掃除と着替え
「逆十字野郎と俺らの因縁は、道で話す。とりあえず、お前らのたまり場に案内してくれ」
「分かったが、候補は幾つかある。期待に添わずに殺されるってのは避けたい。だから、もう少し詳しい要望を言ってくれ」
「そうだなあ……とりあえず、たくさんいる所がいいな。まとめて捨てる、これが掃除の基本だ」
ミゲルとやりとりしながら、先輩はシーツを丸める。
おびただしい指の骨、焦げた肉片が一つにまとめられ、ウインナーの塊に見える。
または芋虫の密集。
どちらにしても、絵的にはあまり良くない。
僕はというと、床に散らばった細々とした欠片たちを、箒で集めている。
そんな僕らを傍目に、ミゲルは外行きの服に着替え中だ。
全て先輩の指示である。
散らかしたら片づける、これは人間の基本だそうだ。
粗暴に見えて、意外ときっちりしているのが、志骸先輩らしい。
拷問の後始末としては軽すぎる措置だけれど、しないよりましだろう。
それに、ミゲルが『ここに戻ってくる』保障は無いのだ。
先輩は彼の全てを信頼しているわけではない。
彼女は、この白人が使えると判断したから命を助けた。
道案内として雇った。
けれど、ばば様の託宣、確率の話を彼の前ですることは避けた。
彼に、僕を不死と見せたいのだろう。
殺しても死なない化け物を従え、無数の光球を操る彼女だからこそ、ミゲルは裏切らない。
普通に死ぬかもしれない程度なら、数の論理に従う方が得策だ。
どこかのタイミングで、彼は裏切る。
裏切られたら、殺さなければならない。
保障というものが全くないし、善意という物に頼りきるには、この案件はシビアすぎる。
そう、シビアなのだ。
では何故僕は彼の攻撃を避けなかったか?
単純な話だ。
彼が一生懸命だったからだ。
ひたむきな努力を尊重してあげたかった。
多濡奇さんもそうだ。自分ができることなら、してあげたい。
攻撃を受ける事で満足するのなら、受けてあげたい。
そういう無意識が、反射を鈍らせる。
そもそも反射というのは、生物的な危機に根差すものだ。
けれど、僕には物理攻撃は無効だ。
そんなものはすぐに回復してしまう。
つまり、反射の必要が無いのだ。
何から何まで、先輩の言う通り過ぎて、僕は落ち込む。
早羅さん、多濡奇さん、そして目の前の志骸先輩、全員に申し訳ない。
けれど、確かに落ち込んだり、反省している暇はないのだ。
……と、悶々としているうちに、僕らの掃除は終了し、ミゲルは外行きの服に着替え終わった。
デニムジーンズに白の長袖シャツ、ブラウンのパルカラーコートを羽織っている。
僕は彼のいで立ちに、2001年に日本で大ヒットした長編アニメーション映画を思い出した。
千尋という女の子が神隠しに遭うという冒険譚だ。
彼女を助ける妖怪に、カオナシという仮面の人外がいるのだが、白人の中年男だからだろうか?
印象がカオナシそのものだ。
僕はこの妖怪の事を気に入っていたので、何というか、複雑な気持ちになってしまった。
「惜しいな」
先輩が眉根を寄せた。でも、口の端は上がっているし、目はちょっと楽しそうだ。
「何がだ」
「黒なら、オレらとお揃いなのにな、そのコート」
「……この仕事が終わったら、買うよ」
「引っ越しもしたらいいさ。ヒトの脂は酷く臭うからな。それ位の金なら、出してやる」
先輩の言葉に、白人は黙って肩をすくめた。




