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電書12/25コミックシーモア配信開始《連載版》ドアマット幼女は屋根裏部屋から虐待を叫ぶ  作者: はなまる


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15/24

第13話 ドアマット幼女と蒸気船の旅 その壱

《お知らせ》活動報告でもお知らせしましたが、累計100万PV突破、ブクマ10,000件突破、感想100件到達記念として、『謝恩SSゲリラ投稿』をやっちゃいます。第一弾は今週の金〜日のどこかで! ぜひ覗きに来て下さいね!



 皆さま、おはようございます。


 エルシャ・グリーンウッド六歳です。


 港へ向かう乗り合い馬車の端っこ席で、あくびをかみ殺している幼女です。昨夜は旅の興奮からか、よく寝られなかったのです。


 汽車の中でたくさん居眠りをしてしまったせいかも知れません。何度も目が覚めてしまいました。


 とても……怖い夢を見た気もします。


 目が覚めるたびに、隣のベッドで寝ているダグラスさんの少し生えた無精ヒゲを、こっそりジョリジョリしました。不思議と安心するのです。


 早く元のヒゲモジャラに戻るようにお祈りしたのに、朝起きたら剃ってしまっていてショックでした。しょんぼりです。


「エルシャ、海が見えたぞ」


 ダグラスさんの言葉で目が覚めました。そして思わずガタンと勢いよく立ち上がってしまいました。海を見るのは初めてなのです。


「ほら、あっちだ」


 ああっ! 見えました。青いです!


 立ち並ぶ家々の三角屋根の向こう側に、キラキラと光る水平線が見えます!


「良かったな! 嬢ちゃん!」

「もうすぐ桟橋も見えるぞ!」


 周りの乗客の方が、声をかけてくれました。なんだか恥ずかしいです。『はい、ありがとうございます……』と小さく言って、そうっと座席に腰を下ろしました。


 ダグラスさんの口がもにょもにょして、肩が少し揺れています。もしかして、笑いをこらえているのでしょうか。


 確かに淑女としては不用意な行動でしたが、わたしの背丈では、座ったままだと見えなかったのです。


 やがて桟橋が見えて来ると、その手前で馬車が止まりました。乗客の降り支度(おりじたく)がはじまります。


「船旅かい? お天気が続くと良いな!」

「良い旅を!」


 先ほどの方が、また声をかけてくれました。忙しそうに馬車を降りてゆきます。


「俺たちも行こう」


 ダグラスさんに促されて、わたしも馬車を降りました。



「わぁ……!」


 視界いっぱいに広がる景色に圧倒されます。海は広いです。大きいです!


 こんなにもたくさんの水が集まってしまって、大丈夫なのでしょうか。『他で足りなくなってしまうのでは?』と心配になります。


 そのことをダグラスさんに伝えたら、今度はハハッと声に出して笑いました。我慢するのやめたんですかね。良いですけど。


 桟橋に寄せる波や水平線にかかる雲、ミャーミャーと鳴く海鳥を眺めます。開放感がすごいです!


 ほんの半月と少し前。わたしはグリーンウッド邸で、気配を殺して生活していました。なるべく後妻やその娘の目に止まらないように、呼吸の回数すら最低限にと背中を丸めて過ごしていたのです。


 それがどうでしょう! わたしは今、海にいるのです。


 思い切り背伸びをして、大きく両手を広げます。胸いっぱいに息を吸い込みます。いっそ、大声で叫びたい気持ちです。


 何と叫びましょうか! やっぱり『後妻くそババア』ですかね!


 わたしの淑女らしくない叫びを止めてくれたのは、蒸気船の低い汽笛の音でした。『ボォー』と一回は乗船の合図だそうです。


 振り返るとダグラスさんが懐中時計を取り出して、時間の確認をしていました。そうして自然な動作で、わたしに手を差し出してくれたのです。


 貴族のエスコートではありません。庶民の、手を繋いで歩く時のやり方です。わたしは嬉しくなって、ダグラスさんの手に両手で飛び付きました。


 ダグラスさんはまたハハッと笑って、そのままわたしをビューンと一周回してから、ポンと着地させてくれました。ビューン、ポンですよ。なんて素敵!


 おかげでわたしも、少し落ち着きを取り戻すことが出来ました。興奮し過ぎですよね。


 改めて手を繋いで桟橋へと向かいます。


 あっ! ハドソン先生にもらった、酔い止を飲まないと。約束通り、お薬を飲んでから乗船しますよ!


 わたしたちの乗る蒸気船は、『エヴァンジェリン号』といいます。福音を意味する女性の名前です。『福音』とは、良い知らせのことだそうですよ。


 これは走馬灯の知識ではなく、ダグラスさんが教えてくれました。


 真っ白な船体に青いラインがぐるりと一周していて、三階建ての客室の窓が規則正しく並んでいます。スッキリとした印象の、とても立派な船です。


 この船に乗って辺境の地を訪れるわたしは、祖母にとっての福音となるのでしょうか。物語のことなど言わずにおけば……。ただ祖母を見舞う孫として会いに行けば……。


 迷う時間は、そう長くはありません。船は一路、辺境を目指すのですから。


 エヴァンジェリン号で、わたしたちは二泊します。船の中には宿屋のような宿泊場所があります。雑魚寝の大部屋、簡易の二段ベッドのみの四人部屋、個室、豪華な個室、スペシャルな個室と、ランクによって料金が違います。


 わたしとダグラスさんは、四人部屋で寝起きします。知らない人との同室はちょっと不安ですが、なんせわたしたちは、王都の警ら隊長様御一行なのです。悪い人など、寄って来ませんよね!


