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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第29話 ドアマット幼女と初雪草

 ヘンリーの背中は、思っていたように楽ではありませんでした。乗馬のように鞍がないので、首にしがみつくしかないのです。


 握力と腕の力が試されています。もう、必死です。こんなことなら、日々鍛えておけば良かった……。ああでも、ドアマット生活では、余計な体力を使う余裕はなかったですね。


 あと、たぶんヘンリーは軽く流している程度です。全然、本気で走っていない。


 それでも景色は飛ぶように後ろに流れてゆきます。汽車の窓から景色を眺めた時より速い。風を切る音が耳元でするのが、走馬灯の中の“じぇっとこーすたぁ”のようです。


 ハァハァという荒い息遣いが聞こえます。躍動する筋肉の動きが直に伝わって来ます。その力強さに、感動すら覚えます。


 森を駆けるヘンリーは素晴らしく頼もしく、自分の貧弱さが情けないです。


 あ、握力が……限界です!


「ヘンリー、ヘンリー! ちょっと止まって下さい。ヘンリー……!」


 三度、名前を呼んだら、ようやく止まってくれました。走り出した時も急発進でしたが、止まる時も急停止です。もう少し、手加減して欲しいです……。


 ヘンリーの背中から降りて、腕と手をぶらぶらと振ります。……ガクガクします。


「これが、“手が笑う”という状態ですかね……。上手いこと言いますね……」


 独り言を口にすると、ヘンリーが「わふっ!」と答えてくれました。律儀です……。


 本格的な冬を目前にして、森はしん、と静まり返っています。葉を落とした森の木々の間を、冷たい風が吹き抜けてゆきます。乾燥で、頬がピリピリします。


「ヘンリー、寒いですね」


「わふっ!」


 ヘンリーは寒くないと思います。もふもふですから。でも、良い返事をくれます。なごみます。


 牧場では、わたしとヘンリーがいなくなって、心配しているでしょうか。書斎の置き手紙に、すぐに気づいてくれると良いのですが。


 息が白く煙のようです。ふと思い立って、警ら隊のジョンソンさんの真似をしてみました。ジョンソンさんは、タバコの煙で輪っかを作れるのです。ポポポポと、頬を叩くと小さな輪っかを、口を開けると大きな輪っかを作れます。


 ……出来ませんでした。


 気を取り直して、先に進みましょう。


 天気は悪くないです。雲は厚いですが、時折り日差しも見えます。これなら、初雪に先を越されないですみそうです。


「ちょっと失礼しますね」


 マフラーを外して、ヘンリーの肩に斜めがけにして結んでみました。赤ちゃんに使う、おんぶ紐の要領です。


「よいしょ、よいしょ」


 ヘンリーとマフラーの間に、身体を入れて、結び目をもうひとつ作り、ギューっと結びます。これで少しは、楽になるでしょうか?


「ヘンリー、苦しくないですか?」


「わふっ!」


「じゃあ、お願いします。お山まで、このまま行きましょう!」


「わふっ!」


 また急発進です! でもマフラーおんぶ紐、いい感じです。長く編んでもらってよかったです! ちなみにボンボンはわたしが作りました。


 おんぶ紐のおかげで、周囲を眺める余裕が出来ました。空を見上げると、鳥の群れが矢印のような形を作って飛んでいます。あれが“渡り鳥”でしょうか。暖かい地方へと、長い旅をするそうです。


 あ、リスさんです! 尻尾がふわふわです! 確か、リスさんは冬眠しない動物です。動物図鑑に載っていました。


 あー、もう見えなくなっちゃいました。ヘンリー、速いです……。


 ヘンリーはしっかりとお山を目指して走ってくれています。小川も倒れた大木も、軽々と飛び越します。ヘンリーがジャンプすると、身体が浮き上がって、お尻がヒュンってなりますね。未知の感覚です。


