side braver13(後編)
「人間に紛れてたところを、ご丁寧に勇者の前で正体を晒すたぁ図太ぇ奴らだったな。実力も相応にあるってのがまたタチが悪い」
「王都でアイナ様たちの前に現れたのとは別口の様でしたが」
当初はフィンを殺しにきていた刺客であったが、レリクスたちが勇者であると察すると擬態を解き角を生やし、自らが魔族である事を明かしたのだ。どうやら人間に化けていると本領を発揮できず、そのままでは勇者一行に勝てないと判断したのだろう。それにしてもあっさりと正体を晒したことが意外すぎであった。
魔族の関与が明らかとなり、いよいよキナくさくなってきたところで、ついに刺客と兄の関係性を示す証拠を見つけることができた。正確には、フィンの兄との後援者の繋がりを証明する契約書。シオンが兄の行きつけという酒場で聞き込みを行い、その線で辿った取引現場で手に入れたものだ。
この一件で、シオンが教会内で閑職に甘んじていたのが、実は周囲のやっかみの類ではなく本人に大いに問題があることが判明した。
一言で表せば彼はいわゆる『生臭坊主』であった。聖職者が聖職者の姿格好で、聞き込みのためとはいえ酒をガボガボと飲む場面を見せられて非常に困惑させられた。
仲間の新たなる一面を発見できたことは果たして良かったか悪いかはさておき、おかげで重要な情報を得ることに成功したのは間違いない。
判明した後援者の名前はナリンキ。
アークスから見て隣国で悪どい商売に手を染め、国家政府から指名手配を受けていた人物。隣国の傭兵組合も捕縛に駆り出されていた様で、参加こそしなかったもののガーベルトの耳にも情報は届いていた。
加えて、その作戦が失敗しナリンキが逃亡していたことも。いまの今までとんと耳にしなかった名がここに来て浮かび上がったことに、ガーベルトも驚きを隠せなかった。
刺客を差し向けたことを直接咎めることはできずとも、隣国出の犯罪者と繋がっていたことは十分に糾弾の材料となる。勇者として介入するには十分すぎる理由だ。僕らは意を決し、兄が住む別宅に向かった。
──けれども、事はあっけない結末を迎えた。
事前の情報ではフィンの兄が雇った私兵が大勢待ち受けているとあったはずが、万全の状態で赴けば屋敷はほぼもぬけの殻。中にいるのは元からいた使用人と、椅子に座って呆けていた兄だけであった。武装した私兵も、魔族もどこにもいなかったのだ。
「それで、お兄さんはなんと? 尋問はしたんだろ?」
「……なんでも、後援者との連絡が途絶え、雇い金が払えなくなったと。魔族と思わしき者も、前途の支払いが保障されなければ契約外だと。実際のところは分かりませんが、少なくとも兄の屋敷にはほとんど資金がなかったのは間違いありません」
どことなく気まずげなフィンに、なんとも言えない微妙な空気が漂ってしまう。
肩透かしにも程がある──といえば不遜すぎるのは分かっている。争いなく兄の別宅を制圧できたのは行幸であったのは確かなのだが、魔族を相手に死闘を覚悟していた僕らの気持ちも理解してほしい。
ともあれ、フィンの兄を拘束できた時点で僕らの勝ち。後日に、正式にフィンは当主に就任したことを表明し、今に至る。
頼みの綱であった後援者を失い、フィンの兄も観念した様だ。尋問にはスラスラと答え、盗賊の件も含めて、刺客を差し向けたのは後援者の伝手で借り受けた者たちだった様だ。
恐るべきは、やはりその後援者ナリンキだ。魔族もナリンキが派遣したとなると、果たしてどの様な伝手を有していたのか。加えて、その悪徳商人を果たして誰が捕まえたのか。
「一応、王都に文を送り、ナリンキという男が潜んでいたユーバレストへの調査をお願いします。事実が判明し次第、フィン様の元にも連絡が行く様にしますので、それまでは一応の御用心は継続してください」
「分かりましたマユリさん。手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
「いえいえ、この程度は当然ですので」
マユリの言葉にフィンは柔らかく応える。二人は歳も近く、また周囲に同世代のいない環境で過ごしてきたという共通点もある。短い間であったが随分と仲良くなったらしい。
『…………しかし、魔族の元締めが人間だとは。アークスの王は聡明であり国も治安も良いが、探せば良からぬことを企てるものはいくらでもいる。嘆かわしいことです』
溜息すら混じりそうなレイヴァの言葉に、僕は苦笑するしかなかった。
──ナリンキの捕縛にユキナが関わっていたこと。また彼がまたしても魔族を倒したことを耳にしたのは、ここから少し後のことである。そのことで丸一日くらいやさぐれてしまったのは仲間に対して申し訳ないと思う。
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