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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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74話【婚約者の悪評】



◇婚約者の悪評(あくひょう)


 ドスン!と椅子(いす)ごと倒れて、肩や背中を強打するサクヤ。

 それでも、攻撃してきた相手に文句(もんく)を言う事だけは忘れなかった。


「――な、なにをするのだサクラ!……わたしは寝ていないぞっ、断じて眠ってなどいない!少~し、ほんの少~しだけ目を(つぶ)っていただけではないか!」


 話は聞いていたと主張(しゅちょう)するサクヤ。

 親指と人差し指で輪っかを作り「これくらい」と言うが、勿論(もちろん)サクラは却下する。


「ど~見ても寝てたわよっ……!」


 もう一発ぶってやろうと、大きめのハリセンを(かま)えるサクラ。

 しかし、意外な事にローザがサクヤを(かば)った。


「――それくらいにしてあげなさいサクラ。サクヤは(しばら)く寝ていないのよ……エドガーを見張っていたから」


「……え?エド君を?」


 構えたまま固まり、スイング待機する。


「――そ。あの子(エドガー)、無茶をするでしょう?身体が動かないとはいっても、変に根性(こんじょう)があるから……気が抜けないのよ」


 ローザも【消えない種火】を使って、エドガーの状態は(つね)に確認していた。

 それは当然、現在(いま)も変わらない。


「それなら言ってくれればいいのに……」


「……た、叩かなかったか?」


「――いや、叩いたけど」


何故(なぜ)だっ!?理不尽であろうがっ!……というか、その(かま)えを()かぬか!……怖いだろうがっ!」


 一縷(いちる)の望みで、サクラが謝ってくれるかと思ったサクヤは「理不尽だっ!」と(さけ)ぶ。


「これでも、【心通話】でローザ殿から聞いてはいたのだぞっ!?」


 涙目でサクラに()め寄り(うった)えかけるサクヤ。

 その割には、サクラが構えたハリセンをまともに受けていたが。


「分かった分かった……あ、あたしが悪かったわよ……近い近い、近いって」


 (こぶし)一つの距離(きょり)まで顔を近付けるサクヤに、サクラは顔を()らす。


「あ、あのぉ……そろそろいいですかぁ?」


「む……」

「――あ、ごめん」


 若干(じゃっかん)引き気味のナスタージャが、(しび)れを切らして声をかけてきた。

 サクラもサクヤも、大人しくなってローザの言葉を待つ。


「……――期限まであと7日、()ずはエドガーの魔力を回復させることを優先(ゆうせん)するわ。私達異世界人は、エドガーが居ないとまともに行動できないもの。エミリアの結婚、婚約を破談(はだん)させるにしても、エドガーが居ないと何もできない。それはこの二人(サクヤとサクラ)も同じよ」


 エドガーがまともに動けない以上、異世界人であるローザ達が自由に出来る事は(かぎ)られてしまうし、かなりのリスクがある可能性が高い。


「いいわね。まずは……そうね、2日後にまた来て頂戴(ちょうだい)。エミリアにも来てもらいたいけれど、恐らく無理でしょうから二人が何とか話をしてくれると助かるわ。あとは……婚約者である、えっと……誰だっけ?」


「セイドリック・シュダイハですよ、ローザさん」


「そう。その男の事を知りたいわね……サクヤ、出来る?」


 ローザは【忍者】と言う職種(しょくしゅ)を知らないが、サクヤが(もっと)諜報(ちょうほう)活動に(てき)していると判断して()う。


「む……?多少の時間をくれれば調べよう……しかし、主殿(あるじどの)から離れてもよいものなのか?」


「この王都から出なければ大丈夫のはずよ……長い距離(きょり)(ため)したわけではないけれど、おそらく少しの能力低下で()むわ」


「……それでも能力は下がるのか。まぁいい……任せよ!」


 ローザは告げる。“契約者”のエドガーと離れるのは、確かに危険だが。

 その時は身体が反応すると。距離(きょり)が離れれば離れるほど、違和感を感じてくる筈だ。

 ローザは一度、エドガーがマークスと会っているときに、少し(ため)している。


「……にしても、随分(ずいぶん)と自信満々じゃない。【忍者】……」


 自信満々に言うサクヤに、サクラは疑心(ぎしん)の目で見る。


「それはそうだろう……隠密(おんみつ)は、シノビの専売特許(せんばいとっきょ)だからな……して女中(じょちゅう)殿、その男はどこにいるのだ?」


「え……あ、すみません。シュダイハ子爵家は、【貴族街第四区画(サファラス)】の西、【下町第五区画(メルターニン)】の外壁に近い場所に屋敷(やしき)を持っています。長子(ちょうし)セイドリック殿は、【元・聖騎士】です。怪我(けが)原因(げんいん)で引退していますが、【貴族街第四区画(サファラス)】の……娼館(しょうかん)経営(けいえい)を任されていると聞きます」


