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教えて!誰にでもわかる異世界生活術  作者: 藤正治
三十路から始める冒険者
21/163

俺の冒険は明日からだ

「お茶を引いている冒険者ども!全員俺について来い!」

 翌日、クリサリスとフィフィアを引き連れた俺は、ギルドに乗り込むと同時にロビーにいた冒険者達に叫んだ。

 全員、きょとんとして俺を見詰める。それを無視して、俺はづかづかと受付へと歩き出す。

「タヂカさん、一体なにごと」

「デインさん、討伐依頼だ。相手は北の森にいる上級魔物だ!」

 俺の言葉に、熟練の受付であるデインさんが目を白黒させる。

「てめえら、なく子も黙る冒険者ががん首揃えて、いつまで魔物一匹にデケエ面させていやがるんだ!」

 ざわざわと、ざわめきがロビーに広がる。多くが戸惑いの呟き、馬鹿にしたような視線、あるいは射抜くような殺気。

 いまは全部無視する。

「ずいぶん勇ましいことを言うじゃねえか禿ドリ!」

「俺が禿ドリならてめえは穴ネズミだ肉屋! 魔物が怖くて朝から酒をかっくらっているぐらいならとっとと引退しちまえ!」

 その冒険者は肉屋と呼ばれている。恰幅が良くて、前掛けを掛けたら肉屋の主人そのものだ。

 あと、魔物の剥ぎ取りが上手い。

「なんだとてめえ!」

 殴りかかってきた肉屋を無剣流でかわし、つんのめったところを首筋に手刀をくらわす。

 肉屋はあっさりと気絶し、床に倒れ伏した。

 ロビーに、ざわっと殺気が満ちる。ほとんどの者が武器に手を掛け、俺を取り囲む。

「ほう、禿ドリ相手なら、威勢がいいみたいだな」

 両脇にいたクリサリスとフィフィアが、一歩前に出る。

 クリサリスは剣の柄に手を掛け、フィフィアは棍棒を前にかかげる。

「その威勢が、上級魔物相手にどれだけ通用するか、俺が見てやる」

 俺は腰に下げた袋を外すと、床に投げ捨てた。

 袋の口が開き、中から出てきた金貨や銀貨が床一面に飛び散る。

「全部で金貨四十枚分だ」

 ぽかんとして床に目が釘付けになる一同。

「そいつが報酬だ。討伐に参加した全員で山分けだ」

 俺はカウンターに跳び乗り冒険者達を見下ろす。

「てめえらは屑だ!」

 俺の罵倒に、再び怒気がわき上がる。

「仲間同士で足を引っ張り合い、手の内を探りあい、くだらねえ見栄を張り、安酒かっくらって女の尻を追いまわす、

 最低の糞ヤロウどもだ!」

 じわり、と俺を取り囲む輪が縮まる。

「それでも、だ」

 俺の口元に、自然と笑みが浮かぶ。

「そんな糞ヤロウどもでも、取り得がひとつあるもんだ。そいつは自分の命を張って魔物を狩る、カタギの人間には逆立ちしたってマネできねえ度胸の良さだ」

「あたりまえだバカヤロウ!」「冒険者が魔物相手に怖気づいてどうする!」

「なら、どうして北の魔物がのさばっている?」

 尋ねてから、一人ひとりの目を見回す。どいつも目が合うと視線を逸らす。

「分かっているさ。上級の魔物と言えば、そこらの下級魔物とは比べ物にならねえ。お前らが臆病風に吹かれるのも、無理はないってもんだ」

 怒号の嵐が巻き上がる。冒険者が、臆病と言われれば商売上がったりだ。

「だがな?」

 騒ぎが一段落するのを待って、俺は告げる。

「俺達は一人か? 一人じゃ無理でも、しょせんは魔物、俺たちが寄ってたかってなぶり殺しにすりゃあ、簡単に済んじまうって寸法だ。違うか?」

 俺は床に散らばった金貨銀貨を指差す。

「俺はこれから北の森の魔物を討伐に行く。俺に付いてきて一緒に魔物を倒したら、そいつは生き残った連中で山分けだ」

 冒険者たちの目が、欲望にギラリと輝く。

 だが、誰も付いてくるとは言わない。

 お互いの顔を見回し、空気を読もうとしている。

「わたしはヤロウじゃないが一口かませてもらおう」

 その声に、冒険者の輪の一角が崩れる。

 彼らが後ずさりして拓いた道を、カティアがゆっくりと前に出る。

「それとも女の出る幕はないのか?」

「いいえ師匠。もちろん女性の参加も大歓迎ですよ?」

 彼女の参加表明が、一同に波紋を投げかける。

「姐御が出るのか!」

