第二百五十二話 不躾な外国人
色々と調べた所、
『豪族』の表現はちょっと適してないかなと思い、これ以降はサンモトの貴族は『武士』と表記していきます。時間を見て、以前に投稿していた部分も修正していきます。
ただ、あくまでもサンモトはどこかの国のどこかの時代にほんのり似ているだけの別物であることは御留意ください。心に「ファンタジー」の一言をよろしくお願いします
ここから先はロウザの生家であると同時に、敵陣の只中。ミカゲの両親については一旦棚上げである。幸いかどうかは分からないが、コマリによるとシラハの当主については本日は登城していないらしい。エガワの家来には違いないが他の武士とは扱いが微妙に異なるようで、頻繁には来ないらしい。
「用もなくまめに来ては、せっせこせっせこ派閥争いやらに勤しんでいる者もいるがなぁ」 とはロウザの談。
いずれは顔をあわせるにしても、心の準備もなしでいきなりという展開にはならなそうだ。面倒を後回しにする形だが少しだけ安心した。
コマリを先頭にして、俺たちは城内の敷地を進んでいく。やはり城の構造からしてアークスとは何から何まで異なっている。俺が知る『城』というのはとにかく『デカい』というイメージで、巨大な建造物の中を進む印象が強い。けれどもサンモトの城は外に面した空間が多くあり、アークスの城に比べて縦よりも横に広がっている風だ。厳かには違いないが、開放感がある。
『相棒、あんましキョロキョロするんじゃねぇって。一応は敵の本拠地なんだからよ。目立って仕方がねぇって』
物珍しさがどうしても出てしまい、顔と目が忙しなく動いていると黒槍に嗜められる。ただ、お上りさんを露わにしている俺よりもロウザの方が注目を集めていた。城内を歩いているとコマリと似たような服装の(おそらく)お偉いさんがちらほらと通りかかるが、その多くが後継ぎを見て驚いているからな。
『おいトウガよぉ。ロウザのことは手下を使って知らせてあったんじゃねぇのかよ』
『もちろん知らせたさ。信用できる一握りの者にな。大半はロウザ様のご帰還を、今この瞬間に知った形になるだろう』
また何で──と考えるまでもなかったか。
どうせ勤め人やなんやらの驚く顔が見たかったとか、そういう理由だろう。驚く者を見るたびに、ロウザが嬉しそうに笑っているからな。
『もっとも、能ある者であれば、昨晩辺りにはロウザ様のご帰還は察知していただろう』
遠目でロウザを眺めつつも落ち着いた様子の者も、数は少ないがいるにはいた。あれらがトウガの言う『能ある者』なのだろう。
『つまりは、そういった『油断ならねぇやつ』を炙り出してるって寸法か』
『全てではないが、サンモトの政に慣れぬお前らにとってはちょうど良い目安だろう。ロウザ様の配慮に深く感謝することだ』
ことあるごとにロウザを持ち上げようとするトウガにも慣れてしまい、俺とグラムは内心で困った笑みを漏らしてしまう。
「そういえば、報せを受け取っていた割には、妙に門での対応が少しばかり騒がしかったな」
思い出したようにロウザが呟くと、コマリが頷く。
「実は、少し前から外国から来たという妙な連中が城を訪ねてきておりまして」
「おお、来訪者の話は儂も耳にしている。そうか、目的地は城であったか」
「しかも具体的な理由も告げずに『将軍様』に合わせろと不躾を申しておりましてな。いくら突き返しても日を改めて何度も門を叩く始末です」
門番にロウザの帰還については伝えていたが、連日のあれこれで少しばかり動揺してしまったのだろう。
サンモトの文化に疎い俺だって、そいつは難しいだろうと思わずにはいられない。
アークスであっても、王様への謁見ともなれば面倒の一言では済まされない多くの段取りが必要になる。ましてや一般庶民であれば言葉を交わすことなど一生に一度もないと言うのが殆どだ。素性も知れぬ外国の人間が、詳しい事情も伏せたままでいきなり訪問するというのも無理な話だ。
『相棒の場合は、恋人の親って面目で、ほぼ顔パスになったけどな』
サンモトへと出発する前にも、国を離れると伝えるために会っている。全てを明かすには時期尚早であったため赴く理由はぼかしたが、あの賢い王様のことだ。こちらの声色や態度でただの旅行では無いと察していただろう。アイナからすれば、王様にとっては十分であるとのことだ。
「海を超えてわざわざ将軍に合わせろと──これは中々に面白いではないか」
ここで食いつくのが、ロウザという男である。
「ロウザ様、我々の目的をお忘れなく」
「そう堅いことを言うなミカゲ。本懐を疎かにする気はない。ただそればかりでは大事な所で失速するぞ」
ミカゲの制止もさらりと受け流し、ロウザは最もらしい論を述べつつも、顔は実に愉快そうに笑っていた。
「コマリ、もしその外国人がまた来たら、儂に取り次げ。是非とも話を聞いてみたい」
「ほ、本気でございますか?」
「儂の嘘は博打に限った話よ。お前も知っておろうに」
「……かしこまりました。そのように取り計います」
ロウザに忠義を向けているらしいが、同時に振り回されて苦労も多いいだろうなと、ちょっとだけコマリに同情してしまった。
敷地内のいくつかの門を潜り抜け、入り口の正面ほどではないにしろご立派な門を達と、いよいよ中心部に行き着く。城下町からでも遠目で覗くことができた、聳え立つ荘厳な城が待ち構えていた。
ついにかと少しばかり意気込んだものの、ロウザたちは大仰な城にではなくそこから離れた位置にある平たい建物の方に足を向けていた。
「ん? あのでっかいところには行かないのか?」
「あれは『天守』といって、戦時における『砦』のようなものだ。平時に人が住む場所ではない。城の主やその一族の方々が政務をされたり寝泊まりするのは、あちら側の『本丸』だ」
俺が城を指差して問いかけると、ゲツヤが答えた。一応は生活できる物資や設備はあるが、必要最低限しかないらしい。
ロウザは呆れた風に『天守』を眺めながら肩をすくめる。
「戦乱の世であればいざ知らず、太平の世においては無駄にでかい権力者の『象徴』以上の役割はない。政治を担う者に『威厳』がなければ立ち行かぬのは承知しているがな」
理解は出来るが心底納得できてはいないと、表情と仕草が物語っていた。




