カルネラ港奪還作戦 その二十七
外壁の上に到着した私は、深々と突き刺さっている白い剣を引っこ抜く。霊術回路を全力で起動したこの剣の切れ味が凄すぎて危ないぞ。自分や仲間を傷付けかねない。なるべく使わないようにしよう。
そんなことを考えながら、私は横から突き出された槍の穂先を腕で弾きつつ下手人の脇腹に蹴りを入れる。強化した外骨格によって鎧は砕け、その奥に守られていた肉が潰れて骨が折れる感触が伝わってきた。
機鎧兵は仮面の隙間から血を撒き散らしながら飛んでいき、外壁の下へと落ちていく。蹴りで死んでいなくても、落ちて死んだだろう。運のない奴だ。
「ヒャハハハハ!」
「ガオオオオッ!」
「グルルルルッ!」
私達が駆けた登り坂以外の場所からもカレルヴォの魔人達が外壁によじ登っていた。奴等もまた自走砲に左右から撃たれていたはずだが、思ったよりも生き残った数が多い。その理由は連中が掲げていたモノのお陰であった。
連中は仲間の……すなわち、同じカレルヴォに合成された魔人の死体を盾として利用していたのだ。登りきると同時に盾にした死体をゴミのように打ち捨てたり機鎧兵に向かって投げたりしてから、外壁の上でもこれまでと同じように暴れ始めていた。やはり仲間意識など欠片も抱いていないようだ。
「そらよっと!さて、こっからどうすんだ?俺達も派手にやるってのも良いんじゃねぇか?」
「ティガル、お前はいつからそんなに血の気が多くなったんだ……」
ティガルは私が白機兵から奪い取って渡した大剣で近づいてきた機鎧兵を斬り捨てながら、戦うのかどうか聞いてくる。はしゃいでいるティガルにザルドは呆れているが、向こうで暴れているカレルヴォの魔人達のように理性を失っている訳ではないから問題はないだろう。
そして派手に暴れるかどうかだが、そんなことをするつもりはない。我々の目的はあくまでもマルケルス達が倉庫街を奪還する時間稼ぎであって、我々の力でこの外壁二つを陥落させることではない。命を懸けて無理をする必要はないのだ。
私は首を横に振りつつ、近くにある大砲を黒い剣で叩き潰した。先ほど私に襲い掛かったのは、この大砲を操っていた者の一人だったらしい。他の者達も既にティガル達に斬られており、私が大砲を破壊するのを邪魔する者は誰一人としていなかった。
「地道に壊していこうってことか」
「敵の相手をするよりもその方が楽ではあるな」
同じようにティガルとザルドもその剣で設置式の銃を両断する。金属が潰れる突き刺さるような異音が耳に入ってくるが、今さらそんなことを気にする者はいない。同じようにして他の仲間達も防衛兵器を次々と破壊していった。
それを阻もうと機鎧兵が襲い掛かってくるが、我々は容赦なく斬り捨てる。それにしても銃で撃てば良いのに、どうしてわざわざ近付くのだろうか?勝てないとわかっているだろうに。
「自走砲で撃っても無駄だった相手に、自分達の銃が通用しないからでしょう。機鎧で強化されている分、単純な威力なら銃弾よりも剣や槍を叩き付けた方が上ですから」
まあむしろ我々はそちらの方が楽ですが、といつの間にか私の後ろに回り込んでいたミカが推測している。ああ、確かに自走砲が発射した弾丸の雨を受けても問題なく登ってきた我々を銃弾で倒すのは難しいと思うのは仕方がないことだろう。
しかし、同時に我々と白兵戦で戦おうとするのは悪手でしかない。白兵戦こそ、魔人の潜在能力を最も発揮出来る戦い方なのだから。
「ガオオオオッ!」
「グルルルルッ!」
仲間達は白兵戦を挑んできた機鎧兵を斬り捨てながら、着実に防衛兵器を破壊していく。ただし、私の目的はただ防衛兵器を壊すことではない。この作業は目的のための過程であった。
ある程度破壊したのを確認してから、私は破壊された防衛兵器の残骸を霊術で作り出した砂の手でこちらに引き寄せる。そして残骸を積み重ねて外壁上の通路にバリケードを築いた。
さらに残骸の隙間に砂をぎっしりと詰めてやれば強固な壁の完成だ。それを二つ作って通路を封鎖することで、その間の空間を即席の小さな砦にしたのである。これが北側に敵を向かわないように釘付けにしつつ、我々は比較的安全に戦うために最初から考えていた方法だった。
「うはっ!何でも出来るな、アンタは!」
「敵拠点の上で籠城……聞いたこともないな」
ティガルは面白そうに、ザルドは呆れたように砦をヒョイヒョイとよじ登って内側に入ってきた。他の魔人達もそれに続き、それを追撃しようとする機鎧兵は私が砂の弾丸を浴びせてやった。
それに続くようにして先に砦に乗り込んでいた仲間達も霊術などをを浴びせて行く。電撃、風の刃、炎の弾、氷の礫、他にも様々な霊術と弓矢を得意とする者達が放った霊力を纏った矢が機鎧兵の鎧を焼いたり凍らせたり貫いたりしていた。
敵も無能ではないので、小さき即席の砦を攻略するべく様々な手を打ってきた。片方の通路からは銃を撃って我々を牽制しつつ鎧に仕込まれた近接武器を展開した機鎧兵に砦を登らせているし、もう片方の通路からは爆発する炎弾によって砦を破壊しようと試みている。
