間話【天使奔走】
◇天使奔走◇
朝焼けで赤く塗られた聖王国に、一人の旅人が到着した。
転移と飛行で最速を目指し、魔力を消費してでも急がなければいけなかった人物。
“天使”スノードロップ・ガブリエル。
彼女は、その目立つ白銀の髪をフードで隠し、【王都リドチュア】の東、【下町第五区画】の大門から王都入りした。
「……相変わらず門番すら無し……警備している兵も極少数……正直言って、ふざけているとしか思えませんが」
目的地は、宿屋【福音のマリス】。
【召喚師】エドガー・レオマリスのいる、この国で最も安全な場所だ。
以前、転移で【召喚の間】に《石》を配置した場所だ。
その事実はスノードロップとノイン、そしてシュルツ・アトラクシアしか知る事は無いが。
その結果は、異世界人メルティナが“召喚”されると言うものだった。
【召喚師】の戦力増強を狙った結果、それは予想の斜め上を行った。
しかも、“魔王”フィルヴィーネの《石》である【女神の紫水晶】を配置していたのも、スノードロップだ。
「……王都自体、来るのは十数年振りですか……」
まさか、戻って来る事が出来るとは。
嫌な別れ方をして、スノードロップとノイン、そして【魔女】ポラリスはこの聖王国を離れた。
それから十数年、前回は王都には入らずに、北の荒野で少し場をかき混ぜる事をした程度。
王都内に足を踏み入れたのは、実に十五年振りだった。
「彼が、2歳の時以来ですか……」
姿自体は、前回確認した。
実際これから会いに行くとなると、なんだか緊張してしまう。
「問題は……ニイフ様ですね。彼女は《空間魔法》を得意としていますし……その後は、もう一人――緑の彼女にかけた《魔法》が生きているかどうか……確認しなくてはなりません」
同じ世界の知り合いである“魔王”フィルヴィーネ。
そして前回戦闘し、《魔法》をかけたメルティナがどうなっているのかを確認するために、スノードロップは早速行動を開始した。
◇
スノードロップはまず真っ先に、自分の認識を逸らす《魔法》をかける為に動いた。
路地裏に入り誰もいない事を確認すると、フードを脱ぎ捨てて。
「……屈折する光の結晶よ、天の加護のもとに集まれ……【消え去る認識】」
光に包まれ、白銀だった髪は茶色に。
身長も少し縮み、表情すらも優し気に変わる。
服装も、一般的な旅人の軽装となるように魔力を籠めた。
「ふぅ……充分でしょうか……それにしても、い、意識し過ぎましたか?」
深層的に、彼女を意識してしまったかもしれない。
やはり、この国は思い出の場所。最愛の友である彼女が愛した国と、その子供たちがいる場所。
偶然とはいえ、やり過ぎかも知れないと反省しつつ。
次は自らの《石》である【運命の水晶】の隠蔽だ。
「……【魔封光】」
一瞬だけ発光した右手を、胸元に持っていく。
そして胸についていた《石》を外し、しまう。
この《魔法》、得意なジャンルなだけに、効果は完璧なはずだ。
確認の術も、【福音のマリス】へ行けば分かる。
地下室の【召喚の間】へ行けば、もう一つの《石》が今も眠っている筈だ。
「――さぁ、これでいいでしょう。後は【召喚師】に……エドに会いに行けば、彼の物語は進むのです」
そうして、スノードロップはドロシーとなって、エドガー・レオマリスと出逢う。
彼の知らない十五年ぶりの再会は、この後直ぐに訪れるのだった。




