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一章 その9

 壊せ……奪え……殺せ……


 怨念のようなものが聞こえ追ってくる骸骨から僕は逃げる


「はぁっはぁっ」


 逃げても逃げても、道中から湧いて一向に追ってくる数は変わらないように思えた。

なんで僕はこんな所にいたんだろう?

 暗く夜になっていて星空も見えない、魔法のライトで照らし見えたのは雑草と石材の瓦礫しか見えない。


 僕は戻ってきてきたのだろうか?

 何故?どうやって戻ってきたのか覚えがない。


 突然、脇の茂みから骸骨が現れ剣を振りかざし僕に斬りかかってきた。


「きゃあ!」


 寸での所で僕は避けてバランスを崩す。体が横倒しになり翼で飛ぶ事もできず、そのまま地面に叩きつけられた。


「いたっ」


 地面に叩きつけられた衝撃で肩から落ちてしまったのか痛みで体を起こす事ができない。

 

 壊せ……壊せ……壊せ……

 殺せ……殺せ……殺せ……


 声が一段と大きく聞こえてきた。

 早く、早く逃げないとなのに、痛みで動く事ができない。

 怖い……怖いよ、誰か助けて……


 「ひゃっ!?」


 突然、胸元をつかまれ体を起こされる。

 それは先ほど斬りかかってきた骸骨だった。


 「ひぃ!?」


 ローブの胸元をつかまれ、宙に浮かされる。

 もがいても、骸骨の腕をつかみ放させようとするも骸骨の力が強いのか無理だった。

 一瞬、ローブを離し僕の首を掴み直し、もう一つの骸骨の腕が僕に突き刺すように構える。

 

 「ぐぅっ……や、やめ……」


 僕は必死になって暴れる、このままでは突き刺され死んでしまう。

 やめて、やめてやめて!!


 「いや、やめ……やめ」


 僕の必死の願いも届かず、その剣は僕のお腹に


 「ああああ!!!!」



---------------------------------------------------------------------------- 

 

 「はっ……はっ……はっ」

 

 僕はベットの上で目を覚ました。

 

 「はぁ……はぁ……」


 体を起こし辺りを見回す。

 僕の首を掴み突き刺そうとする骸骨はいない。

 サラさんとターヤ君の家、僕が寝起きしている部屋だった。


 「夢……」


 首をさすり、お腹に手を当てる。

 お腹に刺された跡はない。首も大丈夫。

 当たり前だよね夢だったんだから。

 再度横になり呼吸を落ち着かせる。

 悪い夢……。

 あの雑草が生い茂り、瓦礫だらけの場所はあの場所なんだろうか?

 ここに来てから、そんな夢しか見ていないような気がする。

 目を瞑るも、もう寝るのが怖い。

 またあの夢を見てしまいそうで……。


 呼吸が落ち着いても、眠ることはできないので体を起こす。

 窓を見ると、外は明るくなり朝方になっているようだった。

 確か寝る前はもう暗くなっていて、夜だったはず。


 膝を抱え、昨日の事を思い出す。

 リンちゃんのお父さんがやってきて、僕に色々と質問してきた。

 尋問とかいってたっけ。 肩に手を置いたら、心がなくなったかのようになって……

 思い出すと怖い。

 なんであんなことしたんだろう? 普通に聞いてくれたら答えたのに……

 

 そういえば、キュウコ国の工作員の疑いが……とか言ってたっけ?

 リンちゃんや、リンちゃんのお父さん、コウさんだっけ?

 キュウコ国ってキツネ族だけの国なんだっけ、仲が良くないのかな。


 色々質問をされて、それで翼を触られたらすごい変な気持になって……

 それで僕……。

 思い出すだけでも恥ずかしい。なんであんな事になっちゃったんだろう。

 

 皆の前で裸になっちゃったんだ。

 なんであんな事……恥ずかしい。顔が熱いよ、皆の見てる前で裸になるなんて!

