カルネラ港奪還作戦 その八
巨大な戦艦を破壊し、守護をしていた白機兵は討ち取った。だが、私はこのまま戦艦と共に沈むつもりはない。今すぐに脱出しなければ。
「……無茶をしすぎでしょう」
そして脱出する方法に目処は立っている。私の複眼は上空から迫るミカの姿を捉えていたからだ。彼は呆れたようにため息を吐きながら縄を垂らす。私はあえて反応せずに縄を掴んだ。
ミカは四枚ある翼を羽ばたかせて急上昇し、爆弾をばら蒔いた時の高度にまで上がる。安全な上空から、私はまだ動ける他の戦艦の様子を探ってみた。
私が速攻で沈めた一隻を除いた四隻はまだ健在であるが、沈没していく戦艦が巻き起こす渦によって移動もままないらしい。これならしばらく逃げられる心配はなさそうだ。
だが、戦艦は反撃に転じていた。大砲とは別に設置式の大型の銃が幾つかあるので、空を飛び回るファル達を狙って金属の礫を乱射している。アスミから聞いていたので、油断して撃たれている者はいない。しかし、彼女らが戦艦に近付くのは難しそうだ。
リナルドとトゥルはまだ動く戦艦の中で奇跡的にほぼ無傷だった一隻に突入している。伝わってくる闘気と霊力から考えて苦戦はしていても逼迫した状態ではない。合流するのは後で良い。私は残りの三隻を沈めるとしよう。
「……」
「あの船にお連れすればよろしいのですね?御心のままに」
ミカは私の望みを叶えるべく、何故かその場で急降下を開始する。そして私が着水しないギリギリの高度にまで降りると、その高度を保ったまま狙いの戦艦に接近した。
向こうも私達に気付いたようで、弾丸を放ってくるが……そのどれもがミカよりもかなり上を通り過ぎていく。しかも、そこから下に射線が下がることはなかった。
「設置式の銃が壊れているのか、海面に近い位置を撃つのは難しいようですね。このまま低空飛行で接近します」
ミカは小さく呟くと、荒れる海面に私の足が時々触れるくらいの高度にまで更に下がる。そうすると弾丸の風切り音すらも聞こえにくくなってしまう。空中にいるファル達のようにジグザグに動く必要すらなく、私は狙いの戦艦にたどり着いた。
戦艦に激突する寸前にミカが垂直に上昇し、私はタイミングを計って手を放す。慣性によって手を放してからも少しだけ上昇し、私は甲板の上に着地した。
「■■■■!」
着地すると同時に待ち構えていた十人以上の機鎧兵が一斉に私に向かって銃を撃つ。外骨格は硬化したままなので、強めの雨が降っているようにしか感じなかった。
私に痛みを与えられるだろう設置式の銃は上空に一度離脱していくミカを追いかけていて、私を狙うことはなかった。まあ、そうすると私ごと甲板を破壊することになるから仕方がないだろう。
私は剣を抜くことすらなく機鎧兵に向かって駆け出した。指揮官らしき機鎧兵は銃撃を中断させると、銃をその場で捨てて鎧の中に仕込んでいた刃を展開して私を迎え撃った。
「■■■!」
「……!?」
意外なことに指揮官の機鎧兵は私の動きに対応してきた。私の拳を回避しつつ、逆に刃で胴体を斬りつけて来たのだ。連中の鎧にも白機兵と同じように本人の闘気や霊力を増強しつつ、身体能力と鎧の強度を向上させられる。だから理論上は私と戦えてもおかしくない。
しかし、理論上と現実は異なる。これまでの戦いで私の動きに反応出来た普通の機鎧兵はいなかった。だから心底驚いた。どうせ一撃で殺せると侮っていた相手に反撃されたことに。
面白い。私は純粋にそう思った。この格闘技術はアレクサンドルよりも上かもしれない。そう思うともう少し体験して、私の技術として吸収したくなってきた。力でごり押しせず、その場で殴り合うことにした。
「■■!■■!?」
私は己の欲のために、時間的に許される範囲でこの機鎧兵との格闘戦に付き合ってみた。踏み込みながら突いた拳は最小限の力で捌かれ、逆にその勢いを利用して刃を刺そうとしてくる。だが私の外骨格と正面からぶつかった刃は、根本のところでポッキリ折れてしまった。
霊力で強化していたようだが、無駄であった。どれだけ効率の良い技術で強化したところで、カン族の霊力が貧弱なことに変わりはない。私の外骨格を斬るには霊力が明らかに足りておらず、白機兵レベルでなければ歯が立たないのだ。
「■■■!」
だが、それで機鎧兵は動きを止めることはなかった。鎧で私の膝を蹴り、肘で喉を殴打し、頭突きを顔面に叩き込む。一連の流れるような動きには無駄がなく、私が防げたのは最後の頭突きだけだった。
無論、私にダメージはない。だが、特別に速くもない攻撃を当てられたことに驚きを隠せない。もっと体験するべく、私はそのまま素手で戦うことにこだわってみた。
