第二百二話 しばらくぶりの村ですが
今回はちょっと短め
村に到着すると、入り口で出迎えに来た村長を握手を交わす。
「しばらくぶりですユキナ殿。活躍の程はこの村にも届いていますよ」
「別に進んで活躍したかったわけじゃぁないが……そちらも元気そうで何よりだ」
この村は王都が魔族によって襲撃された際、その前段階で攻めるための拠点地として狙われた。近場にある洞窟に厄獣を召喚する魔法陣が設置され、そこから溢れ出したゴブリンによって襲われたのだ。
悲劇に見舞われはしたが、最後に別れた時よりも村長の顔には生気が満ちていた。
「その後の調子はどうなんだい?」
「おかげさまで、国の支援もありましてどうにか建物の類は以前に近いものになりました。とはいえ、全てが元通りとはいかないのがもどかしいところです」
村長の言う通り、入り口から見える範囲では、俺たちが最後に村を後にした時に比べ、破損した建物や破壊の残骸はもう見当たらなくなっていた。
しかし、あの襲撃で失われたのは家だけではない。それらも含めて以前の活気を取り戻すにはまだしばらくは時間がかかるのだろう。
「ここで立ち話もなんです。仕事の話は私の家で」
「ああ、お邪魔させてもらうよ」
この村の住人でない俺たちにできることなど対してない。任された仕事をきっちりこなすぐらいがせいぜいだ。
「少し驚いております、あなた方が再びこの村からの依頼を引き受けてくださったことに。最近はご多忙だとは思っていまして」
「忙しかったからしばらく休暇を取っててね。この仕事はそれが明けての最初の仕事だ」
「そうでしたか。こう言ってはなんですが、我々に取っては幸運でしたな」
歩いていると、すれ違う村民からは歓迎のムードが漂う。完全に元通りとはいかないかもしれないが、それでも村の中には穏やかな雰囲気とのどかな活気があった。こういった光景を見ると、俺たちが復興の手伝いをしたことが無駄ではなかったと実感が湧く。
「王都での騒動以降、しばらくは傭兵や国から派遣された兵士が村の周辺を警戒してくださっていたのですが、それも落ち着き皆様方が撤退した矢先の事でして」
口に出すのは流石に憚れるが、この辺りは本当に何もないからな。収入源である農耕地と狩猟のできる森がある他には、どこにでもあるような村だ。王都の事件に巻き込まれたのは、ほとんど偶然に近い。拠点的にも重要でない村に、いつまでも労力を割くわけにもいかないのは理解できた。
「幸い、国から頂いた復興支援の資金が残っておりまして、依頼を出した次第で──」
と、こちらを振り向いた村長の言葉が止まった。おそらく。俺の両肩にそれぞれ座っている村の子供を目にしたからだ。じゃれついてきた子供に好き勝手させていたら、いつの間にかこんな形になっていた。いつも振り回している重量増加の黒槍に比べれば軽いものだ。穂先が危ないのでグラムはミカゲに預かってもらっている。
キャッキャとはしゃぐ子供らを担ぎながら、俺は村長に先を促す。少し驚きながらも俺が気にしていないことが伝わったようで、微笑みながら村長は小さく息を吐いた。
「ところで村長様、件の厄獣以外に特に変わったことはありませんでしたか?」
「ご存知の通り、収入源の農地以外には目立ったモノがない辺鄙な村ですので、特には」
アイナの問いかけに村長は首を横に振るが、何か思い当たったのか改めて口をひらく。
「強いて言うならば、先日に外国からの旅行者一団が村に滞在しまして。皆様がたとは入れ違いで出立されましたよ」
「外人の方々ですか」
「ええ。この辺りではまず見かけない類でしたので。珍しい客というだけあってよく覚えています」
と、村長が振り向きながら目を向けたのはミカゲであった。
「私に何か?」
「いえ、失礼しました」
首を傾げる彼女に、村長は軽く頭を下げてから再び前を向いた。
「ところで、以前に一緒でした医者先生は?」
「キュネイは医者が本業でね。王都の診療所でお仕事中だ」
「そうですか……あのお医者様に見ていただいたおかげで、命を繋いでもらった者たちも今は健常に生活できております。改めてお礼をと思っていたのですが」
「その辺りは王都に帰ったらちゃんと伝えておくから安心しな」
「では、よろしくお願いします」
村長の家に到着すると、子供達に別れをつけて仕事の話に移る。
聞くところによると、出没した厄獣というのは実物は誰も目撃はされていないらしい。ただ、近辺にある森で、見慣れぬ獣の痕跡を猟師をしている村人が発見した。
第一発見者の若い猟師は、念のため村で長年猟師として働いている経験豊富な先輩に確認してもらった。すると、この辺りに生息出没する類の動物や厄獣によるモノでない可能性が高いという結論に至った。
特に問題のない無害な動物によるものという線もあったが、ゴブリンの一件もある。杞憂であればよし、そうでなかった場合を考えて、村長は再び傭兵組合に依頼を出す判断を下したのであった。




