検証実験その一
ギルドを出た俺達は、まず武器屋に向かった。
「弩弓?それに弓?」
俺が短弓を一張、それに弩弓2基を購入すると、クリサリスは首を傾げた。
クリサリスは俺が剣術スキルを所持していることを察しているから、不思議に思ったのだろう。
俺は特に説明せず、それぞれの矢を十本ずつ購入する。
それから三人連れだって南門を出ると、丘陵地帯へと赴いた。
「さてと」
俺は周囲を見回すと、うまい具合に立ち枯れた木を見つけたので近づいた。
木立からおよそ五十歩の距離を置いて、荷物を下ろす。
「それじゃあ二人とも、周囲の警戒をお願い」
「いいけど、何をはじめるの」
フィフィアが首を傾げ、俺の手元を見詰める。俺が手にしたのは短弓、通常の弓より丈が短い。
その分射程距離も短くなるが、取りまわしが良くて持ち運びも便利という利点がある。
「ちょっと練習。これであの木を狙ってみようと思って」
「へえ?」
「ヨシタツさんは、弓の心得があるのですか?」
「いんにゃ、ぜんぜん」
俺の返答に呆れるクリサリスを放置し、矢をつがえて弓を引き絞る。
自分でも弓や矢の持ち方があやしいと思うし、構え方もおそらく間違っているだろう。
矢を放つ前から、これは無理だなと分かる。
「ッ!」
案の定、矢を放った瞬間、弦が指をかすめた。けっこう痛い。
矢は見当違いの方向に飛んで行って落ちた。
「・・・痛い」
「なにやっているんですかあなたは!」
「だ、だいじょうぶ?」
心配そうな二人に手を振って再度、短弓をかまえる。
「ああもう! そうじゃありません!」
クリサリスが俺の背後にまわり、脇の下から手を伸ばして俺にレクチャーする。
「弓の持ち方はこう! そんなに力を込めて握らない! 矢のつがえるときはああ違います矢羽根を持たない!」
さんざん叱られ、十本打ち尽くすと、矢を回収する。とりあえず一本もあたらなかった。
さて、ここからが本題だ。
もう一回一人でやらせてほしいと頼むと、クリサリスは不満げな顔をした。
クリサリスの教えをなるべく忠実に再現し、深呼吸する。
自分の内側をのぞき込むように精神の集中をはかる。
余分な力を抜き、この身に宿るふしぎな力に全てを委ねる。
矢の先端から延びる不可視の弾道が感じられた。弓を上向きに構えそれに乗せるように矢を放つ。
風切り音を残し、矢は空中を走る。
矢は、外れた。ちょっと横にずれ、木立を通り過ぎる。
今のは弦を放つタイミングが呼吸に合ってなかった、気がする。
心臓の鼓動や呼吸、
よく分らないが身体にはリズムのような波があって、それに合わせて矢を放たなければ上手くいかない感じがする。
もう一度、矢を放つ。今度は反対側にそれて落ちた。でも、コツがつかめてきた気がする。
最後の一本は、木立のど真ん中にあたった。
「・・・うそ」
クリサリスが呟くのをしり目に、ふたたび矢を回収する。
今度は、弩弓に矢をセットして構えた。こちらも初めて使うがしっくりとくる。
肩にあてた台尻。手で支える台座。指をそえた引き金。
まるで弩弓が身体の一部になったような、いや、自分が弩弓の部品になったような感覚だ。
矢を乗せるべき弾道も先ほどより明確に、まるで自分の神経が通じているように把握できる。
俺は何の気負いもなしに引き金を引いた。
矢は当然あるべき道筋をたどって木の幹に突き刺さった。
「すごい!」
フィフィアは無邪気に誉めてくれた。クリサリスは真剣な眼差しで、こちらの一挙手一投足をうかがっている。
スキルには汎用性がある。
スキルは、特定の技能や行動に補正を掛けるが、類似したものでも適用されるらしい。
俺の射撃スキルは弾道計算と照準精度に特化しているのではないか。
だとしたらもっとも相性が良いのは銃器の使用だろう。
だから銃砲の延長線上で弩弓、ボウガンを補正するし、さらにその先で弓矢も補正する。
ただし筋力的な補正は適用外なのか、弓では劇的な効果を生まないようだ。
「・・・秘密の漏れるのを心配するのはあたりまえですね」
クリサリスがため息をつく。
「え、なんのこと?」
「わたしたちが思っている以上に、ヨシタツさんはすごい人ってこと」
・・・ひどく後ろめたい気分になる。俺はそんな立派なヤツじゃないと言えたらどれほど気が楽か。
だがどんなに秘密が暴かれようとポイントの件だけは絶対に知られるわけにはいかない。
ひかえめに会釈してから矢を回収に行った。