 桟橋へと下ろされたタラップを渡ります。手すりが付いているし、二人で渡れる幅があるのですが、グラグラ揺れるのでヒヤッとしました。


 けれどここは自分で歩いて渡りたいのです。いつも抱っこでは格好悪いです。


 乗船したら割り当てられた部屋に向かいます。窓のない殺風景な部屋ですが、二段ベッドにはカーテンが付いているので充分です。


 ベッド脇の金庫に貴重品を入れて、エバンスさんにもらった帽子をかぶって、甲板へと向かいます。途中で『ボォー、ボォー、ボォー』と3回汽笛が鳴りました。3回は出航の合図です。


 甲板にはたくさんの人がいて、手すりにつかまって見送りの人に手を振っていました。


 見送りの中に、馬車で声をかけてくれた人を見つけました。あちらもわたしに気づいたらしく、大きく手を振ってくれます。


 わたしは恥ずかしくて、小さくしか手を振れませんでした。こんなことが恥ずかしいなんて、わたしもまだまだですね。


 船が桟橋を離れます。海鳥たちが飛び立ちます。


 天気は上々、波は穏やか。絶好の航海日和(びより)です。


 ひとしきり大海原を眺めた後は、乗船時にもらった地図を片手に船内探検に出かけますよ! ハドソン先生に、少し運動をするように言われましたしね。まずは甲板を端から端まで歩いてみます。


 縞模様のマドロスシャツを着た船員さんたちが、ダグラスさんの腕よりも太い縄を担いで、忙しそうにしています。あんな太い縄をはじめて見ました。どうやって使うのでしょうね?


 カッチリした白い制服を着たポーターさんが大きなトランクや旅行カバンを持って、品のよい年配のご夫婦を先導しています。仲の良さそうな様子が微笑ましいです。


 メインデッキに出ると、たくさんのパラソルが立ち並んでいました。白いテーブルセットが空の青さに映えますね。


「少し休んで行くか?」


 ダグラスさんが言いました。まだ探検ははじまったばかりなのに。つい、ふふふと笑ってしまいました。


「ダグラスさんは疲れましたか?」


 一応、聞いてみました。警ら隊の皆さんは体力自慢の方ばかり。ダグラスさんはその中でも、頭ひとつ抜けています。だから、一応なのです。


「昨日もその前も、座ってばかりだったからな。しばらく椅子は勘弁だ」


 ダグラスさんの軽口は珍しいですね。これも船旅の開放感ならではでしょうか。


 船室部分の外階段をどんどん登って、一番上へと上がります。


 ですが、その先は立ち入り禁止みたいです。チェーンが階段を封鎖していました。大きな煙突が2本とそれより少し小さな煙突が2本、聳え立っています。


 奥にはブリッジ(操舵室)があり、中に立派なマドロス帽を被った人が見えました。船長さんでしょうか。パイプを咥えていて、とても威厳があります。


 階段をひとつ降りると、3階の豪華客室階です。客室の他には、ビリヤードやカードゲームの卓がある遊戯室や、お酒や葉巻を楽しむラウンジがありました。豪華絢爛、そして大人の雰囲気です。


 そのひとつ下の階の2階は一等客室階。大きなホールがあり、楽団の演奏やマジックショー、気軽な舞踏会などもあるそうです。マジックショーは、ぜひぜひ見てみたいです!


 1階は二等客室階。わたしたちの部屋がある階です。他にはレストランや売店がありました。小さな図書館もあります。


 その下には雑魚寝の大部屋と、たくさんの倉庫があるそうです。ダグラスさんに治安が良くないからと止められてしまいました。これにて船内探検は一旦おしまいです。


 そろそろお昼近くになったので、混まないうちに食事をして、そのあとは部屋に戻ってお昼寝することになりました。幼女はすぐに眠くなってしまうのです。


「ダグラスさん……マジックショー……」


 ベッドに入ると、最後まで言えませんでした。でもきっとダグラスさんはわかってくれる筈です。


 起きたら少しだけおしゃれをして、マジックショーを観に行くのです。




 優しい微睡(まどろみ)の中にいるわたしは、この後の出来事など、まるで知らずにいたのです。


『陽だまりのエルシャ』の物語は、まだはじまっていない。本来のエルシャはまだグリーンウッド邸で、辛い日々を過ごしている時間軸です。


 今回の旅だって、わたしもダグラスさんも、決して遊びに行くわけではないのです。それなのに、すっかり目先の楽しさに夢中になっていました。


 ホールの入り口での出来事は、そんなわたしへの罰だったのかも知れません。




読んで頂きありがとうございます。話が全然進まねぇじゃねぇか!って思ってます? すみません(つД`)ノあと3話くらいでおばあ様の家に到着する予定です。続きが気になる方は、ブクマや☆での評価・応援、よろしくお願いします。『第14話 ドアマット幼女と蒸気船の旅 その弍』は10/20の19:10に投稿します。

ちなみに、ダグラスさん視点です。


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― 新着の感想 ―
 海をみてその大きさや解放感にはしゃぎ、ダグラスや周りの乗客を和ませたり、本来の目的を頭の中に縫いつけつつもマジックショーに関心を寄せるエルシャが微笑ましいです。  ウミネコを連想させる鳥の様を交えつ…
もっとエルシャをしあわせにしてあげてください〜! (´∀`*)ウフフって顔で読んでるので、先生の思うペースで続けてくださいね
おヒゲじょりじょりかわよ。 ダグラスさんをうっかりパパ呼びして欲しい。イヤ、してた。   本作はエリシャ独自の世界観が織り込まれていて、彼女なりの気遣いの仕方や価値観が見えた。 オリジナリティがあって…
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