表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/70

2月15日(11)

 彼の口元が動く。


「――――【疾風(しっぷう)迅雷(じんらい)】」


 とっさに動いたのは芽衣だった。

 彼女は俺の肩を強く押しのけた。


 直後――、

「ぐっ」

 彼女の顔が苦痛でゆがむ。さらに、俺を押した彼女の右腕から鮮血が噴き出した。

 彼女はしゃがみ込み、患部を押さえる。

「大丈夫かっ⁈」

 俺も彼女の隣に腰を下ろす。

「う、うん……、なんとか……」

 見たところ、失血死が危ぶまれるような出血量ではない。俺は自分の服を破り、彼女の腕に括り付けることで止血を試みる。

 慣れた手つきで応急措置をするが、その内心ではかなり焦っていた。

 ゼックスの攻撃が見えなかった。何一つといってほど全く。


 ゼックスの声が高らかに響いた。

「アハハ……、どうだい、さっきの攻撃は? まったく見えなかっただろう? これはねぇ、四百年くらい前に僕の【強欲(アワリティア)】でコピーした不可視の刃なんだ。たしか、忍者とか呼ばれるやつらが使っていたっけな」

 なるほど、先ほどの攻撃は目に見えない刃での斬撃だったというわけか。

 芽衣は俺と違って小さい頃から今まで長い間、怪異との戦いに出ている。そのため、第六感で攻撃の予兆を感じ取ったのだろう。

「にしても、四百年前って……」

 思わずそう吐き捨てる。

 さすがは永遠の時間を生きる吸血鬼。彼の語る言葉がでたらめすぎる。


 大鎌を放り捨てたゼックスは、今度は洋剣に獲物を変えていた。

「片手であんな大きな鎌を振り回すのは大変だからね。今度はこっちを使わせてもらうよ」

 洋剣を片手で振り回す様子を見たところ、かなり手慣れている。武器が変わったからと言って戦闘力がそこまで変わるわけではないらしい。

「ふん、好きにしろよ」

 小太刀を構え、ゼックスを正面に見据えた。


「それじゃあ、第二ラウンドといこうか――――【虚無(ヴァニタス)】」


「【接続(コネクト)】――《()なる者よ、我が世界から消え失せよ》――」


 互いの武器を漆黒の粒子が覆う。


 動き出したのは同時だった。

 一瞬のうちに両者の距離が縮まり、洋剣と小太刀とがぶつかる。

 小太刀を握る手だけでなく、全身に彼の力が伝わってくる。

 すぐさま蹴りを放った。

 ゼックスはわずかに体を傾けることでそれを躱し、第二撃を加えてくる。第二撃は腹部を狙った横なぎだった。

 小太刀を縦に構えてガードする。

 ゼックスは間髪入れずに第三、第四と攻撃の手を緩めることなく、連撃を加えてくる。

どの攻撃もその速度が速い。見てからの対応ではとても間に合わない。

 俺はゼックスの最初の動作から次の攻撃を予測し、その一つ一つを丁寧かつ慎重にいなしていく。

 【虚無】を纏った攻撃だ。うっかり傷でも貰えば命取りになりかねない。

 第六撃目を躱した瞬間、ゼックスの口元が動いた。


「――――【疾風(しっぷう)迅雷(じんらい)】」


「っっ⁈」

 とっさに後方へ跳んだ。

 直後に鼻先に感じた風で、今しがた不可視の刃が自分の今いた場所を通過したのが分かった。


「――――【蒼炎(フランマ)】」


 今度は蒼炎の蛇か。


「《――――、灰も残らぬよう()らい尽くせ》」


 しかし、炎蛇は芽衣の炎蛇によって相打ちとなる。

 ゼックスは再び距離を詰めてきて、【虚無】同士の打ち合いが再開する。


 一撃目――小太刀を合わせ、軌道を変える。

 二撃目――上半身を捻って回避。

 三撃目――もう一度、上半身を捻ってからのカウンター。

 カウンターを回避してからの四撃目――体を後方に逸らして回避。


 だが、長時間かつ一つのミスも許されない戦いで心身はとうに限界を迎えていたのだろう。

「ぐっ」

 五撃目に対し小太刀でガードしようとしたが競り負けてしまった。獲物が手から離れる。


「――――《貫け、天への御柱(みはしら)》」


 このまま洋剣の餌食になると思われたが、芽衣の魔導に救われた。

 火柱に呑み込まれるのを避けるべく、ゼックスが大きく後方に跳んだ。

 とはいえ、彼には【虚無】以外の攻撃手段がある。


「――――【疾風(しっぷう)迅雷(じんらい)】」


「ぐっ」

 左腕に激痛が走った。

 上腕から鮮血が噴き出す。

 火柱の勢いが弱まったとみるや否や、ゼックスがこちらに畳みかけてきた。

 俺は後ろに下がりながら、紙一重で彼の数々の攻撃を躱していく。


 しかし――――、


 ドンッ


 壁面に背中が触れた。これ以上は後ろに下がれない。

 直後、ゼックスが待ってました、と言わんばかりに、邪悪な笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