カルネラ港奪還作戦 その十九
飛び交う銃弾を一心に受け止めながら、私は誰よりも前で敵を釘付けにするべく敵を斬り続ける。白機兵ならばともかく、普通の機鎧兵ならば脅威でも何でもない。本当の脅威が来るまでの間に、可能であれば全ての雑兵を斬ってやるつもりだった。
「■■■■■!」
「■■■■!」
しかし、脅威が……白機兵が来るのは早かった。三人の白機兵がやって来て、最も派手に暴れている私に襲い掛かる。とにかく暴れるのを止めたいのだろう。ここまでは予想通りだ。
私は二本の剣と尻尾によってそれを迎え撃とうとする。しかし、私の前に割り込んだ者達がいた。それはティガルとザルドの二人である。ティガルは私から見て右側の、ザルドは私から見て左側の白機兵の攻撃を受け止めたのだ。
「こいつらは俺達に任せな!」
「一人くらいは何とかして見せるさ」
白機兵を同時に三人相手にするのは難しい。そこへ特に腕が立つ二人が援護しに来てくれたという訳だ。とても助かる。ならば任せたぞ。
私は尻尾で攻撃を受け止めた白機兵に集中するとしよう。持っている武器はアレクサンドルが使っていたものと似た斧槍だ。我が師よりもお前は強いのか?少しだけ戦うのが楽しみだ。
「があっ!」
「■■■!?」
私は前蹴りで目の前の白機兵を蹴り飛ばす。敵の鎧は霊術回路を起動して強化していたようだが、私の蹴りはその強化を突き破って鎧を変形させた。白機兵は後ろに大きく飛んでいき、途中で背中から炎を噴射して空中で動きを止める。ほう、そんな使い方も出来るのか。
私が感心していると、白機兵は更に背中の炎を強く噴射して加速する。その速度を乗せて斧槍を上段から振り下ろした。私も前へと突っ込んで、斧槍を黒い剣で受け止めつつ、白い剣で胴体に向かって打ち込んだ。
私の剣を斧槍は柄で受け止めた。しかし、ハタケヤマの剣は尋常ではない鋭さを誇っている。刃に刻まれた霊術回路を使っていないのに、斧槍の柄をそのまま切断してしまった。
「■■!」
「!?」
しかし白機兵が柄の切断面を押し付けると、そのまま何事もなかったかのようにくっついてしまった。斬ったのに、おかしくないか!?いや、驚くのは後だ。理由を考えたってどうせわからない。共和国軍の技術が凄いことなど今更なのだから。
問題なく繋がった斧槍を白機兵は巧みに操ってみせる。切っ先で突き、斧頭で薙ぎ、石突で殴打してくるのだ。その動きは変幻自在であり、武器そのものが大きいこともあって威力も高かった。
「があぁっ!」
「■■■!?」
ただし、どれもこれもアレクサンドルには遠く及ばない。単純な膂力も武術の技量もそれなりだし、特に武術の技量に至っては私よりも少しだけ上だろう。だが、かつての私が憧れたアレクサンドルには比べるのも失礼なほどに劣っていた。
もう見るべき所はないだろう。私はここから一気に攻勢に出た。防御をかなぐり捨て、両手の剣と尻尾の毒針で果敢に攻め立てる。敵も反撃してくるが、固い外骨格によって全て受け止めた。力押しによって私は徐々に目の前の白機兵を追い詰めていった。
「■■■■■!」
白機兵は強引に斧槍を振るって私を牽制すると、背中から炎を噴射しつつ後ろへと大きく後退した。私は即座に追いかけようとした瞬間、白機兵は斧槍の切っ先を私に向ける。嫌な予感を覚えた私は本能に従って黒い剣を顔の前に翳した。
その直後、斧槍が弾丸のような速度でギュンと伸びたではないか!切っ先を黒い剣で反らしつつ、私は前進し続ける。高速で伸びる斧槍と黒い剣が擦れ合って、火花が激しく飛び散った。
だが、これで奴の隠し球は防いで見せた。斧槍をまともに振るうためには武器を一度戻さなければならない。これが伸ばすという攻撃方法の欠点と言えるだろう。
この隙を逃してはならない。私はそのまま前進し続けながら、白い剣を大きく振りかぶる。そして白機兵の懐深くに踏み込んで……後ろに向かって尻尾を振るって背後から迫る斧頭を弾いた。
「■■!?」
「がぐぎが、ぎげげぐんが」
白機兵は伸ばした斧槍を何らかの方法で操作していたらしく、背後でグニャリと曲がってから私の背中を貫こうとしていたのである。しかし、私の複眼が後ろにも付いていることを知らなかったのが奴の誤算だったろう。見えていれば防ぐことなど容易かった。
万が一にも斧槍を伸ばす攻撃を初見で防いだ者を仕留める奥の手だったのだろうが、相手が悪かったな。まさか防がれるとは思っていなかったのか、白機兵は動きを一瞬止めてしまった。その瞬間に私は白い剣で腹部を深々と斬り裂いた。
「■■■……!」
白い剣は鎧ごと脇腹から背骨までを深く斬り裂いた。本来は胴体を真っ二つにするつもりだったのだが、直前で後ろに下がられたのである。
だが、これが致命傷であるのは明白だ。白機兵はその場で崩れ落ち、グニャグニャになった斧槍を手放している。それでもまだ生きているのは、闘気で応急処置をしているからだろう。激痛と出血で集中力が乱れているだろうに……闘気を操る技術も一流だったと言うことか。
