王都_その3
レジーナ・スターシフの住まいは、王都の東端付近の共同住宅である。
彼女の自宅にお呼ばれした俺とクリスは、表通りからやや奥まった場所にある建物を見上げていた。
「立派なお住まいですね」
その程度の感想しか抱かないクリスに、むしろ感心する。
普通のアパートを想像していた俺なんて、口が半開きになってしまった。
随所に彫刻が施された高級感漂う四階建てで、各階が一つの住居になっているそうだ。
「一人暮らしだから気兼ねしないで」
外観から目測した床面積はシルビアさんの宿より広いのに、レジーナが平然とのたまう。
しかも彼女の考える一人暮らしとは、俺みたいな庶民の感覚とだいぶ違っていた。
玄関ホールから立派な階段を上り、共同住宅の四階部分を占めるのが彼女の自宅である。
その両開きの扉をくぐった途端、
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
お仕着せの女性が三名、深々とお辞儀してレジーナを出迎えた
「ただいま、みんな。お客様を連れてきたからお願いね?」
「「「かしこまりました、お嬢様」」」
驚きが覚めない俺に、レジーナが三名の女性達を順々に紹介する。
「右からヘレン、サーシャ、トルテよ」
彼女達は、この家のお手伝いさんらしい。年齢は三〇代、二〇代、一〇代ぐらいか。
レジーナの考える一人暮らしに、彼女達は含まれないようだ。さすが、本物のご令嬢様である。
「あっちがアレク、こちらのお嬢さんはリーナよ」
レジーナが俺達を紹介すると、お手伝いさん達は揃ってお辞儀した。
客間に通された俺とクリスは、二〇代のお手伝いさん、サーシャさんに香茶とお菓子でもてなされた。
内装の豪華さにびびる俺とは違い、クリスは平然としたものだ。お菓子を貪り、香茶のお代わりまで所望するほど寛いでいる。俺が肘で突っつくと、彼女はキョトンとした。
しばらくすると、部屋着に着替えたレジーナが戻ってきた。
「お待たせ。どうかしら、我が家の感想は?」
レジーナの言葉には嫌味にならない程度の、素朴な自慢が窺える。
「家も立派だけど、ここで働いている女性達も優秀みたいだね」
「あら、ありがとう。ちなみに、どの辺が優秀だと感じたの?」
俺の賛辞が意外だったのか、レジーナが不思議そうな顔になる。
「主人が連れ込んだ男を胡散臭いと思っても、眉一つ動かさなかったからね」
レジーナの前にカップを置こうとしたサーシャさんの手元がわずかに狂い、音を立てた。
防具や剣は、木賃宿に置いてきた。治安が行き届いている王都で武装すると、ひどく目立つからだ。
法的に帯剣は禁止されていないが、周囲が眉をひそめるほど場違いなのである。
しかし武装していなくても、俺達の衣服は一般人とは違い過ぎる。剣を帯びて防具に身を固めれば、そのまま魔物討伐に出立できる格好だ。洗っても落ちない、魔物の血の染みもこびりついている。
外見から荒事を生業とする人種であることは明白なのに、お手伝いさん達は顔色一つ変えなかった。
貴族のご令嬢が連れ込むような輩ではないことを知りながら、平然ともてなしてくれたのだ。
肝が据わっているのか、俺達を客として招いた主人の面目を潰さないように振る舞っているのか。
サーシャさんを見遣り、彼女の淹れてくれた香茶を口に含む。うん、とても美味しい。
「ありがとう。彼女達の良さが分かってもらえて、主人として鼻が高いわ」
嬉しそうに告げるレジーナもまた、良い雇用主なのだろう。
「…………まあ、外面だけは良いのよね」
ぼそりと、不穏な発言を付け加えるレジーナ。
サーシャさんは感情が顔に出ないタイプみたいだ。唇の端が、ピクリと引きつっただけである。
