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不遇召喚師と異世界の少女達~呼び出したのは、各世界の重要キャラ!?~  作者: you-key
第1部【出逢い】篇 3章《近未来の翼》
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112話【決闘~二回戦~】



◇決闘~二回戦~◇


()ずは西側ぁ!娼婦(しょうふ)でありながらぁ、この戦いに参戦(さんせん)!そのナイスバディで相手を悩殺(のうさつ)か!?――あ、申~し訳ありませぇん!対戦相手は女性でしたぁ!』


 ぺしりろわざとらしく(ひたい)を叩くソイドに、会場はドッ!と笑いに(つつ)まれる。


『気を取り直してぇ!シュダイハ家の第二選手ぅ!!カリーーーナ・オベルーーーシアーーー!!』


「「「「わあぁぁぁ!」」」」と会場は()り上がる。

 ソイドのわざとらしいマイクパフォーマンスも受け、先程までのブーイングも(おさ)まる。

 エミリア達にとってはありがたい事だ。が。


(――はっ?)


 入場前のサクラの視線(しせん)に、エミリアは咄嗟(とっさ)()らす。

 次に名を呼ばれるサクラが、非常に機嫌悪そうな顔でこちらを見ていたのだ。

 【心通話】が使えないエミリアでも、サクラが言わんとしている事を理解できてしまう。


(――ねぇ、今の面白い?あたし馬鹿(ばか)にされてない?次あんな紹介されるの?あたし)


(……ごめん)


 取り()えず、エミリアは心中(しんちゅう)(あやま)った。

 戦いが終わったら、十分(ねぎら)おうと(ちか)って。





 選手紹介を受けて、カリーナ・オベルシアが舞台(ぶたい)に上がる。

 薄手(うすで)の生地のヴェールを身体に(まと)い、小さな金具(かなぐ)で止めているだけの服装だ。

 後ろはガラ空きで背中が丸見えになっている、腕と太腿(ふともも)には金属の腕輪(足輪)がつけられて、より身体が強調(きょうちょう)されていた。

 他には装飾(そうしょく)と、肩に心なしかの肩掛けらしき布地がある程度(ていど)だった。


 その(あで)やかな恰好(かっこう)に、男性観客(かんきゃく)からは喝采(かっさい)が、そして女性観客(かんきゃく)からも、意外なほどに声援が飛んでいる。

 それだけ娼婦(しょうふ)とは、この世界で認知されている職業だという事なのだろう。

 カリーナが舞台の中心に来たことを確認し、ソイドは声を上げる。


『続きましてぇぇ!東側ぁぁ!ロヴァルト家の第二選手の入場でぇぇす!異国(いこく)出身で、エミリア(じょう)のご友人らしいですが、情報不足でよく分かりません!いったいどんな戦いを見せてくれるのかぁ!?謎の少女ぉぉ!サァァァクラァァ!!』


 戦いの前に事前に出場者を(つた)えておいたが、変なことを足して言われなくてよかった。


(変な事言われなくてよかったぁ……)


 舞台(ぶたい)を歩き始めたサクラは、心底(しんそこ)思う。

 事前に情報を提供(ていきょう)しているとはいえ、異世界人であることは()せる事にしている。そもそも誰も信じない可能性が高いのだが、隠す事に()したことはないと判断したのだ。

 それを(ふく)めても、今のサクラは異国出身のエミリアの友達だ。


「――サクラっ!!」


 先程(さきほど)<少し外す>と【心通話】で受けていたが、ローザとエドガーも戻ってきたようで、舞台(ぶたい)に上がるサクラに声を掛ける。


(……エド君、ローザさん……間に合ったんだね。あたしの出番の前にいなくなるとは思わなかったけど)


