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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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カルネラ港奪還作戦 その十二

 最も外側の外壁を帝国軍が占拠した時、その奥にある外壁でも騒ぎが起きていた。何と既にそこに帝国兵()()()()集団が侵入していたからである。


「狭かったぜぇ……ったく、もっと広い穴を掘りやがれってんだ。それしか取り柄がねぇんだからよぉ」

「文句しか言えないのか、このクソ野郎。とっとと暴れて来いよ。それしか取り柄が……ってもう居ねぇし」


 侵入していたのはカレルヴォの魔人部隊である。土竜の魔人が穴を掘って地中から密かに接近し、第四の外壁と第三の外壁の間に出口を開けたのだ。


 彼が開けた穴から魔人達は第三の外壁に雪崩れ込む。上がったのは歓声ではなく獣の咆哮だ。ヒト種同士の戦いに臨んでいた共和国軍の兵士は、あまりに野性的で原始的な意思……捕食者の殺意とでも言うべきものをぶつけられて動揺せずにはいられなかった。


 城壁をよじ登った魔人達は、その狂暴な本性を剥き出しにして襲い掛かる。剣で、槍で、斧で、鉄槌で、牙で、爪で、棘で、尻尾で近くにいる敵を無差別に殺戮していく。獰猛な獣の群れに襲われる本能的な恐怖は、共和国軍をさらに怯えさせるのに十分だった。


 共和国軍の兵士もただ殺されている訳ではない。彼らは恐怖から逃れたい一心で銃を乱射しているのだ。放たれた銃弾は魔人の身体を穿ち、手傷を負わせていく。血飛沫が舞い散り、時折頭部や心臓などの急所を貫いて即死させる。魔人も殺せる生物である、と彼らは認識することで少しだけ安堵していた。


「ガブッ……ガルルルルル!死ねぇ!」

「ギャッ……ギャハハハハ!殺せぇ!」


 ただ、彼らの安堵はすぐに別の恐怖で塗り潰されることになる。銃弾を受けた魔人の傷は目に見える速度で治ってしまい、全く怯まずに暴れ続けるのだ。


 彼らが一度暴れ続けると手がつけられなくなるのには理由がある。それはカレルヴォがオルヴォの霊術を改()した結果であった。


 オルヴォが魔人を合成するときに重視したのは、素材となった生物の力を一切損なうことなく仕上げることである。すなわちヒト種としての理性と知性を一切失わず、合成された生物の能力をも使いこなす生物を作り出すことだ。ある意味、ヒト種を超えた新たな人種を作り出そうと試みていたのだ。


 それに対してカレルヴォが重視したのは、皇帝(スポンサー)の要求に応じること。すなわち、帝国内にいる犯罪者や貧民街の住人、孤児などの帝国に貢献していないと見なした者達を手っ取り早く戦力にするという要求だ。


 犯罪者の中には高度な戦闘訓練を積んだ者がいない訳ではない。だが、ほとんどはチンピラ同士の喧嘩や自分達よりも弱い者を虐めることしか知らない戦闘の素人ばかりである。ティガル達のように戦士と言える者は滅多にいないのだ。


 これをオルヴォの霊術で合成しても、力を持て余すだけだとカレルヴォもわかっていた。マルケルスや参謀長などの懸念は、彼も想定していたのである。これでは皇帝の求めるような即戦力にはならないだろう。


 そこで彼が思い付いたのは魔人を合成する際に、闘争本能と残虐性を高めるように設定することだった。その術式を書き加えたため、バランスを取るためにヒト形態と魔人形態という二つの姿になる能力をもたらす記述は削除されている。カレルヴォはこれを無駄だと断じていたので、()()()()()問題はなかった。


 そうして誕生したカレルヴォ式の魔人は狂暴で、一度暴れ始めるとカレルヴォ本人か命令権を持つ者が制止するまで止まらない狂戦士となった。闘争本能が高められているからか、魔人になる前は使えなかった闘気と霊術を本能的に使えるようになっている。また、理由は不明だが治癒力まで向上していた。


 性格の問題こそあれど、それなりに強く、好戦的でどんな状況でも怖じけず、死んでもすぐに補充可能な戦力。それがカレルヴォの作った魔人である。彼は見事に皇帝の要求を満たす魔人を作り出した。だからこそ、彼は今も厚遇されているのだ。


 そんな魔人の事情を共和国軍は知らない。だが、カレルヴォの魔人達は彼らに強い恐怖を抱かせることに成功していた。


 獣とヒト種が混ざったような見た目の異質さと、その余りにも狂暴な性格。そして幾ら傷付けても殺す以外に止まらない異常性。これらに対する恐怖が、彼らから冷静な判断力を奪うのに十分なインパクトを与えていた。


「ギャヒュッ!?」

「ゴガアァッ!?」


 ただし、身体能力頼りの戦い方しか出来ないので、より力が強い相手やそれを捩じ伏せる技量を持つ相手には滅法弱い。何も考えず、闘争本能の赴くままに白機兵襲い掛かった二人の魔人は呆気なく殺されてしまった。


