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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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カルネラ港奪還作戦 その十三

 最後の一隻も奪った銃によって呆気なく沈めることに成功した。これで艦隊を全て沈めたことになる。ただし、銃に残っていた銃弾は全て使いきったので銃は海に捨てた。邪魔なだけだからな。任務を達成した我々は、陸地を目指して移動を開始した。


 移動の最中、私は複眼を凝らしてカルネラ港の方を見てみる。帝国軍は最も外側にある外壁とその奥の外壁にまでたどり着いたようだが、その奥からの攻撃にさらされて大きな被害を受けているようだった。


 帝国軍の被害はどうでも良い。私が気になるのは仲間達の安否だけである。無事を願いつつ彼らを探していると、外壁から降りて撤退していく彼らの姿を発見した。人数は……出陣した時と変わらない。負傷者はいても死者はいないらしい。安心した私は胸を撫で下ろした。


「敵艦隊の殲滅、ご苦労だった。撤退の合図が鳴ったから、このまま本陣に帰還するぞ」


 地上で待っていたマルケルスの部下は私達を連れて本陣にまで帰還した。共和国軍の攻撃が届かない本陣では、負傷者の治療と部隊の再編が行われている。今日中にもう一度攻めるつもりのようだ。


 それと同時に食事が取られていて、本陣では兵士達が座り込んで何かを食べている。その様子を見渡しながら、我々はマルケルス達と合流した。


「皆、無事だったようだな。艦隊はどうなった?」

「全ての撃沈を確認しました。あの爆弾によって半数以上を、残りを突入した彼らが内部から沈めておりました」

「わかった。報告に行くぞ。次の攻勢に出るまでゆっくり休んでくれ」


 マルケルスは海上での戦いについて報告するため、部下を連れて去っていった。漂っている血の匂いからしてマルケルス本人も戦場で激しく戦っただろうに、忙しく動き回らなければならないとは。大変だなぁ。


 とは言え、休めという指示であるし我々もゆっくりさせてもらおう。地面に座っているティガル達に合流し、我々もまた地面に座った。


「お疲れさん。ほれ、飯だ」

「監獄にいたときに比べたら随分と貧相だが」

「俺らも贅沢に慣れたもんっすねぇ」


 全くだ、と魔人達は楽しげに笑う。私も頷きながらティガルから受け取った粗末なパンとガチガチの干し肉を食べ始める。パンや肉にこだわりはないから気にしないが……甘い食べ物がないことを不満に思ってしまうのはゴーラの言う通り贅沢に慣れたからだろう。


 私は固いパンを噛み千切ってゴリゴリと咀嚼する。その間に頬の鋏で干し肉を小さく切断し、口に放り込んだ。パンも干し肉も保存を重視しているからか、鉄のように固い。魔人にとっては問題ない固さでしかないが。


「飯を食い終わったらまた攻めるんだよなぁ……俺、穴だらけにされたからもうちっと休みたいんだけど」

「穴だらけ?よく生きてたな、リナルド」

「私を庇ったの……失敗しちゃって」

「トゥルは大丈夫だったの!?」

「うん。大丈夫だよぉ、お姉ちゃん。でも魔人になってなかったら死んでたよぉ?無茶はしないでねぇ」

「へいへい、わかってるよ」


 リナルドが休憩したいと言う気持ちはわかる。今でこそ安定しているが、一時は死ぬ手前にまで追い詰められたのだ。今だって万全の時に比べれば闘気も霊力も弱々しい。無理だけはさせられないだろう。


 それからは先程の戦いで誰が何人倒したとか、幾つの防衛兵器を壊したかとかで盛り上がっていた。それによると共和国兵を最も斬り殺したのはザルドで、防衛兵器を最も壊したのはゴーラであるらしい。そしてその二つを合わせた時に最も数が多かったのはティガルのようだ。


「でもさ、この人の方がヤバいよ。ねぇ?」

「そうそう。船……じゃなくて戦艦だっけ?とにかく、あれを霊術だけで沈めたんだぜ?思わず飛ぶ姿勢が崩れたわ」

「えぇ……?腕っ節だけじゃなくて術士としても一流なのかよ」


 食べ終わって空を見上げていると、話の内容が私のことになっているようだ。一流とか言っているが、決してそんなことはないと知っている。武術の腕前はまだまだアレクサンドルに遠く及ばず、霊術もあのエル族の女よりも遥かに劣っているからだ。


 使命を果たすためにも、誰にも理不尽に殺されないだけの強さを得るべく精進し続けなければ。私は決意を新たに拳を強く握り締めた。


「みんな、そろそろ次の攻勢に出るぞ。出陣の準備を整えるんだ」


 そうこうしている内に、マルケルス達が戻ってきてそんな命令を下した。まだ食事を終えていない者は流石におらず、我々は下ろしていた武器を装備して立ち上がった。


 今回の攻撃では、私達も軽装歩兵と共に戦いに加わることになっている。それはミカ達も同じである。空から爆弾を降らせれば良いのでは、とも思ったがどうやらもう在庫がないらしい。


 戦艦という地上からでは手出しが出来ないものを確実に破壊するべく、全てを投入したのだとか。そんなものを預けられるとは……我々は戦力としてそれなりに評価されているのかも知れない。