 【心通話】にこの嫌味(いやみ)を乗せる事はしなかったが、サクラは実は怒っていた。

 この二人が直前(ちょくぜん)に居なくなっていたことを。


「え……っと」


 振り返るサクラに、エドガーは言葉を()まらせる。

 先ほど声を掛ける事は(かな)わなかっただけに、せめて一言は。と名を呼んだエドガーだが、いざとなると何を言えばいいか分からずにいた。


 ましてや、負ければ終わりの可能性が大いに高まる一戦だ。

 それをサクラの双肩(そうけん)に乗せてしまった事を、エドガーは心苦しく思っていた。

 つまる所、気まずかった。


「――ほらっ!」


 そんなエドガーを横目で見るローザは、(いきお)(まか)せでもいいから言ってしまえとばかりに、エドガーの背を叩いた。


「――いっだ!?」


 突然叩かれて目を丸くするも、ローザのおかげで(まよ)う必要は無いと思えた。

 向き合うべきは、目の前にいる女の子(サクラ)だ。

 一歩()み出し、素直に、エドガーは思っていることを告げる。


「――その、頑張って!見てるから、ちゃんと見てるから!サクラは大丈夫!きっと……勝てるからっ!!」


 サクラに向かって(こぶし)を突き出し、優し気な笑顔で言う。


「う、うんっ!行ってくる!」


 格別(かくべつ)気の利いたことなんて言えなかった。

 (はげ)ましの言葉も、勝利の法則(ほうそく)も、負けてもいいよなんて安心させる言葉も、エドガーは言えない。


 だが、サクラにはそれで十分だった。

 サクラに取っては、見てくれている、(そば)にいてくれる人がいると言う事だけで、どんな(はげ)ましよりも効果があった。


(……よし、行こう。エド君も、ローザさんも……エミリアちゃんも見てる、見ててくれるから。あたしは最善(さいぜん)()くすんだ……【地球】からの、異世界人として!)


 一歩()み出すごとに、倒すべき相手、カリーナ・オベルシアが大きく見える。


(あたしが自分で決めたんだ……この世界で生きていくって。必死でも、無様(ぶざま)でも……エド君たちと一緒に!――戦うっ!)


「――随分(ずいぶん)余裕(よゆう)じゃないかい?お(じょう)ちゃん……」


 カリーナ・オベルシアは、悠然(ゆうぜん)とやって来るサクラを上から見下ろしながら、得物(えもの)のモーニングスターを舞台(ぶたい)に叩きつけていた。

 ガチンガチンと甲高(かんだか)い音が響く中、サクラは(うつむ)いたまま一言、カリーナに(つぶや)く。


「――っるっさいオバサン(・・・・)


「――んなっ!?」


 その一言は、おそらく本人にしか聞こえなかった。

 だが、効果は抜群(ばつぐん)だった。


「……こ、この小娘(ガキ)……大人の「お」の字も知らないような尻の青いガキに、この美貌(びぼう)が分かるものかっ!!」


 カリーナはまだ29歳だ。

 オバサン呼ばわりするするのは少し失礼だろうが、サクラにとっては違う。

 サクラは、進行役(しんこうやく)のソイドをちょいちょい、と笑顔で手招(てまね)きする。


 (みちび)かれるままに、ソイドはサクラの()(そば)まで来る、するとサクラは。


「え!?……あっ!ちょっとサクラ選手!?“魔道具”を……――」


 サクラは、ソイドの音声拡大“魔道具”(マイク)を掻っ攫ったと思うと、大声で叫んだ。


『――あたしを小娘(ガキ)って言う前にぃ!もうちょっと肌艶整(はだつやととの)えてからきたらどうですぅぅ!?――あっ!!シミ発けーーーーーん!』


 観客(かんきゃく)全員に聞こえるように。

 キーーンと音割れした声は、きっと騎士学校中に響き渡った事だろう。

 サクラの後方では、あのクールなローザですらポカーンとした顔をして、エドガーやエミリアと顔を見合わせていた。


「い、今の……」

「サクラ、なんかすっごい事言ったけど……」

「ええ。相手の顔を見ればわかるでしょう?――狙ったわね、あの子」


 音の反響が(おさ)まると、シーーーンと静まり返った会場と、舞台上。

 リアクションをしたのは、カリーナだけだった。


『……――ぶち殺すわよっ!!このクソガキっ!ピーーにしてからピーーして男数十人でピーーさせてやるっ!!……――えっ!?』


 カリーナは驚く。自分の声が、先程のサクラの暴言(ぼうげん)以上に拡大(かくだい)されて流されたのだ。

 ピーは伏字(ふせじ)で。会場には子供もいるのだから。


 カリーナの声が響いたのも当然だった。

 何故(なぜ)ならサクラは、持っていた音声拡大“魔道具”(マイク)をカリーナに向けていた。

 カリーナが自分を怒って、怒鳴(どな)りつけてくると見越(みこ)して。

 ざわつく会場と、わなわなと震えるカリーナ。それは怒りか、恥辱(ちじょく)か。


「……はい、司会者(しかいしゃ)さんありがと……さ、始めましょうか――オ・バ・サン!」


 ()め付ける様に、カリーナを見上げるサクラ。

 青筋(あおすじ)を浮かべ、サクラを見下ろすカリーナ。

 試合前の先制攻撃はサクラが制したと言えるだろう。

 精神的にカリーナを逆上させ、油断(ゆだん)(さそ)う。


(エド君にもローザさんにも、誰にも言わなかった作戦……相手が年上の女だと分かった瞬間に(ひら)いた。ほら、(にら)んでる(にら)んでる……こっわ)


