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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 4章《残虐の女王が求めるもの》
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180話【乙女のように】



乙女(おとめ)のように◇


 先を歩くローザに追い付き、エドガーは後ろから声をかける。


「――ローザっ!待って!ストップ、ストップ!」


「……何?」


 ローザは優し気に答え、(やわ)らかい笑顔で()り向く。

 赤く長い髪がふわりと()れて、エドガーの鼻先をくすぐった。


「ローザ、僕も……この十日間じっくり考えたんだ。きっとローザも考えてたんだと思う。だから言わせてほしい……僕は、ローザを待つよ。もしくは追い掛けるっ!」


「……?」


 笑顔を(くず)さず、ローザはエドガーをジッと見据(みす)える。

 真剣な表情(かお)に――ついつい。


「――フッ、フフ……」


 手を口もとに当てて、ローザは笑い出した。

 先程まであんなにきょどる不審(ふしん)な少年が、打って変わって真剣な眼差(まなざ)しを向けてくるのだ。

 そのギャップに、笑わずにはいられなかった。


「ええぇ……僕、結構真面目に言ったんだけどな……」


 肩を落としへこむエドガー。


「――ああ待って、馬鹿(ばか)にして笑っているのではないわ。おかしかったのよ、キミを置いていく自分を想像して……置いて行かれる自分を想像して、ね……」


「……え?」


 ローザは笑う事を止めて、エドガーに視線(しせん)を合わせるように、ほんの少しだけ(かが)んだ。

 ぴったりと交わる視線(しせん)は、初めてお互いを並列(へいれつ)にした。

 そしてローザは、エドガーに向けて。


「――置いてなんか行かないわ……もしそうなったとしても、待っててあげる。もしもキミが先に進んでも、私は必ずキミに追い付く……キミがどんなに先に進んでも、必ず」


 その二人の距離(きょり)は、鼻先数センツ(cm)。

 今にも(くちびる)()れそうな、そんな距離(きょり)


「ローザ……ぼ、僕は――っ!」


 エドガーの(くちびる)を、細い指が(ふさ)ぐ。

 ローザの細く、しなやかな指が。


「……今はまだその時じゃないわ。私にも、好敵手(ライバル)がいるの……その子達とも、正々堂々と戦いたいしね」


「へ?――た、戦う?ちょっと待ってローザ、僕……別に変な事言おうとしたわけじゃないんだけど!ないんだけどぉぉぉっ!!」


 まるで幼馴染(エミリア)のような口調(くちょう)で、ローザがわざと間違えた言葉を(さっ)して、エドガーは(さけ)んだ。

 そんなエドガーを、ローザは()り返らずに笑う。

 その笑顔は、まさしく少女。

 綺麗(きれい)麗人(れいじん)でもなく、クールな美女でもなく。

 可憐(かれい)乙女(おとめ)――恋する少女だった。





 私の十日間は、無駄じゃなかった。

 十日間、回復しない魔力を戻す事。

 言う事の利かない身体を、動かせるようにすること。

 それだけで、十日も掛かった。


 エドガーは重度の車酔(くるまよ)いだと思っているが、実は違う。

 ローザは足りない魔力のせいで、瀕死(ひんし)にも近い状態だったのだ。

 それを(しめ)し合わせて、フィルヴィーネとメルティナには「重度の車酔(くるまよ)い」と診断(しんだん)してもらった。


 そうして、今ようやく身体を動かせるまでに回復したのだが。

 ローザは、今のエドガーの言葉を聞けただけで、それが全て()き飛ぶんだ。

 少年の言葉は、何よりも効く特効薬(とっこうやく)だった。


 (あせ)る必要はない。彼は待ってくれる。

 私がどんなに弱くなっても。だから、私は取り戻す。

 (たと)えどんなに時間を掛けようとも、私は私を取り戻す。





 とびっきりの笑顔で隣に座るローザを横目に入れて、サクラはその先に座る《契約者》の少年を(のぞ)く。

 どう見ても疲れていた。どんよりとした空気を(まと)って、向かいに座る王女様も戸惑(とまど)っているようだ。


<何があったのよ!?>

<……知らぬ>

(うそ)つきなさいよっ!どう見てもローザさんがおかしいでしょ……い、いや、エド君がおかしいのかな?>

<わたしは()ぐに戻って来たであろうが……>

<それはそうだけどさ……>


 反対側に座るサクヤと【心通話】で確認するが、サクヤは全く頼りにならなかった。

 もう一度ちらりと確認するが、エドガーは猫背(ねこぜ)でガックリと項垂(うなだ)れている。


<――いやエド君!王女様の前だよっ!!>


 シャキーーン!!と、エドガーはサクラの【心通話】で背筋を伸ばす。


「お。おおっ?……エドガー殿。その……話しを始めてもいいのか……な?」


 ローマリアが、急に生気を取り戻したエドガーにビクッ!と(おどろ)きながらも、こうしてはいられない状況に話しを進行しようとする。


「も、申し訳ありません。殿下(でんか)……」


 こそこそと、お付きで来ていたレグオスが隣に立つオーデインに声を掛ける。


「だ、大丈夫なのですか?この少年……あの(・・)【召喚師】なのですよね?」


 あの(・・)強調(きょうちょう)して言う辺り、レグオスは“不遇”職業を知っている人物らしい。

 しかし、オーデインは笑顔で言う。


殿下(でんか)がいいと(おっしゃ)るんだ……なにか不都合(ふつごう)でもあるのかい?」


「――い、いえ……!ただ、中々にあくどい噂(・・・・・)を耳にしたものでして……」


 レグオスは、言いにくそうにしながらも一人の少女を見ながら続ける。


「……【召喚師】は奴隷制度(どれいせいど)(いま)だに採用(さいよう)していて……その奴隷(どれい)たちを従業員にしているとか。夜な夜な奴隷(どれい)たちを(はべ)らせて(たの)しんでいるとか……更にはその奴隷(どれい)たちを男に斡旋(あっせん)して、日銭(ひぜに)(かせ)いでいる……とか」