そして用事を済ませた彼女は、何事もなかったかのように戸口付近で控えた。
「さて、さっそく今後のことだけど」
俺が鋭く一瞥すると、サーシャさんは関心なさそうに目を伏せた。
「どうせ彼女達にも働いてもらうから、ある程度は聞かせておきましょう」
レジーナの言葉に納得する。カティアやシルビアさん、あるいは霊薬などの事情は伏せておけばいいか。
「まず、今の宿はすぐに引き払いなさい。王都にいる間の衣食住は、うちで面倒をみるわ」
数瞬迷ってから、彼女の申し出に甘えることにした。事態が動き出せば、食事の用意や洗濯に費やす時間すら惜しくなるだろう。
レジーナはすっくと立ちあがると、サーシャさんに手を振った。
「サーシャ、ヘレンに言って、彼らの衣服を買いに行かせなさい。男物は適当に任せるけど、この娘の衣装はいつもの店でフォーマル、ナイトウェア、外出着、下着と、ひと通り揃えさせなさい。不足分は大至急作らせるように、明日までに用意できなければ今後の付き合いを考え直すと言っておくのよ。トルテは彼らの泊まる部屋と、散髪と湯浴みの準備をさせて。あなたは道に迷わないように彼らを案内して――――」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 服とか湯浴みとか、そこまで大げさにする必要は」
矢継ぎ早に命じるレジーナを押し止めると、彼女は不機嫌そうな顔になる。
「言っておきますけどあなた達、ちょっと臭いますからね?」
俺とクリスは、急いで袖や襟の匂いを嗅いで確かめた。
◆
まずは宿を引き払ってこいと、レジーナに家を追い出される。
クリスとは引き離されてしまった。女性が衣装を揃えるのに本人がいなくてどうするのだと、ヘレンから遠回しに言われたのだ。
宜しくお願いしますと頼んだら、お手伝いさん達から名前は呼び捨てにするように申し渡された。
主人であるレジーナを名前呼びするなら自分達も同様に、ということらしい。態度や言葉遣いにこそ表れないが、その念押し自体に微妙なトゲを感じた。冒険者風情が貴族令嬢であるレジーナに気安く接し、面白くない気分になるのは仕方がない。その点について、別段含むところはなかった。
むしろ主人を誇りとする彼女達と、お手伝いさんに敬われるレジーナの評価が上がったぐらいである。
道案内兼荷物持ちとして、サーシャが付き添った。
木賃宿に到着すると、部屋に入って荷物をまとめる。購入した薪や調味料などは残しておく。
宿泊代は前払いだから、女将さんに挨拶してすぐ宿を後にした。
「お嬢様について、何か訊きたいことはないのですか?」
小さな手荷物を抱えてもらったサーシャが、いきなり尋ねたので密かに驚く。
レジーナの家を出てから無言を押し通していたので、口を利いてもらえるとは思わなかったのだ。
「どういう意味かな?」
「いえ、どうやらアレク様達とお嬢様は、今日が初対面のご様子。ならばお嬢様のゴシップに、興味を抱かれるのではないかと思いまして」
俺は首を振って遠慮した。
「いや、特に興味はないけど」
「そうですか? けっこう愉快な話もありますよ?」
「ふーん?」
「例えばお嬢様、現在勘当中でして」
「いや、それって愉快な話なの!」
「はい、いつものことなので」
「いつもなんだ!?」
「あの家はそもそも、勘当用の別宅として御当主様が用意されたものですし」
「それって本当に勘当なの?」
その御当主とやらが、甘いのか厳しいのか判断しづらい。
「お嬢様は、たいそうお転婆な方なのです。ちなみに今回の勘当は、御親友にしつこく言い寄る貴族のぼんくら息子どもを、お嬢様が折檻したのが原因です」
