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第二百五十八話 シリアスが続いてて作者も息が詰まってきた件


 シオンの口から勇者一行がサンモトへと来訪した理由が語られると、レリクスがロウザに深々と頭を下げた。


「非常に厚かましい上に、友人の伝手に大いに甘えることになりますが、どうにか僕らに力を貸してもらえないでしょうか、ロウザさん」


 勇者(レリクス)の後頭部を見据えながら、


「……彼の地の勇者殿から頭を下げられれば、力を貸すことに是非もない──が、今はちと時期が悪いのだよなぁ、これが」

「えっ?」と顔を上げるレリクスに、ロウザは自身の後頭部をボリボリと掻いた。

「実は、我がエガワはお家騒動の真っ最中でなぁ」 


 ここからは俺たち側の事情を勇者一行に説明する番だ。


 ロウザがアークスを訪れミカゲを仲間に引き入れよとした事。その理由は、将軍の後継者という地位を異母兄弟に狙われ、信頼できる仲間を引き入れる為。


 過程で俺と果し合いを演じた末に、騒動に魔族が絡んでいる事実の発覚。


 そして、ロウザを手助けし正式な将軍の後継となるのを見届ける為に、俺らも海を渡ってサンモトへと渡ってきた事。


 詳細を語ると一晩が明けてしまうので概要(ざっくり)ではあるが余さずに勇者達に伝えると、彼らの深刻な面持ちを拝むことができた。自分らがいかに面倒な時期にやってきてしまったかを理解したのだろう。


「──というわけで。協力したいのは本心だが、残念ながらそちらに注力してもいられんのよ。極端な(ぶっちゃけた)話、明日の我が身がどうなっているかも分からんでなぁ」


 はっはっはと、己の命が掛かっているというのに冗談混じりの高笑いだ。ロウザなりに勇者達を気遣っているのかもしれないが、伝わっているかは微妙なところだ。真面目なレリクスもどう返したらいいか分からない様子である。


 ただこうなってくると──。


「これは流石に、どちらも全くの別件と考えるのは……無理があるわよねぇ」


 キュネイが困り気味に漏らすと、全員が揃って首肯した。


 俺らの事情とレリクスらの事情。二つの話に共通するのは魔族の暗躍。


 裏で暗躍し社会を混迷へと陥れるという大義はあるらしいが、その手口に関しては様々。アークスでロウザを付け狙った魔族と、ルナティアで秘宝を奪取した魔族。それぞれが別人の犯行に違いないのだが、裏で繋がっているとも十分に考えられる。


「双方が独立して動いている場合も十分に考えられますので一概に確定もできませんが、当面は『そうである』として行動した方がよろしいでしょう」


 ようやく正気に戻ったマユリが言う。醜態を晒しながらも話そのものはちゃんと聞いていたようだ。勇者一行に選ばれるだけあって優秀だ。


「当然、『災厄』に纏わる話はサンモトに住む者として、何よりもエガワ将軍家の末席としても決して捨て置けん問題だ。微力になろうが協力はさせてもらう」

「将軍家の方からその言葉を頂けただけでも、僕らとしてはありがたい」

「我が盟友の同郷の願いとああらば、これを容易く見捨てればエガワ家の名折れ。そう畏まることもないさ」


 ロウザはケラケラと笑うが、対してレリクスはどこか思うところがあるのか。返す微笑みに含みがあるように見えた。


 とりあえず、協力体制を如く方針で固まったのは確からしい。俺らとしても勇者(レリクス)らとしても、敵対する理由はないしな。


「さて、そうなると……災厄と魔族について、親父殿と話せる機会が欲しいところだが」

「簡単に行くのかよ。後日に会う約束はしちゃいるが、将軍サマと一対一(サシ)で話せるとは限らねぇぞ」

「儂もそこを懸念しておる。今日みたいに兄上達が同席するとなるとなぁ……」


 俺たちの中では、ランガとシンザのどちらか──あるいはその双方が魔族と繋がっていると睨んでいる。ただこれはあくまでも仮定の範囲に他ならない。確固たる証拠もないまま、彼らの前で魔族や災厄についての話を持ち出すわけにもいかないだろう。


「我らが魔族の存在を知り得ていることを、敵側も当然把握しているはず。真にランガ様かシンザ様が魔族の背後にいるのであれば、将軍様との一対一の会談を妨害してくるでしょう」

「私たちはまだ可能性の範囲でモヤモヤしてるのに、あっちの方は確定で動いているのが本当に嫌ね。取れる選択肢が少なくなっちゃう」


 ミカゲとキュネイも考え込んでしまう。アイナも思案を深めているようで無言だ。


 そんな中でリードが口火を切る。


「おいロウザさんよ。おたくの親父って腹に色々抱えてるタイプの狸だって聞いたぜ」

「若かりし頃は美丈夫で通っていたようだが、今はふくよかな腹の中に一つも二つも抱えている狸よ。……して、それがどうした」

「息子のあんたからそれだけ言われてるような食えないおっさんが、上の息子二人が裏でコソコソやってる悪巧みを見逃してるってあり得るのか?」


 ズバリ指摘されたロウザが「むぅ……」と言葉に詰まってしまった。話しているだけだと雑で粗野に思えるが、リードはこう見えて頭の回転は早いし知恵の巡りも良い。


『つって、相棒もその辺については引っかかってたんじゃねぇか?』


 ランガとシンザが裏でロウザを次期将軍の座から引き摺り落とそうとしているのを、現将軍が全く預かり知らぬ──なんて話が本当にあるだろうか。ロウザの口から将軍の話を聞いてから、実は頭の片隅にはあったのだ。


「……仮に親父殿が把握していたとして、儂らがそれを問い詰めるにしても正面から──結局のところ、なんら状況は何ら変わらんよ」


 全ては将軍と直接話してみないことには分からない。


 それが今夜の結論であった。


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