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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第30話 ドアマット幼女の遭難

「わ、わ、痛っ、あ、」


 どんどん転がります。ヘンリーを呼ばないとと思っても、転がっているので大きな声が出せません。


 小枝が頬を掠めます。コートが引っかかってビリっと破れてしまいました。背中に当たる石が痛いです。


 最後にまたふっと身体が浮いて、段差を落ちて、ようやく止まりました。


「いたっ、痛たたた、痛っ」


 身体中が痛いです。足首と手首を捻ってしまったようで、動かすとズキズキと鋭い痛みが走ります。


「あっ、でも、初雪ニンジンは握っていますね。良かった……!」


 肩掛けカバンも無事でした。少し離れた場所に転がっています。


「たくさん転がってしまいました……」


 見上げても、元いた場所が見えません。後ろには、大きな川が流れています。


「川に落ちなくて、良かった……!」


 ゴウゴウと音を立てて流れる急流です。この寒さで川に落ちて流されてしまったら、助かる気がしません。


 痛む方の足を使わないようにして肩掛けカバンを拾い、初雪草の地下茎を仕舞ってから背負います。


「植物図鑑は、見当たりませんね……。帽子も落としてしまいました」


 ヘンリーは、まだ穴を掘っているのでしょうか?


「ヘンリー、ヘンリー! こっち、こっちです! ヘンリー!」


 何度呼んでも、『わふっ!』って返事が返って来ません。ヘンリーは耳も良いはずなのに。


「どうしましょう……」


 しばらく休んでみましたが、足の痛みは良くなりません。むしろ、だんだんと腫れて、痛みが増しているように感じます。


「この急斜面を登るなんて、無理です……」


 そもそもヘンリーは、まだこの斜面の上にいるのでしょうか。わたしが見当たらなくなって、探しに行ったり、帰ってしまったりしたら……。


 今いる場所がどこなのか、どちらの方向に牧場があるのか。わたしは、まるでわかっていないのです。


「どうしたら……」


 不安が押し寄せて来ます。ただ、『斜面を転がり落ちてしまった』だけと思っていましたが、事態はもっと深刻なのかも知れません。


 落ち着いて、落ちついて……!

 こういう時は上手くいくパターンを、一番から順番に考えてみると良いらしいです。ピートくんが言ってました。


 一番良いのは、ヘンリーがわたしの声に気づいてくれることです。川の流れる音に負けずに、ヘンリーにわたしの声を届けることです。


 次は歩けるようになることでしょうか? 足が痛くなければ、この斜面を登れるでしょうか?


「とりあえず、冷やしてみましょう」


 患部を冷やして固定するのが効果的だと、走馬灯の知識にもありました。


 肩掛けカバンからハンカチを取り出し、川の水で濡らして、痛む箇所を包んでみました。ひんやりとして気持ちいいです。熱を持って腫れています。


 あとは……。遭難したら動かない方が良いらしいです。まあ、足が痛くて、動けないんですけどね……。


「ヘンリー! ヘンリー! わたしはここです! ヘンリー!」


 ハンカチが(ぬる)くなったら、川の水ですすぎ、また足首を包みます。そして、ヘンリーを呼びます。


 ピートくん……。あとは、どうしたら良いんでしょう?



   * * *



 どのくらい時間が過ぎたのでしょう。だんだんと、気力が萎えてゆきます。


 ヘンリーはもう、穴を掘るのに飽きて、牧場に帰ってしまったのかも知れませんね。


「へん、りー……」


 喉が枯れて、声が出なくなって来ました。こんなのはあの夜(・・・)以来です。


「ふふ。あの時、ダグラスさんがくれたはちみつ飴、甘くて美味しかったなぁ……」


 日が翳って寒さが増して来ました。夕暮れが近いのかも知れません。


 体力が尽きたのか、眠くなって来ました。幼女は燃費が悪くて困りますね……。歯がガチガチと鳴っているのも、どこか他人事のように感じます。


「こんなところで、寝たら、ダメなのに……」


 瞼が重いです。もう、全部投げ出して、眠ってしまいたい。


 だってもう、無理だもの……。



 川の音が、だんだん遠くなってゆきます。さっきまであんなにうるさかったのに……。不思議ですね。


 風の音も、小鳥の声も、聞こえません。


 代わりに、雪が降る前の、あのしんとした静けさが辺りを包んでいます。


 寒いのも、痛いのも、もうよくわかりません。身体の感覚が薄れていくのが、少しだけ怖いです。


 ダグラスさん……。


 呼んだつもりなのに、声が出ていないみたいです。喉の奥から、空気だけが漏れました。


 白い光が、ふわりと浮かんで、目の前で消えました。しばらくすると、また浮かんで、消える。ホタルでしょうか?


 でも変です。ホタルが飛ぶのは夏のはじめの頃です。他にも、光る虫がいるのでしょうか?


 追いかけようとして、手を伸ばしたのに――。


 あれ……? 手が、動きません。


 今度は視界の端で、光がちらちらと瞬きました。まぶしい光が、どんどん広がってゆきます。まるで、夢の扉が開くみたいに。


 この光景は見たことがあります。



 ああ、また……。


 走馬灯が……、回るのですね……。






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― 新着の感想 ―
 ヘンリー(犬)でも駆けつけられるか怪しい急斜面を転がっても、初雪草を手離さない辺りから家族治療への本気度が伝わります。  ピートくんやダグラスさんとの繋がりに想いを馳せながら、窮地に向かうエルシャち…
助かると信じています!
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