 サクヤに振られるとは思っていなかったのか、フィルウェインが意外そうに驚いて返事をした。


娼館(しょうかん)……?」


 ローザはピンときた。初めの頃に、エドガーが貴族街を案内しなかった理由、それがきっとその一つだろうと。


(エドガーが【貴族街第四区画(サファラス)】を案内したくなかった理由が分かったわね……)


「はい。【貴族街第四区画(サファラス)】は、娼館(しょうかん)や酒場が大半を()める快楽街(かいらくがい)となっています。もちろん子供は立ち入れません。そしてそのセイドリックには、黒い(うわさ)もあるらしく……それが結婚を破談(はだん)させたい理由でもあるのです……」


「黒い(うわさ)……?」


 あからさまにダークなワードに、サクラは顔を(しか)める。

 内心「貴族なんてそんなもんでしょ」とも思ったが、自重(じちょう)して口を(つぐ)んだ。


「セイドリック・シュダイハには、複数の女性との関係が確認されています。そしてその女性たちは……」


 フィルウェインは嫌そうにするも言おうとする。

 しかしローザが、フィルウェインが口を開く前に代わりに答えを出した。


「働かされているのでしょう……?その娼館(しょうかん)で」


「……はい、そのようです」


「最っっっ低っ!!そんな奴がエミリアちゃんの結婚相手……?ふざけてる!」

「自分の女子(おなご)に身体を売らせるか……虫唾(むしず)が走るな」


「よくあると言えば語弊(ごへい)があるけれど……それも一つの商売なんでしょ、その男からすればね」


 サクラもサクヤも、(けわ)しい顔で嫌悪感(けんおかん)(あらわ)にする。

 ローザも、口では軽く言っているが表情(ひょうじょう)は固い。


「……」


 しかしそれが分かっていても、勝手気ままに行動することはできないのが現状だ。


世知辛(せちがら)いな……不動(ふどう)というものも」


 動けるのに行動できないと言うやりきれない思いに、サクヤが(つぶや)く。

 どうやら、寝ていてもエミリアを思う感情は持ち合わせていたようだ。


「仕方がないわよ。私達は本来この世界、この国の内情(ないじょう)に口出ししていい立場じゃない。別の世界の常識(じょうしき)理念(りねん)を持ち込むのは、世界そのものを変えるわ……そんなもん知るか……って言えたら、簡単でいいけれどね」


「そ、そっか……そうですよね……」


 ローザの言葉に一番納得(なっとく)したのはサクラだ。

 サクラの世界【地球】は、ローザの世界よりも、勿論(もちろん)エドガーやエミリアのこの世界よりも、(もっと)もテクノロジーが(さか)んな世界だろう。


 【地球】だって戦争がなかった訳ではない。

 サクラが生まれる前の大昔には、日本を二分する戦いだってあった。

 ただサクラの生まれた時代は、現代機器や政治(せいじ)、世界情勢(じょうせい)に歴史。

 争いのない時代で生まれ育った事で、考えが(とが)らずに()んでいるだけで、異世界の中では特異(とくい)中の特異(とくい)なのだ。


 ――しかし、だからこそサクラは思う。


(あたしの世界の物や情報を、むやみやたらにひけらかすのは……良くないんだ、きっと)


 サクラの学生(かばん)の不思議な能力で、サクラはいつでも自分の世界の物体を取り出す事ができる。個人(こじん)で使うのは良しとしても、もし誰かに悪用(あくよう)されたら目も当てられない。