「■■■!」
今度は私が反撃に出る。腹を突いた手刀は足捌きによって、頭を狙った上段蹴りは身を屈めて回避される。無防備なその背中を蹴りを放った足で踏み潰そうとしたのだが、その前に軸足を掬い上げるようにして刈られてしまう。
支えを失ったことで、私は背中から甲板の上に転げ……なかった。そう、私には尻尾がある。第三の腕や第三の脚としても使える尻尾によって身体を支え、両足を揃えてから身体を伸ばすようにして思い切り蹴ってやった。
「■■!?」
私の反撃は想定外だったようで、機鎧兵は回避が間に合わなかった。しかし、それでも仕留められなかった。両腕を交差させて頭部への直撃を避けつつ、後ろに跳んで衝撃を逃がしたのだ。
闘気を使っておらずとも、貧弱な機鎧兵にとって私の一撃は全て致命傷になる。衝撃を逃がしても、私の蹴りによって機鎧兵の両腕はへし折れた感覚が伝わってきた。ダラリと垂れ下がった腕では、これ以上私と戦えないだろう。そろそろ決着と行くか。
「■■■■!」
「…………」
私は姿勢を低くして機鎧兵に突撃する。その私の顔面を、彼の蹴りは正確に捉えた。だが、効かない。この程度の力では、その辺の戦士ならば倒れるだろう。だが、私の外骨格は突破出来ないのだ。
効いていないのがわかっているからか、機鎧兵は連続で蹴りを繰り出している。しかしどの角度からの蹴っても、どんな場所を蹴っても、彼の蹴りでは私に痛痒を与えることはできない。私の進撃を止めることは、できないのだ。
「……」
「■■■……■■……!」
攻撃をものともせずに接近した私は、無造作に機鎧兵の首を掴んで持ち上げる。彼はそれでも必死に抵抗しているものの、私はその首へと無慈悲に毒針を突き刺した。
刺された機鎧兵は力が抜けて抵抗出来なくなる。毒が回ったことを確かめてから手を放すと、傍観していた機械兵が何かを叫びながら銃撃を再開した。どうやら足元にいる機鎧兵以上の手練れはいないようだ。なら、もう終わりにしよう。
「…………!」
私は一気に霊力を放出し、空中に大量の砂を作り出す。それによって巨大な鋏を構築すると、それで私が立っている戦艦を挟んでやる。むむぅ、やっぱり固いな。アスミの話の通りである。だが、このまま続けるぞ。
私は鬱陶しい鉄の雨に打たれながら、砂の鋏をコントロールしてやる。金属が潰れる耳障りな音を立てながら、戦艦に鋏がめり込みながら歪んでいく。めり込むと言うことは、ちゃんと切れると言うこと。もう少し気張れば切れるはずだ!
メギメギメギィッ!
粘った甲斐もあり、砂の鋏は戦艦に大きな穴を空けることに成功した。穴に砂の鋏を突き刺すと、今度はそれを爆発させた。爆発によって穴は大きく広がり、その衝撃によって戦艦はグラグラと揺れる。そして穴が海中に入り、戦艦は浸水し始めた。
私はしっかり踏ん張っていたから平気だったが、私に向かって銃撃を続けていた機鎧兵は揺れに耐えられずに転んでいる。運の悪い者は船縁から放り出されて落水して行った。取りあえず、これでこの戦艦は終わりだ。次はどれに行こうか……!?
「がぎっ!?」
私が次に狙う戦艦を選んでいると、他の戦艦で戦っていたはずのリナルドの気配が急激に弱くなっていくではないか!こうしてはいられない!助けに行かなければ!
私が慌てていると、背後から高速でミカが近付いてくる。彼の顔も真剣そのものであり、どうやってかリナルドの危機を感じ取ったようだ。
「掴まって下さい!」
ミカが垂らした縄を掴み、私は沈み行く戦艦から飛び出した。目指すべき場所は決まっている。二人が乗り込んでいる傷の少ない戦艦だ。
しかし、傷が少ないこともあって防衛用の設置式の大型銃も生きている。私でも当たれば痛いだろうし、ミカなら当たり所が悪ければ死んでしまう。ミカも銃弾を避けるべく蛇行しつつ飛んでいるが、他の戦艦と違って密度が濃い。この調子だと、確実にミカが撃ち落とされてしまうだろう。
そこで私はいつものように砂を作り出し、丸い盾にしてミカを守った。銃弾を受けた盾は砂を撒き散らしながらも弾丸を全て受け止めている。高速で飛んでいるので飛び散った砂を回収することは出来ない。その都度砂を追加して盾を補強し、強度が下がらないように工夫していた。
「今です!行って下さい!」
そうやって強引に突破した私達は戦艦の上にたどり着く。甲板の上には幾つか死体が転がっており、戦える者は存在しない。きっと船内に突入した二人に掛かりきりなのだろう。
私はミカ繋がる縄から手を離し、甲板の上に着地した。リナルドの気配は……弱々しいが、まだ生きている。間に合ってくれよ!私は必死に願いながら、船内に突入するのだった。




