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side braver5(前編)

勇者回!!!


 僕と王女様──アイナ様の前には、一人の女性が座っている。


「──誠に光栄なお話でありますが、お断りいたします」


 そう言って、銀色の美しい髪と狐の耳を持った女性は恭しく頭を下げた。


 彼女の名前はミカゲ。銀閃の異名を持つ、王都の在住している傭兵の中ではトップクラスの実力者だ。


 ──初めて顔を合わせたのは今日ではない。先日に発生した森での厄獣暴走スタンピートの一件だ。


 もともと、僕を含む王国軍の一行は厄獣暴走スタンピートを解決するためにあの場所を訪れていたのではない。


 勇者である僕に経験を積ませるために、様々な厄獣モンスターと戦う必要があった。その一環としてあの森が選ばれただけなのだ。同行してくれた王国軍兵士達は、僕らに万が一の事があったときのための保険だ。


 ただ、事前に森には異変があり、その調査のために腕利きの傭兵が赴いているのは知らされていた。必要があれば彼女と合流し、情報を交換してくれと組合の方から連絡があった。


 そして──森に到着した早々に大量の犬頭人コボルトが押し寄せてきたのだ。


 王国軍の指揮官は僕に撤退の提案をしたが僕は否定した。素人の僕であってもこれが明らかに異常な事態なのは分かっていたからだ。


 話し合いの結果、兵の数人を組合や国軍駐屯所に報告に向かわせて僕ら森の奥へと赴いた。


 ──そして僕らが騒動の『中心地』に到着した頃には既にコボルトキングは死んでいた。僕らがしたことと言えば、溢れかえった犬頭人コボルトの掃討程度だ。


 僕らより先に中心地そこにいたのは二人の人物。


 まず一人は、組合から事前に知らされていた銀閃という腕利きの女性。そしてもう一人は……僕がよく知る人物であった。


 それからしばしの時が経過し、僕は傭兵組合を訪れた。


 用件は、僕たち『勇者パーティー』に新たな仲間をスカウトするためだ。アイナ様は元々、腕利きの傭兵を仲間に引き入れることを考えていたようだ。


 何せ、勇者として多少の訓練を受けたとはいえ僕はまだまだ未熟も良いところ。アイナ様も魔法使いとしての実力は高くとも基本は王城育ち。どちらも長旅を経験したことなどない。


 まさか魔王討伐の旅にお世話係をぞろぞろと連れて行くわけにもいかない。つまり、魔王討伐の旅では基本的に自分のことは自分でこなさないといけない。


 その辺りの指導者役として、経験豊富な傭兵を旅の仲間にすることは必要不可欠であった。


 旅慣れをしているという点では、遠征任務の経験ある王国の保有する兵を派遣するという手段もあった。しかし、基本的に軍の兵士は集団戦闘を前提とした訓練をしており、また個人的に優れた武勇を保有する者は軒並み重要な役職に就いており、それらが抜けた場合に何かと組織的に齟齬が生じる。


 やはり、自由の身である傭兵を引き入れるのが正解だった。


 その白羽の矢が立ったのが『銀閃ミカゲ』だったのだ。 組合の職員に用件を伝えると、僕らは話し合い等で使用される応接間に案内され、遅れて銀閃が来た。


 そして、僕らは来たるべき魔王討伐の旅に同行する仲間になって欲しいと彼女に申し入れをしたのだ。


 銀閃を引き入れると提案したのはアイナ様だ。


 聞いていた話では、何と彼女は僕の──正確には勇者の仲間になるために遠い故郷からはるばるこのアークスに来たという。ならばこの話は渡りに船であるはず。アイナ様はそう考えて銀閃を相手に話を持ちかけたのだ。


 だが──返ってきたのはこちらを申し出を断る言葉と共に頭を下げる銀閃の姿だった。


「……理由を聞かせてもらえませんか? 勇者の仲間になるために王都に来たというあなたがどうして」


 予想外の返答に言葉を失っていたアイナ様は、驚きから立ち直ると銀閃に聞いた。


「王女様の仰るとおりです。私は元々、勇者殿の仲間となるためこのブレスティアを訪れ、傭兵として活動をしてきました。ですが……」


 そう言って、銀閃は己の胸に手を当てると笑みを浮かべた。初めて会ったときの凜とした態度からは考えられないほどに、女性として魅力的な笑顔だった。 


「私にとって、真に忠誠を捧げるべき主君に出会えたのです」

「それは……あなたの言う『忠誠を捧げる主君』とはいったい誰なのですか?」


 アイナ様の問いかけに、銀閃は僕に視線を投げかけた。


「勇者殿ならご存じなのでは。何せ、あの場にいたのですから」


 言葉の意味も理解できずにたじろいだが、僕と彼女の『接点』を考えていけば、自ずと答えが出てきた。


 僕と銀閃が初めて出会ったのは厄獣暴走スタンピートの一件。森の中で、コボルトキングの死体の側に居たのは銀閃だけでは無かった。


 あろう事か、僕とは別行動を取っていたはずの彼がいた。


「まさか……ユキナの事ですか!?」


 銀閃は力強く頷いた。


「そういえば、勇者殿はユキナ様・・・・とお知り合いのようですが……どのようなご関係で?」


 ユキナ様……と来たか。何とも言えない気持ちが沸き上がってくる。それでも僕は隠し立てせずに素直に教えた。


「…………ユキナは僕の同郷者です。彼が王都に来たのも、僕がユキナに頼んだからです」


「それはなんと!?」


 銀閃は耳をピンと立てながら驚いた。


「では、私は勇者殿に感謝しなければなりませんね。あなたがあのお方を王都に連れてきてくださったおかげで、私は仕えるべき主君に巡り会うことができたのですから」


 その礼を素直に受け止めるのは難しかった。


 逆を言えば、僕が無理を言ってユキナを王都に連れてこなければ、銀閃は僕らの仲間になってくれていた可能性が高いからだ。


「そのユキナという方は、あなたほどの人物が従うほどの実力者なのですか」


 銀閃ほどの実力者が絶賛している。アイナ様の声色は、まるでユキナに対して畏怖を抱いているようだ。


 ところが、話を振られた当の銀閃は首を横に振った。


「おそらく現段階での実力は私にすら到底及ばないでしょう」

「ええっっ!?」


 まさか主と仰ぐ人物に対しての辛い評価に、アイナ様は思わず素っ頓狂な声を発していた。


 対して僕は納得していた。


 失礼な話だろうが、村を出た時点でユキナの戦いにおける実力は僕よりも幾分か劣っていた。正直に言えば、現場を見ていなければ彼がコボルトキングを打ち倒した事実すら到底信じられなかったに違いない。


 だが、コボルトキングを倒したのは間違いなくユキナだ。


「ですが、ユキナ様はいずれ『英雄』になるお方。私はそう確信しています」


 ユキナがあの場にいるということはつまり、そういうことなのだ。彼がそんな男であるのを僕は誰よりも知っていた。


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