 そうだ、最初は脱ぐのが恥ずかしくて嫌だと思ってたのに、すぐそんな気持ちも無くなって、それで脱いじゃったんだ。

 怖い……、心の起伏を操る事ができるって言ってたっけ。キツネ族ってそんな事できるんだ。

 

 質問が終わって、コウさんに渡した指輪を持って行かれちゃったっけ。

 左手の親指に付けてた所を見ても今もない……早く返してくれるといいな……。

 いつも付けてた左手の親指の場所をさする。無いとやっぱり寂しいよ。

 確認をするっていってたけど、まさか島にいくつもりなのかな?

 

 リンちゃんが近づこうとした時に怖くなっちゃって……

 また心を無くされると思っちゃったんだ。

 リンちゃんはとても優しかったし、そんなことしないと思うけどコウさんができるならリンちゃんもきっと……。


 あの後、シェリルさんと部屋に戻ってきて、体をきれいにした後に疲れちゃって寝ちゃったんだよね。


 そういえば、シェリルさんが言ってた。

 シェリルさんもこの国の偉い人で、族長代理でサラさんの変わりに国政してるんだって。

 サラさん達が内緒にしてたのは、僕が色々な事があって弱ってたから、気疲れを負担を掛けないために良くなったら言うつもりだったって。

 

 僕はシェリルさんに謝った。本当にご迷惑を掛けてすいませんでしたって。

 けど、誰も迷惑だなんて思ってないって言われちゃった。

 どうしてだろう?

 だって、突然この国に訪れて工作員かもしれないって疑われちゃう僕だよ?

 リンちゃんのお父さんはもう疑ってる様子はなかったから、もうその疑いも晴れたと思うけど。

 サラさんや、ターヤ君にはいっぱい迷惑かけてると思う。

 お家にお世話になってて看病してもらって……。

 

 僕の体はいつになったら良くなるんだろう。

 確認すると、未だ衰弱状態になってる。

 ゲームなら強衰弱から回復するのに3時間、さらに衰弱から3時間で6時間で治る。

 ここに来て今日で4日だっけ?4日も経って未だ治らない。

 ずっとこのままなのかな……すっと体が重いままなのかな……。





 ぐ~……

 僕のお腹が鳴った。そういえば昨日もサラさんの作ってくれたお粥しか食べてなかったっけ。

 どうしよう。お腹すいたな……、何か食べたい。それに喉も渇いた。

 チェストの上に水入れとコップが置いてある。

 お水を飲むため、コップに注ぎ飲む。


 「ふぅ~」


 おいしい。お水が美味しいって初めて思った気がする。

 でも、お水ばっかり飲んでたらお腹壊しちゃうよね。

 けど一杯注いでゆっくりと飲む。


 何か食べるものもあったらいいけど、お水以外には無いし……

 あっ、そうだ。アイテムボックスの中に食事があったようなっ

 僕はメニューを再度開いて、アイテム欄を見る。

 黒パン。ステータス効果アップで良くお世話になっているアイテム。

 安くて、低レベルからヒーラーご用達の食事なんだよね。


 他の職業は筋力とかHPとか耐久力、素早さとか色々と考えて高い食事になっちゃうけど、ヒーラーは基本気にするのはヒーリング回復量アップや自然MP回復量だけで良い。

 ヒーリング回復量が上がる黒パン、自然MP回復量が上がるアイスクリームのどっちかの2つを良く持っている。


 前衛さんの食事談義を聞いた時はビックリしたなぁ。

 装備もヒーラー以上に色々揃えなくちゃいけないし、戦術で装備変われば食事も変えるし、すごいお金がかかるって聞いた時は本当に大変だなぁと思った。

 僕はヒーラーで良かったと思ったよ。うん。


 それにヒーラー用の食事ってあんまり無いんだよね。らくちんだ。

 あっても作るのが面倒だし……。買ってもアイスとか高いんだよね。

 なのでNPCの食材店でどこでも売ってる黒パンが一番手っ取り早いんだよ。

 買いだめしてた黒パンがいっぱいある。うん、これ食べよう。

 アイテムボックスから1つ取り出す。茶色い黒パンの一切れが出てきた。

 カサカサしてて固い。匂いを嗅いでみる、うん普通にパンの匂いだ。

 黒パンを食べ……固い、固くて噛みきれない。


 「ん~!」


 確かに口の中にパンの味が広がるけど、必死に噛みきろうとしても固くて噛み切れなかった。


「なにしてるにゃ……?」

「んんっ!?」


 横を見ると、ミーシャちゃんがいつの間にか居た。じーっと僕を見てる。

 