折檻っていうと、あのスキルで? まさかな? とにかく世間的には、懲罰の態を装わなければならない状況になったのだろう。
「いかがです? 他にもお嬢様の武勇伝には事欠きませんが? あるいは派手な恋愛沙汰ですとか」
「いや、やっぱり遠慮しておくよ」
「…………そうですか。お嬢様のゴシップは、結構な稼ぎになるのですが」
残念そうに、とんでもないこと言い出すサーシャ。
「じゃあ、いま教えてもらった分だけ払うよ」
小銭の入った袋を取り出すと、諦めたように彼女はため息を吐いた。
「お嬢様を嗅ぎまわるような輩だったらガセネタを掴ませ、報告させて頂こうと思っていたのですが」
やはり、試していたのか。大切なお嬢様に近付く不審人物を見極めようとしたのか、あるいは
「レジーナの指示かい?」
「まさか。まあ、報告すれば参考にはされるでしょうが」
レジーナは密告を推奨する訳ではないが、入手した情報を利用するぐらいには現実的な性格らしい。
彼女達が讒言や猜疑に陥っていないとすれば、互いに対する深い信頼があるのだろう。
「なるほど。じゃあ。これは必要ないか」
小銭の袋を懐に戻そうとしたら、ガシッとサーシャに手を掴まれる。
「ちなみに、純粋な労いの気持ちであれば、頂戴するのにやぶさかではありませんよ?」
ああ、チップね。荷物持ちの礼もかねて銀貨を握らせると、彼女は深々と頭を下げた。
「過分に頂いたサービスとして、お嬢様の有名な逸話について教えて差し上げます」
それから延々と、誇張と自慢のスパイスが効いた、レジーナのゴシップを聞かされる羽目になった。
◆
レジーナの家に戻ると、トルテから湯浴みの準備ができていると告げられた。
ちなみにクリスは、別室で身だしなみを整えている最中だとか。
固い地盤のために自前の井戸を造れないなど、王都の水事情は一般的に不便だ。
しかし一部の邸宅には、貯水塔から高架の水路で水が供給されている。一般庶民には払えないほどの金額を請求されるが、金さえ払えば受けられるサービスでもないらしい。社会的な地位が必要で、一種のステータスになっているそうだ。この共同住宅にも貯水塔から水の供給を受けており、レジーナの実家の威勢を窺わせた。
たっぷり湯の張られた浴槽で、肌がすりむけるほど垢を落とした。
浴室から出ると、この家で最年長のヘレンがハサミを片手に待ち構えていた。
思わず前を隠して守ったが、彼女は気にする風でもなく俺を椅子に座らせ、散髪を始める。
ぜんぶ終わって用意された服に袖を通すと、生まれ変わった気分になった。
準備が整うと、レジーナにお披露目をさせられた。
「もう少し、どうにかならなかったの?」
居間のソファーで寛いでいたレジーナが、ヘレンに問い掛ける。
「これで精一杯です」
ヘレンがにべもなく答える。随分と失敬な主従である。
ほどなくして、サーシャとトルテにエスコートされて、一人の女性が現れた。
「あ、あの、どうでしょうか?」
はにかみながら、彼女が尋ねる。
「とても――――とても似合うよ、クリス?」
なかば確認するような口調になってしまう。初めて目にするドレス姿に動揺するあまり、クリスと眼前にいる女性がなかなか結びつかない。いつもは後ろで無造作に束ねられていた髪が艶やかな光沢を帯び、丁寧に編み上げられてうなじを晒している。
胸元をレースで飾られた青いドレスは露出部分が少なく、清楚な印象を受けた。
「すごく綺麗だ」
隷属の首輪には視線を向けず、笑って見せた。
「ありがとう。タツもその、素敵です」
ほら、そこのお嬢様とお手伝いさん、あなた達もクリスを見習いなさい。
これが気遣いというものですぞ?
