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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第2部【動乱】篇 3章《聖槍、天高く》
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102話【天使の慈愛】



◇天使の慈愛(じあい)


 倒れたエドガーのもとに転移したフィルヴィーネとスノードロップ。

 スノードロップはエドガーの頭を(ひざ)に置くと、自分がここに来た理由を()べた。


「……わたくしは、守るためにここに戻って来たのです……」


 その言葉が向けられた暗がりから、刺すような威圧感(いあつかん)を放ち続けていた“魔王”フィルヴィーネは、ゆっくりと歩いて(かが)む。“契約者”である少年の様子を確認して、スノードロップを一睨(ひとにら)みすると言う。


「守るだと……?現にエドガーは苦しんでおる。自分が苦しめているかもしれぬという(せき)は無いと言うか?」


「そんな事はありませんわっ!わたくしは……――っ」


 無言の(あつ)は、スノードロップの(のど)を押し(つぶ)す程の物だった。

 声は喉元(のどもと)で止まり、(くちびる)は固まってしまったかのように動かない。

 エドガーの(ほほ)(さす)っていた腕は(しび)れ始め、無意識に身体が(ふる)える。


(これはっ……ニイフ様の、神意(しんい)っ!?まさかっ……今まで(おさ)えていたと言うのですかっ!そんなバカな事っ!!)


 “神”の意志(いし)神意(しんい)とは、その存在全てだ。

 常にそこにあるものであり、不変。そしてそれは、決して(おさ)えられるものでは無い。その必要もないからだ。


 スノードロップは思っていた。“魔王”となり、異世界人としてこの世界に来たフィルヴィーネには、もう神意(しんい)は無くなっているのであろうと。

 あの時、異界の(とう)で見た時も、それほど力は感じられなかった。

 それが今、ピリピリと(はだ)を焼くその威圧感(いあつかん)は、確かに“神”の物だ。


「――よいですかガブリエル……私はいつでも“神”に戻れるという事、覚えておきなさい……」


 口調(くちょう)の変わったフィルヴィーネは、ガブリエルを見下(みお)ろして言う。

 その姿は正に美しい“女神”そのもので、数千年前に存在した【紫月(しづき)の神ニイフ】だった。


「――は、はいっ!」

(……(あらが)えない……わたくしたち“天使”は、神々(かみがみ)のいとし子なのだから……)


 スノードロップはエドガーを優しく寝かせると、姿勢(しせい)を正してニイフに(こうべ)()れた。

 (かしず)き、敬愛(けいあい)の意を込めてその言葉を聞き入った。


「先程ガブリエルの言った事、()(つま)んででもいい。私の(いと)しい仲間たちに話します……よいですね?」


「……そ、れは……」


「――全てではありません。()(つま)むと言いましたよ?私は……二度も言わせるのですか?」


「も、(もう)し訳ありませんっ……――で、ですがっ!!」


 “神”の神意(しんい)と、“天使”の意地(いじ)では話にならなかった。

 しかし、スノードロップにも十数年の思いがある。

 この世界に来て(きず)いた、確かなものがある。


「わたくしも、その場に同席させていただきます!話す内容も、わたくしに一任(いちにん)ください!どうか……ニイフ様っ!!」


 汗をポタリと落とし、スノードロップは神意(しんい)(あらが)った。

 “神”に(さか)らうという事が、“天使”に許される事ではないと理解している。

 “大天使”と呼ばれ、多くの“天使”たちを(したが)える《天使長》、スノードロップ・ガブリエル。

 まさかこの世界に来て、また“神”の意を受けるとは思わなかった。


「……」


 ニイフはスノードロップを見下(みお)ろしている。

 その身姿(みすがた)(ボンテージ)からは想像もできない神々(こうごう)しさを放ち、周囲に紫光(しこう)(きら)めいている。


「……ガブリエル、顔をあげなさい」


「は……はい」


 スノードロップは怖さ半分に顔を上げた。

 ニイフは笑顔だ。その笑顔は美しく、同性であるにも(かかわ)らず心をときめかせてしまいそうになるほどの物だった。


「――話はあなたに任せましょう。ですが、全て知られる覚悟がありますか?」


 それは、ローザを始めとした異世界人たちに、今の話を(つつ)み隠さずに話せるのかと言う事だ。

 隠してきた秘密(ひみつ)であり、隠し通さなければならない事実。

 それは、エドガーが知らない方がいい事柄(ことがら)であり、(もっと)も関係性の深い彼女らがそれを受け入れるのか、スノードロップやノインを受け入れるのか、それが一番の問題だ。