 「……。」

 「……。」

 

 なんだろう……すごい恥ずかしい所を見られている気がする。

 僕は慌てて黒パンから口を離す、つばが糸を引いてワタワタと手を振って取る。

 うう、恥ずかしい。顔が熱いよぅ


「おはようございます……」

「おはようにゃ、何を食べてるにゃ?」


 手に持っていたパンをミーシャちゃんは見ていた。

 

「お腹が少し減ってたので黒パンを」

「黒パン? なんでそんなものを食べてるにゃ。」

「……? ヒーラーなら良く食べてるものですが?」


 ミーシャちゃんが何やら驚いた顔をしている。

 どうしてだろう?

 ひょい、と持っていたパンを取られてしまった。

 ああ、食べようとしてたのに!

 ミーシャちゃんがパンに齧りつく。む~


「固っ!?」


 ミーシャちゃんにも固いようだ。

 あ、そういえば黒パンって固いパンなんだっけ。

 これから食べるの大変そうだなぁ……。

 あ、水に浸して食べればよかったね、今度からそうしよう。

 再度、ミーシャちゃんはパンに思い切り齧りつき食べようとしている。

 うぅ。僕もお腹減ってるのに。むぅ~


「んにゃ~! ブチッ! ふぅ……もぐもぐ」

「お~」


 ミーシャちゃんすごい、噛みちぎるというよりは引きちぎった感じでパンを食べた。


「美味しいですか?」

「……もぐもぐ」


 ミーシャちゃんは目を瞑り、もぐもぐしている。ミーシャちゃんは何もいわない。


「……どうですか?」

「もぐもぐ……」


 顔をしかめてもぐもぐしてるけど、なんで何も言ってくれないんだろう。

 美味しくないのかな?

 せめて感想を一言だけでも言ってほしい。


「……。」

「ゴクンッ。ミコト……これいつも食べてたにゃ?」

「はい。よく食べてるものですよ?」

「他はあるかにゃ?」


 他? アイテム欄を改めて見るけど食事で他に用意しているものは無かった。


「あ、もっとパン欲しいですか? パンはいっぱいありますよ? 他はちょっと無いです。 僕の食事で用意してるのはいつもそれだけなので。」

「……。」


 ミーシャちゃんは目を瞑り、体を震わせている。


「こ……なっ……バッ……」

「……?」


 ミーシャちゃんはわなわなと体を震わせ、額に血管が浮き出ている。


「ちっと来いにゃ!! ありえんにゃ!」

「ひゃあ!? ミ、ミーシャさんっ?」


 ミーシャちゃんは何故か怒り、僕を脇に抱え部屋を出る。


「ミ、ミーシャさんっ! どうしたの!? どうしたのですか!?」

「わかんないかにゃ!? どうしようもね~にゃ!」


 すごい怒ってる。 なんでだろう? 何も悪い事してないのに……

 階段を下り、リビングへ向かう。


「サラさん!!」

「っ!? ど、どうしたの? ミコトちゃんっ!?」


 脇に抱えられている僕を見て、サラさんは驚いていた。


「今すぐ、このちっこいのにご飯用意して欲しいにゃ!」


 ちっこいの呼ばわりしながら揺らさないでよ~。

 なんでこんなに怒ってるんだろう……?

