カルネラ港奪還作戦 その二十四
倉庫街を制圧していくマルケルス達だったが、急に敵の抵抗が弱くなったのを肌で感じていた。相変わらず倉庫の中にいた機鎧兵は反撃してくるし、降伏を呼び掛ければ応えることもある。だが、倉庫の外での遭遇戦はパッタリと止んでしまったのだ。
「どう思う?」
「おそらく、残存兵力を一ヶ所に結集させているのでしょう。少数の部隊でのゲリラ戦が通用しなかったからには、そうする他にありません」
デキウスに意見を求めたマルケルスだったが、これは彼が自分と同じ結論に至っているかどうかを確認する色合いが強かった。そして二人ともが同じ意見であることから、これが高い確率で正解なのだろうと納得していた。
倉庫街を進軍している最中に少数の機鎧兵による奇襲は幾度もあった。しかし、帝国軍には土地勘のあるカルネラ港出身の兵士がいる。彼らは奇襲に向いている場所を把握していて、不意討ちを許すことはついぞ一度もなかった。
そして奇襲が通用しないのは倉庫街を制圧中のもう一つの部隊も同じこと。そちらにも地元出身の兵士は配属されており、彼らにも同じことは可能なはずであろう。
少数によるゲリラ戦は不意討ちするからこそ効果的なのであって、その前に察知されてしまえば物量の差で圧殺されるだけである。それを何度も繰り返したことで、奇襲が通用しないことが共和国軍にもわかったのだろう。ゲリラ戦によって帝国軍の力を殺ぐのではなく、戦力を結集させて迎え撃つ構えなのだ。
「なら、その結集させる場所はどこだと思う?」
「我々には機鎧兵の持つ通常の銃は効きません。狭い路地に誘い込まれたとしても勝てるでしょう。また、地図上に迎え撃つのに向いた広場などもありません。そうなると頑丈な建物で籠城すると思われます」
「外の帝国軍を撃退した外壁に詰める兵士が援軍に来てくれるまで粘る、と。君、聞いていたな?条件に見合う建物はあるか?」
マルケルスは近くにいた地元出身者に質問を投げ掛ける。彼は突然話し掛けられたことに驚いていたが、少し考えた後に確信と共に口を開いた。
「ここから少し北へ進んだところにカルネラ港の総督府があります。砦と言えるほどに堅牢な造りになっていました。侵略された時に半壊したと聞きますが、敵の技術で補修されているなら……」
「さらに頑丈になっている可能性が高いということだな。わかった。そこを目指そう。先導してくれ」
地元出身者の意見を聞いたマルケルスの判断は早かった。彼は即座に目的地を決めると、彼らに先導を任せて総督府を目指す。後ろから奇襲されるのも厄介なので、その道中にある倉庫は全て制圧はしておいた。
そうして総督府に接近したマルケルス達だったが、彼らはその建物を見て顔を引き攣らせていた。何故なら、その建物は彼らが想像していたよりも遥かに改造を施されていたからだ。
『総督府』という名前からも分かるように、この建物は帝国がカルネラ港を領土とした際に作られたものだ。その役割は中央から派遣された武官と文官がカルネラ港の統治するための拠点である。
帝国の領土となってから時間が経過した今では地元の出身者も当然のように勤めているが、建築当初は帝国にとっては占領地に築いた重要拠点だ。統治に失敗すれば真っ先に襲われることはわかっていたので、下手な砦よりも頑丈に作られたという歴史がある。
しかし、共和国軍の攻撃によって半壊したはずの総督府は、彼らの手で魔改造されていた。マルケルス達は知らないことだが、この建物は外壁が突破された場合の最終防衛拠点として改造されていたのだ。
石造りだった塀は全て金属製になっており、笠木の部分は鋭い棘が並んでいる上に門は突破が困難な落とし戸になっている。その内側に新たに建てられた塔の上には大型銃が設置されていて、屋上には複数の大砲が下を狙っていた。更に複数ある小さな窓からは機鎧兵が銃口を覗かせており、いつでも撃てるように身構えているのだ。
外壁が突破される前に使うことになるとは誰も想像していなかっただろうが、順序が変わってもその機能に変わりはない。正攻法で攻略しようとすれば、多くの兵士が犠牲になることだろう。
「これは……力押しじゃ無理だな。かと言って無視して他の倉庫に行くと背後からちょっかいをかけてくるだろうし……どうするか」
総督府がギリギリ見える倉庫の裏からその堅牢さを目の当たりにしたことで、マルケルス達は二の足を踏んでいた。勇猛果敢な地元出身者も無駄死にするとわかっているので、マルケルスが攻撃命令を下さないことに不満を抱くことはなかった。
マルケルスが知恵を絞っていると、総督府が俄に騒がしくなった。何事かと思って様子を窺うと、彼らが隠れている場所と総督府を挟んだ反対側から帝国兵が現れていたのだ。
位置的に考えて、あの帝国兵は繁華街に空いたもう一つの地下道から侵入した部隊であろう。彼らが姿を表すと同時に、総督府にある火砲がそちらを向く。一斉射撃が行われるのは火を見るより明らかだ。
「副隊長!」
「わかっている!友軍を見捨てる訳にはいかない!突撃するぞ!着いてこい!」
マルケルスが突撃という決断を下すのは速かった。本人が言うように、友軍を見捨てられないからと言うのも理由の一つである。しかし、それ以上に友軍に気を取られてこちら側への監視が緩んだ今しか突入の好機はないと確信していたからだった。
マルケルスは最も危険な先頭に立って駆け寄ると、闘気で脚を強化してから塀に向かってジャンプした。塀はかなり高いので、軽装とはいえ鎧に身を包む彼は一息に飛び越えることは出来ない。しかし、笠木の部分に生えている棘に盾を引っ掛けることに成功した。
引っ掛かった盾を支点にして、両足で塀を蹴ることで今度こそ飛び越える。彼のやり方を参考にして、彼の後に続く者達もあまり苦戦することなく塀を乗り越えて行く。しかしながら、何の問題もなく侵入出来た訳ではなかった。
ドォン!ドォン!
