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わたしを救った百合迫る後輩との同居生活は想像よりもずっと甘い。  作者: 藤白ぺるか@4/1美容スキル第1巻発売


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第36話 決意

 函館から東京に戻って、約一ヶ月が経過した。


 日付は二月に突入し、落合さんは来たるバレンタインのため、暇さえあればチョコ作りに精を出すようになっていた。

 私はそれを横から眺めつつ、味見したり邪魔をしてみたりしていた。


 私たち二人の関係は、それほど大きくは変わっていない。

 けれど、以前より確実に、心の距離が縮まったように感じる。


 スキンシップは相変わらず激しい。

 でも、不思議と嫌ではない。

 むしろ、たまにそれがなくなると寂しいとさえ思ってしまう。

 つまり私は――落合楪依存症になりかけている、ということだった。


 恋愛対象として意識しているのか――まだよくわからない。

 ただ、ふとした時に見せる彼女の表情が、可愛いと感じることはある。


 私は、もともと恋愛が得意なほうではなかったのだろう。

 だから、落合さんに対しても、つい突っぱねるような態度をとってしまって。

 嫌ではないのに、自分からどうしようとは思えない。


 ……それでも、変わったこともある。



「――東京に戻ったらさ、私――会社辞めようと思う」



 函館に滞在していた時、私は落合さんにそう告げた。


 これは少し前から、心の中で決めていたことだった。

「会社をやめてもいいんですよ」と、最初に言ってくれたのは、落合さんだった。


 最初は共同生活を続けていく上で、自分だけが金銭的に負担をかけるのはよくないと考え、無理をしていた。


 けれど、彼女が風邪で会社を休んだあの日。

 私は、思ってしまったのだ。

 衝動的に私も一緒に休んでしまったのは――彼女のいない会社に行きたくなかったからだと。


 私には、休養が必要だった。

 自分を見つめ直す時間をしっかりととって、そこで何かを見つけて、もう一度、人生を再出発させたい。


 何ができるのかは、まだわからない。

 でも、前に進むために、立ち止まる時間がどうしても必要だと思った。


 だから、私は退職を決めた。


「はい。先輩の決めたことなので、私はそれを応援します。お金のことは気にしないでください。私、お金持ちなので」


 そう言ってくれた落合さんは、私が負担を感じないよう、軽やかに笑ってくれた。



 そして、冬休みが明けた日。

 私は上司である係長を個別に呼び出し、辞表を手渡した。


 係長は、以前の上司とは違って優しい人で、私の事情を丁寧に汲み取り、理解を示してくれた。

 また、社内でいつも行われている退職者向けのお別れ会も、私は望まなかった。

 だから、退職日ギリギリまで、そのことは伏せていてほしいとお願いした。


 唯一、仲良くなった秋葉さんにだけは、事前に退職を伝えた。

 すると彼女はすぐに、「二人でお別れ会をしよう」と言ってくれて――私はその言葉を素直に受け入れ、二人で静かに飲みに行った。


 退職日までには一ヶ月の猶予があった。

 その間、私は最後のケジメとして、欠勤することなく毎日会社に通い続けた。


 そして、ついにやってきた退職日。


 私は、終業時間ぴったりにフロア全体へ一斉メールを送り、自分が今日で退職することを伝えた。


 突然の報せに驚いた一部の同僚たちは、すぐに私の席まで駆け寄ってきて、短く会話を交わした。

 でも、そこまでで引き止められることはなく、ほどなくして私は自由になった。


 その様子を、落合さんは少し離れたところから、微笑ましく見つめていた。



「――退職、おめでとうございまーすっ!!」


 パンッと、クラッカーの明るい音が室内に響く。

 その音を皮切りに、落合さんが私の退職祝いをはじめた。


 テーブルの上には、所狭しと料理が並んでいて――明らかに私一人では食べきれない量だった。


 そして、今日はちょうどバレンタインデーでもある。


 食事が一段落した頃、落合さんは冷蔵庫からチョコケーキを取り出し、それを私にプレゼントしてくれた。


 一方の私は、事前に買っておいたチョコを彼女に手渡した。

 それは、ゆずをイメージしたデザインの特別なチョコだった。


 私の名字――橘には柑橘の意味があり、彼女の名前、楪のゆずという部分ともどこか通じ合う。

 だから私は、何かゆずにまつわるチョコがないかと探し、見つけて、それを贈ったのだ。


「先輩。これも、私からのプレゼントです」


 チョコケーキだけではなかった。

 二人きりの退職祝いで、落合さんはもうひとつ、大きな箱を差し出してきた。


 それは、クリスマスに贈られた指輪とはまったく異なる実用品で――


「先輩って、会社用のパソコンしか持っていなかったじゃないですか。だから、自分専用のが必要かなと思って。これからやりたいことを見つけるにも役立つと思いますっ」


 彼女がくれたのは、最新型のノートパソコンだった。


「わあ……すごい……結構高かったでしょうに……でも、ありがとう。大切に使うね」

「はいっ。たくさん使ってくださいね。それと――」

「それと?」

「じゃじゃんっ!」


 さらに、もうひとつ大きな箱が登場した。

 私は、箱を見た瞬間にそれが何かを理解した。


「今からやりますよー! 負けた方がロシアンルーレットチョコの餌食です!」

「いや、私そういうの全然やったことがないんだけど……」

「大丈夫です。私もずっとやってませんでしたから!」


 落合さんが用意していたのはゲーム機だった。

 いくつかソフトも購入していたようで、一式揃っていた。


 ゲーム機をテレビに繋いで始まったのは、カートで競う有名ゲーム。

 学生時代に友達の家で少しだけゲームに触れたことがある程度だった私は、コントローラーの持ち方すらおぼつかず、操作を覚えるだけで精一杯だった。


 当然、結果は散々で、私は負けまくり。

 けれど、ロシアンルーレットチョコにはなぜか当たらず、逆に奇跡的に私が勝利した時、落合さんが選んだチョコには激辛マスタードが詰まっていて、彼女は悶絶しながら涙目で喉を押さえていた。