「戦い方は基本的にさっきと同じだ。軽装歩兵に混ざって、重装歩兵が切り開いたところに突入するぞ」


 つまり、最初に道が出来るまでは何もすることがないと言うことだ。突撃するように命じられるまでは、後方から重装歩兵の勇姿を見物させてもらうか。


 勇壮な陣太鼓の音色が響き渡った後、重装歩兵は進軍を開始する。分厚い盾を上に構えながら歩いて防衛兵器の射程距離に入ると同時に、カルネラ港から砲撃が開始された。


 重装歩兵は持ち前の頑強さと霊術士からの援護を受けて前進し続ける。我々も防衛兵器の射程距離のギリギリにまで前進し、何時でも突撃出来るように備えていた。


 ここまでは一度目の攻撃と同じ流れであるらしい。隣に立っているティガルが欠伸をしながら教えてくれた。同じ流れのまま突破するだろうと予想しているのだろう。


 だが、私は彼のように楽観視していなかった。カルネラ港は共和国軍にとっても重要な拠点であるはず。前線に築いただけの砦とは重要度が違うのだ。


 そんな場所を守る外壁の半数が、たった半日で呆気なく陥落した。私はそのことに違和感を覚えている。こんなに簡単なら、共和国軍にエンゾ大陸の国々が追い詰められるとは思えないからだ。


「あぁ?この音……聞き覚えがあるぞ」

「渡河した時に戦った無人偵察機か」


 重装歩兵が崩れた第三と第四の外壁の瓦礫を乗り越えた時、遠く離れている第二の外壁の奥から特徴的な音が無数に聞こえて来た。ザルドの言う通り、川を渡った時に戦った無人偵察機が飛ぶ音に似ている。その予想は正しく、外壁の向こう側から無人偵察機……に似ている何かが空を埋め尽くすほど現れた。


 あれだけ壊したのだから、嫌でも無人偵察機の形状は覚えている。しかし、外壁から現れたものはその記憶とは違っていた。あれは下に銃がついた円盤だったのだが、今空を埋め尽くしているのは上下に一本ずつ短い棘があるのだ。どんな用途で使われるのだろうか?


「自爆でもすんのか?」

「そうかもな。だが、あの程度の爆発なら重装歩兵の鎧なら耐えられる思うぞ」

「じゃあ無駄な攻撃じゃねぇか。ご苦労なこった」


 私の警戒を他所にティガル達は楽観的だ。だが、マルケルス達やミカは私と同じく警戒している。特にマルケルスはこれから起きるであろう何かを決して見逃さないように集中しているようだった。


 空を飛んだまま停止していた無人偵察機モドキは遂に動き始める。大きく散会して重装歩兵部隊を取り囲むと、円盤の上下から伸びる棘が輝き出して……その全てから電撃が放たれ、電撃の檻というべきものに囚われてしまったではないか!


 重装歩兵は一人の例外もなく電撃の餌食となっている。霊術士は慌てて円盤を破壊しようと霊術を放ったのだが、余りにも数が多すぎて焼け石に水だった。電撃は全ての円盤が力尽きたように地面に落ちるまで放たれ続けた。


 電撃の檻が消え失せた後、私の複眼に映ったのは倒れ伏す重装歩兵達で埋め尽くされた地面であった。立ったままの者もいないことはないが、その数は非常に少ない。一瞬で帝国が誇る重装歩兵部隊は壊滅的な打撃を受けてしまったのだ。


 幸いと言っても良いのかはわからないが、見た目の悲惨さとは裏腹に死者は驚くほど少ない。ただ、電撃を食らって動けなくなっているだけなのだ。十分な休息をとれば再び戦えることだろう……それが可能なら、であるが。


 防衛兵器は動けずに倒れている無防備な重装歩兵部隊に向かって容赦なく攻撃していく。霊術士部隊は必死に守るための霊術を使っているが、その全てを防げる訳がない。一方的な虐殺が始まろうとしていた。


「あれ、ヤバいんじゃ……?」

「どう見てもヤバいだろ!ど、どうすんだよ!?」


 余りの光景に呆然としていた軽装歩兵部隊だったが、時間が経つに従って我に返っていく。しかし、我に返ったとしても混乱はしているようだった。


「静まれ!」


 動揺する兵士達に向かって怒鳴ったのは、渡河をした時にマルケルスを誉めていた偉いさんだった。腹の底に響くような良く通る声によって、誰もが視線を彼に向けていた。


「これより我々は友軍の救出に向かう!我に続け!」


 そう言って偉いさんは馬の腹に蹴りを入れて駆け出した。それに続くのは彼の護衛っぽい騎兵である。私はどうするんだ、という意思をこめてマルケルスを見る。その視線に気付いたからか、マルケルスは慌てて言った。閣下に続け、と。


 マルケルスの命令に従い、我々はカルネラ港を目指して走り出す。やっぱり容易には行かないようだ。とにかく私は急いで走るのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 死亡フラグ回避めでたいがまだ返事を貰ってないのでフラグ続行である 頑張って生き残ってくれ [気になる点] 共和国側にも使命を持った人が居たりするんですかね? 使命持ちってどれくらいいるんだ…
[一言] 次から次へ新しい武器が出てくることに驚きます。そんな武器を作る知識や科学力は一体どこにあるのか?もしかしたら共和国側には頭脳明晰な、ある意味魔人的な誰かが存在しているのか?元々帝国側よりも何…
[一言] 殺傷力よりも継戦能力を奪うことに特化した兵器ですかー、金属鎧の部隊用とかなんですかねえ 自爆無人偵察機だけじゃなかったとは、ほんとに恐ろしいほどに技術力ありますねー
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