帝国兵が塀の内側に降り立った瞬間、一部の地面が爆発したのである。塀の内側には地雷が埋設されていて、塀の側にあったそれを運悪く踏んでしまったのだ。
「■■■■!■■■!」
「気付かれたか!足元に気を付けつつ、盾を上に構えろ!デキウス!お前の部隊は塔を攻めろ!残りは私に続け!」
「了解!行きますよ!」
後ろから聞こえる味方の悲鳴に顔を顰めつつ、マルケルスはデキウスに塔の制圧を命令しながら総督府に突撃していく。彼は頭上からの銃弾を防ぎながら、幸運にも地雷を一つも踏むことなく建物に取り付くことが出来た。
総督府の建物は全てを完全に建て直したのではなく、半壊して残っていた部分はある程度そのままに補強だけされている。特に一階はほとんど残っていたので、パッと見ただけではそのままにされていた。
「フンッ!くっ、やっぱりか!」
マルケルスは闘気で身体を強化しつつ、霊術回路を起動した剣を扉に叩き付ける。見た目は鉄枠で補強された重厚な木の扉なのだが、その内側に金属板が仕込まれていたのだ。
ただでさえ木の部分も硬いのに、その内側にある金属板はその数倍の硬さを誇っている。マルケルスは何度も何度も剣を叩き付けるが、すぐに上にいる機鎧兵がその銃口を彼に向けた。
「ぐうぅぅ!」
「うおおっ!行けぇ!」
「扉を壊すんだ!」
マルケルスが耐えていると、地雷原を踏み越えた彼の部下が加勢に来た。彼らもまた盾を上に構えながら剣を振り下ろしていく。部下の数は徐々に増え、叩き付ける剣が増える度に鉄板が歪んでいき、ついに限界を迎えたのか完全に砕け散った。
破壊した勢いのまま、彼らは総督府の中に足を踏み入れる。そんな彼らを出迎えたのは……フワフワと浮かぶ金属製の円盤であった。
「っ!防げっ!」
マルケルスは反射的に盾を構えつつ、部下にも同じようにしろと命令する。その瞬間、これまでとは比較にならない衝撃が盾にのし掛かったせいでひっくり返ってしまった。
盾を持つ左腕に走る痺れを堪えつつ起き上がったマルケルスは、浮遊している円盤はこれまでとは異なるものだと言うことを嫌でも思い知らされた。そしてそれが何なのか、アスミからの情報で聞かされていた。
「ぐうぅっ!無人攻撃機……だったか?アスミの言う通り、凄まじい火力だ……!」
この浮遊する円盤は無人攻撃機という自律型の兵器であった。形状と大きさは無人偵察機とほぼ同じなのだが決定的に異なる部分がある。それは無人偵察機が機鎧兵の持つものと同じ銃を装備しているのに対し、無人攻撃機は拠点防衛に用いられる設置式の大型銃が装備されていることだった。
重くて大きな銃を装備しているせいで移動速度が遅い上に稼働時間も短く、偵察機のように生体反応を感知する機能もない。しかしながら、火力は圧倒的に上であるし、移動して最適な立ち位置から斉射することも可能だ。特に今のような入り口が限られる場所を狙うのならば、凶悪な性能を発揮していた。
「ぎゃあああ!?」
「ぐわあああ!?」
マルケルスはどうにか防いだものの、彼と共に扉を叩いていた者はその多くが撃ち抜かれてしまった。防ぐのが遅れた後続の者達も撃たれてしまい、一瞬で二十人以上がその命を散らした。
破壊した入り口の奥にいる無人攻撃機は四機もいて、その銃口から放たれる銃弾は軽装歩兵の鎧を紙のように食い千切ってしまう。まともに受ければ強化した盾をも貫通する威力であり、せっかく切り開いた入り口はあの世への入り口になっていた。
「どうしたら……うぐっ!上にもいるんだったな!」
入り口の横の壁に張り付いたマルケルスは必死に考えを巡らせようとするが、上にいる機鎧兵がその思考を邪魔するように銃弾を撃ってくる。時間を掛けてじっくり攻める余裕はない彼は激しい焦燥感に駆られるのだった。