しかし、金属混じりの砂の壁は私が全力で固めているのだ。今さら機鎧兵が持ち運べる武器程度で砕くことは出来ない。炎弾は壁の表面を焦がすだけで変形させることすら出来ていなかった。
同時に登っている機鎧兵も登りきる前に叩き落とされている。連中の技術は優れているので、攻城用のものもあったのだろう。そしてそんな装備を用いていればさっさと登られていたに違いない。しかし、共和国軍にとって今の戦いは防衛戦である。攻城用の装備などあるわけがない。
「■■……!」
「■■■!?」
「ヒュウ!流石はファル姐さんだぜ!」
特にここで活躍したのはファルだった。彼女は類稀な弓術の才能を遺憾なく発揮して、機鎧兵の仮面のガラスで守られている目の部分を正確に貫いて確実に絶命させていたのだ。
機鎧兵の鎧は頑丈なので、基本的にティガルのように大剣の質量で押し潰すかザルドのように正確に鎧の隙間から刃を通す必要がある。遠距離攻撃だけで倒すのは意外と難しいのだが……優れた腕前があれば確実に仕留めることも可能だと彼女は証明していた。
機鎧兵もファルが厄介な相手だと察したからか、通路からは激しい射撃の音が聞こえてくる。嵐鷹の魔人である彼女は魔人の中ではそこまで頑丈ではない。リナルドとは違い、銃弾に貫かれればあっさりと死んでしまうだろう。
「ゴオオッ!俺の妻を撃つんじゃねぇ!」
そんな彼女を徹底的に守っているのは夫であるゴーラだった。彼は銃弾を大斧で全て防ぐと、仲間の一人が作らせたヒト種の頭ほどもある岩を投擲する。魔人部隊随一の膂力を誇る彼が怒りを乗せて投げた岩は銃弾よりも速く飛んで行き、通路にいた数人の機鎧兵をバラバラにしてしまった。
目の前で味方がグチャグチャになったことで、機鎧兵達は怒ることを通り越して恐れ始めた。これまでのように強引によじ登るのは止め、少し後退した場所から撃ち続けている。距離を開けたことでファルの矢とゴーラの投岩に反応しやすくなったものの、連中の銃弾の精度も下がって全然当たらなくなっていた。
私は自分が作った砦の壁に仁王立ちしたまま、視覚と聴覚を研ぎ澄まして戦場全体を見回してみる。銃弾が外骨格を叩いているが、別に痛くも痒くもないので私の思考の妨げにすらならなかった。
(倉庫街から聞こえていた激しい戦闘の音が収まったか。どうやらマルケルス達が勝ったらしい。勝鬨の声がディト語だからな。ならば倉庫街が完全に制圧されるのも時間の問題か)
頭を動かさずとも複眼によって周囲が見えている私は、倉庫街で起きていた大きな戦闘が終わりつつあることがハッキリと見えていた。この調子ならば、我々の時間稼ぎももうすぐ終わりそうだ。さっさと制圧してこっちに来てくれ。
じゃあ南側はと言うと、相変わらず帝国軍の主力が圧力を掛け続けていた。いや、その攻勢はむしろ激しくなっている。内側に侵入した我々を簡単に鎮圧させないために、外壁から離れられない状況を作り出しているのだ。
帝国軍が放つ霊術や新兵器の爆発する飛翔体を、共和国軍は迎撃しつつ反撃をする。本当ならばこっちに援軍を送りたいのかもしれないが、帝国軍の猛攻を前に兵力を減らすことは出来ないようだ。外壁から白機兵の気配が動かないのがその証拠であろう。
(カレルヴォの魔人達は相変わらず死ぬ者多いが、そのペースは随分と落ちたな。この戦場で弱い者が淘汰され、強い者が生き残ったか)
我々と同じように外壁の上で戦っている魔人達だが、未だに死者は増えているものの死ぬペースは落ちている。ただ弱い生物と合成された者や我武者羅に突っ込んで命を落とすだけの考えなしが全滅し、それなりに強い生物と合成された少しは頭が使える者が残っているのだろう。
戦場は質より量を優先しているように思えるカレルヴォの魔人から、使える者達を厳選するふるいとして機能しているようだった。これからも魔人は取りあえず戦場に放り込み、生き残った者達の部隊を作るのかもしれない。カレルヴォによって私達を嫌うように仕向けられた、それなりに戦える魔人の集団……弱い敵よりもよほど厄介な相手になりそうだ。
「■■■■■!」
「■■!■■■!」
戦場を眺めていた私の妄想を中断させたのは、外壁の内側に続く扉から姿を現したのは重装の機鎧兵だった。奴等は動きこそ鈍重だが、その分頑丈な鎧と強力な武器を装備している。そして最も厄介なのは……まずい!
私の焦りにミカが反応したのと重装の機鎧兵が肩の部分を展開させたのは同時だった。次の瞬間、展開した部分から気の抜けた音と共に濁った黄色の靄を噴射する。前に野戦を行った時、撤退しながら撒き散らされたあれを吸った兵士は死んでしまったのだ。
どうやっているのかは不明だが、機鎧兵には効かないようになっている。味方は巻き込まず、敵だけ殺す恐ろしい攻撃なのだ。そのことを知っていなければ反応も出来ないだろう。
「おまかせを」
しかし、私の思考を読み取ったミカの動きは的確だった。彼は翼で羽ばたきながら風の霊術を用いて靄を吹き飛ばしたのである。そのお陰か、砦の中に隠れている仲間達が倒れることはなかった。
今回は防げたが、次も同じことが通用するかどうかわからない。私は即座に重装の機鎧兵を始末するべく砦上から飛び降りるのだった。
次回は9月9日に投稿予定です。




