カルネラ港奪還作戦 その二十二
「うわっ、こりゃ酷ぇな」
ティガル達を引き連れて外壁に戻った我々が見たものは、機鎧兵と自走砲の混成部隊によって蹂躙されている魔人達だった。圧倒的な火力を誇る自走砲を横並びにして、それを守るように機鎧兵が展開している。自走砲を攻撃しようと思えば機鎧兵に撃たれ、機鎧兵を討とうとすれば砲撃に晒される……こちらにとっては嫌らしいことこの上ない布陣と言えた。
機鎧兵の銃弾なら耐えられる魔人はそこそこいるものの、自走砲の砲撃を正面から受けて平気な者はほとんどいない。無策に突撃した者達の多くは自走砲の砲撃によって原型がわからない肉塊にされている。防御を固めつつ霊術によって自走砲を破壊するのが堅実なのだが、そんな作戦を実行する理性は残っていなかった。
しかしながら、カレルヴォの魔人達は理性が残っていないからこそ我々には思いもよらぬことを仕出かしている。連中は無謀な突撃を常に行い続け、銃弾を受けながらも自走砲に取り付いて無理やり出入口の扉をこじ開けようとしていたのだ。
「ガアアアアッ……!」
「ギィィィィィ……!」
「■■■!」
「死ねやぁぁぁ!」
「ヒハハハハァ!」
「■■■■■!?」
自走砲に取り付く度に、その周囲を守る機鎧兵に撃たれて生き絶えていく。蛮勇とも言うべき行為によって近付かせないための弾幕の密度は下がっており、そのお陰で近付けた者達が機械兵を討ち取れている。考えなし過ぎるせいで機鎧兵もどう対処すれば良いのかわからないのかもしれない。
魔人達は驚異的なタフネスによって死なない限りは戦い続けている。しかし、全員が命を省みずに戦っているからこそ、死者の数はどんどん増えていた。最後の一兵になるまで戦うのかもしれないが、もしそうだとしても全滅するまでの時間がそう長くないのは間違いない。
だが、それでは困るのだ。せっかく私達が命を懸けることなく敵をここに釘付けに出来ているのだから、少しでも今の状況を長引かせた方が都合が良い。それ以上に……製作者が違うとしても、同じ魔人が一方的に殺されているのは見ていて不愉快だ。我々も手を貸すとしよう。
「……」
私は砂の鋏を数十個ほど作り出すと、それを敵にけしかけた。砂の鋏は機鎧兵を鎧ごと次々と両断していく。機鎧兵は砂の鋏に向かって銃を撃つが、少し砂が散らされたくらいでは止まらない。確かに体積を減らされると力は落ちるが、四肢を切断するくらいなら簡単だった。
仲間達も同じように霊術による攻撃を開始する。霊術が得意なシャル達は炎の塊や岩の礫を放ち、苦手な者達も電撃や氷の槍など本能的に使える霊術を使っていた。
「ガルルルルッ!」
「グオオオオッ!」
我々の援護を得たカレルヴォの魔人達は勢いを増して敵に突っ込んでいく。そして一角が崩れればあとはもう流れのままだった。機鎧兵の数は着実に減っていき、自走砲も魔人達が群がって武器や爪牙を突き立てていた。
自走砲の装甲は分厚いものの、十を超える魔人に群がられればひとたまりもない。砲身は折れ、装甲には穴が穿たれ、中に乗っている者達が引きずり出されて血祭りに挙げられていた。
「殺せぇ!次はあの壁の中だぁ!」
大声で叫んだのは最前線で常に戦っていたらしい鰐の魔人だった。自分と敵の血で真っ黒に染まった奴は、先陣を切って外壁へと向かっていく。私達のように素手のなま壁を登るのは苦手なようで、ノロノロとした動きで登っている。本人にとっては不本意かもしれないが……そのお陰で奴は救われた。
魔人達が勢いに乗って壁を登り始めた時、外壁の上からヌッと現れた無数の影があった。それは私達が潜入任務から帰還する際に盗み出した四脚型の自走砲だったのだ。
自走砲はその四本の脚によって外壁に張り付くと、そこを登ろうとしている魔人に向かって大砲を発射したのである。しかも、その砲口から放たれたのはこれまでのような炎弾ではない。それは銃弾と同じくらいの大きさの無数の弾丸だったのだ。遠くにいる集団ではなく、近くにいる集団を倒すことに特化させてきたようだ。
「ギャアアァァァ……」
「ウガアアァァァ……」
砲弾の代わりに放たれた弾丸の雨が魔人達の集団に降り注ぐ。完全な不意討ちだったこともあって、かなりの被害が出ている。半数近くが直撃して即死してしまい、残りの半数近くが弾丸を受けた衝撃で壁から剥がされて落下していく。運が良ければ生きているだろう。
そして鰐の魔人を含めた後ろの方にいた者達やごく一部の運が良い者達が銃弾を受けずに壁に張り付いたままでいられた。しかし、そんな幸運な者は鰐の魔人を入れても十人にも満たない再び発射されればまた撃ち落とされることだろう。
「行けっ!登れっ!獲物は上にいるぞ!」
「ウオオオオッ!殺すぅぅぅぅぅ!」
仲間の悲惨な死に様を見たというのに、血に飢えた魔人達は止まらない。撃たれて落ちた者も、生きていたならばすぐに立ち上がって外壁を登っていくのだ。
