2月9日(2)
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何とか退屈な授業とみんなからの追及をやり過ごした。
そして今、俺は芽衣の家の前にいる。
ピンポーン……
彼女の家には何度も来ていたのに、こうしてインターホンを鳴らすのは初めてだった。
今までは事件の調査をした後、一緒にここへ来ていたからだ。
付き合っていることもあり下校時は彼女と一緒だったが、制服から着替えたかったので、一度自宅に帰っていた。
「はーい、ちょっと待ってー」
インターホンを通して芽衣の声が聞こえた。
直後、トタトタという足音が扉の向こうから聞こえてくる。
「ごめーん、待った……?」
扉が開かれると、隙間から芽衣が顔をのぞかせた。
学園でも顔を合わしていたにもかかわらず、こうして彼女の顔を見ると自然と頬が緩んでしまう。
「いや、全然……。ただいま」
「あはは、おかえり」
彼女は目を逸らしながらはにかむ。そんな愛らしい姿がさらに胸を高鳴らせた。
靴を脱ぎ、玄関を上がる。
「……なんかとてもいい匂いがする」
「あ、わかった? ……へへ、今日は肉じゃがを作ってみました」
「あ、俺の好きなやつだ」
「ほんとっ⁈ やった。あとちょっとで出来るよ」
「なにか手伝うことはあるか?」
最近は料理の練習をしているんだ。少しは彼女の役に立とう。
しかし、
「え、ほんとう? それなら、お鍋を見ていてくれるかな? わたし、シャワーを浴びてくるから」
ぱっと顔を輝かせながら彼女が言う。
「……え、それだけ?」
予想外の難易度に目をぱちくりとさせる。
「ん、それだけ」
どうかした、といった感じで彼女は小首を傾げる。
「い、いや、……なんでもない」
「そう?」
そう言って彼女は浴室へと向かった。
俺も言われた通りの役割を果たすべく、キッチンへと向かう。
コンロの上には、火にかけられた両手鍋があった。蓋を開けてみると、中には牛肉にジャガイモ、こんにゃくなどがグツグツと煮詰められている。
さらに、鍋の近くには肉じゃがに合いそうな副菜まで二人分用意されていた。
「なるほど、ほとんど準備が出来ているってわけか……」
相変わらずの手際の良さに舌を巻くしかない。
たしかにこれなら、自分に出来るのは鍋の火を見るぐらいだろう。
ということで、苦笑いをしながら俺はお鍋の火を見つめることになった。
少なすぎじゃね、というツッコミはなしでお願いします……




