何をしていたのか理解した。あれは先端が尖った太い金属の杭を凄まじい速度で伸ばしてからすぐに縮める、槍に近い武器だったのだ。
筒のような外見と発射した時の音で銃だと勘違いして混乱し、不覚をとったのである。いや、不覚ではない。この怪我の原因は私の油断だ。心の中で白機兵でもない相手に外骨格を貫かれることなど有り得ないと思っていたからこそ、直感で警戒していたのに呆けるような愚かなことをしたのである。
このところ、苦戦することはあっても命の危険を感じることはほとんどなかった。そのせいでどこか慢心していたらしい。今一度、ゲオルグの下にいた時の気持ちを、思い出すべきだ。
「■■!■■■■!」
「ごごがげげががぐが」
即座に痛覚を遮断しつつ闘気を高めて治癒を開始する。同時に私にトドメを差すべく再び発射した杭を尻尾で防ぐ。尻尾の外骨格は強化していたものの、やはり杭は貫通してしまった。
だが、貫かれるとわかっていればやり様はある。突き刺さった杭が素早く戻る前に尻尾を振るう。杭が伸びきっている状態で尻尾を動かしたことで、機鎧兵達のバランスが崩れた。
「があっ!」
「■■……!」
「■■、■■……!」
尻尾を動かすと同時に、私は両手に持っていた剣を両方とも投擲する。再び霊術回路を起動した状態で投げた二本の剣は回転しながら飛んでいき、四人の機鎧兵を斬り裂いた。
そう、四人である。黒い剣は鎧を叩き潰すようにしてめり込んだのだが、白い剣は鎧ごと三人の首を斬り飛ばしてから通路の床に突き刺さって止まった。やはり、あの剣は切れ味が尋常ではないようだ。
ズルリと尻尾から固い棒が抜ける感覚を味わいながら、味方が殺されて怯んでいる機鎧兵達へと飛び掛かる。そして頭を鷲掴みにすると、あらん限りの力を入れて兜ごと握り潰した。
元々は蠍だった私は、その名残なのか握力には自信がある。他の蠍がどうかは知らないが、鋏の力は掴んだモノを決して離さないくらいには強かった。霊術回路を起動したところで、私の握力から守ることは出来なかったらしい。
「ガルルルルル!無事か!?」
「助太刀するぜっ!」
「■■!■■■!」
「■■■■■!」
私が危ないと見たのか、砦の中からティガルとリナルドが飛び出してきた。それと同時に砦から幾つもの霊術が飛んでくる。重装の機鎧兵の防御を貫くほどの威力はなかったものの、連中は鬱陶しそうに何かを叫んでいた。
その間に接近したティガルの電撃を帯びた大剣が力強く打ち込まれる同時に紫電を撒き散らしながら鎧にめり込み、リナルドの赤熱した槍が鎧の薄い部分を正確に穿っていく。三人になったことで、純粋に攻撃の手数が増えていた。
一人で突っ込んでいなければ最初から今のように戦えていた可能性は高い。戦闘を一人で片付けようとしてしまうのは、闘獣だった時の弊害だと思う。前にミカに指摘されたように、今は頼れる仲間がいるのだから何でもやろうとする必要はない。この悪癖は少しずつでも治していかねばなるまい。
私の拳が、ティガルの大剣が、リナルドの槍が機鎧兵の持つ武器や鎧と激突する。重装の機鎧兵は近付かれた時点で取り回しの悪い杭を伸ばす筒状の槍を解除して各々の使いやすい武器へと変形させていた。連中も白兵戦こそが本領であり、判断は早かったし武器を操る腕前も優れていた。
「がああっ!」
「オラァ!」
「シャアァッ!」
しかし、我々は魔人だ。それも今は亡きオルヴォが選抜した、帝国に生息する中でも特に危険な生物と合成された魔人なのだ。白機兵でもない貧弱なカン族が近接戦闘に特化した重装の機鎧を装備したところで、そんな我々に殴り勝てる訳がない。これは慢心でも何でもない厳然たる事実だった。
あの槍での一撃で私を仕留められなかったのが運の尽きである。私とティガルは身体能力によるゴリ押しで、リナルドはより磨きが掛かった槍術によって重装の機鎧兵をなぎ倒していった。
「■■■!■■■■■!」
「ああ!?何言ってんのかわからねぇ……よ!」
「■■……!」
「掴んだって無駄だ!灰にしてやらぁ!」
ティガルの大剣が我々を罵倒していた機鎧兵を鎧ごと叩き潰し、リナルドは突き刺さった彼の槍を掴んだ機鎧兵を内側から焼き尽くす。私は密着しては黙々と頭部を握り潰したり、貫手で鎧を貫いたりしていた。
ドォン!ドンドドン!
