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贖罪者  作者: 奥田光治
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追章「最後の謎解き」

 さて、唐突ではあるが読者諸君は途中で挿入した私からの挑戦状を解き明かす事はできただろうか? 物語の最後に、この場を借りて作者から答え合わせをしておこう。


 結論から言えば、今回読者に対して提示した私からの挑戦……すなわち、第一の挑戦である『現場にいた「第三者」とは誰なのか?』という問いの答えは『女子大生の高田』(挑戦状以前の段階では名字しか出ていないので)。第二の挑戦である『榊原がなぜ第三者の存在を明言できたのか?』という問いの答えは、『吉木瑠衣子は事件前に右腕を怪我しており、その状況で岸辺和則を殺害する事はできないから』。



そして、『第三の挑戦』である『犯人に襲われる吉木瑠衣子に「逃げろ!」と叫んだ人物とは誰なのか?』という問いの答えは『岸辺和則』である。



 ……はて、『第三の挑戦』なるものが果たして存在していたのかと首をかしげた方は『読者への挑戦状』をもう一度よく読んで頂きたい。あの時、私は文中で「読者諸君に推理してもらいたいのは以下に述べる複数の疑問点である」と明記した上で、箇条書きで第一、第二の挑戦を突き付け、その後読者諸君の健闘を祈った上で、最後の最後に堂々と「果たして、事件当時犯人、事件当時犯人に襲われる吉木瑠衣子に『逃げろ!』と叫んだ人物とは誰なのか!」と挑戦しているではないか。私は読者諸君に挑戦する項目について「以下に述べる複数の疑問点」としか書いておらず、従って箇条書きで書かれた二つの疑問点のみならず、この文章より後に書かれていた最後の一文も私からの挑戦項目だったと解釈すべきであろう。

 そして、これが読者への挑戦状の一項目だとわかれば、謎解きにおける極めて重要な情報を読者諸君は得られたはずなのである。というのも、すでに第一の挑戦で「第三者とは誰なのか?」と聞いている以上、仮に作中の言葉における現場にいた『第三者(すなわち吉木瑠衣子と岸辺和則以外の誰か)』と『救援者』が同一なら、わざわざ作者がこんな答えが同じ二重質問のような事をするはずがないからである。それを承知で作者がこんな事を聞いているという事は、すなわち現場にいた『第三者』と『救援者』は別人であるという推理上の最大級のヒントを提示しているのと同じ事なのである。これに気付くかどうかが、その後の推理に大きな影響を与える事は言うまでもないだろう。


 推理小説は作者と読者の知恵比べであり、フェアである限り作者は読者を騙すために作中に様々な罠を仕込むものだと私は考えている。ならば、作品の構成要素の一つである以上、『読者への挑戦状』そのものに罠を仕込んだところで何ら問題はないと私は解釈する次第である。というより、私が読者への挑戦状に仕込みをするのはこの作品が初めてではない。興味がある方は探してみるのも一興かもしれない。

 今回の事件において、私は作中に様々な罠を仕込んだ。「凶悪殺人犯だと思われていた人間が実は『救援者』」、「作中で贖罪すべきだと思われていた人間が完全無罪」、「そもそも『真犯人当て』があること自体を隠す」など、逆転に逆転を重ねた罠の仕込みがこの小説の醍醐味だと思っている。この読者への挑戦状における仕込みも、先述した様々な罠を隠蔽するための一要素であると同時に、これ自体がこの小説における大きな仕掛けの一つだと認識して頂ければ幸いである。


 なお、犯人の動機に関しては読者への挑戦状において挑戦項目として明記しておらず、また動機に関する情報を問題編の時点ではほとんど提示していないので、挑戦状を提示した段階で動機を解明する事は事実上不可能である事は明記しておく。これは挑戦状を提示した段階で動機についての挑戦項目を入れてしまうと、「第三者の解明」という表向きの挑戦目標とは別に「動機を持つ者」……すなわち「殺意を持った真犯人」が存在するという事件の根幹を示す大ヒントとなってしまうため、それを防ぐために作者が仕組んだ意図的な演出である。ただし、犯人の動機がわからずとも、読者への挑戦状で示した「三つの挑戦」の答えを出す事には何ら支障はないので、動機がわからない事が挑戦状の答えが導けない事の理由にならない事はこの場で明言しておく次第である。


 改めて、本作を読み、楽しんで頂いた事に、作者としてお礼を申し上げる次第である。


                                          奥田光治 記


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― 新着の感想 ―
[良い点] 登場人物のやり取り、推理のロジックもですが犯人の動機が問題編である程度提示されているのが面白いなと思いました。 [気になる点] 彩芽刑事は榊原シリーズでは珍しい「探偵への不信感を持つ」キャ…
[良い点] 初めまして。 大変興味深く拝見いたしました。 引き込まれるような文章で、最後まで一気に読んでしまいました。
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