表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/45

第33話 その頃、グリーンウッド邸では

さあ、お待ちかねの『その頃……グリーンウッド邸では』です笑

胸糞悪くなったらごめんなさい。苦手な方はスキップして下さい。




 エドワード・グリーンウッドは、執務室にいた。


 重厚なマホガニーの机の上には、度数の高いウイスキーの瓶とグラスが置いてある。三ヶ月前まではこの机で、書類仕事に追われていた。

 喉を焼くだけの、琥珀色の液体を煽る。


 キャサリンがごっそりと家財や宝石を持って姿を消した。おそらく不貞相手の下男と逃げたのだろう。

 そういう女だ。

 その間、置き去りにされたエミリーは、使用人たちに今まで威張りくさっていたツケを払わされていた。この家の使用人はつくづく程度が低い。


 エドワードは、キャサリンにもエミリーにも、カケラほどの興味もなかったので捨て置いた。


 ところがキャサリンは、金を使い果たして一ヶ月もしないうちに、恥ずかしげもなく戻って来た。

 戻るなりエミリーを虐めていた使用人を、酷く折檻して追い出した。自分が娘を捨てて逃げたことは頭にない様だ。


 どこまで自分勝手なのかと呆れるが、ある意味羨ましいほどの浅はかさだ。

 娘を助けた良い母親のつもりらしい。当のエミリーは母親を拒絶し、侮蔑と憎しみの目を向けているというのに。


 エドワードは、あれとよく似た目を知っている。


 あの晩……警ら隊に保護されたエルシャは冷え切った目をして、エドワードを“あの人”と呼んだ。

 エルシャのことは、あとは捨てるだけの手札だと思っていた。


 それなのに、全てをひっくり返して、翼もないのに飛んで逃げた。


 エドワードの手のひらは、小さく震えている。酒のせいなのか、それとも何も掴むべきものは思い当たらないからなのか。


「おれは、なにを……」


 その先は口にせずに、何とか呑み込んだ。


 何を言おうとしたのだろう? 名前すら呼んだことのない娘に憎まれたから、何だというのだ?

 後悔など、するわけがない。自分がみじめだなどと、認めるわけにはいかない。


 新しい使用人は見つからなかった。評判が悪い上に暴力を振るう平民上がりの女主人がいる家に、勤めたい人間などいないのだ。


 屋敷はみるみるうちに荒れていく。

 エドワードは、薄闇の中で乾いた喉を鳴らした。全てを手に入れるのは、間近だったはずなのに。


「なにが……」


 何が、残っているのだろうか。


 自分の手の中に、残っているものは、あまりに見窄みすぼらしくて……。


 エドワードはまた、グラスを煽った。他にするべきことも、行くべき場所も、ひとつも思い浮かばなかった。


   * * *

   

 キャサリン・グリーンウッドは鏡の前にいた。


 何もかもが面倒になり、若い愛人と王都から逃げ出した。久しぶりの独身の気分は悪くなかった。


 歓楽街を転々としながら、どこかで一山当てて、悠々自適に暮らそうと思っていた。そこで、もっといい男をつかまえるつもりだった。


 育ちの悪い愛人も、落ち目の夫も、足手まといの娘も、もういらない。


 自分は元々、品の良い貴族の婦人服などより、派手な化粧と露出の多いドレスが似合う女なのだ。


「ふふん。十五はサバを読めるわね。あたしの美貌なら、裏の世界の親分でもモノに出来るわ!」


 ところがある朝起きると、荷物と愛人が消えていた。目論見がガラガラと崩れて落ちた。

 しばらく残っていた宝石を売りながら酒場でカモを探したが、あまり成果は上がらなかった。


 仕方なく、身動きが取れるうちにとグリーンウッド邸へ戻った。ところが屋敷も夫も、見る影もなく落ちぶれていた。しかも、誰にも歓迎されない。


 娘までもが、暗い目をして自分を見ている。


「何なの? せっかく帰って来てやったのに」


 ふと鏡を見ると、年をとった中年の女が映っていた。


「やだっ、どうして……?」


 厚い化粧と不規則な生活は、下り坂の身体には致命的だった。

 荒れて弛んだ頬、目尻の深い皺、色の悪い唇。不摂生で身体の線も崩れている。


 へなへなと鏡の前に座り込む。

 少女の頃から、顔と身体だけを武器にのし上がって来たのだ。他に誇れるものなど、何もない。


「諦めないわ! まだ間に合うはず!」


 キャサリン薄暗い化粧台の前で、いつまでも悪足掻きを続けた。


   * * *

   

 エミリー・グリーンウッドは自室の勉強机の前に座っていた。


 学校に居場所はない。母親は自分を置き去りにしてどこかへ行ってしまった。部屋を出れば、使用人に嫌な顔をされる。わざとぶつかって来ることもあるし、食事を用意されないこともある。


 あの頃の、エルシャのようだ。


 違う……。エルシャは、もっと酷かった。何もかも取り上げられて、暴力を振るわれていた。

 あの仕打ちのひとつひとつに、頭を抱えたくなる。


 許されないことだ。それだけはわかる。

 しばらくして、母親が帰って来た。何事もなかったかのように猫なで声で擦り寄って来た。

 気持ち悪くて寒気がした。母親が得体の知れない生き物のように思えた。


 踏みつける側は、大したことだとは思わないのだ。自分が“踏みつけられる側”になって、はじめて気がついた。


『私はエルシャに許されるべきじゃない』


 なぜなら、自分は許せないから。

 自分を捨てて逃げた母親も、声すらかけて来ない義父も。


 教科書を開く。今まで興味もなかった数字を並べ、単語の書き取りをする。

 母親のようにはなりたくない。今はそれだけだった。

 カーテンの隙間から、薄陽が差し込む。エミリーは、一心不乱に教科書を読んだ。


『せめて、エルシャと関わらないように生きよう。きっと、私の顔も見たくないだろうから』


 ページの文字が、少しだけ滲んで見えた。エミリーは袖でそっと目元を拭った。




読んで頂きありがとうございます。作者は読むのはざまぁ大好きなんですが、書くのは苦手です。小心者なので笑

まぁ、でも、これで終わりじゃないんで(意味深)

スッキリした人もしない人も、☆での評価や電子書籍をポチッとよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
再開ありがとうございます(^^) エミリーが自分の行いに気付けたのが、せめてもの救いですね(TT) 父親が終わり過ぎてて唖然⋯ 自分の子を害してまで爵位が欲しかったとか。 昔も土地目的で親が子供の結婚…
エドワードとキャサリンはもう救いようがないな。けどエミリーはまだ子供で早いうちに気付けたからまだ、まともになれる機会がありそう。
更新お疲れ様です。 確かに、胸糞悪い描写かもしれません。 しかし、グリーンウッド家のその後に興味津々な私にとって最高のお話でした。 なろうでもざまぁされた後の事は一行二行サラッと流して終わることが多い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