重装の機鎧兵達と戦っていると、カルネラ港の内側から帝国軍が用いる陣太鼓の音が聞こえてくる。それは倉庫街を含めた港の完全制圧が終わった合図であった。それが何を意味しているのか、我々の中でわからない者はいなかった。
「マルケルスの野郎、勝ったみてぇだな!」
「おおっ!帝国軍が来たぜ!」
カルネラ港の内側を制圧した後、共和国軍に残っているのは本来ならば帝国軍から守るために築いた二枚の外壁だけになってしまった。外側からは帝国軍の主力が今も遠距離から攻撃を続け、内側からは侵入した帝国軍が迫っている。共和国軍の生き残りは、最も堅固な二枚の壁に閉じ込められてしまったのだ。
後は内外から圧力を掛け続ければ確実に陥落させられる。私を含めた誰もがそう思ったことだろう。しかしながら、そこで共和国軍が選んだ決断はかなり思いきったものだった。
「うわっ!?眩しい!」
「何だこりゃ?」
帝国軍と遠距離攻撃の撃ち合いになっている第三の外壁から、激しく発光する何かを打ち上げたのだ。私は腕でその光を遮りつつ、機鎧兵との戦いを継続しようとした。
「■■……!?■■■■■!」
「■■■■!■■■!」
「■■■、■■■■■!」
その光を見た機鎧兵の反応は三通りに別れた。一つ目は信じられないとばかりに狼狽える者、二つ目は立ち尽くす者を引っ張って逃げていく者、そして三つ目は……私たちに向かって無謀にも突撃してくる者であった。
私は何か嫌な予感がしたので、霊術で砂の塊を作り出して突っ込んでくる者達の先頭を走る者にぶつけた。その瞬間、そいつの機鎧に刻まれた霊術回路が急激に輝いて……爆発したではないか!
まさか自爆して我々を道連れにしようとでも言うのか!?あの爆発の威力なら私も死にかねない。機鎧兵が無機質な仮面を装着していることもあって、私の背中には正体不明の怖気が走っていた。
「じっ、自爆だとぉ!?」
「冗談じゃねぇ!死ぬなら一人で死にやがれっ!」
ティガルとリナルドも驚愕しながら、霊術によって迎撃する。通路が一直線であること、突っ込んできた連中の数が決して多くなかったこと、そして即席の砦からの援護があったことで自爆に巻き込まれることはなかった。
だが、自爆した者達の行為は無駄ではなかった。連中に対処することに必死になったせいで、他の機鎧兵には逃げられてしまったからだ。外壁の内部に続く出入口は崩されていて、中に入るのは難しい。それに共和国軍は謎の兵器を幾つも持っている。下手に弄ると罠に引っ掛かって吹き飛ばされそうだ。
「追いかける必要はねぇよな。戻ろうぜ」
ティガルに頷きつつ、我々は三人で即席の砦の内側に帰還した。仲間達は私のことを心配してくれていたようで、全員に死んだかと思ったと言われた。特にミカは相当心配していたようで、もっと慎重になれと叱られてしまった。私も反省しているので素直に頷いておいた。
砦に戻った私達は、その内側から外の様子を窺ってみる。我々を除いて外壁の上に残っているのは、カレルヴォの魔人達だけだ。その数はかなり減少していた。
どうやら自爆に巻き込まれただけでなく、上から撃ち下ろしていた四脚の自走砲に自ら突撃していたかららしい。そのお陰で我々は撃たれなかったのだが……同じ魔人としては複雑な気分である。我々に喧嘩を売ってきた連中はどうでも良いが、それ以外の魔人が無駄に命を散らしたのは可哀想だと思うからだ。
その生き残り達は機鎧兵が崩した出入口を何とか掘り返して追撃に向かおうとしている。中には着地する手段があるのか外壁上から飛び降りる者までいた。ただし、外壁と外壁の間に飛び込むなど自殺行為としか思えない。きっと生きて帰ってくることはないだろう。
カルネラ港の方を見れば、帝国兵が今まさに私の作った坂道を使って外壁を登ろうとしているところだった。あの中にはマルケルスもいるに違いない。時間で言えば短かったこの戦いも、ようやく終わりが見えてきた。
「おい、見ろよ!」
「門が……開いた?」
最後に第三の外壁の様子を見ると、信じられないことに外に続く門が開かれていた。何のつもりかと訝しんでいると、門の外へ次々と自走砲を始めとする車両が飛び出していくではないか。
挟撃された共和国軍は徹底抗戦でも降伏でもなく、逃走することを選んだらしい。門からは百台を超える車両が逃げ出している。そこへ帝国軍の本隊は攻撃を仕掛けており、実際に撃破もしているようだった。
しかしながら、一目散に素早く逃げる敵を遠距離からの攻撃だけで全て撃破するのは無理だったらしい。半数以上の車両が攻撃を振り切って北へと逃げていった。カルネラ港にいた共和国軍を根絶やしには出来なかったが、この地を奪い返したのは事実であろう。
「逃げた……んだよな?」
「じゃあ、勝ったってことだよね?」
「当たり前だ!勝鬨を挙げろ!」
「「「ウオオオオオオオオオッ!!!」」」
まんまと逃げられた形になるが、逃がしたのは我々ではなく外の帝国軍だ。悔しがる必要はない。我々は無事に任務を果たしたのだから。外壁の上に築かれた小さな砦の中で、我々は勝利の雄叫びを挙げるのだった。
次回は9月13日に投稿予定です。