 これ以上何か言ったら余計怒りそうだし……。


「え? それは構わないけど……」

「おはようございます。すいません……」


 サラさんに謝る。今のミーシャちゃんは僕には止められない。


「ミコトはバカにゃ! どうしようもないバカにゃ!」


 訳も解らずバカ呼ばわり……。


「ぐすんっ」


--------------------------------------------------------------


「わぁ~」

「そういうことなの……」


 用意された食事に僕は驚いていた。

 鮭のクリームシチューが美味しそう、とっても具沢山でシチューの甘い香りがすごいする。

 白い普通のパンもある。黒パンと比べたらとてもふかふかしてそう。

 サラさんは、目を瞑り何か考えている様子だった。


「こんなものいつも食ってたら、そりゃ小さいまんまにゃ!」


 それは関係ないと思うんだけどなぁ……。


「食べていいのですか?」

「もちろんよ? 遠慮しないでどうぞ? 」

「さっさと食べろにゃ!」


 サラさんは優しく微笑み、ミーシャちゃんは怒っている。

 正反対の反応に戸惑う。


「はいっ、い、いただきます」

「ミーシャちゃん、落ち着いてね……ミコトちゃん食べられないから」


 ほかほかのシチューをスプーンで掬い食べ始める

 とっても具沢山で鮭と、ころころしたジャガイモとニンジン、それにタマネギ、キノコと色々入ってる。


「おいしーです。」


 ジャガイモは塩味が効いてほくほく、ニンジンも柔らくてあまい。

 食べた事なかったけど、鮭もシチューにとってもあうんだね。とても美味しい。

 白パンを手に取りちぎる。さっきの黒パンと比べると、とても簡単に僕の力でもちぎれた。

 シチューに浸して食べる。シチューとパンの甘みが絶妙に合う


「ふぁ~。おいしーですっ」


 とっても美味しい。思わず顔が綻ぶ。


「そりゃ、これと比べたら美味しいに決まってるにゃ!サラさんの料理と比べたら天と地の差にゃ!」

「さすがに……それだけで食べるものじゃないわね……」


 お腹も減っていたので食べる手が止まらない。

 シチューをおかわりし、パンも二つ食べお腹いっぱい食べた。


「ごちそうさまでした。」

「あんまり食べてないように思えるにゃ。足りてるかにゃ?」

「無理させちゃ駄目よ。ミコトちゃんなら、これぐらいで十分よ。」


 サラさんは食器を下げ、僕が飲むお薬を持ってきてくれてそれも飲む。

 再度お礼を言い、リビングに移動した。


「それで……、ミコトちゃん。ミーシャちゃんが言ってたことなんだけど……本当なの?」

「え?」


 ミーシャちゃんの言ってた事……

 あぁ、僕の黒パンについてかな?


「えと、僕が冒険している時は、ヒーラーって言ったら黒パンが代表的な食べ物のはずなんですが……」

「ありえんにゃ!」


 うぅ~……ホントの事なのに。


「まぁ、昔はそうだったのかもしれないわね……、それは置いておいて……。

 大事なのは、黒パンだけしか食べてなかったの?」

「え? はい。 僕の食事はいつもはこれだけですが……。」


 何故か二人はため息をついていた。


「他は? ジャムとか塗ったりは? 本当に他は食べてなかったの?」

「ジャムは塗ってないです。えと……他はたまに、アイスクリームとか」


 黒パンはヒールの回復量アップ、アイスクリームはMPの自然回復量アップで状況に合わせて食べていた。アイスは高いのであんまり買って使った事は無い。

 転生後の食事も特に変えていない。

 僕のいつも所持している食事といったらこの2択だった。


 「ア、アイスクリームね……。」

 「……。」


 んん? なんだろう、ミーシャちゃんがプルプルしてる。


「えっと……あまり聞きたくはなかったんだけど、お城に居た時はどうしてたの?」

「お城ですか? えと……国に居る時は食事は取って無かったです。ちょっと国政してすぐ冒険に出てましたし、その時に食事を……これを。」


 ポンッともう一つ黒パンを両手の中に出す。


「「はぁ~……。」」


 なんか、ものすごいため息、呆れられているような気がする。

 僕は首を傾げる。な、何故?ほ、ほわい?

