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side braber(前編)──門前払いな勇者たち


 海を渡りサンモトへとたどり着いた勇者一行。その目的は、ルナティス王国より魔族に奪われた秘宝『刻限の要』を取り戻し、サンモトの何処かに存在するという『災厄』の封印を守ることだ。


 これまで訪れたどの国よりも独特な雰囲気を醸し出す景観に目を奪われつつも、レリクスたちは急ぎサンモトの首都『コウゴ』に赴いた。何よりもまずはサンモトの支配者である『エガワ将軍家』と接触するためだ。


 だがそこでレリクスたちは──ある意味では予想通りの──足止めを食らうことになる。


「またお前たちか。幾度と粘ったところで結果は同じだ」


 レリクスら四人を見据えるのは、訝しげな目を浮かべている鎧姿の門番。背後に控えているのは重厚な両扉。そのさらに奥に聳え立つのは、コウゴの街のどこからでも見えるほどに高く聳える城。様式はブレスティアや他の各国とは全く別であるが、威風堂々とした佇まいには違いなかった。


「将軍家の方々が貴様らの様な得体の知れぬ『余所者』とお会いになるはずがなかろう。要件も伝えられぬとあらばなおさらだ。帰れ帰れ」


 門番はレリクスらに対し、手振りも加えて失せる様に仕向ける。


 食い下がったところで悪印象を与えるしかなく、門番が大門の脇に備えられた出入り用の小さな扉を閉めて去っていくのを黙って見守るしかなかった。


 厳然と佇む大門を前にしてレリクスは歯噛みする。


「くそっ、どうすればいいんだ。話をしようにも取り付く島もないなんて」


 レリクスは焦燥に駆られて扉を叩きそうになるが、拳を固めるだけに留まった。普段なら絶対にしないであろう衝動を起こしそうになったのは、それだけ一行が無駄足を踏んでいたからに他ならなかった。


 何もこれが初めてではない。コウゴにやってきてから将軍家との面会を希望するレリクスであったが、こうして門前払いを幾度も受けていた。その回数がまた一度増えただけである。


 これまで、レリクスたちは勇者としての大義名分があり、かつ訪れる先々での活躍も伝わっていることもあったおかげで、国の重鎮との接触については、多少の時間はかかれどさほど難しいことではなかった。品行方正であり礼儀正しく、勇者の名に恥じぬ一行を拒絶しては、むしろ後ろめたいものを抱えていると疑われる恐れもあったのだろう。


 けれども、海を渡った先にあるサンモトにはそれが無い。レリクスたちの身を保証する噂話や状況がまるっきり伝わっていない。つまり、サンモトの王族──将軍家にとっては、急に現れた余所者に他ならないのだ。


 客観的に見れば、門番の対応も然るべきだ。


 見るからに外国の余所者とわかる様相の四人組が、いきなり「将軍様に会わせて欲しい」と述べたところで、「はいそうですか」と頷いて即座に取り次いだらもはや門番としての素養が疑わしくなる。早めの転職がお勧めされるであろう。


「アークスの影響もあった諸国とは違って、サンモトはほとんど孤立した島国。話には聞いていましたけど、文字通り門前払いを喰らうまで実感がありませんでしたね」


 途方にくれるマユリの言葉に、レリクスは険しい表情を浮かべることしかできなかった。忘れていたワケではないものの、自分たちが『勇者の立場と名声』にどれほど助けられていたのかを改めて思い知った形だ。


「やはりどこの国でも根回しというのは大事ですか」


 焦りを抱えるレリクスの隣で肩をすくめたのは僧侶シオンだ。勇者ほどに気落ちした風でないのは、こうなることは既に予測していたからだ。


「その根回しの下手さが理由で、勇者一行に加わった経験者が言うと現実味があるな」

「ちょっと、ガーベルトさん。その言い方は」

「いえいえマユリさん。彼のおっしゃる通りですよ」


 マユリの肩を叩いて落ち着かせるのは、他ならぬシオン自身だ。ガーベルトの投げた皮肉も涼しい顔で受け流した。


「まぁ、面倒な根回しをするくらいなら、酒盛りをしていたほうが百倍有意義です」

「お、出たな。シオンの生臭坊主発言が」


 優れた回復魔法の使い手であり聖職者としても優秀な部類に入るであろうシオンであるが、実は俗世に塗れた一面も有していた。旅の最中で隙を見つけては、ガーベルト共に酒を浴びる様に飲んだり、時折人目を盗んで女を買っていたりとかなりの生臭坊主っぷりである。


 教会内での勢力争いに負けたせいで左遷され辺境に追いやられたとあるが、根回しの不足に加えてこの全く隠さない俗世っぷりも大きな理由の一つであろう。それでも清貧を好む教会が破門もせず、それどころか勇者一行の仲間として推薦するのだからシオンがいかに組織の中で優れた人材であったかが窺い知れた。


「ともあれ、ここで立ち往生したところで埒があきませんか。幾度か訪れれば対応も変わるかと思いましたが、今日の感触的にはむしろ悪影響でしょうね。いよいよ、次の策を考える頃合いでしょう」


 実際に、シオンは戦闘面での貴重な回復魔法の使い手というだけではなく、旅の道程においても作戦立案や交渉術といった面でなくてはならない存在となっている。広い知識という点においてはマユリが長けているものの、それらを効率よく使う手立ての考案はやはりシオンが担っていた。


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― 新着の感想 ―
方や英雄は将軍家のコネというか、将軍家側から招かれていると。 ひどい対比やねぇ。
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