2月11日(2)
***
「う~、やっぱり屋内なのにめっちゃ寒いね~」
芽衣がブルブルと肩を震わせる。
「そりゃあ、スケートリンクだからな。大丈夫か?」
「うん、もちろん平気」
そう、今日のデート場所はスケート場。二人ともスケートはしたことがなかったのでせっかくなら、とこの場所になった。
「にしてもこんな薄いブレードで立てるのかな?」
彼女はブーツを目の前に掲げる。
「たしかにな。でもほら、あんな小さい子も滑っているし、意外と簡単なのかも」
リンク上で颯爽と滑る少女に目を向ける。
かなり上手なようだから、ここでスケート教室に通っている生徒だろうか。
「ほんとだ。わたしたちも負けていられないね」
「ああ」
二人してベンチに腰かけ、スケート用のブーツに履き替える。
紐を上の方で縛ると足首が想像よりがっちり固定されたので、なんだか変な感じがした。
「よっと」
隣から掛け声がした。
「あっ、意外と立つのは簡単かも。ほら、彰も」
「えっ、ああ……」
芽衣に促されるまま腰を上げる。
たしかに少しばかりバランスをとる必要があったが、思っていたよりも簡単だった。
「たしかに、これならいけそうだな」
「でしょ? それじゃ、いよいよ初スケートといきますか」
「そうだな」
意気揚々とリンクの入口へ移動する彼女について行く。
週末ということもあり、リンク上は幅広い年代の人で溢れていた。
おそるおそる氷の上に足を伸ばす。
「うわっ」
氷の上に足をのせた瞬間、つるっと足が滑った。とっさに手すりを掴み、転ばないよう踏ん張る。
「えっ、大丈夫⁈」
「あ、ああ……。びっくりした」
足をもとの位置に戻し、バランスを保ったまま、もう一方の足を氷の上に置く。もちろん、手すりはしっかりと握ったままで。
そうすると、足はプルプルと震えていたが、なんとか直立することができた。
「……ふう、なんとか立てた」
「やったじゃんっ。それじゃ、次はわたしの番だね」
「ああ。でも気をつけろよ。地上とは全然違う」
「う、うん……」
手すりを掴みながら芽衣もゆっくりと足を伸ばす。
片方の足が着氷すれば、もう一方を氷の上へ。
そうして、俺と同じように足をプルプルと震わせながらではあるが、みごと氷の上に直立することができた。
「や、やった。立てたっ」
まだ氷の上に立てただけなのに、彼女は無邪気に喜ぶ。
「よし、それじゃあ、今度は移動してみようよ。ほら、あんな風に」
芽衣は向こう側に見えるリンクの入り口付近を指さした。
そこでは、男女三人組が手すり伝いに氷の上を歩いているのが見える。
「なるほど、最初はああやって慣れていくんだな」
「うん、そうみたい。はい、それじゃあ、早く進んで~」
芽衣が声を弾ませながら片手で俺の背中を押してきた。
おかげでバランスを崩しそうになる。
「うわっ、おい、押すなよっ」
「あはは、ほらほら、渋滞しちゃうよ~」
焦っている様子が面白かったのか、芽衣はさらに力強く押してきた。
「わ、わかったから、もう押すなっ」
このままでは彼女に転ばされそうなので、おそるおそるだが前に進むことにした。
右足を前方に滑らし、今度は左足をさらに前方へと移動させる。
すると、少しだが前に進んだ。
「よし、進んだっ」
「うんうん、その調子っ。それじゃあ、レッツゴー」
後ろから威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
早く滑れるようにならないとな、そう思いながら、まずはリンクの外周を一周することにした。




