50話【黒銀翼と白銀牙】
◇黒銀翼と白銀牙◇
未来ある少年。ラインハルト新皇帝に、シュルツは首を垂れて言葉を述べる。
その様子を、大臣と二人の騎士も固唾を飲んで見守っている。
「――ラインハルト・オリバー・レダニエス陛下……陛下が仰られた夢、このシュルツ・アトラクシア……最大の褒美として受け取りたく思います……是非とも軍事顧問の件、謹んで務めさせていただきましょう」
初めから反抗するつもりなどは無かった。利用するものは何でも利用する。それがシュルツのやり方だ。
しかし、不思議とこの少年の言葉は信じられると感じた。
いや――思い知らされたのかもしれない。
「そうか……それは重畳。その思い、有難く頂戴する事としよう」
ラインハルトに頭を下げさせなかったシュルツの気遣いと、覚悟を持った宣言に。
孤立するかも知れない可能性があるにも拘らず、従うと心意気を見せた誠意に。
「――聞いたな。ボーツ大臣」
「……は!」
ラインハルトはボーツ大臣と、背後に待機する騎士二人に告げる。
騎士二人も、「ははっ!」と頷いた。
「シュルツ殿は軍事顧問を継続。ボーツ大臣と双璧を成すもう一人の大臣は、近い内にも任命しよう……それと、【黒銀翼騎士団】と対を成す【白銀牙騎士団】の件だが……俺はお前たちに託したい」
ラインハルトの言葉は、後ろに待機する二人の騎士に向けられた。
「え……!マジで――じゃなくて、本当ですかっ!?」
「そ、それは……こ、光栄です……!陛下!」
後ろに待機していた騎士二人は驚く。
ここに居る時点で、実力はあるのだろうと思ってはいたが、シュルツは観察するように二人を見る。
一人はショートカットの女性。
堅苦しそうな言葉使いと、整えられた服は、生真面目を言い表していた。
もう一人は、言葉使いで分かるかもしれないが、軽い口調の青年だ。
年齢は、二人共20歳を超えるかどうかといったところだ。
「ああ。ルーク、それにアイシア……【黒銀翼】は帝国を羽ばたき、外敵を斬る翼だ……対して【白銀牙】は、この帝国を守る牙となるのだ。その役目、お前達なら成し遂げられると期待しているぞ」
「――は、はい!謹んでお受けします!」
「お任せ下さいよ!!陛下!」
ドンと任せろ!そんな風に言うルークと呼ばれた青年。
畏まりながらも、期待されることに嬉々とするアイシアという女性。
二人は、以前からのラインハルトの護衛騎士だ。
それだけ、実力だけは折り紙付きといえよう。
「――ゴホン!では、【白銀牙】の騎士団長はアイシアに、副団長はルークに任せましょう」
「えぇ!?そこは俺じゃないんすかっ!?」
「妥当でしょう、あなたでは無理無理」
「なんだよ連れねぇな……はぁ……」
「ふふ、陛下の一番盾は、わたしが引き受けたわ」
「なんだよ、一番盾って。槍じゃねーの?」
二人でやり取りをする事に、ボーツ大臣はわざとらしい咳払いをする。
「ゴホンゴホンゴホン!!」
ババッと、背を正す騎士二人。
そっと笑うラインハルトの笑顔を見たのは、シュルツだけだった。
「では陛下。【白銀牙】の団長はアイシア、副団長はルークでよろしいでしょうか」
「ああ、適任だろう」
【黒銀翼】の騎士団長と副団長は既に決まっているし、もう議題はない。
ラインハルトは席を立ち、踵を返す。
それが分かっているかのように、ボーツ大臣は頭を下げた。
副団長ルークは、ラインハルトの後をついて行く。
団長アイシアは、ボーツ大臣と話し合いをする為に残り。
シュルツは。
(なるほど。何も言わなくても、それぞれが次の行動に移せるのか……確かにこれは、聖王国では見ないな)
新しく決まったばかりの団長として、アイシアは話をする必要がある。
だから残るのは当然であり、必然的にラインハルトの護衛をしなければならないのはルークになる。
それを、言われるまでもなく行動に移し、ボーツ大臣も自分が【白銀牙】の編成をすると分かっていたのだ。
シュルツは軍事顧問として、これからも帝国と関わりを持つと決めた。
“魔道具”の開発をするには、確かに専門の技師が必要だろう。
しかしきっと、ラインハルトは数日もかからずに用意してくる事だろう。
【魔道具設計の家系】を切って捨てる事が出来るのだ、それなりの人物の確保はしていると考えられる。
(……さて、どれほどのものかね……レディルくらい万能でないと、俺の知識が無駄になる事……理解しているのかな?陛下は……)
円卓を後にするラインハルトの背を見ながら、シュルツはそんなことを考えていたのだった。
◇
驚くことに、ラインハルトは翌日、既に技師を用意してきた。
自室までわざわざ迎えに来た女性に、シュルツは心の底から驚いていた。
「……いや、流石に驚愕と言わざるを得ないな……数日はかかると踏んでいたのだが」
「ラインハルト陛下のご命令ですので。わたしはカイネラ・リューソンと言います。わたし達技術屋は……あなたのような異国の人間にも従いますよ。よろしくお願いしますね、室長」
シュルツの目の前で、その当人に若干の毒を含んだ言い方をするのは、眼鏡をかけた女性だった。
名をカイネラ・リューソンと言う。高身長の22歳。
緑色の軍服を身に纏い、ロングスカートには太腿付近までスリットが入っていた。
シュルツは軍事顧問の他に、技術顧問とも呼ばれていた。そこに新たに“魔道具”開発室の室長と言う、新たな役職を与えられていたのだった。
「いやー、キミのように若い女性が部下か……なんだか緊張するね。よろしく頼むよ」
シュルツは毒づかれた事を完全に無視して、棒読みで女性の手を取る。
グッと籠められた力で、嫌々だと何となく伝わる。お互いにだ
(それでも何も言わずに俺に従うと言うのは、陛下の人望だろうな……つくづく、ラインハルト陛下は若者の支持が高かったんだな……)
「……いえ。こちらこそ……それでは室長、早速ですがお仕事です」
「……はい?」
挨拶を終えて即仕事。
情緒もへったくれもない。
だがしかし、シュルツも仕事が嫌いな訳ではない。性格的にも職人気質、部下になる人物達がどんな奴かとも気になっていた。
しかし、まさか紹介されて直ぐに仕事にかかるとは思わなかったが。
「ーですから仕事です。前任者の工房は手付かずで残っていますから、そこを拠点にしてもいいとの事です。現在技師は77名、わたしと室長を含めれば79名になります。正直言って、物凄く腕の立つ者は多くありません……わたしの言いたい事、分かりますでしょう?」
「……」
指導しろという事だ、その77名に。
シュルツは一気に鈍重感に襲われる。
一度頓挫している以上、今度はゆっくりまったりと事を進めたかったと言うのもあり、この国のお人柄上、仕事熱心だということを失念していた。
「――何をしているのですか?室長。行きますよ、こちらです」
スタスタと一人歩いて行ってしまうカイネラ。
有無も言わせないままに、彼女は既に仕事モードのようだ。
「あぁ……面倒臭いなぁ……――はぁ……でもまぁ、こういうのもいいか」
シュルツはカイネラに付いて行く。
向かう先は、帝国最大の“魔道具”工房。
近い未来、【アトラクシア研究室】と名付けられる、その場所だった。