「はっはっは。それは面白いね――だが……彼女たちを見てそれが言えるのかな?」


 到底(とうてい)面白いなどと言う顔ではないが、オーデインはレグオスに聞く。

 今、目の前にいる“奴隷(どれい)”と(うわさ)される少女たちは、“奴隷(どれい)”らしくあるのかと。


「――いえ……違うと、思いました」


「そうかい。なら、そうなんだろう」


 それだけは、如何(いか)に無知な自分でも瞬時(しゅんじ)に理解した。

 レグオス・イレイガルは、サクラを見て思った。


(彼女は奴隷(どれい)なんかじゃない……もっと、もっともっと素敵(すてき)な存在だ……)


 自分を(かば)ってくれた黒髪の少女は、とても高潔(こうけつ)麗純(れいじゅん)乙女(おとめ)なのだと。

 大変身勝手な妄想(もうそう)ではあるが、女を知らない青年の恋の始まりとしては、十分だった。





 ローマリアが咳払(せきばら)いをする。

 ビクッと、後ろに(ひか)える三人がひそひそ話を終える。


(わ、私は違うのにぃ……)


 緊張感(きんちょうかん)を出していた唯一(ゆいいつ)の騎士学生、オーデインの【従騎士(じゅうきし)】レイラ・エルヴステルンが、(うら)めしそうに上司と同僚(どうりょう)を見る。


(――ひっ!)

(……おっと)


「話しをするぞお前達……いい加減にせよ」


「失礼しました殿下(でんか)……この者共が私語(しご)を」


「えぇ!?」


(私、こんな人の部下になったの……?)


 レグオスは上司の裏切(うらぎ)りに(おどろ)き。

 レイラは将来を悲観(ひかん)した。


「さてエドガー殿、いや。【福音のマリス】御一行(ごいっこう)に……王家から(・・・・)依頼(いらい)を持ってきた」


「僕……()に?」


「ああ、そうだ。王命だ……」


 王命。国王からの、唯一無二(ゆいいつむに)の命令。


「――正確には王ではなく、王女(・・)……だが」


「つまり第一王女ね……ローマリア」


 ローマリアで無いとすれば、第一王女か第二王女。

 第二王女とはまだ接点(せってん)がない。とすれば、エミリアとセイドリックの決闘を仕切ったセルエリス王女が、その命を出したのだ。

 実際、エドガーが渡された書簡(しょかん)(ろう)は第一王女の(いん)だった。


「はい……ロザリーム殿。これは姉上……セルエリス・シュナ・リフベインからの王命です」


 と、始まったばかりの話し合いだが、【黄昏(たそがれ)の間】がノックされる。

 コンコン――と。それに反応したのはサクラ。


「あ、メイリンさんだよ……飲み物を頼んでおいたから」


 椅子(いす)から立ち上がって、この宿では厳重(げんじゅう)部類(ぶるい)の扉に向かう。


「あ、お手伝いします!」


 オーデインに(ひじ)で小突かれたレイラも、気を利かせなさいと言われた事に気付いて、サクラと共に向かう。


 カチャリと開けられた扉。そこには、両手に飲み物を置いたトレーを(かか)えたメイリンが居た。


「――お待たせして申し訳ございません。少々準備に手間取ってしまって……」


「ごめんなさいメイリンさん、(まか)せてしまって」


 片方のトレーを受け取り、サクラが礼を言う。

 もう片方はメイリンがそのまま持って行ったため、レイラは行き場のない手をひくひくさせながら持ち場に戻った。

 座る人物全員の目の前に紅茶が()れられる。

 コポコポと音を立てて、いい香りのする湯気を上げて鼻腔(びこう)をくすぐった。


「なんともいい香りだ……国の最高級茶葉(ちゃば)と、何ら変わらないぞ……」


 ティーカップも茶葉も、サクラが(かばん)から取り出したものだ。

 ローマリアがやって来て()ぐ、エドガーがフィルヴィーネを呼びに行っている間に用意したのだ。


 サクラは短い間にメイリンに()れ方を説明して、持ってきてもらえるように頼んでいたのだが、もう完璧だ。紅茶の本場も(おどろ)きのスーパーメイドのようだ。


 サクラは、小さくフフンと鼻を鳴らす。

 何故(なぜ)か自分の手柄(てがら)のように。

 その様子を、レグオスだけが「可憐(かれん)だ」と見ていた。


「お待たせ致しました……ローマリア様。えっと……ダージリンティーになります」


 ローマリア、エドガー、ローザ、サクラ、サクヤに。

 王女の後ろに(ひか)えている三人の騎士にも、メイリンは順に受け渡していく。


「どうぞ、騎士様方」


「ええ。どうも」

「か、感謝します」

「……ありがとうございます」


 「では、失礼します」と綺麗(きれい)に礼をして、メイリンは出ていく。

 帰り(ぎわ)に「――あっっっつ!!」と、メイリンの耳に入った声が誰の物とは、言うまでもないだろう。


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