彼らの狂おしいほどに敵を殺傷することを求める感情は、我々には理解し難いものである。連中が余りにも攻撃的であることから、ミカはカレルヴォが故意にそうなるべく合成したのではないかと推測していた。
それが事実であるかどうかはさておき、任務のこともあるので連中が全滅されては困る。もうしばらく、ここに敵を留めて起かねばならないからだ。
ならどうするか。さっきまでと同じように霊術で援護をする?それは難しい。自走砲の数はとても多く、五十人に満たない我々の攻撃では焼け石に水だろう。先ほど上手く行ったのは、ほぼ全ての魔人が全力を出せる地上だったからだ。壁を登るのにあれと同じ勢いを求めることはできないだろう。そうなると取れる手段は限られて来る。よし、覚悟を決めるか。
「……」
「それは……いえ、我が主様ならば可能でしょう。かしこまりました。皆さん、聞いてください」
私の作戦とも言えない作戦を読み取ったミカは、ほんの少しだけ何かを考えてから同意する。それから彼は仲間達の注目を集めるべく声を掛けながら手を叩いた。
「これから主様が霊術を使われます。そうしたらしっかりと防御を固めて、とにかく全力で走って下さい」
「急に何言ってんだ……なんて野暮なことは言わねぇよ。信じてるからな」
「ああ、その通りだ。今は時間がない。早く行動に移ろう」
随分と信頼を寄せてくれているようだ。そこまで信頼されると責任を感じてしまうが、今は考えないようにしよう。私は霊力を高めると、大量の砂を作り出してから外壁の上にまで続く上り坂へと変えていく。私はそんな上り坂を十個ほど用意した。
私は上り坂を完成させると同時に走り出す。上り坂は砂で出来ているが、圧縮してあるので金属のように固い。足が沈んで走るのが難しいということはなかった。
「突っ込むぞ!あの人に続けっ!」
「うおおおおおおっ!」
私の後ろからティガル達が雄叫びを挙げながらついてくる。誰かに指示されることもなく、自然と左右を防御力の高い者で固めているのは彼らの経験が成せる業だろう。
我々と同じようにカレルヴォの魔人達も上り坂を見付けるや否や、迷うことなく登っていた。ここで困惑して動けなくならないのは、理性を失っている利点と言っても良いだろう。むしろ自走砲の方が急な展開に驚いているようだった。
「急げ!狙われる前に登りきれ!」
ティガルが怒鳴るように言った通り、この坂道は決して安全ではない。坂道そのものは簡単には崩されないようにしているが、登る者達を守る要素は一切ないからだ。今は狼狽していて砲口を右往左往しているが、すぐに坂道を登る者達目掛けて砲撃を再開することだろう。
「ううっ!」
「おっ、重っ!」
そして自走砲がそのことに気付くのは早かった。私達が坂道の半ば過ぎくらいにまで来た時、左右にいた自走砲が下ではなくこちらを振り向いてから砲撃を開始したのだ。
トゥルを始めとする盾を持つ者達やゴーラのように大型の武器を持つ者達が左右を固めていたので、負傷者は出ても死者が出ることはない。だが、ずっとこのままではすぐに死者が出てしまうだろう。もっと急がねば!
「■■■!」
「■■■■!」
我々を狙うのは自走砲だけではない。外壁の上にいた機鎧兵が集まってきて、坂道の正面から弾丸の雨を浴びせてきた。だが、先頭を走るのは私である。普通の機鎧兵の持つ銃では外骨格を貫くことは出来なかった。
しかし、そんな機鎧兵を押し退けるようにして後ろから一人の白鎧兵が現れた。そいつは筒が長い銃をこちらに向けている。私の記憶が確かであれば、あれは強力な光線を放っていたはず。あれは私であっても直撃すればただではすまない威力を誇っていた。
回避したいのだが、そうすれば一直線になっている坂道を光線が抜けていくことになる。その時、私の後ろにいる仲間達は光線に貫かれてしまう。そんなことをさせる訳にはいかない!
「がっ!」
「■■……!?」
私は白い剣の霊術回路を起動すると、それを思い切り放り投げた。回転しながら飛んでいった白い剣は、長細い銃を縦に両断する。
それだけに止まらず、ハタケヤマの打った剣の鋭さは尋常ではなかった。銃を両断してもその圧倒的な切れ味によって勢いは止まらず、銃を支えていた白機兵の指を切り落としてから外壁に鍔まで深々と突き刺さったのだ。
白機は兵何が起きたのかわからずに呆気に取られていたが、だからと言って私が攻撃するのを待つ理由にはならない。私は空いた右手を前に飛び掛かると、白機兵の首を掴みながら押し倒し、その頭部に黒い剣を振り下ろしてカチ割った。
「……」
黒い剣を頭から引き抜きながら、私は外壁の上に立ち上がる。どうにか目的地へとたどり着いたらしい。後はここで死なない程度に暴れて時間を稼ぐ。マルケルス、さっさと港を制圧してこっち来てくれよ?




