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【書籍&コミカライズ進行中】わかっていますよ旦那さま。 どうせ「愛する人ができた」と言うんでしょ?  作者: キムラましゅろう


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エピローグ わかってますよ旦那さま

最終話です。

「アイリスが頭を打って様子が変になったっ……!緊急事態だっ!ギルマン、帰宅は許さん!引き続きアイリスの警護を命ずる!」


「………は?」



自身が許可を出したにも関わらず、それを安易に撤回したジェラルミンに向け、ジゼルは低く重たい声を発した。


それを見たアイリスが半ば呆れながらこう言う。


「あちゃーー……虎の尾を踏みよったーー……」



ジゼルは我が耳を疑った。

このシスコン王子は散々任務により拘束した部下を労うどころか更にこき使おうというのか。


クロードがジェラルミンに答える。


「お言葉ですが殿下、私は殿下ご自身に帰宅と五日間の慰労休暇の許可を頂き、騎士団本部でも既に手続きを終えております。よって、今私は既に休暇中の身なのです。交代要員は充分な数を揃えておりますので、ぜひそれらの者たちでご対応頂けますようお願い申し上げます」


クロードのその言葉にジェラルミンが唾を飛ばしながら激高した。


「休暇はならん!許可は却下だ!王家の大事なのだぞっ、休んでる場合ではなかろう!お前たちは我が王家のために生きている臣下ではないかっ!なんのための専属護衛騎士だと心得る!!」


「殿下……」


隣に立つクロードから静かなる怒気を伝わってきたが、ジゼルもまた腹の底から湧き上がる怒りを感じていた。


この王子、他者は自分たち王族に尽くすのが当たり前だと思っているらしい。

騎士にも侍従にも侍女にもそれぞれの人生があり、王家のためにだけに生きているのではないのだ。

仕事だから懸命に仕えているのだ。


──それがわからんこのアホ腐れ王子がぁぁ……


その時、ジゼルの肩をぽんとアイリスが叩いた。

そしてニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ジゼルに囁く。


「ええでジゼル、いてこましたり。後始末はチョチョイとこの場に居る(もん)全員の記憶操作をしたるから今まで溜め込んどった鬱憤を盛大に晴らし。あと、あんたの旦那には認識阻害の魔法をかけとくわ。それやったら、あんたを心配するあまり止めに入るようなこともないやろ?」


それを聞き、ジゼルは目が据わったままアイリスを見る。


「……マジかタロ子、ええんやな?」


「かまへんかまへん♪久しぶりに浪速の花虎(はなこ)の咆哮を見せてや!」


「しゃーないなっ!」


その掛け声と共にジゼルは足を踏み出し、ジェラルミンの前へと進み出た。

突然眼光鋭く真ん前に迫ったクロード=ギルマンの妻に、ジェラルミンは何事かと目を見開きながらジゼルに言い放つ。


「なんだっ?そなたにはもう用はないっ!ええい邪魔だ、さっさと失せろっ!」


居丈高に声を荒らげたジェラルミンだが、ジゼルはそれに臆することもなく落ち着き払った声で言った。


「……ひとつだけ言わせてもらいますわ王子殿下」


「貴様っ!発言を許可した覚えはないぞっ!」


威圧的にジゼルを抑えこもうとしたジェラルミンにアイリスが告げた。


「お兄さまぁ~アタシが許可しましたぁ♡お兄さまの精神を抉っちゃえって♪」


「ア、アイリスっ?」


人形のように可愛らしくペットのように従順であった妹王女からの言葉にジェラルミンは驚きに満ちた顔をした。


「ちゅーわけですわ王子殿下。耳の穴かっぽじってよぉぉく聞いてくださいよ?あなたのイカれた脳ミソでもわかるように言ってあげますんで」


「な、な、なんだとっ!?貴様っ!不敬であるぞっ!無礼者っ!!」


「こっちはたった一分足らずの無礼やんか。それに比べてあんたら王族は生まれた時からずーーーっと無礼じゃボケがっ」


「なっ!?」


「なーなーうるさいねんこの腐れシスコンアホたれ王子がっ!何が王族のために生きてるじゃ、そんなわけあるかいっ!みんなそれぞれお母ちゃんからオギャアと生まれた日から自分のために生きとんねん!そんな当たり前のこともわからんのやったら王子なんて大層な肩書きなんざさっさと捨ててまえアホがっ!!」