 地面がだんだんと上り坂になって、木がまばらになりました。露出した岩が目立ちはじめて、景色が少しずつ変わってゆきます。


「森を抜けたんですね。ヘンリー、ちょっと止まってもらえますか?」


 今度は降りずに、ヘンリーの背中で植物図鑑を広げます。


「えっと、“下草のない乾燥した土を好み……”でしたよね。まだ初雪は降っていないから、葉っぱや茎は枯れていないはずです」


 葉っぱは菱形で縁がギザギザしてます。手のひらみたいに五枚セットで茎の先っぽに茂っていますね。薄くて、艶のない葉っぱです。葉脈がくっきりと見えます。


「よし、覚えましたよ。行きましょうか」


 少しスピードを落としてもらって、周囲を見渡しながら進みます。ヘンリーも地面の臭いを嗅いだり、茂みに鼻先を突っ込んだりして楽しそうです。


 しばらく行くと、開けた場所に出ました。下草があまりなく、ゴロゴロと石ころが転がっています。


「ヘンリー、降ろして下さい」


 おんぶ紐から抜け出して、地面に降り立ちます。ヘンリーから離れると、途端に寒いです。


「ちょっと見て来ますね」


 ところどころに群生している植物を、ひとつひとつ確認します。ざんねん、ここにはありません。


 ヘンリーと連れ立って、それらしい場所を歩きながら探します。


 そうして、見つからないことで、少し焦りはじめた頃、初雪草の群生地を見つけたのです!


「ヘンリー! ありました! これです! 初雪草です」


 ギザギザの葉っぱです! 手のひらみたいに五枚、薄くて艶のない葉っぱ……。間違いありません!


「掘りますね……!」


 肩掛けカバンからシャベルを取り出し、慎重に掘ってゆきます。ヘンリーがわたしの真似をして、近くの地面を掘りはじめました。


「ヘンリー、そこには何も……。いいえ、楽しいならいいです。良かったですね」


 慎重に掘り進めると、薄いオレンジ色の地下茎が見えて来ました。図鑑と同じです! 初雪草の地下茎は、ニンジンに似ていることから、『初雪ニンジン』と呼ばれるそうです。


 辺りを見回すと、まだ四〜五箇所に同じ葉っぱがあります。


「確か野生の植物は、全部採ってはいけないんですよね? あとひとつくらいは良いでしょうか?」


 振り返ってヘンリーに言ったのですが、ヘンリーは夢中で穴を掘っています。あまりに楽しそうなので、笑ってしまいました。


 植物図鑑と初雪草の地下茎を、茂みの上に置いていた肩掛けカバンに仕舞おうと、手を伸ばしました。


 すると、肩掛けカバンはスルリと滑り落ちたのです。


「あっ……」


 落ちちゃう。わたしの宝物の、肩掛けカバン。ダグラスさんが、買ってくれた……。


 滑り落ちた肩掛けカバンを、追いかけたわたしの身体がふわりと浮き上がって、お尻がヒュンっとなりました。


 ヘンリーがジャンプした時と、同じです。


「あれ……?」


 茂みの向こう側は、急な斜面だったのです。わたしの足は地面を踏みしめることはなくバランスを崩し、斜面をゴロゴロと転がり落ちてしまいました。


 枝が頬を掠め、冷たい地面で何度も身体が跳ねました。


 空がぐるぐると回り、どちらが上か下かもわかりません。


 た、助けて、ヘンリー!



読んで頂きありがとうございます。


緊迫した場面であとがき書くの、むずいです笑

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― 新着の感想 ―
 せっかくヘンリー(犬)が目的地まで送り、雪が降る前に治療用の植物が見つかったのにジェットコースターより危険そうなトラブル到来ですか。凍死前に帰られるかどうか……どきどきします。
幼女を乗せて走る黒ハスキー。メルヘンよー!って思ってたら、ピンチだわ。
助けて、ハリー!
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