123話【素材】
◇素材◇
光が治まると、【クリエイションユニット】は煙を放って、ブシューっと音を立てた。
汗をかくメルティナは、腕で額を拭いながら。
「これでは、せっかくマスターに拭いていただいたのに、またお願いしなければいけません」
「あ、あはは……《石》を外す時に、また拭いてあげるよ」
少し照れながら、エドガーは言う。
「――ワタシの裸を思い出しましたね?」
「ぶっ――な、何を……!」
「ふふっ……冗談です。マスター」
その笑顔は、実に晴れ晴れしたもののように見えた。
何の後悔も無く、メルティナは【クリエイションユニット】を使用して、元の世界の自分のボディを素材へと変えた。
その結果、完成したものが。
「――完成しました。マスター……どうぞ、これを」
メルティナは【クリエイションユニット】を連結解除する。
4機のリング状に戻ったユニットは、メルティナがベッドの横に丁寧に戻していた。
まだ軽く熱を持つその四角いものを、エドガーは受け取る。
「……これは、金属の……塊……だよね?」
「イエス。言わば……【アルヴァリウム・インゴット】と言った所でしょうか」
綺麗な、銀色の鋳塊。
銀と色味だけは似ているが、まったくの別物。
「……もしかして、メルティナはこれを……」
エドガーが欲していたもの。
槍の“召喚”の為、中心となる素材。
いくら探しても見つからなかったもの――金属。
「ワタシは、しばらく役に立つ事が出来なくなるかも知れません。ならば、今できる事をしたまでです」
《石》を外すという事は、能力を手放すと同義。その前に、メルティナはやれる事をしたかった。
役に立つという事を、エドガーに示しておきたかったのだ。
「それで金属塊を……」
正直言って、大助かりだ。
ローザと二人で散々探した“魔道具”の中に、金属は無かった。
その問題が、これで解決できるの。
しかもこの【アルヴァリウム・インゴット】には、《石》を通じて魔力が宿っている。
「……この施設に金属がない事は。以前、備蓄整理をした時に記録しています。ですので、マスターが探しているのはこの種類なのではないかと」
「……お、おっしゃる通りで」
真顔で言われて、エドガーは反論する気も起きなかった。
その金属塊をテーブルの上に置き、エドガーは両手を見る。
「……魔力が、まとわりついてる……」
「イエス。【アルヴァリウム】は少量ですが、魔力を含んだ魔鉱金属です。ですので、人間が持つ常用金属以上に……軽いでしょう?」
「あ。確かに!すっごい軽いよっ!!」
もう一度持ち直して、ひょいひょいと何度も上下させるエドガー。
新しい知識を得て嬉しそうにする、その少年然とする姿にメルティナは。
「――フフフ。良かったです……マスターのお役に立てて」
控えめに言うメルティナに、エドガーは心底嬉しそうに。
「――それだけじゃないよっ!」
「……そ、そうですか?」
そう言うメルティナだが、言われなくとも本当は知っているし、エドガーが槍の素材を求めていると想定すれば、この宿の備蓄を知っているメルティナからすれば、自ずと金属が必要だと分かる。
「そうだよ!!」
興奮気味に、メルティナがしてくれた貢献を称える。
「今日一日、何処を探しても見つからなかったんだ……だから、凄くありがたいし凄く助かる!それに――これで……エミリアの為に、槍を“召喚”できる……!!」
魔力を宿した金属。
それはとても貴重であり、今までも【福音のマリス】には無かった素材だ。
少なくとも、エドガーにはその価値が分かる。
今メルティナが言ったように、魔力を帯び、更に軽い。
エドガーは軽く持ち上げているが、鋳塊というものは重い。
ましてや、魔力を持つ特殊金属だ。
「金属鉱石は、今まで何度か見たことがあるけどさ。魔力を持つ金属は貴重なんだよ、この国で使われている剣や槍は、なんていうかその……粗末だからさ。だからそれだけに、何度も何度も“召喚”を試して、槍の刃や柄を選別していくって言う手間が省けるでしょ?だから、このインゴットがあればその手間が省けるんだ!しかも、これだけ良質な金属があれば――」
少し言いにくそうにするあたり、配慮なのだろうが。いったい誰に対して?
いやしかし止まらない。エドガーの饒舌が。
流石にメルティナが止めに入り。
「――マ、マスター。落ち着いてください」
特に、今は。
「あ……ご、ごめん。つい……」
嬉しくてはしゃぐ。そして直ぐへこむ。シュン――と。
(か……かわいい)
ポっと顔を赤らめて、メルティナはベッドに座り直す。
そしてエドガーも、言われた事を落ち着いて呑み込んで。
「そうだよね……こんな遅い時間に言う事でもなかった。あはは……」
そう言えばそう。今はもう深夜前だ。
しかも今は宿泊客もいるのだ。自重しなければ客が離れてしまう。
オタク状態のエドガーが冷静を取り戻し、汗をかいたメルティナの背を再び拭いていた。
「お湯が温くなって申し訳ないけど……」
「ノー。丁度いいです。それと……」
「――ん?」
メルティナは視線だけをエドガーに向け。
「……少し、謝り過ぎではありませんか?」
「……」
エドガーはキョトンとしていた。
しかし、その後すぐに笑顔になりメルティナは。
「ど、どうして笑うのですか?」
理解出来ない。
少しばかり、主の性格が心配になった。
そんな心配そうなメルティナにエドガーは。
「あはは……そんな目で見ないでよ。ちょっと前の事を思い出しただけだ時からさ」
「前の事?」
「うん」
エドガーは拭き終わったタオルを桶の縁にかけ続ける。
「以前……ローザに似たようなことを言われたんだ。『癖で謝るってあんまり良くないと思うわよ。それよりだったらありがとうって言われたいわね』――ってさ」
笑顔で、懐かしむように。
それだけで。
(あ……もしかして……)
それだけで、ローザに言われた言葉だと察して、メルティナは胸を押えた。
しかし頭を振るい。
「もしかして、ローザにですか?」
笑顔で、気にしない素振りを見せながら。
メルティナは思う。
エドガーの中に、自分が残した言葉はあるのだろうか――と。