 と、とりあえず、黒パンの有用性を熱く語る事にしよう。


「ほ、ほら黒パンって食べた後はヒーラーにとって重要なヒールの回復量少し上がるんです。他にも精神力とか耐久力も少し上がって。ゆ、優秀なんですよ?

 そ、それにですね。黒パンって安いんですよ? いっぱい買えるんです!

 だから買いだめにバッチリなんです! 

 アイスクリームも魔力の自然回復量が増えるので良いんですけど、保存が聞かないのが悩みでクーラーボックスに締まって入れても3日持たないんです。

 それに高くて、ここぞって時しか食べれないんですっ!

 ホントはいつも食べたいんですけどね?

 黒パンは保存もすごい長く持ってとってもべ……」


「そりゃ、病気にもなるわ!! 賢いと思ってたけどバカにゃ!!」

「ミコトちゃん? これからは食事に気をつけようね?」

「はっ、はい!」


 二人の顔が怖い。ミーシャちゃんは普通にすごい怒ってるけど、サラさんは微笑んでいるけど目が怖い。

な、なんでこんなことに?



「ふぅ……さて、話は変わるけど……」


 食事について、長々とお説教をサラさんとミーシャちゃんに受け、突然サラさんが頭を下げた。


「ミコトちゃん、昨日は本当にごめんなさい。」

「え!? サ、サラさん! 頭を上げてください!」

「私も代表の娘として謝るよ。」


 ミーシャちゃんも悲痛な顔をして、いつもの口調を止めて頭を下げた。


「な、お二人がどうして? とりあえず、頭を上げてください。サラさんとミーシャさんのお気持ちは確かに受け取りました。

 ですが、僕はサラさんやミーシャさんには大変ご迷惑をおかけしていますし、恩があります。ですので、お二人が僕に謝られることはありません。」


「いえこの国の族長として、この国に関わる者として謝らなくちゃいけないのよ。

 昨日、コウがあなたに対して、とても酷いことをしたでしょう? そのことについて謝らなくちゃいけないの。 そして、どうしてそうなってしまったのかも説明をさせて頂戴。」


 僕がどうしてコウさんにあのように問いだたされてしまったのかサラさんが説明してくれた。

 僕が話した天界人について。

 どうやら、僕が天翼人であることにミーシャちゃんのお父さんは半信半疑だったらしい。

リンちゃんお父さん、コウさんも。

 そして、島について。

 アンデット、スケルトンが大量に住みつく島で。そこから僕がやってきた。

 それについても、俄かには信じがたい話であったらしい。

 しまいには、そこにあったかつての国主であれば、ここに居たらこの国にとっていつか脅威になってしまうのではないか?

 アンデットが襲いに掛ってくる可能性があるのではないか。

 というのが、代表の考えていたみたい。


 そこでコウさんがやってきて、キツネ族の能力で真偽を確かめにやってきたのだとか。


「そうなんですか……」


 うん、サラさんから聞かされて納得した。

 そうだよね。この国、今でいえば大昔からあるアンデットの島からやってきた人が突然やってきてそんなことを言えば誰でも不安になるよね。

 

「納得できました。 ミーシャさんのお父様……いえ、代表のお考えは尤もであるかと思います。」

「理解してくれて、ありがとう。本当にごめんなさいね。」


 そういえば、工作員というのはどうしてだろう。


「お聞きしても宜しいでしょうか? 僕はキュウコ国の工作員ではないか、との事でしたがそれは何故?」

「それは……。」


 キュウコ国は、やはりキツネ族の国で100年ぐらい前からこの国にリンちゃんの先祖がこの国に亡命してきたらしい。王弟の子孫と一部の家来、家族を連れて。

 だけど、その亡命した王族を引き渡すようキュウコから使節が来たけどそれを拒否すると、今度は暗殺の刺客がやってきて今も続いているのだとか。

 コウさんやリンちゃんはその王族の血筋で、その脅威に今もあっているんだって。

 そこで、キュウコの事に詳しいことをコウさんが聞いて尋問を強行したんだとか。


「それにね……リンちゃんのお母さん。その刺客に襲われたのよ。」

「え?」


 リンちゃんが小さい頃、お母さんは子供を身ごもっていて刺客に襲われて刺されてしまい。お母さんは無事だったけれど赤ちゃんは亡くなって、もう子供の産めない体になってしまった。


