表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/45

第31話 ドアマット幼女と二度目の走馬灯

 皆さま、こんにちは。


 いえ……こんばんは、でしょうか? ちょっと自信がありません。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 わたしはどうやら、二度目の走馬灯を見ているようです。


 急な斜面を転がり落ちて、ヘンリーと(はぐ)れてしまったのです。足を挫いてしまい、いくらヘンリーを呼んでも声は届かず、『もう、無理だもの……』なんて呟いてしまいました。


 寒さに負けて、襲ってきた眠気に抗うこともせずに目を閉じてしまいました。


 でも、その時……。


 あの日の屋根裏部屋と同じように、見たことのない光景が頭の中に溢れたのです。


   * * *


 それは、見渡す限りの大森林でした。この辺境の森よりも、ずっとずっと深い森の中です。


 厳しくも息づく命の気配に満ちた、濃い緑の世界です。


 そして寒い雪の夜も、雨上がりの朝も、蒸し暑い昼下がりも、いつも一緒に犬たちがいました。


 記憶の主はショーンという名の少年でした。森に捨てられ、犬たちに育てられた子供です。人間の村で暮らした日々もあったけれど、それは幸せとは言えませんでした。


 森での暮らしは過酷でしたが、ショーンは犬と共に森を駆け、寒い夜には毛皮のぬくもりに包まれて眠り、吠え声や尻尾の合図で気持ちを伝え合いました。


 ショーンは、犬と会話と呼べるほどのコミュニケーション能力を持っていたのです。


 群れには強い絆と慈しみがあり、ショーンの胸には“家族”の灯火(ともしび)が、灯っていました。灯火と絆が可能にした奇跡かも知れません。


 その灯火(ともしび)が……今、わたしの胸に、そっと(とも)りました。


 走馬灯が、なぜこの記憶を選んだのか、わかります。

『生きろ』と……『諦めるな』と、そう言っているのだと思います。


 わたしの中の灯火は、逞しく森で生きたショーンの強さであり、彼を愛した犬たちの優しさです。


「諦めません。わたしも……!」


 出来る。きっと出来る。今のわたしなら川の流れの音なんかに負けない、ヘンリーを呼ぶ“遠吠え”が、出来る!


 わたしは立ち上がり、天を仰ぎました。


「アォーーーーーン!」“ヘンリー!”


「アォーーーーーン!」“わたしは、ここにいる!”


 初めてにしては上出来です。わたしの遠吠えは、山にこだまして空へと吸い込まれてゆきました。


「アォーーーーーン」“エルシャ、ちゃーん!”


「アォーーーーーン」“今、行くから、そこで待っていて!”


 しばらくして、ヘンリーの返事が聞こえました。ちゃんと通じました! ヘンリーの遠吠えの意味もわかります。


 やがて、ヘンリーが土煙を上げて斜面を駆け下りて来ました。


「わふっ!」


「えっ、急にいなくなるから、心配した? ごめんなさい……」


 ヘンリーがわたしの捻った方の足を、そっと鼻先でつつきました。


「クゥーン」


「そう、落ちた時、ちょっと捻っちゃったの。痛いけど、大丈夫」


 心配してくれる、ヘンリーの心まで伝わって来ます。ショーンの能力、すごいです!


「初雪草も採ったし、もう帰りましょうか。また乗せてくれますか?」


「わふっ、わふっ!」


「えっ、ヘンリーも採ったんですか? マフラーの中? あっ、ホントだ! すごいです!」


「わふん」


 ふふ! 照れてますね。でも得意そうに尻尾が揺れています。


「クゥーン、クゥーン」


「うん、おばあ様に食べてもらおうね。ああ……おじい様のこと?」


 ヘンリーは、おじい様が命を使って自分を助けてくれたことを、ちゃんとわかっていたのですね。尻尾が垂れて、しょぼんとしています。

 そして、おばあ様をひとりにしてしまったことで、心を痛めている。ヘンリーは優しくて、繊細な心を持っています。


「おばあ様は怒っていませんよ。ヘンリーのことを、あんなに可愛がっているでしょう?」


「わふーん……」


 ほらほら、尻尾を立てて! さあ、帰りましょう!


 ヘンリーの背中に跨がり、マフラーをギュッと固く結びます。ヘンリーの毛皮はゴワゴワですが、手を差し入れると奥にモコモコの毛がみっちりと生えています。


「ヘンリーは、あったかいですね」


 すっかり冷たくなったほっぺたが、ヘンリーの温もりでジンジンと痛痒くなってきました。


 ふと見上げると、白いものが舞っていました。


「雪虫……?」


 違います。本物の雪です。今年最初の雪が、ハラハラと静かに舞い落ちて来ます。


「降って来ちゃったね。初雪草、見つかった後で良かった」


 ヘンリーと合流する前に降ってきたら、わたしは凍えてしまった……。走馬灯があのタイミングで回ったのは、きっと偶然ではないのでしょう。


 ヘンリーが力強く、森を駆けてゆきます。たぶん、わたしは今、ショーンと同じ景色を見ています。


 雪が森を白く染める頃、わたしとヘンリーは、牧場へと帰りつきました。





読んで頂きありがとうございます。

ホッとひと息ついて頂けましたか? エルシャ、パワーアップして牧場へと帰ります。

ですが、牧場でエルシャを待ち受けていたのは……?!


エルシャが無事で良かったー! とか、続きが気になるー! という方は、☆やブクマで応援よろしくお願いしますね。あなたの1ポイントが作者の燃料です!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 今回の走馬灯でみた記憶は、陽だまり版と違う物語のキャラのものなんでしょうか。それとも……色々気になりますね。  ヘンリー(犬)とのコミュニケーション手段を得て、雪が本降りになるまえに救援を呼べたエル…
新しい登場人物が!ショーン君気になります。 今更ですが、エルシャはものすごい能力持ちなのでは!?
思い...出した! 某救世主のような前世持ちではありませんが、絶体絶命のピンチに幼い心と体が必死に生き延びようと、再び走馬灯さんにアクセスしたのでしょうか。 ショーン君の記憶で、犬語を話せるようにな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