第34話 ドアマット幼女と飴作り
エルシャの遭難事件の、後日談的なお話です。
皆さま、こんにちは。
エルシャ・グリーンウッド六歳です。
遭難騒ぎから一夜明けた朝食の席で、わたしとヘンリーで採ってきた初雪ニンジンをお披露目しました。
ソフィアさんは『まぁまぁ、お嬢様ったら!』と、目を丸くしました。
ベックさんは『これは……立派な初雪ニンジンですな!』と、感心していました。
そして早速、おばあ様に食べてもらうことになりました。
「どうやって摂取するのが、効果的なんですかね?」
「かなり癖のある味らしいですよ。すり下ろして、蜂蜜と混ぜてみますか?」
植物図鑑によると、葉っぱや茎も食べられるそうです。ちょっと齧ってみました。
「うっ、苦ぁい……。あうっ、舌がビリビリします……」
これは……! 良薬口に苦しとはよく聞きますが、余りに余りなお味です。苦いだけではなく、渋みと辛み、えぐみもあります。
わたしはハドソン先生が持たせてくれた巾着袋から、蜂蜜飴を取り出して急いで口に入れました。
「そんなに、ですか?」
ソフィアさんも葉っぱを一枚、口に入れました。眉間に皺を寄せて味をみています。
「ああ、これは……本当に食べて大丈夫なんですか?」
「お酒に漬け込むと良いらしいです。二年くらい漬けるとまあまあ食べられるって、狩人のおじ様が言ってました」
「二年も待てませんね」
ソフィアさんにも、蜂蜜飴を渡して二人で黙ってコロコロと口の中を転がします。
これを食べて、薬効に気がついた人は凄いですね。普通なら毒だと思って吐き出すレベルです。
こんな強烈なお味のものは、熱と咳で弱っているおばあ様には負担になってしまう。
ソフィアさんと、うーんと考え込んでいると、玄関から声が掛かりました。
「おーい、ソフィア。注文の品を持って来た。開けてくれ」
「狩人のトーマスですね。ちょっと荷物を受け取って来ます」
昨夜、大泣きを見られてしまった狩人のおじ様です。ソフィアさんと話しながら、大きな荷物を抱えて玄関から入って来ました。
「嬢ちゃん。初雪ニンジン、持ち帰ってたんだって? どうやって見つけたんだ?」
「えっ、あの。植物図鑑で調べて……」
昨日の今日なので、恥ずかしくてモジモジしてしまいます。だって、鼻水も出てしまいましたし。
「おお、こんな大ぶりのニンジンを二本も! 大したもんだな」
「あっ、こっちの大きいのは、ヘンリーが掘り出してくれたんです。わたしが掘ったのはこっちです」
少しひしゃげた、色みの強い方を指します。
「うむ……。良い色だ。年数を経ると赤味が増すんだ。これは三年モノかも知れんな!」
「三年モノはたくさん、滋養を蓄えてるんですよね?」
「ああ。だが、味もだんだん強烈になる」
さすがトーマスおじ様は、狩人だけあってよくご存知です。
「葉と地下茎、どちらも熱を加えても大丈夫ですか?」
「ああ、薄く切ってお茶に入れたり、スープにしても大丈夫だ」
「食前と食後では、どちらが効果がありますか?」
「胃の中に何もない方が吸収が良いが、胃腸の弱っている場合は食後に。胃もたれする場合もある」
わたしの勢いに、最初は面食らったようにしていたヘンリーおじ様ですが、徐々に真剣に答えてくれるようになりました。
「嬢ちゃんは、医者か薬師でも目指しとるのか?」
「いいえ、そういうわけでは……。ただ、おばあ様が、少しでも元気になればと……」
「なるほどな。薬草に興味があるなら、わしのところへ勉強に来るといい」
「はい……。ありがとうございます」
「その犬も連れて来なさい。良い救助犬になる。それと……嬢ちゃん、足を痛めとるな? ちゃんと治さないと捻挫は癖になるぞ」
何となく言い出しにくくて、足のことは後回しにしていたのです……。ソフィアさんとベックさんに、追加で叱られました。
トーマスおじ様がペタンと貼ってくれた湿布は、冷たくて爽やかな匂いがしました。薬草の勉強……良いかも知れません。
* * *
「乾燥してから粉にして、蜂蜜と練って飲み込める大きさに固めるとか、飴にするとか、どうでしょう?」
トーマスおじ様は、継続して摂取することが大切と言っていました。味もそうですが、長く保管出来るよう加工が必要です。
「ええ……ええ! やってみましょう!」
その後もソフィアさんと色々相談して、半分は保管用に粉末に。もう半分は、飴を作ることにしました。
すり下ろした初雪ニンジンに、生姜をベースにしたスパイスをいくつか加え、水飴と蜂蜜を入れて練っていきます。
「生姜の代わりに、ハッカでもいいかも知れませんね」
「ああ、いいですね。ハッカ味も作りましょう!」
そうして、出来上がった飴を味見します。
「うーん、ずいぶん食べやすくはなりましたけど、美味しくはないですね」
「そうですか? 私はけっこう好きですね。大人は好きな味です。きっとお嬢様も大人になればわかりますよ」
大人になると味覚が変わるとは聞いたことがあります。でも、そんなに違うものですかね? こんな変な味が、好きになるの? 不思議です……。
おばあ様も大人です……気に入ってくれると良いのですが……。
おばあ様は、ベッドで起き上がって、ぼんやりと窓の外を眺めていました。横になると咳が出るので、起き上がっている方が楽みたいです。
「エルシャ、雪が降っているのね」
声に力がありません。おばあ様には、わたしが遭難しかけたことは内緒にしてあります。心配は身体に毒なのです。
「はい。おばあ様、初雪ですよ。わたし、こんなに積もった雪を見たのは初めてです」
「ふふ。雪像作りやソリ遊び、冬のお楽しみもたくさんあるのよ」
「それは楽しみです」
「奥様、身体にいい飴をエルシャ様と作ったんです。咳にも効きますから、舐めてみませんか?」
「あら、素敵ね。もらうわ」
おばあ様の枕元に、ガラスのケースに入れた初雪ニンジン飴をコトリと置いて、ひとつを取り出して手渡しました。
「ありがとう……あら、これ……もしかして、初雪ニンジンの飴?」
においを嗅いでおばあ様が言いました。
「わかりますか? 食べやすいように、工夫したんですけど……」
「ずいぶん前に食べた時はすごい味で……。吐き出してしまったわ。でも、この飴は優しい味がするわね」
「本当ですか? 良かった! たくさん作りました。いっぱい舐めて、元気になって下さい」
「ありがとうエルシャ、ソフィア。私は幸せ者ね……。ああ、なんだか、ポカポカしてきたわ。よく眠れそう」
「奥様、少しお休みになりますか?」
「ええ、起きたらまた舐めるわ。虫歯にならないように気をつけないとね」
おばあ様は宣言通りたくさん飴を舐めて、二日後の朝には熱が下がり、咳もだんだんと治まりました。
まだまだ寒い日が続きます。わたしもニンジン飴を舐めて、風邪を引かないように気をつけて過ごします。
読んで頂き、ありがとうございます。
感想のお返事が滞ってしまって申し訳ないです。現在、少々差し迫っておりまして笑 作者いっぱいいっぱいです泣
あと少し……あと少しなんです! 頑張ります!
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コレ、オワッタラ、オレ……スコシ、ノンビリシタイ……