「いよっ!!花虎っ!!キャッホーーイ!」


「アイリスっ!?ど、どうしたんだ、愛くるしいお前がそんな奇声を発して……!」


ジゼルの啖呵に大喜びのアイリスを見て、ジェラルミンも他の者も驚愕に満ちた表情を浮かべる。


クロードだけはアイリスの認識阻害の魔法のせいでサンルームに置いてある男性の彫像をジェラルミンだと思い込み、同じくようやく休暇を得た他の仲間のために怒気を孕みながらも根気強く説得をしていた。

なかなかなコントな光景である。


ジゼルは尚もジェラルミンに噛み付いた。


「そのウザいシスコン発言もええ加減にせんかいっ!半分血の繋がった妹の逆ハー要員の一人なんてシャレにならんくらいキモいねんっ!あんたのその歪んだ(へき)のせいでみんな苦労しとるのがわからんのかゴラっ!」


「ウ、ウザっ?……キ、キモっい……?ヘキ?な、なんのことかはわからんがもの凄い悪口を言われているのだけはわかるぞっ……!」


「その上、王家のために休みもなく働けだ?労働の対価は賃金と休暇やっちゅーこともわからんのか。お前がこき使(つこ)ぉとる家来たちにも友人がおって恋人がおって家族がおる。みんなそれを大切にして生きとるんや」


「しかしっ、王家あっての国、国あっての貴様ら国民であろうっ!」


「アホかっ国民あっての国じゃ!国があるから王族はのほほんと間抜けな顔晒して城に住めてるんやろがっ!お前らなんざ飾りじゃ飾りっ!!国民に働いてもらわな何もでけん奴が偉そーに威張り散らしてんとちゃうぞっ!民主主義の国で育ったもんの価値観を舐めんなよこのクソボケがっ!!」


「キャーーっ♡花やん最っ高~~!!」


一気に捲し立て、肩で息をするジゼルにアイリスが抱きついた。


「生まれ変わって良かったぁ!花やんと再会できて良かったぁ!もうほんま花やん最高や!」


「ハァハァ……おおきにタロ子。おかげさんでスッキリしたわ。でもあんたの兄さん諸々ショック受けて真っ白なってるけどええの?」


生まれて初めて他者から罵声を浴びせられ、心を抉られる経験をして固まっているジェラルミンを一瞥して、ジゼルはそう言った。


それに対し、アイリスはあっけらかんとして答える。


平気平気(へーきへーき)!もう今すぐサラッと記憶操作しとくし。これから転移で飛ばしたるからジゼルはもう旦那さんと帰り♪」


「え?言いたいこと言わせてもらった上に自宅までの送りつき?至れり尽くせりやん」


「休暇の件も心配せんでええよ。そこら辺も記憶操作しとくから。今日は最初からジゼルはアホ王子と対面なんかしてへんし、旦那さんはさっさと家に帰っとった。警護は交代要員で充分やし、そもそもウチにはもう警護なんていらんわ」


「せやな。大魔術師様やもんな。ほんまおおきにタロ子」


「礼を言うんわこっちの方や。今日のことがあったからアタシは頭をぶつけて記憶を取り戻せた。そのおかげで姿形は変わっても(中身)でジゼルが花やんやてすぐにわかったしな」


「ふふ。ウチはその“花やん”ですぐにタロ子やとわかったわ」


「あはは♪ほなまたな花やん。落ち着いたらすぐに会いに行くわ」


「うん、楽しみに待ってる」


「その頃にはラージポンポンかもしれんな?」


(ラージポンポン=妊婦さん。昭和の言葉)


