カルネラ港奪還作戦 その十四
無人偵察機モドキの広範囲攻撃によって壊滅した重装歩兵部隊。それを救出するべく我々は走り出す。ただ、我々の本気と帝国軍の本気ではこちらの方が速い。彼らも闘気で身体能力を向上させているのだろうが、身体能力が違いすぎるのだ。
速度を合わせた方が良いのだろうか?私は迷いながら走っていると、後ろからマルケルスが大声で命令を下した。
「皆は先に行け!一人でも多く助けるんだ!」
マルケルスは急いだ方が良いと思っているのか、速度を合わせる必要はないと言う。ならば全力で駆けるとしよう。先頭を駆ける私を他の魔人達が追っており、最初に駆け出した偉い人をさっさと追い抜いてカルネラ港へと接近した。
走りながらそろそろ向こうの射程距離だと思った時、地に伏す重装歩兵部隊に向けられていた防衛兵器の半数がこちらを狙っていることに気付く。距離があるから霊術で反撃するのは現実的ではあるまい。なら、防ぐことに尽力するべきか。
私は霊力を練り上げると、それで無数の砂の槍を作り出す。そしてそれを狙いを付けることなく共和国軍の砲撃が飛んでくる方向へ放った。空中で砲撃と砂の槍が激突し、爆風と共に砂が舞い散る。砲撃を防ぐことに成功したようだ。
しかし、防いだとこりですぐに次の砲撃を撃つに決まっている。そこで私は即座に次の手を打った。砲撃とぶつかって空中を漂う砂塵を霊力によって操り、大きな砂嵐を引き起こす。それで第二の城壁を包み込んだ。
砂嵐は強さよりも範囲を拡げて外壁全体を包むことを優先したので、中に入った者達を砂で削るほどの風速ではない。だが、濃い砂に囲まれたからか砲撃は中断されていた。狙いを定められなくしたのは効果的だったらしい。この隙に更に走る速度を上げ、倒れている重装歩兵部隊の下へとたどり着いた。
「ぐっ……あがっ……」
「ががっ……ぎぃ……」
まだ生きている重装歩兵達は、痙攣しながら喉から絞り出すような呻き声を出すだけで動き出す様子はない。仕方がないので私は両肩に一人ずつ、尻尾で一人を抱えると可能な限り多くの重装歩兵を砂で作った手で持ち上げて後方に下がった。
時折砂嵐の向こうから光線が放たれるが、砂嵐のせいで狙いが定まらないようで明後日の方向に飛んでいって誰もいない場所に着弾して爆発する。砂嵐は妨害として十分に機能しているようだ。
しかし、それも長続きしないだろう。突風などで砂を散らされてしまえば簡単に無効化されてしまうからだ。現に今、外壁の向こう側で霊力が高まっている。きっと単純な解決策に気が付いたに違いない。さっさと逃げるとしよう。
「……」
「かしこまりました。皆さん、無理はせずに逃げましょう!」
私がミカに少しだけ意識を向けると、彼は即座に私の考えを把握した。そして逃げるようにと声を張り上げる。ティガル達は一様に頷くと、重装歩兵を可能な限り抱えてさっさと後方へと逃げ始めた。
一目散に逃げる我々の後ろから何かが破裂する大きな音が響き渡る。その瞬間、私の意識から砂嵐を操る感覚が消え失せた。後ろの複眼でも砂嵐が散らされているのがわかる。やはり気付かれていたらしい。
誰よりも早く駆け付けた我々だが、人数は五十にも満たない。力自慢も多いので一度に運んだ生存者は、全員で二百人ほどだが……これは重装歩兵部隊のほんの一部でしかない。救出されなかった者達には今も砲撃が放たれていた。
「負傷者は本陣にまで運べ!運んだらもう一度戻って来るんだ!」
撤退する途中、他の軽装歩兵と共に走っていたマルケルスがすれ違い様にそう命令した。足が速いせいで死地にもう一度飛び込む必要が出てくるとは……ままならんことだ。
かと言って無視することも出来ない。我々は命令通りに負傷者を本陣に送り届けると、再び前線に向かって走り出した。軽装歩兵が生きている重装歩兵を必死に担ぎながら撤退し、その背中にを何とか守ろうとする霊術士の障壁に砲撃が当たって爆発する。そんな光景が戦場の至るところで繰り広げられていた。
「……」
「一度やったことは通用しませんか」
救助のためにもう一度砂嵐を起こしてみたものの、今度は間髪入れずに散らされてしまう。ミカの言った通り、同じ手は通用しないと見える。敵も馬鹿ではないと言うことだ。地道に助ける他にあるまい。私はため息を吐きながら、再び戦場へと飛び込むのだった。
◆◇◆◇◆◇
軽装歩兵による地獄の救出作戦によって、重装歩兵部隊が全滅することは避けられた。しかし、その被害は小さいとは言えない。重装歩兵の三割が、救出に向かった軽装歩兵も一割が死亡したのだ。二回目の攻撃は、完全なる敗北言っても過言ではないだろう。
大きな被害が出たことで、首脳部は二つの意見に割れた。片方は一時撤退するというもので、もう片方はこのまま攻城戦を続けるというもの。長い時間話し合われた結果、攻城戦は続けることになった。
