プランとリスト
ホテルを足早に出発した木村率いる一行は、京都駅の大階段へやってきた。
「なげー」
「ちょっと渡辺走ってこいよ」
「えっ? やだよ」
姉さんの言うことなら簡単に聞くクセに、俺の言うことは全く聞かない。バッチ足りないのか?
さらっと大階段を見た俺たちは、バスで京都御苑へと向かった。
ここはいろいろとあった場所なのだよ。姉妹と戦ったり、絵本と話したり。
「京都御所って、元々はお偉いさんが住んでたんだよ。でも明治天皇が居なくなって、その人たちも移動しちゃって、空家が増えちゃって。それを国側で整備したりしたのが、今の京都御苑って呼ばれる地域なんだって」
「「「「へー」」」」
吉川さんからのトリビアでした。吉川さんだけで京都ペディア作れるんじゃない?
ってゆーか、結構地元民いるのな。今日だって平日のはずなのに、砂利道をチャリで爆走してる強者とか、ベンチで寝っ転がってる若者とか。なんか突っ込みどころ満載。
「一応公園だから、ひなたぼっこにはいいんじゃない? 大学も近いし」
「大学?」
「同志社大学」
…つまりあそこで寝転がってるのは大学生だと。
「そしてなんでお前はあの学生をガン見してるんだよ」
木村がベンチで寝転がっている若者をじっと見ていた。目からビームが出て穴が空きそうになるほど見ていた。
「あのベンチなの」
「ベンチ?」
「絵本といーちゃんが話してたベンチ」
「マジかよ」
そんなこと聞いたら、俺も見るしかない。
しかし見ていることしかできないので、すんなりと諦めて砂利道を歩いた。
「えーと。次はどこだっけ?」
「って言っても、あんたがあれはやめとけ、これは無理だ、って言うもんだから、そんなにプランを考えてないわよ。それにここも意外と見るとこ少なかったから時間余るわよ」
あるぇ? オレぇ?
「あのぉ…」
「どうしたの?」
「また清水寺のほうに行きたいなー…なんて思ったりして」
「なんかあるの?」
「いや、八坂神社を回って、円山公園を通って、知恩院まで行きたいなって…」
「知恩院っ!?」
「ビックリしたわぁ。なんなのよ急に」
知恩院と言えば、理事長と江本教授とパパさんが喋ってたところじゃん。知恩院、キター!
あれって清水寺から近かったのか。知らなんだ。
「そんなに行きたいの?」
「そりゃあお前が聖地巡礼したいのと同じだからな。アニメもライダーも」
「私もせっかく京都に来たから、いろいろ回りたいなー。神社もお寺も」
「はぁ…」
木村が小さくため息をつく。
そんな木村に、姉さんのフォローが入る。
「まぁいいんじゃないの? 紗枝だって行きたいところに来れたんだし、次はそっちの行きたいところに付き合ってあげれば? 楽しいかもよ?」
「伊織…」
根本的に、一応彼氏の俺よりも姉さんのほうが発言力があるっていうのはどうかと思うんだ。
そして木村が行きたいところリストが書かれたメモ帳をパタンと閉じた。黒ずくめのバイクのスタンドとか出てこないよな?
「よし。じゃあ行きますか」
「さすが紗枝ちゃん!」
「やったね吉川さん。行きたいところに行けるよ」
「おいやめろ」
「私、京都から北海道に帰ったら、みんなに何かおいしいもの奢るんだ」
「おい」
「一人であれこれ回ってもなんだしね。一人ぼっちは寂しいもんね」
「……」
絶望フラグに死亡フラグに杏子フラグが一気に立った。無事に帰れる気がしない!
「これで満足するしかないのか…」
「自分の行きたいところに行けるんだから満足じゃないのか?」
「渡辺はいいよな。とりあえず罵られておけば楽しそうだもんな」
「そんなことないぞ?」
「いや、あるよ」
「あるの?」
「あるある」
「じゃあそれでもいいや」
「いいのかよ」
「楽しければいい。せっかくの修学旅行だしな。楽しまなきゃ損だろ」
渡辺がまともなことを言っている。雨でも降るのか?
そんな俺たちは、今日2回目のバスに乗って清水寺方面へと向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。
京都ネタで攻めるのが大変大変です。
このシリーズの小ネタが全部わかる人がいたら素晴らしいと思います。
次回もお楽しみに!