「え?魔力の高いもんにそー言われると予言に聞こえる」


「まぁ未来視があるわけやないから、そんな気がして言うただけやけど」


「だといいなぁ。早よエミルに会いたいわ。あ、タロ子ちょっと待って」


「ん?」


ジゼルとクロードを転移させようとしたアイリスにジゼルは待ったをかけた。

そして徐にポケットからあるものを取り出し、そっとアイリスの手の平の上に載せた。


「はい、飴ちゃん」


「……!」


前世ではよく別れ際に飴を渡していた。

そんな二人共通の思い出がこの異世界で再現される。


包みにくるまれたキャンディを握りしめ、アイリスは笑った。


「おおきに、花やん。また会おな!」


「絶対やで、タロ子!」




ジゼルがそう告げた次の瞬間、ゆらりと辺りの景色が一変する。

気付けばクロードと二人、アパートの自室にいた。



クロードが辺りを見回して怪訝な顔をする。


「あ、あれ?いつの間に帰ったんだ?確かジゼルが母さんの手紙を読み終わって、じゃあ帰ろうかと言ったばかりだと思ったんだが……」


どうやらクロードの記憶はジェラルミンとの謁見前で操作されたようだ。

ジゼルは微笑んでクロードに言った。


「クロードが無意識に転移魔法を使ったんとちゃう?そんなにウチと早く二人きりになりたかったん?」


その場を取り繕うために言った言葉なのだが、その言葉聞いたクロードがすぐに小さく笑みを浮かべ、頷いてジゼルの腰を抱いた。


「それは間違いないな。……あぁ……三ヶ月ぶりの我が家、三ヶ月ぶりの夫婦水入らずだ」


そう言ってクロードはジゼルに口づけをした。

ジゼルは次第に深くなる口づけに翻弄されそうになるも何とかクロードの胸を押して引き離す。


「ちょっともうっ……帰ってすぐに性急すぎるわっ……久々の我が家やねんからまずはゆっくりお風呂に入って疲れを癒して。今日は美味しいご馳走をぎょーさんこさえるから」


「ご馳走なら目の前にある」


「……ちょいとクロード=ギルマンさん。まさかそのご馳走はキミだよ♡なんてベタなこと言うんとちゃうやろな?」


「さすがは我が妻、夫の心情をよく理解してくれている」


クロードはそう軽口を叩きながらジゼルを横抱きにした。


「きゃっ、前世と今世初のお姫様だっこ♡…なんて言うてる場合やないわっ!ちょい待ちクロード!まだお天道さんギリギリ沈んでへんで!」


「それなら夜はこれからだな。この三ヶ月、魔力欠乏症よりも辛いジゼル不足に悩まされていたんだ。早くジゼルに触れたい。……ダメか?」


「っ………!」



───そんな熱の篭った顔でお願いされて断れる妻なんかおらんやろ。……もしかしてほんまにこれでエミルを授かったりして……?


そんなことを考えてるうちにジゼルはいつの間にか寝室に連れて来られ、ドアが静かにパタンと閉じられた。


義母の手紙によりクロードとの未来に何の憂いもなくなったジゼル。

彼女にはもう何も怖いものはなかった。






そして大阪太郎改めアイリスの予言めいた発言が見事的中し、

ジゼルは次の年には第一子である女児を出産した。

名前は当然、エミルである。


それから年子でさらに男児も出産。

ジゼルは瞬く間に二児の母となった。



「あばばばぁ~♪可愛いでちゅねー♡ミエルくーん♡でもなんかこの子、前世の花やんに似てへん?」


ベビーベッドで眠る長男のミエルを覗き込み、アイリスはメロメロになりながらそう言った。

出産祝いを携え遊びに来てくれたのだ。


ジゼルはお茶の用意をしながらそれに答える。


「えー?お姑さんの笑瑠先生が黒髪やったらしいから、それをミエルが隔世遺伝で受け継いだだけやろ」


「あ、それもそっか」


「も~タロ子はいい加減やなぁ」


前世の調子でそう笑ったジゼルだが、実際アイリスは見事やってのけたのであった。


無実の罪をでっち上げられ幽閉の身となっていた第一王女ビオラの冤罪を晴らし、その上で彼女の聡明さが遺憾無く発揮される役職に就かせた。

なんとビオラは、王女でしかも女性でありながら建国初の宰相となったのである。


その座を用意するために多少人心掌握のために魔法も用いたが、ビオラが宰相の座にさえ就いてしまえはあとは有能な彼女が自分で自らの地位を確立してゆくのは間違いない。


アイリスはビオラ王女に嫌われながらも粘り強く(粘着質ともいう)側に居続け、自分がどれほどビオラを尊敬し大好きであるかを延々と語り続けていつしか心を通わせ合い、姉妹としての絆を深めつつあるのだという。

好きだ好きだ言い続けたアイリスによる洗脳ではないかとも思ったが。


今、アイリスの仕事は表立っては外交や姉王女の補佐であるが、

裏では失脚させた兄王子たちを見張りつつ、ビオラが次期女王となれるべく法改正や王室規範改定のために議会や有識者たちを抱き込む……という作業を地道に行っているのだそうだ。


