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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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78話【魔力の譲渡】



◇魔力の譲渡(じょうと)


 ローザが操作(そうさ)する魔力の脈動(みゃくどう)は、サクラの(ひたい)の【朝日の(しずく)】から魔力をローザに流し。

 ローザの右手の《石》、【消えない種火】を中継点にしてエドガーに渡されている。


 (あたた)かい魔力の波動(はどう)は、(あわ)い光となって、エドガーの部屋を(つつ)んでいた。

 その光景に、何も出来ずにいるサクラは感嘆(かんたん)の声を()らし、異世界と言う現実を認識(にんしき)させている。


「すっご……ローザさんから(あふ)れる光、まるで炎みたいに赤くて……でも、熱くない。優しい感覚(かんかく)……これが、魔力なのかな……?」


 最初の一瞬(いっしゅん)だけ、()き飛ばされるような衝撃(しょうげき)がほんの少しあっただけで、後はサクラは見ているだけだ。

 (ひとみ)を閉じるエドガーとローザは、真剣な面持(おもも)ちで集中しており、サクラも自然と引き()まる。


「……だいぶ……(むずか)しいわね、人に魔力を分け与えるって……」


 【消えない種火】の効果で普段は汗を()かないローザだが、《石》を魔力伝達(でんたつ)媒介(ばいかい)にしていることで、一時的に効果がシャットアウトされ、(ほほ)を玉のような汗が(つた)っていた。

 サクラはそれに気づいて()こうとしたが、両手が(ふさ)がっていることを思い出して、躊躇(ちゅうちょ)する。


(……これ、離しちゃダメだよね……絶対)


 もう自分が何もすることが出来ないのは分かっているが、ローザがエドガーの為に必死になっていることは非常に(つた)わっている。


「あれ?……そう言えば、部屋の(あか)りが消えてる……」


 最初の魔力の衝撃(しょうげき)。あれで照明(しょうめい)が消えたのだ。

 電気が通っていない下町では、(あか)りはランプ等が主流(しゅりゅう)だ。

 貴族街ですら“魔道具”を使って電気の真似事(まねごと)をしているのだから、街に電飾塔(でんしょくとう)が登場するのは、当分先の未来になるだろう。


余計(よけい)幻想的(げんそうてき)……だね」


 ローザの《石》から発光される赤い光が部屋中を()らして、“魔道具”だらけの異質(いしつ)な空間を幻想的(げんそうてき)昇華(しょうか)させている。

 光はさらに発光し続け、赤い光はローザの【消えない種火】から強く(かがや)き、エドガーの左手を包んでゆく。


「――っ!!」

(……キツイ……《石》の魔力は()も角、私自身の魔力が(ほとん)ど残っていない……これじゃあ、回復どころか、共倒れだわ……)


 ローザは、少しだけ苦しそうに(うめ)く。

 玉の汗が(あご)(つた)い、ベッドシーツにぽたぽたと()れていた。

 サクラの(ひたい)の【朝日の(しずく)】からも、ローザが魔力を操作(そうさ)しているらしいので、二重苦(にじゅうく)となって疲労(ひろう)を重ねているため、《石》の魔力上昇効果を切っているローザにとっては、普段の何倍もの魔力消費となっていた。


「……エド君、《紋章》が……」


 サクラが(つな)ぐエドガーの右手の甲に、赤いオーブ状の《紋章》が浮かび上がっている最中(さいちゅう)だった。

 ローザの【消えない種火】を()した、赤い《紋章》だ。

 揺れる炎が(うず)を巻き、円形状に(ととの)えられた《紋章》は、ローザの右手の【消えない種火】と同じ位置に浮かび上がっている。


「本当だ……それに、力が入る」


 ここ数日の脱力感(だつりょくかん)(うそ)のように解消されて、エドガーの身体にも力が戻り始める。

 サクラと(つな)ぐ右手に、痛がらない様に加減(かげん)しながらグッと力を()めると、何故(なぜ)かサクラが顔を赤らめた。

 一段落ついたのか、ローザは「ふぅーっ」と息を()くと、赤い発光が(しず)まっていった。


「ひとまずはこれくらいにしておきましょう……エドガーの魔力のキャパが思った以上に高くなっているから、一度では無理だわ」


 エドガーは異世界人三人分の契約によって、魔力・身体能力が上昇している。

 その結果、エドガーは本来の何倍もの魔力になっていた(元が滅茶苦茶低い)。


 ローザは【消えない種火】のリンクを再発動させ、()いていた汗は一気に蒸発(じょうはつ)した。

 すると()ぐに、ローザもいつもの雰囲気(ふんいき)を取り戻す。


「サクラ。悪いのだけれど、(あか)りを()け直して貰えるかしら……」


「あ、はい……」

(あれ……いつもは自分の火で()けるのに)