「そんな……。」

「だから、コウはキュウコに対して今も強く恨んでいるのだと思うわ。そのせいでミコトちゃんは……安易な行動だと思うわ。」


 そうだろうか、僕は安易な行動だとは思わない。

 子供を奪われて、そこに疑わしい僕が居て冷静にいられるだろうか?


「いいえ。今までのお話を聞けばコウさんのことも納得ができます。」

「ミコトちゃんは、コウを恨まないの?」

「そんなことはしません。赤ちゃんを奪われて、そこに疑わしい僕が来ては当然でしょう。

 この度は僕の方に非が多くあったのです。」


 サラさんの瞳が潤み、再度僕に頭を下げた。

 

「ミコトちゃん……、ありがとう。」


 ちょっと気になる事があった。リンちゃんのお母さんの事である。


「あのもう一つお聞きしても良いですか? リンさんのお母様の事なのですが」


 刺されてヒーリングで治らなかったんだろうか?


「ええ、私が治療をしたけど肉体損傷までは治らなかったの」


 肉体損傷……、回復する魔法はある。サラさんはしたのだろうか?


「サラさん、ボディリカバリーはされたのですか?」

「そういえば、ミコトちゃんヒーラーだったわね。ええ、もちろんよ。けど回復までは至らなかったの。」


 ということは重度損傷なんだ……。腕や足とか切断されたぐらいの重傷。

 ふいに僕のステータスを見てみる。

 僕って剣で刺されたんだよね? 衰弱以外の状態異常は無い。ホッとした。

 ……そういえば僕って赤ちゃん産めるのかな?

 いやいやいや! 僕が赤ちゃん産むって! そんなこと!


「……ミコトちゃん? 安心してね、あなたは私が調べて損傷とかもなかったから平気よ?」


 考えてた事がサラさんに読まれてる!顔がボッと赤くなる。

 頭を振ってもう一度考える。

 重度損傷はゲーム内では死に戻りか、ハイビショップで高位のボディリカバリーぐらいしかない。

 試してみる価値はあるかな。



 コンコンとドアを叩く音がした。誰か来たみたい。


「誰か来たみたいね。ミコトちゃん、ミーシャちゃん、待っててね?」

「はい。」


 そういえば、サラさんとターヤさんのお家って病院みたいなものなんだよね。

 サラさんの部屋の隣は、看護用のお部屋があるみたいだしね。

 誰か病気か何かでやってきたんだろうか?


「ミコトちゃん……、ちょっと良いかしら。」


 サラさんが困った顔をして、戻ってきた。

 なんだろう? 来客で僕がここにいるとまずいのかな?


「あ、僕ここにいたらまずいですか?」

「そうではなくて、ミコトちゃんにお客様なのよ。」


 僕に? 誰だろう。この国で知り合いなんてサラさん達ぐらいしか。


「リンちゃんのご家族。リンちゃんとそのお爺様とお母さんが」


 ええ?


