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電書第2巻 2/25コミックシーモア配信《連載再開しました》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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第28話 ドアマット幼女とおばあ様の咳

 皆さま、こんにちは。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 昨日の夕方から、おばあ様の具合が良くありません。熱がありますし、咳が止まらなくて苦しそうです。


 お医者様によると風邪だということですが、おばあ様は体力が落ちているのです。このまま弱ってしまう可能性があると言われました。


「あ、あの、なにか、わたしに出来ることは……!」


 玄関を出て行こうとするお医者様を、呼び止めて聞きました。


「小まめに水分補給を。あとは、無理に食べさせようとしないこと」


「はい」


「そばに居たいのはわかるが、奥様は繊細な方だから。部屋を暗くしてゆっくり休ませてあげなさい」


「……はい」


「君も少し休みなさい。顔色が良くない」


 おばあ様の部屋に行くの止められてしまったので、キッチンへと向かいます。


「ソフィアさん、咳には大根飴が良いのです。大根をハチミツで漬けて、その上澄みを飲むの。あと、生姜……ジンジャーは喉にも良いし、解熱の作用もあります。花梨……ローズウッドの実を砂糖漬けにしたもの、くだものなら、梨やリンゴを……!」


 全て走馬灯の知識です。民間療法の情報はとても豊富にありました。


「……わかりました。ダイコンというの存じませんが、他は私が責任を持って、全部用意しますから……。お嬢様は少しお休み下さい」


 ソフィアさんがわたしの額に手を当てました。先に『失礼ですがしますね』と声をかけてからです。以前、ふとした仕草に反応してしまって以来、気を使わせてしまっています。


「お熱はないですね。お嬢様まで具合が悪くなってしまったら、奥様が悲しみますよ」


 ソフィアさんにも、お医者様と同じようなことを言われてしまいました。仕方なしにトボトボと部屋へと戻ります。ヘンリーが静かについて来ました。


 わたしの部屋は、『陽だまりのエルシャ』の挿絵の部屋です。挿絵と違うのは、おじい様の手作りのテーブルと椅子のセットがないこと、おばあ様の手作りのクッションが少ないこと、カーテンが違うこと……。どれも、わたしが早くこの家に来たことが原因です。


 ベッドに腰掛けて、植物図鑑を開きます。走馬灯の知識と、図鑑の内容をすり合わせます。


母子草(ハハコグサ)は、この辺りには生えないみたいですね……。大葉子(オオバコ)はある! あ、でも春の草です……。あとは……」


 ヘンリーがわたしの足元で横になりました。寒くなり、いっそうモコモコです。


「ヘンリー、どうしよう。おばあ様に何かあったら、わたし……」


 元々辺境に来る前から、おばあ様の具合が悪いのは知っていました。ソフィアさんたちはお医者様からやんわりと、お覚悟を……と仄めかされてもいる様子です。


 けれど、わたしはやっぱり分かっていなかったのです。おばあ様の病気と、おばあ様がいなくなることは、別物だと思っていた。


 母様が亡くなった時……。わたしは今よりずいぶんと子供でした。目の前から母様がいなくなっても、何処か他のところにいるような気でいました。


 でも、母様は、どこにもいませんでした。もう、二度と会えないのです。


 おばあ様もいなくなってしまう。おじい様もいない。


「ヘンリー、わたし……どうしたら良いんでしょう……」


 走馬灯の知識に『寄る辺ない』という言葉がありました。河を船で下っていて、岸辺に船を寄せたいのに、その場所が見つけられない……そんな様子が、今のわたしのようです。


「わたし、自分のことばかりですね……。おばあ様を心配しているんじゃなくて、おばあ様に置いて行かれる、自分を心配している……」


 ヘンリーが鼻先をわたしに押し付けて、クゥーンと鳴きました。甘えているのでしょうか。それとも、励ましてくれているのでしょうか。


 もう一度、植物図鑑を開きます。


 苦しそうなおばあ様に、少しでも楽になってもらいたい。その気持ちも、本当なのです。


「初雪草……。やっぱりこれが欲しいです」


 ベックさんが村へ行って、ベテランの狩人さんに依頼を出してくれました。ですが依頼が立て込んでいて、すぐに山に入ってはもらえなかったのです。もう、雪虫は飛んでしまったのに。


 初雪草の項目は、もう何度も読みました。そらんじて、言えるほどです。


『雪が降ると地下茎以外は枯れてしまうため見つからなくなる。そのため、『初雪までに見つけろ』という意味で“初雪草”と呼ばれるようになった』


 窓を開けて空を見上げると、分厚い雲が垂れ込めています。空気もキンと冷えて、吐く息が真っ白です。もう、いつ雪が降って来てもおかしくないように思えます。


「ヘンリー、お山へ、行ってみようか」


 ヘンリーが顔を上げて、「わふっ」と吠えました。


「乗せて行ってくれる?」


「わふっ」


 ヘンリーは、わたしが声をかけると、必ず「わふっ」と吠えてくれます。でもその時の「わふっ」は、“任しとけ!”とか“もちろんだ!”と、わたしには聞こえたのです。


 だってそのあとヘンリーは、“さあ、乗って!”とでも言うように、わたしに背中を向けて伏せたのです。


 わたしは急いで準備をしました。


 コートにマフラー、手袋、毛糸の帽子。肩掛けカバンには植物図鑑、地下茎を掘るための小さなシャベル。


 準備万端です。わたしは伏せてくれているヘンリーの背中に跨りました。


「行こう! ヘンリー! 初雪草を、探しに行こう!」


「わふっ!」


 ヘンリーの勇ましい声に励まされて、わたしは牧場を飛び出しました。




読んで頂きありがとうございます。

電子書籍『屋根裏のエルシャ第2巻』(本作の電書版タイトル)の表紙絵が仕上がりました。タレ目のエルシャとヘンリーが可愛らしいです。表紙絵は作者のXで公開していますので、良かったら覗いてみて下さい。透明感のある雀葵蘭先生のイラスト、素晴らしいですよ!




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― 新着の感想 ―
新しい章に入った感じがすごくしました。 おばあさまを心配するエルシャの様子が細かく表現されていて素敵です。おばあさまの心配ではなくおばあさまを失うことが怖い自分の心配をしていると語ったところにほろっと…
 回復のための初雪草を無事見つけられるのか、はたまた遭難さわぎになってしまうのか、ドキドキする展開ですね。
偶然初雪草見つけてお婆さんが元気になりますように。これ以上エルシャが何も奪われませんように。 ご都合主義上等、むしろリアリティーなんていらん。
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