「血煙の戦女が!」

「行かず後家の剣鬼が!」

「最後のヤツ、前に出な!!」

 圧倒的な殺気が放射され、数名が腰を抜かした。

 おれじゃねえよ、おまえだろと、小声で囁きあう。名乗り出る者はいない。

 カティアはゴキゴキと関節鳴らした。

「・・・よし、ここにいる奴ら全員、治療院送りだ」

『ぎゃあああっ!!』

 いまギルドを壊滅されたら、俺が困る。

「まあまあ師匠、いざとなったら俺がもらってあげますから」

「ほんとうか!!」

 なだめるつもりが、彼女の目つきがヤバいくらいに真剣だ。

 冗談だと言ったら、殺される。本気でそう思った。

「まあ・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・いざとなったら、ですよ?」

 俺の返答に、全員が息を飲む。

「あの姐御を!?」

「すげえ、すげえよあいつ」「命知らずなヤロウだ」「正気の沙汰じゃねえ!」「いくらなんでも無茶だ!」「死ぬぞあいつ!」

 そして、誰かが最初に呟いた。

「・・・・・・・勇者だ」

「・・・勇者だ」

「勇者!」

 誰かが拳をふりあげた。

「勇者!」「勇者!」

 次々と拳をあげ、足を踏み鳴らし、大声で叫ぶ。

「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」「勇者!」

「勇者!」「勇者!」

 勇者コールの大合唱だ。

 魔物退治のアジテートよりも凄い反響だ。

 冒険者がそれでいいのか。カティアは魔物よりもやばいのか。俺はいったいどうなるんだ?

「わたしも参加させてもらいます」

 あのサイラスが、取り巻きを引き連れて前に出る。

「ここで乗り遅れたら、冒険者の名折れですからね」

 その一言に、堰を切ったように次々と名乗りを上げる冒険者たち。

 どいつもこいつも金に目がくらみ、欲にまみれたイイ面構えをしていた。

 ・・・・いくら四十金貨分ったて、全員で頭割りにしたらひと月分の稼ぎにもならないとは誰も気が付かない。

 たぶん暗算が苦手だからだ。しかし誰もが乗り遅れまいと、俺の前に押し寄せてくる。

「てめえら、魔物一匹に手間なんか掛けるんじゃねえ。今日一日でカタをつけるぞ!」

 おうっと一斉に応える声は、ビリビリとギルドを揺らした。




 さて、上級魔物討伐の顛末はどうなったか。

 まあ、結論から言えば、討伐は成功した。

 あまり劇的な場面はなかったので、詳しく説明する気にはなれない。

 ざっと説明すると、人海戦術で北の森の一画にいる下級魔物を殲滅。

 そのあと冒険者の群れは広く展開して包囲網を形成。

 俺が上級魔物を発見して、探査と隠蔽を駆使して誘導。

 カティアとクリサリス、フィフィアが待ち構える罠の中央に誘い込む。

 カティアが正面を受け持って防御に徹し、俺とクリサリスが相手の注意を逸らす。

 フィフィアの火の玉が上空で炸裂して冒険者どもに合図を送る。

 俺たちが足止めしている間に包囲を縮め、一斉に襲いかかった。

 後は俺が宣言したとおりになぶり殺しである。

 怪我人は多数出たが、幸い死者はなかった。

 金貨を山分けしたら、やっぱり大した金額にはならなかったのに、意外と好評だった。

 一日の稼ぎとしては破格だったからだろう。

 リスクなど、生き残って金を手にすれば気に病む問題ではないらしい。

 上級魔物の素材の売上は全員の治療代にあてた。


 そして俺は、文字通りの無一文、スッカラカンになっちまった。

 アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ



 …………まあ、大したことじゃない、か?

 賞金稼ぎで得た金は、きれいさっぱりなくなった。

 これで俺は、本当の冒険者生活を始めることができるのだから。

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[気になる点] 何この展開。どこの3流映画なん? クッソ古い西部劇みたい
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