「ははーん?」
なんか、お嬢様が下品な感じで鼻を鳴らした。
「どうかしたのか?」
「べっつにー?」
彼女は白々しい態度でそっぽを向き、ソファーのクッションに足を投げ出した。
だらしなく肘掛にもたれたが、モデルのようなスタイルの彼女がやると、それはそれで様になる。
しかし、三人のお手伝いさんの感想は違うようだ。主人のあられもない格好に、彼女達が内心で嘆いているのを察した。お節介だという自覚はあるし、レジーナと良好な関係を構築する必要性も理解している。それでも、主人を誇りに思っているお手伝いさん達の心情に共感してしまったのだから、仕方がない。
「レジーナ」
「なーに?」
「膝を揃えて、きちんと座りなさい」
沈黙の帳が、居間に覆い被さった。
無表情になったレジーナが、こちらを凝視する。召使いさん達が息を飲み、様子を見守っている。
やがてレジーナが身体を起こし、座り直した。その姿勢は優美で、まさに令嬢そのものだ。
「これでよろしいかしら?」
華やかな笑顔を浮かべ、レジーナが冷やかに確認する。
よくぞ言ってくれた。お手伝いさん達のすまし顔から、そんな喝采が伝わる。
クリスの嘆息が、妙に耳にこびりついた。
その後、俺達の歓迎のために、豪華な晩餐が用意された。
お手伝いさん達が心のこもった給仕をしてくれた。それが主人への当てつけのように思えるのは、俺の考え過ぎだろうか。
ドレスで着飾っても、やはり中身は本物のクリスだった。例によって健啖ぶりを発揮する彼女に、なんだかとても安堵する。
晩餐の席で、赤いドレスを身にまとったレジーナは、女主人役として申し分なくもてなしてくれた。
しかし瞳の奥には終始、剣呑な光を宿したままだ。女性を怒らせてばかりいる自分が、つくづく嫌になる。
針のむしろに座るような気分で、豪華な料理の味もろくに分からなかった。
夕餉の後、俺達はとある部屋へ案内された。
ヘレンが開いた扉をくぐると、驚きのあまり立ち竦んでしまった。
壁の一面が本棚で、そこには百冊をゆうに超える書物が収まっていたのだ。ふらふらと誘われるように本棚に近付き、息を吸い込む。微かな黴臭さ、革や古い紙の匂いが入り混じった、独特の空気が鼻孔をくすぐった。
思わず伸ばしかけた手を、寸前で引っ込める。代わりに、看破を発動した。
政治、歴史、文学、薬学、宗教学、紀行文などが、きちんと分類されている。一冊一冊丹念に、本棚にならぶ表題を読み取り続けた。
「手に取って読んでもいいわよ?」
不意に声を掛けられ、跳び上がる。いつの間にかドレスを着替えたレジーナが、傍らに立っていた。
「いや、いい…………」
彼女の申し出を、断腸の思いで断る。わざわざこの部屋に案内したのは、何か話があるからだろう。
しかし、よほど名残惜しさが顔に出ていたのか、レジーナが可笑しそうに笑う。
「冒険者なのに、書物に興味があるの?」
文字を解さぬ荒くれ者、それが一般的な冒険者に対する印象だ。
「タツは、普通の冒険者とは違いますから」
クリスが、自慢げに胸を張る。本人なりの誉め言葉のつもりらしい。
そんな彼女の手を取って、レジーナが部屋の中央にあるテーブルに誘った。
俺もそれに続き、席に座る。テーブルには香茶のカップが三つ、湯気を立てていた。いつの間に?
「タツは、ずっと本棚を眺めていたんですよ?」
俺が訝しく思っているのを察し、クリスが教えてくれた。どうやら書物に夢中で、周囲がまったく目に入らなかったらしい。
「この図書室にある本は、好きな時に読んでもいいわよ」
先程の剣呑な光は消え、レジーナが愉快そうに俺の顔を覗き込む。
「え、いいの? 本当に?」
「ええ、祖父の大切な遺産だけど、わたしはあまり興味がないから」
レジーナはとっても親切で、素敵な子だったらしい!