アイリスの罠により失脚し、廃太子となった長兄は遠方の小国の女王の夫の一人として婿入りして既に国内にはいない。


本来であれば公爵に臣籍降下したのち宰相となって、兄王を支えてゆく筈であった第二王子ジェラルミンはアイリスに追い詰められた挙句、ビオラ暗殺を企てた罪により生涯北方の地に幽閉となった。

奇しくもかつてのビオラと同じ目に遭ったというわけだ。



「元王太子も第二王子もやってることはほんま屑やったわ。叩けば埃が出るわ出るわ、あんなん失脚させんの超簡単やったで」


アイリスが呆れた表情でお茶を飲みながらそう言った。


ジゼルはもうすぐ2歳になる長女のエミルを膝にのせて肩を竦める。


「アイリス王女殿下だけは敵に回したないわー」


「なに言うてんの。あんたのダーリンは変わらずアタシの専属護衛騎士やで?以前と違って、アタシの職場はホワイトやろ?」


「まあな。理不尽な勤務体制もなくなったし、夜番以外は定時に帰らしてもらえるし、ええ雇用主やと思う」


「せやろぉ~。まぁほんまにアタシに護衛は要らんからな。今もこっそり城から転移して遊びに来てんの、あんたの旦那も上官のサブちゃんも絶対に知らんで?」


「も~、サブーロフ卿にはウチら夫婦ほんま世話になってんから、彼の手を煩わせんようにしてや」


「ようわかってるって!あんたの旦那もサブちゃんも出世させたるからな、アタシに任せとき!」


「ウチはそんなに出世せんでええよ。だって出世したら忙しなるやん」


「なにぃ?出世より側にいてって?ご馳走さん、相変わらずラブラブやん。こりゃ三人目もすぐやな」


「え、もう予言はええよ。ちょっと休ませて」


「あははは♪」


そうやってアイリスはジゼルと子供たちとの時間を散々楽しんで「ほなまた」と言って城に帰って行った。


じきに入れ替わるように勤めを終えたクロードが帰ってくるだろう。


いつか心変わりの末にクロードに捨てられる結末に怯えていた日々はもう遠い。


今は可愛い子供たちにも恵まれ、忙しくも毎日幸せに暮らしている。


あの時、クロードへ芽生えた想いを捨てずに開き直ってよかった。

だからこそ義母の手紙を読んで真実も知れたし、前世の親友とも再会できた。



「ほんま人生、開き直りが肝心やな」


「何が肝心だって?」


「あらま、おかえりなさい」


キッチンで料理をしながら思わずつぶやいた言葉を、丁度帰宅したクロードに聞かれたようだ。


「ぱぱ!」


父の帰宅に気づいたエミルが嬉しそうに手を伸ばす。

抱っこのご所望である。


クロードは破顔して愛娘を抱き上げた。


「エミル!」


嬉しそうに抱き合う二人を見てジゼルは思わず吹き出してしまう。


「ぷっ…ふふ、毎日帰ってくるたんびにそんな感動の再会せんでもええやん」


「朝別れたきり数時間ぶりなんだ、そりゃ感動もするさ。エミル、少し見ない間にまた一段と可愛くなったんじゃないか?」


「ぱぱ!ち!」(パパ好き)


「エミルっ……!」


「はいはい」


そんな家族のやり取りが聞こえたのか眠っていたミエルが急に泣き出した。


「あらあら」


ジゼルはパタパタと急いで息子の元へと向かう。

乳を含ませてやると、んくんくと懸命に乳を飲む息子の姿を家族みんなで微笑みあって見つめた。



前世独身であった花子が夢にみた幸せがここにある。


それはクロードの母であったり、上官のサブーロフであったり、そしてアイリスによって守られた幸せであることに感謝しつつも、やはり一番は自分を一心に愛してくれたクロードの献身が大きいだろう。


最初から諦めしかなかった自分の手を離さないでいてくれてありがとう。

夫婦でいられる努力をしてくれてありがとう。


それを心から感謝すると同時に、これからは一緒にこの幸せを守ってゆきたいとジゼルは思うのであった。



そんなジゼルを見つめてクロードが言う。


「ジゼル……」



ジゼルはめいっぱい微笑んでクロードにこう告げた。



「わかっていますよ旦那さま。「愛してる」と言うんでしょ?」




そしてジゼルは「ウチも愛してる」と想いを言葉にのせて夫に返した。




終わり









最後までお読みいただきありがとうこざいました!

誤字脱字報告もありがとうございました!


次回作は水曜日夜からの投稿予定です。


よろしくお願いいたします。

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