「お(ぬし)の考えも分かるが、味方内なら大丈夫なのではないか……?」


 そのテクノロジー(スタンガン)に泣かされたサクヤが、表情を暗くし深刻(しんこく)に考えるサクラを何故(なぜ)かフォローする。


「……あんたねぇ、そんな簡単に……――いや、でも……そうかもね。今考えてもどうしようもないし、まずはエド君、そしてエミリアちゃんのことだけ考えることにするよ」


 サクラは柔軟(じゅうなん)に対応し、考えをすぐさま切り()える。


「二人の世界は時代が違うだけでしょう?……なら、似たようなこともあるのだから、協力しなさいよ」


「――えっ!?……ロ、ローザさんにその話しましたっけ……?」


確証(かくしょう)を持つような会話はしてはいないはずだけれど、二人を見ていれば……何となく、ね」


 意表(いひょう)を突かれた言葉に、サクラはぎょっとする。


「むぅ……やはりそうか。思っていてもそれらしいことは言わずにいたのだが、お主(サクラ)はやはり未来の人間であったか……」


 サクヤも目を大きくして驚いてはいるが。

 何を考えているのか、どうやら色々と一人で納得していた。


「いやいや……気付いてたんなら言いなさいよっ!――ってか過去とか未来とか分かってるの!?……と言うか、話が脱線してないっ!?」


 セイドリック・シュダイハの話から何故(なぜ)かサクラとサクヤの世界の話になっていた。


「いえ……あなた方がいつも通りにしてくれているおかげで、何だか気も(まぎ)れました。ですが……お嬢様の事、どうか(せつ)に願います」


「……あっ。ますっ!」


 フィルウェインは笑顔を見せつつも、ローザやサクラ達に頭を下げる。

 ナスタージャもフィルウェインを(なら)って頭を下げた。


「分かってます。あたしたちもエミリアちゃんを助けたいですし……急ぎつつも順序(じゅんじょ)を追って行きましょう。エド君の回復と、エミリアちゃんの意思(いし)の確認。それにセイドリック・シュダイハの情報……7日で何とかしないとね」


「お~。言うではないかサクラ。わたしも、その男を調べてみるとするか」


 そう言うと、サクヤは椅子(いす)から立ち上がり後ろを振り向いた。

 ――その瞬間。

 シュンッ!と消えてしまったサクヤ。

 まさしく【忍者】な現象に、サクラは目を(こす)る。


「……こ、ここって室内……だよね?」


 室内を見渡してサクヤがいないことを確認すると、深いため息を落として(つぶや)く。


「……やっぱ深く考えるのは無し。基準(きじゅん)が違いすぎ……」


「サクラ。貴女(あなた)も《石》を所持している事、忘れていない?」


「――あっ」


 サクラの《石》、【朝日の(しずく)】は、サクラの(ひたい)()め込まれるように付けられた“魔道具”だ。

 その効果で【心通話】が使えていたりしているのだが、どうも()れていないのか、自分の能力(ちから)だとは思えなかったようだ。

 そんなサクラの心に、今し方出ていったサクヤから【心通話】で連絡(れんらく)が入った。


<……す、すまぬ。どこに行けばよいのだっただろうか……>


 物凄く申し訳なさそうに、ごくごく小さな声で聞こえた助けに、サクラもずっこける。

 よく見たら、ローザも椅子(いす)からズルッと肩を()かしていた。


<まったく、馬鹿(ばか)【忍者】……貴族の街の第四区画よ。名前は【サファラス】。この前、【下町第四区画(アル・フリート)】に行ったでしょ?……その北の門から入れるから、そっから行きなさい)


 本当は、【貴族街一区画(リ・パール)】から直接(ちょくせつ)行けるが、腹が立ったので遠回しを教えるサクラ。


(このくらいは大丈夫でしょ)


 サクヤに聞こえないように、心の中で(つぶや)く。


<す、すまぬなサクラ。くれぐれもローザ殿には内密(ないみつ)だぞ?>


<全部聞こえていたわよ……>


<……っ!>


 ローザが肩を()かせたのは、サクヤの【心通話】がローザにも聞こえていたからだったらしい。

 まずいと思ったのか、サクヤはそれ以降話さなかった。

 気まずかったのかやばいと思ったのかは分からないが。おそらくセイドリック・シュダイハを調べに行ったことだろう。


「ホント疲れる……」


「それじゃあ。貴女(あなた)達も屋敷(やしき)に戻って、エミリアを探ってみてくれる?エドガーの事も、それとなく(つた)えてみてくれればいいわ。少しでも反応すればいいでしょう」


「かしこまりました」

「分かりましたぁ」


 甲斐甲斐(かいがい)しくローザに頭を下げるロヴァルト家のメイド二人。


(まるで、ローザさんがご主人様みたいだよ……)


 サクラは、見事に指示(しじ)を出すローザこそが、メイドの(あるじ)なのではと錯覚(さっかく)しそうになった。


「さぁ、私達もエドガーのところに行きましょうか。サクラ、そろそろ限界(げんかい)そうよ、あの子」


「……はい。何となく分かります」


 こうして、それぞれ行動を開始する。

 悪童(あくどう)貴族・セイドリック・シュダイハとエミリアの婚約まで、あと7日だ。


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