「…………本当に現金ですね、タツは」
心境の変化が顔に出たのか、クリスが呆れたように呟く。
「さて、それじゃ本題に入りましょうか」
香茶を一口含んでから、レジーナが居住まいを正した。
「結論から述べると、霊薬の入手はとても困難よ?」
改めて、レジーナから告げられた状況。カティアでさえ入手困難だと言わしめた霊薬。
一介の冒険者に過ぎない俺には、荷が勝ちすぎる役割である。
「もとより承知」
俺の返答は短い。可能不可能ではない。霊薬を入手して街に戻る、それは前提条件に過ぎない。
いざとなれば手段は問わない性格だからこそ、カティアは俺を選んだのだ。
「彼女も行動を供にするのね?」
レジーナがクリスを一瞥する。奴隷という彼女の立場を慮っているのだろう。
「俺が最も信頼する二人の内の一人だ。俺が知るべきことは、彼女にも話してくれ」
クリスも、前途に漂う不穏な空気は悟っているはずだ。それでもためらわず、きっぱり頷いてくれた彼女が、声を上げたくなるほど誇らしい。
もし俺に万が一のことがあっても、彼女が役割を引き継いでくれるに違いない。
「あなた達は霊薬について、どの程度の知識があるの?」
俺が目を向けると、クリスがそっと首を振る。
「あらゆる病を癒す、万能の妙薬としか」
考えてみれば、馬鹿な話である。冒険者は命懸けで魔物から《霊礫》を奪うのに、そこから精製される《霊薬》についての知識が皆無なのだ。それがどんな薬で、誰が使っているのかまるで興味を抱かず、ただ目先の金に目がくらんでいる。冒険者を無知蒙昧な輩と蔑む一般人だって、ほとんど何も知らない。
それは、なぜだ。
ふと、疑問が頭にもたげる。なぜ、霊礫や霊薬に関する情報が、ほとんど出回っていないのだろうか。
「実際のところ、わたしだって霊薬については、ほとんど知らないわ」
貴族位に連なるレジーナまでもが、そんなことを言う。
「霊礫が、貴重品として他国の王族へと供給されていること。霊薬が、ごく一部の有力貴族に、莫大な献金と引き換えに下賜されていること。せいぜいその程度よ」
彼女は首に下げた簡素なネックレスから、一つの宝石を取り外す。
「ただし霊礫については、ちょっとしたタネがあるわ」
指で挟んだ宝石が、燭台の光を反射してきらめいた。
「これは霊礫から造られているの。けっこう貴重なものよ?」
それは小指の先程度の、丸い水晶球にしか見えない。
「これから見聞きすることは貴族位に連なる者の秘密、他言無用にね?」
そう言いながら霊礫を手のひらに乗せ、彼女は目を瞑って集中した。
いきなり霊礫が光を放ち、彼女の手のひらから天井目掛けて青白い雷光がほとばしる。
雷光は天井の一部を焦がし、すぐさま消えた。
「ちょっとしたコツが必要だけど、霊礫にはスキルを強化する作用があるの」
過去の記憶が、鮮明によみがえる。
同族から霊礫をえぐり出し、貪っていた鎧蟻の女王。もしかするとあれも――――
レジーナは白い灰になった霊礫を払い落とすと、隠すように手を握り締めた。
「見せてみろ」
俺はテーブル越しにレジーナの手を掴み、無理やり指を開かせた。
「大したことはないわ」
額に脂汗を滲ませながら、彼女が強がる。手のひらの皮が、痛々しく腫れあがっていた。
「…………バカなことを」
俺が叱ると、彼女は悪戯っぽく笑って見せる。
「論より証拠ってやつよ」
彼女にしてみれば、霊礫の秘密の一端を理解させる意図だったのだろう。
しかし俺は、シルビアさんを助けたいというレジーナの覚悟を感じてしまった。
隣を見遣ると、クリスが頷いた。レジーナは信頼できると、彼女も思ったようだ。
だから、治癒術を発動した。
痛みが引き、火傷が癒えていくのを感じたのだろう、レジーナが驚きに目を瞠る。
「論より証拠というやつだ」
柔らかな肌を取り戻した手を握ると、クリスも手を重ねてきた。
「これで俺達は、同志だ」
レジーナが最初に告げた言葉を借り、宣言する。
ようやく彼女を、本当の意味で仲間だと信じた瞬間だった。