「……エドガー様の、為ならば」


 (しぼ)り出すようにして出した言葉だった。

 だが、(うそ)はない。

 エドガーを介抱(かいほう)しながら話した事も、今言った事も。

 エドガーの新しい(きずな)に、深入りするつもりは初めから無い。

 だが、一つだけ。一つだけ待ち受ける困難(こんなん)を、彼女らが、エドガーが受け入れてくれるだろうか。

 問答無用で巻き込むつもりだった、西国【魔導帝国レダニエス】との(あらそ)いを。





 応急処置も終え、エドガーも落ち着いた。

 フィルヴィーネも神意(しんい)を再び(おさ)えて、フィルヴィーネに戻った。

 スノードロップは安堵(あんど)しながらも、異世界人たちに説明をしなければいけないという事を考えると、キリキリと()が痛む思いだった。


「では戻るぞ。エドガーの手を(つか)んでおけ、そのままエドガーの部屋に転移する(とぶ)


 フィルヴィーネはスノードロップの肩をむんずと(つか)むと、また一瞬で転移を開始する。


(この方の魔力は、どうなっているのでしょうか……不思議(ふしぎ)でなりませんね、まったく)


 魔力が枯渇(こかつ)するこの聖王国で、何度も《転移魔法》を展開(てんかい)する“魔王”に、(あらた)めて畏怖(いふ)の念を(いだ)いた“大天使”さまだった。





 気付くとそこは、エドガーが寝室にしている部屋。宿の管理人室だった。

 丁度(ちょうど)ベッドに転移させたのか、エドガーは横になっていて、スノードロップはベッドの(そば)に座っていた。


「――もうよいぞ。手を放せ」


 ペシンと、フィルヴィーネに手を(はた)かれた。


「痛いのですが……」


「ふん。では(われ)は戻る……何も今すぐとは言わぬ。近々(ちかぢか)にでも、話す内容をまとめておけよ?」


「かしこまりました、フィルヴィーネ」


 手をひらひらさせながら、管理人室を出ていくフィルヴィーネ。もう転移はしないらしい。

 ぱたんと閉じられた扉を見ながら、スノードロップは叩かれた手を(さす)る。


「おかしな方です……あれほどの力を持っていながら、どうしてこのような世界に来たのでしょうか……それに、“神”の力が残っているのに……どうしてそれを使おうとしないのです」


 この世界に“神”はいない。もう存在しない。

 それは“天使”であるスノードロップと、“神”であった自身がよく分かるはずだ。

 つまりは、この世界の《唯一神(オンリーゴッド)》。ニイフこそ、この世界にただ一人の“神”だというのに。


「……ふぅ……」


 スノードロップは落ち着き、心内(こころうち)をドロシーに戻すと、せっせとエドガーの介抱(かいほう)を始めた。

 時間はもう朝方に近い。エドガーもこのまま眠るだろう。

 ドロシーは椅子(いす)に座り直す。

 エドガーの寝顔を(のぞ)き込んで、微笑(ほほえ)みながら。


「もう()ぐ、本当の姿でお会い出来ます……ノインも近くまで来ている筈です……覚えていなくていい……思い出してくれなくてもいい……ただ、ただお(そば)に……いさせてください、エドガー様」


 十数年の悲願(ひがん)を意外な形で知ったあの日、ノインと共に【魔女】は敵だと決めたあの日。

 (いつわ)ってでも彼を守ると(ちか)った。

 たった数年の関係性ではあったが、今でもその思い出は消えない。


 その思い出を守る為、友の姿を()して《魔法》をかけ、エドガーに近付いた。

 もしかしたら、それは間違いだったかもしれない。

 今のエドガーならば、話せば聞き入れてくれたかもしれない。

 そんな思いが、“天使”の心で渦巻(うずま)いていた。


「……」


 スノードロップは(いつく)しみを持って、エドガーの(ほほ)(くちびる)を当てた。


「お休みなさいませ……エドガー様」


 こうして、優しき“天使”の慈愛(じあい)(つつ)まれて、エドガーは深い眠りに()いたのだった。


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