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side braber(中編)──勇者の導き


「しかし策と言ってもどうするつもりですか?」

「そうですねぇ。サンモトにおいて、我らに後ろ盾がないのが問題(ネック)です」


 マユリのもっともな問いかけだが、シオンは考え込む。


「サンモトにゃ組合もないって話だ。傭兵として名を上げりゃぁ、そこから遡って国のお偉方と接触する手立てもあったってのに」


 ガーベルトも彼なりに考えているが、妙案は出てこない。


 このサンモトにおいても厄獣被害は存在するが、ガーベルトの語る通りこの国には傭兵組合が存在していない。この地において、厄獣に対応するのは各地を収める領主の仕事となっている。正確には、傭兵に近しい人材を領主──豪族が抱えている形となっている。言い換えると、アークスの傭兵組合と違って政治と繋がりがあるのだが、それはいいだろう。


「おそらくガーベルトさんの言う手段は通用するかもしれませんが、この地では我らの評判も傭兵としての実績も無い(ゼロ)に等しい。一から積み上げるとなるとかなりの時間が掛かるでしょう」


 手立ての一つには違いないが、末端の豪族から順々に地位の高いものへと接触を図ろうとすれば、それだけの時を要することとなる。その間に魔族が封印を解除し『厄災』を解き放つ事は十分以上に考えられた。


「そう都合よく、でけぇ厄獣の首が転がってるともかぎらねぇしなぁ」

「やめなよガーベルト。それは言い換えれば、厄獣に困っている人を望む様な発言だ」

「っと、こりゃ失礼。気をつけるよ」


 レリクスに言動を嗜められ、頭を掻くガーベルト。傭兵として生きてきたガーベルトとしては自然な考えであったものの、勇者の前でする言い回しではなかったなと間違いを認めた。


「つって、じゃぁ実際どうするかって話だが」

「何よりも『要件』の詳細を伝えられないのが非常に痛い。これでは通せる道理も塞がってしまうというものだ」


 門番には『重大な要件につき、将軍家と取り次いで欲しい』としか伝えておらず、肝心の『要件』については明かしていなかった。これは不用意に将軍家が秘匿しているであろう『災厄』に下手に触れれば、どの様な対応をされるかが図りかねたからだ。


 将軍家の中で『災厄』についての扱いがどの程度になっているか不明なのが大きな懸念だ。盟約のみが残り、国交が断絶して久しいルナティス王家にも伝わっていなかった。


 最上(さいじょう)を引ければ相手の興味をひいいて交渉の場に付くこともできるが、逆に最悪を引き当てれば問答無用で拘束されかねない。どちらかが確定であれば扱い方も変わるが、最上と最悪のどちらの可能性もあり得るだけに下手に触れるのが難しいのだ。


「だから、初めから適当な理由をでっち上げときゃぁよかったのに。俺たちの顔を覚えられた今はもう無理だぜ」

「駄目ですよそんなの。どの土地どの国に居ようとも、私たちが勇者様とその仲間であることに違いはないんです」


 ガーベルトは現実的かつ利を追求した言論ではあるものの、マユリは看過できずに反論する。どちらが正しいか間違いかというよりかは、信条の際からくる言葉のぶつけ合いだ。


 二人があーだこーだと言い合っている最中にも、シオンは思案を巡らせる。表面上は落ち着いていながらも、内面ではこの先の展望に目処が立たず、ほのかな焦りが頭の中に染み込んでいた。


「………………」

「レリクスさん?」 


 ふと、シオンが見たレリクスは腰に帯びた聖剣の柄頭に手を置き、目を閉じ黙していた。その空間だけ張り詰めた緊迫感がこもっているようであった。声を掛ける事さえ憚れる気配を発していたレリクスであったが、柄から手を離し目を開けると肩から力を抜き一呼吸を漏らした。


「シオン。笑わずに聞いて考えて欲しい」


 真っ直ぐに僧侶を見据えたレリクスが、口を開いた。


「前提条件は今は無視してもいいから、もし最短で将軍様に会える手段があるとすれば、それは何かな」

「それは──」


 レリクスの言葉は普通に考えれば切って捨てる様な極端な話だが、シオンにとっては寝耳に水であった。土台無理な話であったからこそ考慮すらしていなかった可能性。だからこそ、勇者の問いかけが僧侶の心を打つ。


 出来る出来ないの二択は抜きにして、ただ目的のための手段を導き出すとすれば──答えはそう多くない。その中で一番に手繰(たぐ)れるものがあるとすれば──。


「将軍に直接の御目通りが無理なら、将軍に御目通りが叶う者に助力を願う。レリクスさんの要望を叶えるとすればこれに尽きますね」

「うん。だったら僕らが目指すべき最短の道は『そこ』だ」

「私もいささか小難しく考えすぎていたようですね。こんな簡単な事を失念していたとは」


 これまでとは常識が違う土地に赴いたことで、以前では使えた手段やら後ろ盾に執心しすぎていた。今は不可能な理由を探るよりも、可能にするための手段を模索するべきだったのだ。


「ですが、自分で口にしておいてあれですけど、我々の目的に沿う者──この国の有力者と接触するのも、やはり簡単ではないですよ?」

「それでも将軍様に直接会うよりかは多少なりとも目はあるんじゃないかな」


 勇者とは、どんな苦難が待ち受けていようとも、希望を与えて皆を導く存在。勇者と旅をして幾度となく目撃してきたシオンは、また一つ体験したように思えた。



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