--------------------------------------------------------------



 会う事に了解をすると、リンちゃんとリンちゃんのお爺さん、お母さんが入ってきた。

 わぁ~。和服を着てる。

 お爺さんは羽織袴。リンちゃんは振袖でお母さんは留袖だ。

 こんなにも早く見る機会が訪れるとは。

 リンちゃん綺麗だな~。赤を基本とした着物で梅の刺繍がされてる。

 帯は黄色を基調とした丸帯をして豪華な刺繍がある。

 髪をまとめ上げ結ってて、かんざしも可愛い。

 うん、綺麗。とっても似合ってる。

 

 お母さんも本当に美人で綺麗な人だ。同じリンちゃんと同じ髪色で、同じように髪をまとめてるけど、やっぱり長いのかな? うん、リンちゃんを大きくしたらお母さんそっくりになるんだろうね。やっぱりキツネ族だ耳がピンとたってておっきい。

 お母さんは身長が高い。170はあるのかな? いいなぁ……。

 尻尾もツヤがあって輝いてて、とっても大きいし腰幅ぐらい、長さは身長ぐらいあるのかな? リンちゃんはふっくらしてて柔らかかったけど、お母さんはサラサラしてそう。お母さんの尻尾も手触り良いんだろうね。 

 それにしても出るとこはすごい出てて、締まるとこは締まってて……美人で……すごい。すごいとしか言えない。え、まってリンちゃんも大きくなったら……。

 あれ? なんだろうこの敗北感。何に負けたと思ってるんだろう? うーん……?


 おじいちゃんはちょっと怖い感じ。長い髪を後ろに一纏めしてる。

 袴を来てて渋い感じ。リンちゃんやお父さんお母さんは金髪だったけど、おじいちゃんは白髪だね。ツヤがあって綺麗な髪だなぁ。

ちょっと長いお髭もあって、厳格そうな人。うん、リンちゃんのお父さんに目元が似てるかな?

 耳も尻尾も白い、かっこいいかも。


 

 いきなり、リンちゃん達が3人そろって、僕の前に正座をし土下座をした。

 え? ちょ。


 「っ!?」


 いきなりの3人の行動に戸惑いサラさんの後ろに隠れる。


「私の名はゲン・ヒザクラと申します。我が愚息コウに変わり、数々の非礼をミコト殿にされたと聞き、お詫びに参りました。」


「私は、レン・ヒザクラと申します。リンの母、コウの妻にございます。」


「本来であれば、ここに愚息も連れ、お詫びに参るのが自明でございますが、先日ミコト殿よりお借りしましたこの指輪を確認し、浮遊島へ行ったため参上することができませぬ。

 戻りましたら日を改め、伺いますのでどうかご容赦くださいませ。」


 リンちゃんのお爺さんは小さな箱を取り出した。

 漆塗りの黒く光沢のある箱を開け、前に差し出す。


「あっ」

「お受け取りくだされ。」


 僕の指輪だ。けど、確認するのに指輪無くて大丈夫なの?

 サラさんの後ろから問いかけて見る。


「あ、あの……。か、確認をされるのに指輪がなくて大丈夫なのですか?」

「国章の模写をさせましたのでご安心くだされ。 また確認につきましても、迅速に行うよう命じました。 2,3日で帰参すると思われます。」

「そ、そうですか。」

「この指輪はご返却いたします。この度は大変失礼を致しました。」


 また3人そろって正座をしたまま頭を下げた。

 慌ててサラさんの後ろから出て、土下座を止めさせる。


「あ、あの頭をお上げください。それに先ほどサラさんより事情を伺い、謝罪を頂きました。

 僕の方にも非がありました。疑われても仕方がなかったのです。

 それに失礼ではありましたが、リンさんのお父様、お母様のご事情も……、仕方のない事だったのです。」

「左様にございますか……、しかし私共も孫娘のリン、そして愚息よりミコト殿の出自を伺っております。

 ミコト殿は天上人、それも4大天使様と同じ階位の御方。また国主であられると。

 愚息が無礼ながら御身に能力を使い、それが真実であることも聞き及んでおります。

 この世に無二である高貴のお方に尋問を行い、あろうことか辱めを行うなど、我が国、我らヒザクラ家末代までの恥!

 許されることではありますまい。

 まずはお詫びとして我ら三人、一死を持って贖いたく自裁をさせて頂きまする。

 本来であれば白装束を纏い行うのが通礼ではありまするがお許しくだされ。」


 リンちゃん達三人は一斉に懐から短刀を出し、それを首に当てた。


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