 パソコンにゲーム機。

 私たちの家に新しい機械が増えて、また少し違った日々が始まった。


 ◇ ◇ ◇


「――先輩っ。これからは、ゆっくりと過ごしてくださいね」


 朝、会社に向かう準備が整った落合さんは、玄関先で私にそう言った。


 今日から私は会社に行かない。

 自分を見つめ直す時間を得るために、会社を辞めたのだ。


 けれど、落合さんと離れる時間が増えるのは、少し寂しかった。


 いや、私以上に寂しかったのは、きっと彼女のほうだったのだろう。


「……先輩と一緒に通えなくなること……楽しみが一つ減って、残念です。でも、先輩のためなら、私、我慢しますっ」


 そう言って、両手をぎゅっと握りしめ、自分を奮い立たせるように頷いた落合さん。

 これからは、毎日彼女が帰ってくるのを、私は一人で待つことになる。


 寂しさはある。

 でも、彼女がいるだけで、空間が明るく、温かくなるのだから――私はただ、早く帰ってきてほしいと願うばかりだ。


「じゃ、行ってきますね、先輩っ」


 小さく「ヨシっ」と呟いて、自分を励ますように言ってから、落合さんは玄関の扉を開けた。


「落合さん――」


 私は彼女を呼び止め、振り向かせた。


 そしてそのまま、振り向きざまの彼女の唇に、自分の唇をそっと重ねた。


「せせっ……せんぱいっ!?」

「ほ、ほら……これで仕事、頑張れるでしょ? い……行ってらっしゃいの……ちゅー……」


 彼女が今の会社で頑張ろうとしているのを、私はちゃんとわかっていた。

 その気持ちを応援したくて、私はキスという形でエールを送った。


 落合さんの頬が、真っ赤に染まる。

 驚きと嬉しさとが混ざり合い、彼女はしばらく固まっていた。


 彼女が私のために色々なことをしてくれているのがわかったからこそ、私も、彼女が喜ぶことをしてあげたかった。

 そこで思いついたのが――この、行ってらっしゃいのキスだった。


「うおおおおおおおおお〜〜〜っ!!」


 すると突然、落合さんが全身から炎のようなエネルギーを放つように叫んだ。


「先輩っ、行ってきます! おかえりのチューも期待してますからっ! それじゃあっ!」


 ……おかえりの予定は、ないんだけどなぁ。


 バタン、と扉が閉まり、私は一人きりの家の中に残された。


 そのまま自室に戻ってベッドに寝転び、天井を見上げた。

 静かな時間が、ゆるやかに流れていく。


 私は、今までの睡眠不足を取り戻すかのように、お昼過ぎまで眠った。

 ニートのような生活。何をすればいいのかわからず、だらけた日々を過ごすようになるのだけど、それはまた別の話だ。


 目が覚めた私はリビングに向かい、テレビをつけて、作り置きしてあったパスタを食べながらワイドショーを眺める。


 食後は食器を軽く洗い、自分で淹れたコーヒーを片手にソファで一息。


 ふと、視線が棚のコルクボードに向かった。

 そこには、落合さんのお気に入りの写真たちが飾られている。


 その中でも特に彼女が気に入っていたのは、クリスマスイブにドレスアップして撮った一枚。

 緑のドレスの落合さんと、ワインカラーのドレスを着た私――二人の姿が写っていた。