 サクラはふと疑問を(いだ)きつつも、(つな)いでいたエドガーとローザの手を離し、【スマホ】でライトを付けながら、急いで消えてしまった入り口のランプを()け直しに行く。


「あれ、これどうやって……あ、こうかな……ん?あ、()いた」


 少し戸惑いながらも、サクラはランプに火を(とも)して、それをテーブルの上に置かれたライトに移す。


「はい。オッケーですね」


「ええ。ありがとう……それじゃあ、エドガーはどう?……苦しかったり倦怠感(けんたいかん)とか、ないかしら?」


 サクラから向き直ったローザが、エドガーの(ひたい)()れながら質問をする。

 ちらりと見えたが、サクラとの契約の(あかし)である(ひたい)の《紋章》はまだ回復していないようだった。

 同じくサクヤとの契約の(あかし)、左目の《紋章》もまだない。


「……うん。すごく楽だよ、ビックリするくらい」


 両手を数回ぐーぱーし、感覚(かんかく)を確かめるエドガー。


「そう。やはり私達の魔力は相性がいいようね……サクラは?だるくない?」


 ローザはサクラにも聞く。

 サクラからも結構な量の魔力をエドガーに譲渡(じょうと)させているので、多少の疲労(ひろう)が出ててもおかしくないのだが、サクラはケロッとして。


「全然大丈夫ですよ、むしろ力が抜けて楽なくらいですっ!」


 どうやら過剰(かじょう)な魔力が抜き取られたお陰で、身体が軽くなったらしい。

 何とも(うらや)ましい話だ。


「この世界に来て、一切の魔力も使っていなかったから、(あふ)れそうになっていた分の魔力の()()まりが解消された……ってところかしらね」


 もしくは魔力に関して激ニブか、だ。


「そんなことってあるんだ……ははは」


 規格外(きかくがい)に魔力が高かいらしいサクラに、エドガーは(かわ)いた笑いを浮かべる。


「今後は魔力の使い方を学べば、もっと楽になるはずよ?……実際、【心通話】の受信(じゅしん)を自分で切っているのでしょう?それだって立派(りっぱ)な魔力の使い方よ?」


「そういうものですか……」


 「へー」と、腕組しながら元の席に戻るサクラ。


「今日はこれまでにして、また明日……徐々(じょじょ)に回復させていくから、エドガーも。いいわよね?」


「うん。分かってる……もう無茶な行動はしないよ……約束する」


「……よろしい」


 ローザは立ち上がって、部屋から出ていこうとする。


「ローザ?」

「ローザさん?」


 エドガーもサクラも、立ち上がったローザを気にする。


「私も、物凄く久しぶりに汗を()いたから気持ちが悪いわ。お風呂に入るから、先に行くわね……サクラ、もう()ぐサクヤがくるから、今日のことを聞いておいて頂戴(ちょうだい)ね?」