ただし、確実に助からない一撃だったので、治療をしても無駄である。両断こそ出来なかったが、それに近い状態なのだ。今も傷口からは大量の血液と共に内臓が飛び出している。延命措置は死ぬまでの間の苦しむ時間を長くするだけにしかならない状態だった。
「■■……■…………」
私はこの白機兵を斬った張本人だが、これではあまりにもかわいそうだ。苦しめる趣味嗜好は私にはないので、半死半生でもがく白機兵の首筋に毒針を刺して速やかにトドメを差した。
動かなくなったことを確認してから、私はティガルとザルドの様子を窺う。二人とも武術の腕前を磨いていたので任せたが、白機兵は間違いなく強敵だ。闘気と霊力は強大だし、変形する鎧や先程の伸びる上に曲がる斧槍のような特殊な武器も持っている。奴等はただ強いだけでなく、『初見殺し』を持つ狡猾な戦士なのだ。
「ガオオオオオオッ!強ぇな、畜生!」
そんな白機兵を相手に二人は善戦していた。ティガルは同じ大剣使いの白機兵を相手に全身から紫電を放ちながら斬り結んでいる。装備でも膂力でも技量でも上を行く白機兵を相手に、彼は一歩も退かずに戦っていた。
鍔迫り合いになったら牙で噛み付こうとしたり、押し負けそうになったら膝や股間を狙って蹴ったりと戦い方はスマートとは言えない。だが魔人としての力を存分に活かしつつ、鍛練した蹴りを有効に使えているのは間違いない。私としては彼のように勝つために全力を尽くす戦い方は好みだった。
「ウオオオオオオン!硬い……!この剣では通じないか!」
一方でザルドの相手はトゥルが使っているモノよりも一回り大きな戦鎚を力任せに振り回す大柄な白機兵だった。戦鎚に込められた力は凄まじく、直撃すればどれも即死してしまうだろう。
しかし、威力を重視し過ぎて全て大振りになっているので回避は簡単である。特にザルドは自分の姿を認識させにくくさせながら鋭い爪牙で獲物を狩る斬妖狼の魔人。回避すること自体は余裕と言えた。
だが、戦鎚を使う白機兵は大振りの攻撃で隙を晒すことは折り込み済みだったらしい。装備している鎧は一際分厚く、霊術回路によって強化されているせいでザルドの剣では圧倒的な防御力を突破出来なかったのである。彼は隙間から刃を通そうとしているが、敵もその狙いは見えているので身体を捻って防いでいた。
二人ともまだまだ戦えそうだが、このままでは勝てなさそうだ。私の方は終わったし、助太刀に入るとしよう。先に手を貸すべきはザルドだ。ティガルはやや不利なくらいだが、どうあっても攻撃を入れられないザルドは相性が悪すぎるからだ。
「■■■……■■?」
「っ!食らえっ!」
白機兵が戦鎚を振り下ろして地面を砕いた瞬間に、私は前に飛び出して戦鎚の柄を踏んで押さえ付ける。戦鎚を持ち上げようとした白機兵の動きが止まってしまう。それで全てを理解したザルドは即座に飛び出すと、長剣を脇にある隙間に突き刺した。
激痛から白機兵は絶叫を上げたが、それと同時に彼の鎧が輝いた。ザルドが反射的に飛び退くと、白機兵の鎧の周囲で複数の爆発が起きたではないか!状況から考えた予想だが、今のは鎧に備わった迎撃機能だろう。防御力に任せて自分を巻き込む霊術を発生させるとは……強引だが、効果的な方法だ。
「■■、■■■、■■!」
「……!」
言葉はわからないが、爆風に巻き込まれて転がっていた私を罵倒しながら戦鎚を振り下ろす。私は横になったまま、両手の剣と尻尾を交差させて受け止める。剣がギシギシと軋み、尻尾の外骨格にヒビが入った。しかし、隙は作ったぞ……ザルドよ!
ユラリと白機兵の死角に回り込んだザルドは、兜と鎧の隙間へと正確に長剣を滑り込ませた。彼が首を斬り裂いた長剣を反撃される前にさっさと引き抜いて後退すると、傷口から勢い良く鮮血が迸った。
私を潰そうとする戦鎚の力が明らかに弱くなる。両腕と尻尾を振るって弾き飛ばすと、胴体を挟み込むように左右から剣を叩き込んだ。それと前後してザルドも背後から長剣で鎧の隙間を貫く。明らかに致命傷であった。
「■■■■■!」
死を悟った白機兵は最期の力を振り絞って霊力を一気に高めた。すると先程とは比べ物にならないほど強く鎧が輝き始める。
私は理屈ではなく直感でこいつが道連れにしようとしていると察した。そこで、尻尾を本気で振り回して白機兵を薙ぎ払う。放物線を描きながら飛んでいき……空中で激しく爆発した。
「どわあああああ!?」
爆風によって幾つかの建物が倒壊し、戦場で戦っていた仲間達も風圧によって転んでしまう。特に爆発に最も近い位置で戦っていたティガルは大きく吹き飛ばされてしまった。
しかし、それが彼にとって悪いことばかりではない。劣勢だった戦いを仕切り直すことが出来たのだから。飛んできたティガルの背中を尻尾で柔らかく受け止め、地面に降ろしてやった。
「助かった……ぜ?」
「あれをここで動かすのか?」
再び白機兵に突撃しようとしたティガルだったが、彼は思わず動きを止めてしまう。ザルドも信じられないと言いたげな表情で呟いている。彼らの視線の先では、車庫に入っていた自走砲が動き始めているのだった。