 味方が殺されたとしても、残虐性を増している魔人達にとって恐れる要素にはならない。近くにいた魔人は何も考えずに襲い掛かり、なす術もなく白機兵に斬り殺された。


「役立たず共が!死ねや、ボケェ!」


 次に白機兵に襲い掛かったのは、カレルヴォの魔人部隊の中で最も強靭な肉体を有する鰐の魔人だった。彼は力任せに尻尾を振り回してから、両手に持った剣を連続で振り下ろす。


 並みの共和国軍の兵ならばあっさりと死んでしまうのだが、白機兵はその連続攻撃を片手で凌いでいる。鰐の魔人は技量で圧倒的に劣っていると理解したものの、それがどうしたとばかりに剣を振り回し続けた。


 しかしながら技量の差を気合いで埋めることなど出来る訳がない。彼の剣は簡単に弾かれて、逆に白機兵の持つ剣がその胸を深く斬り裂いた。


「ぬがあぁっ……はははぁ!そんな攻撃が効くわけねぇだろぉが!」


 ヒト種ならば致命傷と言って良い大怪我だったのだが、鰐の魔人は知ったことかとばかりに暴れ続けた。斬られようが貫かれようが自分の方が不利だろうが、戦意が萎えることなく戦い続ける。彼はカレルヴォが目指した魔人の有り様を体現していた。


 致命傷を受けたはずなのに、すぐに治癒して動き続ける鰐の魔人を白機兵は警戒したらしい。力任せに振り下ろされた剣を大きく後退して回避する。その間に魔人の治癒力がその負傷を癒していく。固い皮膚と強靭な筋肉によって即死を免れたことで、戦闘を続けることが可能な状態に戻っていた。


 魔人の驚異的な回復力を目の当たりにした白機兵は、確実に息の根を止めなければならないと学習した。彼は今度こそ確実に殺すべく踏み込んだ。


「■■■」

「ガアアアアアアアアッ!」


 容赦なく鰐の魔人を殺そうとする白機兵だったが、意外なことに鰐の魔人は何とか持ちこたえていた。白機兵の刃に斬り刻まれながらも、急所だけはしっかりと守っている。そして反撃とばかりにその大きな口で噛み付こうとした。


 原始的にも程がある噛み付きであるが、鰐の魔人にとっては最強の攻撃だ。白機兵も危険を感じたのか、再び距離を取る。バクンと閉じられた口は空振り終わり、鰐の魔人は大きく舌打ちをした。


「避けるんじゃねぇよ!」

「……避ケルノハ当然ダロウ、コノ脳ガ溶ケテイルノカ?」


 怒りのままに吼える鰐の魔人を嘲笑しながら、蛭の魔人は機鎧兵達を着実に仕留めている。今も鎧の隙間から捩じ込んで、掌にある口のような器官でその体液を啜り殺していた。


 他の魔人に比べて冷静さを保っている蛭の魔人は、干からびて死んだ敵を放り捨てながらその醜悪な顔をニヤリと歪める。敵の体液を啜る度に自分の身体能力が少しずつ上昇していることを彼は自覚しているからだ。


「アイツニ復讐スルニハ、モット力ガ必要ダ。モットモット、殺サナケレバナラン。俺ノ糧ニナレ」


 蛭の魔人の目的は冥王蠍の魔人にリベンジすることだった。しかし、今のままではそれが難しいことは理解している。そこで自分の体質を活かして強くなろうとしているのだ。


 ただし、体液を啜るためには掌で敵に触れる必要がある。そこで彼は他の魔人を盾にしつつ接近するという非情な方法を取っている。既に二十人以上の機械兵を仕留めたが、その過程でほぼ同じ数の魔人が盾にされて死んでいた。


 これが魔人でなければ味方から非難されているのだろうが、彼にとって都合の良いことに血に酔った魔人達は目の前のものしか見えていない。彼が卑劣な立ち回りをしていることに気付いている者は誰一人としていなかった。


「「「オオオオオオオッ!」」」


 そうこうしている内に第四の外壁が攻略され、魔人達が戦っている第三の外壁に敵が逃れて来る。それを追い掛ける帝国軍も雪崩れ込み、第三の外壁は乱戦となるが帝国軍の物量によって押し切られる形で第四の外壁同様に陥落することとなった。


 この勢いでカルネラ港を奪還出来るのではないか。そんな空気が帝国軍に流れ始める。勝利しつつあるという状況によって、油断していなかったと言える者はいなかっただろう。そしてその油断の代償は大きかった。


ドドドドドドドドドッ!


 まだ戦闘が継続している第三の外壁を、共和国軍は第一と第二の外壁から砲撃したのである。味方を切り捨てる非情な攻撃は効果的であり、戦闘中であった帝国に大きな被害をもたらした。


 それでも砲撃は止まらず、共和国軍の執拗な攻撃によって第三の外壁はそこに乗り込んだ帝国軍ごと崩壊して行った。思わぬ被害を強いられた帝国軍は、撤退の陣太鼓を鳴らす。カルネラ港の攻防戦の一日目はこうして痛み分けという形で終わるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なるほど、カレルヴォが施術したから形態変化もできずに狂暴なのかと思ってたら狙ってやってたんですねえコレ 制御しきれてないって点は問題ですが後は要求通りのモノを仕上げていたと 犠牲を顧みない…
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