「あ、そうだ――」


 彼女は撮りためた写真を現像して、アルバムに保存していた。

 つい先日も写真を現像したばかりだった。

 私はアルバムを取り出し、一枚の写真を選び、手に取った。


「これで、よし……っと」


 それは、私が気まぐれで撮った一枚。

 コルクボードには、私か、あるいは二人が一緒に写っている写真しかなかった。


 だから私は、落合さんだけが写っている写真を一枚、そこに追加した。


「ふふ、変な顔――」


 それは、バレンタインの夜、ロシアンルーレットチョコに当たって悶絶している彼女の写真だった。

 涙目で水をがぶ飲みする姿が、そこにあった。


「そっか。いつの間にか、自然に笑えるようになってたんだ……」


 気づけば、私は笑っていた。


 いつからかはわからない。

 でも、落合さんと出会い、共に過ごすようになって――私はまた笑えるようになっていた。


 私も、彼女のことをもっと笑顔にできるかな――。


 そんな想いを胸に、私は夕食を準備してみようと調理に取りかかった。

 だが、キッチンでは破壊が巻き起こり、帰宅した落合さんに怒られてしまった。


 きっと私は、まだ彼女を笑顔にするには色々と足りていないのだろう。



 ――二人の同居生活は、まだ始まったばかり。


 これから喧嘩もすれば、意見が食い違うこともあるかもしれない。

 でも、楽しいことだって、きっとたくさん待っている。


 私たちは、少し周囲とは違う関係性を持っている。

 だからこそ、戸惑うこともあるかもしれない。


 それでも、お互いに支え合いながら、前向きに生きていきたい。


 たまに見せる色っぽい表情も、私を性的に求めてくる彼女の気持ちも、私は少しずつ受け入れつつある。

 一緒に寝たり、抱きしめたり、キスをしたり――恋人に近いことを、自然としてしまっている。


 さらに進んだ関係になるには、まだ少し時間がかかるかもしれないけれど――


 この二人の同居生活は、想像していたよりもずっと甘い。

 ――私は、そう思った。








本作をここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

第一章として、本作はここで一区切りとさせていただきます。

コンテストへ応募しますので、もし続きを書くとしたら、その後になると思います。


二章の構想としては、橘さんのやりたいこと探し、落合さんのことが大好きなヤンデレ妹、落合さんの友達の百合カップル(一度登場させた)、橘さんの同級生との再会。ここらへんの話を考えています。


一旦区切りではありますが、書籍化したら嬉しいなと思っていますので、ぜひとも★★★★★評価とお気に入り登録で、本作を応援していただけたら嬉しいです。


私だけではなく、小説を書く人にとっては、こういった評価がとっても嬉しくて、執筆のモチベーションに繋がっています。


はじめて書いた百合作品。お楽しみいただけていたら幸いです。

次の更新まで……それではまた。



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