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side princess

ついにあの子のルート突入。

今回はその導入。あの子の視点からスタートです


 ──私が『彼』と出会ったのは、勇者様がこの王都にいらっしゃった日のことだった。


 その日、私はお付きの誰にも告げずに、黙って城を抜け出した。従者を連れて、というのは何度もあったが、たった一人で城下町に赴くというのは生まれて初めての経験だった。


 当然といえば当然。


 私はアイナ・アークス。


 アークス王国を統治する一族に連なるもの。


 立場的でいえば王女だ。


 私は幼い頃から国王から厳しい教育を受けていた。私だけではない。兄や姉も、ほかならぬ国王ちちうえも辿った道だ。統治者として、民を率いる者として。常に正しい判断を下せるようにと、学問のみならず武芸をも学ばされた。


 それに関して、大きな不満はなかった。私たち王族は民の支えがあってこそ生活できるのであり、彼らのために多くのものを学ばなければならないのは、むしろ王族としての義務だと心得ていた。


 その日々の中、私もいつか統治者の一員として、父や他の兄弟たちと共により良い国を作るために奔走するのだと考えていた。


 ──魔王復活の予兆が観測されたのはいつだっただろうか。


 緩やかに、だが確実に増え始めた、厄獣の出現数。一ヶ月か二ヶ月程度では些細な変化。だが年単位で調べれば、着実にその数は増加していた。


 既に、突発的な厄獣暴走スタンピートの報告もされており、防備の薄い王都から遠く離れた辺境の小さな村が壊滅したという情報も幾つか上がっている。


 過去の文献を紐解けば、魔王復活が近づくと厄獣の増加とそれに伴った厄獣暴走スタンピートが発生することは判明している。


 この時点ではまだ『魔王復活』はあくまでも『可能性』の話でしかなかった。


 フォニア教会から『勇者誕生』の知らせを受けるまでは。


『魔王』とそれを打ち倒す存在である『勇者』は、まるでコインの表裏であるかのようにこの世に出現する。どちらが先か後かは不明だが、片方が現れれば必ずもう片方もこの世に姿を表す。


 やがて、フォニア教が派遣した使節団によって、聖痕スティグマを宿した若者──勇者が見つかった。もはや魔王復活を疑う余地はなくなってしまった。


 勇者発見の事実が伝わり、私は国王ちちうえに告げられた。


 よくあるおとぎ話だ。


 

 世界を救った勇者はやがてお姫様と結ばれて幸せに暮らしましたとさ。



 こんな形で物語は締めくくられる。


 王は私に物語に出てくる『お姫様』になれと命じたのだ。


 別段に、父上が酷い事を言っているとは思わない。有力者との間に人と人とのえにしを結び、繋がりを強固にすることは貴族の世界では普遍的だ。そしてそれら貴族を支配する王族とて変わりはしない。


 どちらかといえば、外部から王族に招き入れるという形がもっぱらだが、その逆がないわけではない。


 その最たるものが勇者。勇者と王族の間に強い繋がりを作ることで、その後の統治に役立てる。おとぎ話にあるような愛も浪漫もない話ではあるが、愛や浪漫だけでは国を治めることはできないのだ。


 それに、いくら浪漫がないとはいえ相手は世界を救う存在。これほど光栄な事もない。


 もちろん、今すぐにという話ではない。けれどもゆくゆくはそういう話になっていくだろう。


 私は強く否定せずに国王の言葉を受け入れた。


 これも王の血族として生まれたものの義務であるし、そもそも王女である私には自由に恋愛をすることなどできない。それは、これまで受けてきた教育で承知していた。


 だが──心の奥底では違った。


 幼い頃より私には自由などなかった。


 決められた時間帯に決められた物事をこなす日々。王族である以上は当然と頭では受け入れても、本心ではそんな日々が窮屈で仕方がなかった。


 私の世界は城の中で完結し、城の外については何も知らない。知識としては多く知っていたとしても、実際に目にしたものなど数知れている。


 時折、従者と共に城下に繰り出すこともあったが、それも極めて限られた場所。私たちを支えてくれている生の市井の姿を見るには至らなかった。


 そこに、勇者との繋がりの話。


 漠然と決められていた将来がいよいよ形を帯び始めた時、私の中でそれまで押さえ込んでいた『自由』への渇望が弾けたのだ。


 もちろん、自分の行いが許されるものでないとは分かっていた。多くのものに迷惑を掛けることも承知している。この身は決して、私一人だけのものでないのも、誰に言われるでもなく理解していた。


 私がこれまで生活してきた全ての物は、民が収めてきた血税によって賄われている。血税を消費している私は、王族としての責務を果たさなければならない。これは当然の帰結。


 それでも、たった一度だけでも、己の見たいものを見て、得たいものを得て、知りたいものを知る。そんな『自由』を私は欲したのだ。


 勇者様が来た日に城を抜け出したのは本当に偶然。彼を招き入れる為に準備が進められていた。誰もが忙しなく動いており、私への人の目が最も薄くなる絶好のチャンスだった。


 城を抜け出すための準備、抜け出す道順は事前に用意していた。頃合いを見計らってそれらをなぞるだけだった。


 こうして私は人生で初めて、僅かな時間ではあったが全ての柵から解き放たれた『自由』を得たのである。


当初は二部構成のつもりが、文章量と区切りの関係で三部構成に成長していた事案勃発。

ただ、前の二部ほどは文章量がないかも……うん、現時点では未定です。

頭の中で結末は出来上がっているので、あとはそこまで至るのにどう面白く描くかが課題。頑張ります。



どうせなので宣伝です。

ナカノムラは『小説家になろう』にて別作品も連載中。


『大賢者の愛弟子 〜防御魔法のススメ〜』

http://book1.adouzi.eu.org/n2159dd/


防御魔法しか扱えない主人公が大賢者の英才教育の元、ものすごく強くなり魔法学園に入学して暴れる物語。

書籍化もしており、今年の九月に二巻も発売しました。

ナカノムラの作品を気に入ってくれた方、こちらもどうぞ宜しくお願いします。


では、また今度。

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― 新着の感想 ―
[一言] らっしゃぁぁぁぁ! キターーーーー!
2021/10/03 19:14 退会済み
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