「……あ、はい」


 ぱたんと扉を閉めて、ローザは一人大浴場へ向かった。


「エド君、もう動けそう?」


 エドガーと二人きりになったサクラは、何とか身体を動かせるようになったエドガーを(ささ)えながら、ベッドに腰掛ける。


「うん、何とか。サクラもありがとう。助かったよ……それにしても、サクラがそんなに魔力を持ってるなんて、(おどろ)いたな」


「あはは……あたしもだよ……」


 ツインテールの片方を指でクルクルといじりながら、()れるサクラ。


「――って言っても、使い方が分からないんじゃ、意味ないんだけどねっ」


「きっと()ぐに使えるようになるよ」


 エドガーは、何となく確信している。

 サクラは、才能の塊(・・・・)なのでは。と。

 近いうちに、魔力を(もち)いてとんでもない事をしてしまいそうな予感(よかん)が、沸々(ふつふつ)()き上がっていた。


「あっ!そうだ……アプリ!……魔力で使えるって説明にもあったし、やってみようかな」


 サクラは、スカートから【スマホ】を取り出して、テキパキとアプリ【異世界ワールド・サポーター】を起動(きどう)させる。


「うぅ……充電(じゅうでん)が……」


 前回起動時(きどうじ)充電(じゅうでん)をせず終わっていた上に、先程も明かりを()けていたため、いよいよバッテリーが無くなりそうだった。

 ホーム画面のような簡易的(かんいてき)な画面から、電池のようなアイコンをタップして、前回と同じ画面までやってくる。


 前回はここで(あきら)めて【スマホ】を投げ出したので、(ため)すことすらしていなかった。

 まさか自分に魔力があるなんて思いもしなかったので、(ため)すなんて事を思い浮かびもしなかったのだ。


「赤い魔法陣を、音が鳴るまで長押し……」


 画面のど真ん中に表示された、(やす)い作りの赤い魔法陣を人差し指で押す。

 上に表示されたゲージが少しずつ増えていき、数秒でピコンと音を鳴らす。


「おっ?……え、これでいいの?」


 高速充電(こうそくじゅうでん)も真っ青の速さで、サクラの【スマホ】は完全回復を果たす。一瞬(いっしゅん)だった。

 電源を入れたまま新しいバッテリーに交換(こうかん)したのではないかと思える感覚(かんかく)だ。


「もう終わったのかい?……すごいね、何が何だかわからないけど」


 ベッドに座ったまま、エドガーもよく分からないまま感心する。


「あたしもよくわかんないけど……多分これでいいのかな、充電(じゅうでん)は百パーセントだし……ん?」


 これで終わりかと思った瞬間、【スマホ】に表示される文字。


充電(じゅうでん)が完了しました。お支払いは魔力にて決済(けっさい)されます。よろしいですか?NOの場合、自動的に充電(じゅうでん)はキャンセルされます』


【YES/NO】


「……イエス」


 不信感(ふしんかん)(いだ)かぬまま、サクラは“YES”をタップする。


決済(けっさい)は完了しました。ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております。』


「――えっ……?」


 瞬間(しゅんかん)、サクラは急激な眩暈(めまい)を起こし。

 (くず)れるようにエドガーのベッドへ倒れ込んだ。


「サ、サクラっ!?」





 一方、シュダイハ子爵家の捜査(そうさ)から帰宅したサクヤは、まるで誰かに追われているかのように、コッソリと宿の裏口から入ってきていた。

 以前、メイドのナスタージャが取り付けたベルがチリンと鳴って、一瞬(いっしゅん)ビクつくが、誰もくる気配(けはい)はなかったので、胸をなでおろす。


「……ローザ殿もサクラも、まだ主殿(あるじどの)の回復中だろうか……」


 裏口から食堂を見渡し、誰もいない事を確認すると、従業員用の細い通路からロビーに出る。

 当然誰もいない事は承知(しょうち)しているが、若干(じゃっかん)(さび)しさがあった。


「そう言えば、今日はメイリン殿も休みであったか……う~む。どうするかな、邪魔(じゃま)してサクラにうだうだ言われてもなんだし……風呂にでも入るか」


 (すで)夕刻(ゆうこく)。食事の準備をしてもいいが、如何(いかん)せん“魔道具”【アイエイチ】の使い方が分からないので、心の中で()ぐに却下(きゃっか)した。


「うむ。風呂にしよう……入っているうちに誰か来るかもしれぬしな」


 そう言って、サクヤは大浴場に向かう。


「おっと……手拭(てぬぐ)いがないではないかっ!」


 タオルがない事に気づいて、サクヤは二階の自室へ(おもむ)くが。


「……ん?ローザ殿、か?」


 自室近くの廊下(ろうか)で、壁に(もた)れ掛かる様にダウンするローザを発見し、急いで近づく。


「ローザ殿っ!どうしたのだっ……」


「……五月蠅(うるさ)いわよサクヤ……頭に響くでしょう……」


 (すで)に顔は真っ青で肌は冷たく、いつもの熱が感じられない。


「いやしかし……【心通話】が途中(とちゅう)で通じなくなったと思ったら……主殿(あるじどの)とサクラは……?」


「……エドガーなら大丈夫よ。それよりも、肩を貸してくれない?」


「それは構わぬが……説明をだな……」


 小柄(こがら)なサクヤは、ローザの(わき)に頭を通して腕を(つか)み、肩を貸す。


「――お、意外と軽いのだな。ローザ殿」


 意外と、と言うワードに腹を立てたのか。

 ローザは指でサクヤの装束(しょうぞく)から出ている生足(なまあし)(つね)る。


「痛っ……くはないが。本当に大丈夫なのか?」


 本来のローザの力で(つね)られたら、青タンでは済まない事はサクヤも分かっている。

 別人のように非力(ひりき)なローザに、余計(よけい)に心配になってしまった。


「……取り()えず、お風呂に行くから……連れて行きなさい」


「そんな状態で、なぜ上から目線なのだ……まったく」


 サクヤはローザに肩を貸しながら、共に大浴場へと連れ歩いていった。タオルを忘れたまま。


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