その代わり、今回のような正面から戦う方法は取らないことになっている。力攻めではなく、じっくりと時間を掛けて攻略することになったのだ。そのために食糧保管庫だった場所を補給の中継地点に改造し、兵士を常に駐屯させるようになったとマルケルスは言っていた。
「あぁ~!腰が痛ぇ!」
「文句を言うな。皆、同じ気持ちだ」
そんな中で我々に下された命令は、本陣からカルネラ港に続く地下道を掘ることだった。一回目の攻めの時、カレルヴォの手下である土竜の魔人が穴を掘って奇襲を仕掛けたらしい。それを参考にしたのだろう。
ただし、共和国軍も地下からの奇襲には警戒しているはずだ。そこでかなり深い場所を掘るようにと言われている。逆らうことなど許されない我々は、黙ってその命令に従っていた。
支給されたツルハシで岩盤を砕き、崩れた岩石を後ろに運び、飛べる魔人が地上に繋がる穴から外に捨てる。地道な重労働によって少しずつであるが、地下道はカルネラ港へと迫っていた。
「っつってもそろそろ外に出てぇぜ。お天道様をもうしばらく……えっと、何日経ったんだっけ?」
「一ヶ月と十八日だ……夜目が利くから良いものの、魔人になっていなかったら気が触れていただろうな」
「その前に疲れて死んでんじゃねぇか?」
「フッ、違いない」
ティガルとザルドが話している通り、我々は穴掘りを開始してから一度も外に出ていない。食事などの支給はミカ達のような飛べる魔人が持ってくるので、休まずに掘り続けねばならないのだ。
地下道は真っ暗で、掘る作業は過酷だ。しかし、我々はただのヒト種ではなく魔人である。誰もが夜目が利くから暗闇は苦ではないし、身体も頑丈で体力も多い。食事時に少し長めの休憩を取れば問題はなかった。
ちなみに、私が霊術で岩盤を砂に変えることも可能だ。実際、地上から岩盤まで一気に砂に変えることでこの深さに到達している。しかし、横に掘る際にそれをやると地下道が崩れる可能性が高いとミカが忠言してくれた。
それを聞き流さず、私はティガル達と共にツルハシを振ることにしたのだ。ただし、霊術を使っていない訳ではない。地下道は掘りっぱなしだと崩れてしまうので、そこを霊術でガチガチに固めているのだ。
元々の岩盤よりも固くしているので、崩れることはないだろう。もしも途中で引き返して曲がれと言われたら改めて掘るのが難しくのだが……そんなことはないと信じたい。
「おっと、また揺れたな。地上でまたドンパチが始まったのか」
「昨日よりも大きいぞ。少し激しい戦いになっているようだ」
コツコツと掘っていると、地下道がグラグラと揺れて天井から埃が落ちてくる。我々が地下道を掘っている間にも、帝国軍は地上で戦っているのだ。
ただし、前のように歩兵主体の攻め方ではない。霊術と共和国の技術を流用した兵器による遠距離攻撃によって遠くから撃ち合っているらしい。私達はずっと地下にいるので実際に複眼で見てはいないが、ミカ達から外の様子は聞いていた。
帝国軍の兵器は共和国の大砲を参考に作られたものらしい。開戦前に後方で組み立てていたアレだろう。ただし、大きな筒から放たれるのは爆発する炎弾ではなく、身の丈ほどもある巨大で太い槍だそうだ。
帝国の技術を以てしても、共和国の大砲を完全に再現することは出来なかったらしい。しかし、それよりも比較的に簡単な仕組みの兵器があった。それは機鎧兵が装備している銃である。
かつてオルヴォが私の剣を作った職人であるハタケヤマに銃を渡した時、彼は銃の仕組み自体は簡単だと言っていた。刻まれた霊術回路によって加速した銃弾を飛ばすだけ。確かに単純だ。
帝国軍はこれを大砲の大きさにして、巨大な槍を銃弾の代わりに飛ばす兵器にしたのだ。ただし、銃よりも飛ばすモノが大きくなっているので、一発撃つのに必要な霊力は数十倍に増加しているだろうとミカは推測していた。
数十倍に増加したと聞くと運用が難しそうだが、全くそんなことはなかったらしい。そもそも、銃は霊力がとても弱いカン族でも使えるようにしているのだ。普通のヒト種なら誰でも扱えるらしい。
そして発射する槍の先端には我々が戦艦に向かって投下した爆弾が入っているそうだ。あの時は我々だけでも運べる数しかなかったようだが、すぐに量産出来るようにしたのだろう。帝国という大陸最強国家の国力と物量あればこその戦い方だな。
「よっこいしょ……?あっ、ヤベェ!」
「水脈に当たっちまった!また頼みまさぁ!」
地上で繰り広げられているだろう撃ち合いを想像しながら掘っていると、リナルドがツルハシを振り下ろした場所から水が滲み出て来た。地下を掘っていると水脈に当たることがあって、時々こういうことが起きるのだ。
私は一度うなずいてから、水が流れている穴に腕を突っ込む。そして岩盤の形を変えて水脈の流れを変えてやる。最初は色々と慣れずに失敗することもあったが、今ではもう手慣れたものだ。
そうやって様々なトラブルを越えつつ、岩盤を掘り続けた我々がカルネラ港の真下にたどり着いたのはその十日後のことだった。




