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第二百八十六話 傭兵のお仕事は案外と手間暇かかる


 半ば休暇のような状態でありつつも、すぐに動けるようにと備えは怠っていなかった。手早く準備をすると、翌日にはコウゴの都を出発し、一日を要して現地にたどり着いた。


 当初はレリクスたちも同行を申し出たものの、これについては俺が却下しロウザも同意見であった。


 傭兵にとって、厄獣は狩るべき対象ではあるが同時に大事な収入源。その亡骸を最大限に活用するにはある程度の経験が必要になってくる。レリクスたちは戦力的には申し分ないが、彼らは厄獣の討伐には慣れているが、狩猟はできない。傭兵であるガーベルトだけを連れてくるというわけにもいかないだろう。


 それに今はまだ姿を表していないが、このサンモトには魔族が潜んでいる。


 であれば、緊急事態が起こった場合に、レリクスたちがサンモトの王──ソウザ将軍の元にいち早く駆けつけられるコウゴにいるべきであると判断したのだ。


 そんなわけで、渋々とながらも納得したレリクス達をコウゴに残し、俺らはいつもの仲間にリードも加えて、見知らぬ土地での厄獣狩りを開始した次第である。


「意気込んだところで、やる事ぁいつもと変わらんけどな」

「なんか言ったか、ユキナ」

「いんや、なんでも。ちょっとした独り言だ」


 リードの声に俺は首を横に振りながら応えた。厄獣にトドメを刺し、完全に息の根が止まったのを確認してから黒槍を下ろした。


「にしても、ちょっと前の俺だったら考えもしなかっただろうな。まさか三級の傭兵と肩を並べて仲良しこよしで仕事をするなんてよ」

「んなこと言ったら、村にいた頃の俺なんか。海を渡った先で王族から仕事を請け負うなんて天地がひっくり返っても信じねぇよ」

「そりゃぁ違いねぇわ! ハッハッハ!」


 豪快な笑いように、俺も釣られて口角が釣り上がる。


 森は広い為、俺たちは二手に分かれる方針をとった。組分けは俺とリードと、残った三人という構図だ。俺とリードはユーバレストの件で、即興ながら共闘した経験があった事からくるアイナの提案だ。


 また、二手になりはしたが一時的だ。しばらく別行動をし、頃合いを見て合流し状況を把握して改めて方針決める流れだ。先方から情報を得ているとはいえ、ここが勝手の知らない土地であるのは間違いないのだ。適宜に臨機応変に立ち回る必要もあるだろう。


 元々、この近辺には村がいくつも点在しており、俺たちが今まさにいる場所も、村で暮らすもの達がよく足を運ぶ範囲に含まれている。基本的に村人達の収入は農耕であり、日々の糧を得る為に森の動植物の狩猟も含まれていた。厄獣が出没することはあれど、村人に害が及ぶようなことは年に数回程度だった。


 しかしここ最近になって、狩りに出かけた村人が立て続けに行方不明になっているという。そのその捜索に出た村人のうち数人もまた同じく消息を絶っていた。村人の陳情により、武家から厄獣狩りに長けた者が派遣され調査をすると、消えたはずの村人の死体がいくつも見つかった。そのどれもがもれなく、ただの獣にあるまじき傷跡が残されていたのだ。


 本筋であればここで武家が厄獣の狩人を本格的に派遣するのだが、今は他の地域で厄獣の掃討が行われており──と、ここからはランガが話を持ちかけてきた口上の通りである。


 現場である森に入ってから既に厄獣の狩猟は幾つか経ており、当面についてはさほど問題は起こっていない。ただやはり、事前に聞かされていた話からすると厄獣と遭遇する頻度は多いように感じられた。


 今回の現場である森に入って少しが経過したが、既に幾度か厄獣との遭遇が発生していた。事前に調べた情報に合致する個体であり、特別に慌てる相手でもなかった。加えて、俺の隣には二級傭兵である『蹂躙のリード』がいるのだから心強い。


 ただ、事前に聞かされていた話からすると、やはり厄獣と遭遇する頻度は多いように感じられた。元は厄獣が出没しないとあったが、感触からして非武装の素人が足を踏み入れるには適さないと断言できる。 


「厄獣の後始末を任せられるってのは楽で良い。慣れてても案外面倒だからな」


 最低限の処理をしておけば、後からやってくる人足が厄獣の回収及び解体を行う手筈になっている。狩人の手配は無理でも、回収班についてはどうにか手を回せたようだ。おかげで余計な荷物を背負わずに済む。


「リードのところは傭兵団だし、そういうのは団員にやらせてたんじゃねぇのか」

「器用なやつもいるにはいるいるが、基本的に雑なのばっかりだからな。ちゃんと監督し(みはっ)てねぇと駄目なんだわ。手は疲れねぇが気は疲れるのよ」


 その雑な連中の筆頭なのは団長様じゃねぇのかなとは、心の中で呟くだけに留めておいた。


 余談ではあるが、俺たちにとっての厄獣(やくじゅう)を、サンモトでは化生(けしょう)と呼ぶ。これは、生物としての『化け物』や『人を化かす』という意味が込められたことから定着した呼称らしい。


 俺たちはそのまま二度三度と、厄獣と遭遇。俺の黒槍やリードの蛇腹剣で問題なく迎え撃つ。時折に伸びた蛇腹の刃で厄獣をズタズタにしてしまい、俺が文句をつけてリードが気まずそうな顔になったりと、ほどほど順調に進んでいた時だった。


『相棒、前方の草むらの影だ』


 黒槍からは切羽詰まった気配はなく、けれども僅かばかりに思い声が届く。俺は指示があった場所の草を除けて覗き込むと、そこにあったのは人の死体だ。


 傭兵として修羅場を潜ってきており、今さらに取り乱す無様を晒す真似はしない。ただそれでも、胸の奥に重苦しいものが伸し掛かる感覚にはどうしても慣れない。きっと慣れてはいけないのだろうとも感じていた。


サンモトでの呼称は化生ですが、今後も色々と混ざりそうだから、サンモト人が『厄獣』と呼んでも心の中のルビふりで『化生』ってつけておいてください

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