『そ、それでは……その~――は、始めてもよろしいですか?』


 ソイドは(ひか)えめに問う。

 サクラはコクリと(うなず)き身構える。

 カリーナも、無言のまま(うなず)き、モーニングスターを構えた。


『ご、ごほんっ!それではぁ!二回戦!!開始ぃぃぃ!!』


 銅鑼(どら)が鳴らされた瞬間(しゅんかん)、サクラは距離(きょり)を取る。

 ダッシュでカリーナとの間隔(かんかく)を取り、左肩に掛けた(かばん)から、前日に取り出して入れておいた物を取りだす。

 (かばん)からにゅーんと出て来たのは、【スタンビュート】と呼ばれる電磁(でんじ)ムチだ。

 勿論(もちろん)サクラの世界【地球】の物――と言いたいが、実は違う。

 これは、サクラが自作(じさく)したものだ。

 【スタンガン】と【鉄鞭(てつべん)】を改造(・・)して。

 それを右手に構えて、サクラはカリーナの挙動(きょどう)を待つ。


「……」

(……来ない?てっきり激高(げきこう)して(おそ)いかかってくると思ったけど……)


 カリーナは、光の差さない目でサクラを(にら)んでいる。

 一見冷静(れいせい)に見えるその立ち姿だが・


「――このガキ、絶対ひん()いてアタシの娼館(みせ)で身体売らせてやる……」


 サクラはゾクッ!と背筋(せすじ)を冷えさせて、カリーナの視線(しせん)を受ける。

 カリーナ・オベルシアは、経営者(けいえいしゃ)でもある。

 カリーナの娼館(しょうかん)は、【貴族街第四区画(サファラス)】でも五本の指に入る人気店だ。

 その店でサクラを売ってやると、カリーナは決めた。今決めた。


「何度も何度も客を取らせて、ぼろ雑巾(ぞうきん)にしてやるわよ!!」


 ()け出すカリーナは、モーニングスターの鉄球(てっきゅう)を外すと、じゃらりと(くさり)が揺れて、舞台上(ぶたいじょう)にガスン!と落ちる。

 モーニングスターはフレイルに変わって、舞台上(ぶたいじょう)を転がり始め、走るカリーナに合わせてガリガリガリ!と音を鳴らしていた。


「――!(うそ)っ!?外れるのそれっ!」


「そう!――よっ!」


 返答(へんとう)と共にブブンと()り回されたモーニングスターフレイルは、しゃがんで()けたサクラの頭をすれすれで通り過ぎる。


「……あ、危な……って!しゃがんでる場合じゃないって!!」


 ()けられたことを喜ぶ前に、サクラは反撃を(こころ)みる。


「――ちぃっ!」


 カリーナは怒りで(まと)を外したことに舌打(したう)ちしつつ、軽く距離(きょり)を取る。


「――ぎゃっ!!」


 しかしサクラは、【スタンビュート】をビャッと()りぬき、見事にカリーナの太股(ふともも)に当てる。

 バチィンっ!!と当たった瞬間(しゅんかん)、電撃がカリーナに流されダメージを与えた。


「やった!次っ!……――あ、あれっ?むっずコレ!!」


 続けて(むち)でしばこうとしたが、うまく操作(そうさ)出来ずに二回も空振(からぶ)りした。


「……ぐっ、ガキがっ!!アタシの身体に!」


 カリーナは、サクラの(むち)はただの(むち)だと思い、大したダメージは無いと判断(はんだん)して、()けるまでもないと軽く距離(きょり)を取るだけのつもりだった。

 それをミスだと(みと)めて、数歩下がる。

 再びモーニングスターフレイルをじゃらりと構えて走り出すと、一気にサクラに近づき、フレイルの鉄球を短縮(たんしゅく)させてモーニングスターに戻す。


「――ちょっ!はやっ……きゃっ!!」


 実際(じっさい)はそんなに早くはないし、ローザの三分の一以下、サクヤの十分の一程度(ていど)

 エミリアよりも全然遅い筈だが、一般人代表のような日本人サクラには高速に見える。

 痛みの余韻(よいん)を感じている時間はない。お互いにだ。


 ぶん回されたカリーナのモーニングスターは、バチンとサクラの【スタンビュート】を(はじ)いて()き飛ばし、場外に飛ばされた。


「……あ!このっ――ぶっ!」


 せめて距離(きょり)をと、カリーナから離れようとした瞬間(しゅんかん)、サクラは意識(いしき)を飛ばす。

 ドサリと倒れるサクラの鼻からは――ぼたぼたと赤い流血(りゅうけつ)が。


「――いっ、は……ぇ?」

(痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!――痛いよっ!)


 (じざ)()るサクラ。

 殴られたのは(ほほ)だと思ったが、一瞬(いっしゅん)()り向いた(さい)に鼻に当たったようだ。

 ――カリーナの拳が。


「――貧弱(ひんじゃく)だねぇ、それじゃあ筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男たちの相手なんて、できやしないよっ!?」


 ニヤリと笑い、サクラを見下ろすカリーナは、最初の精神的ダメージを返してやったとほくそ笑む。

 カリーナにとっては、肉体をけなされた事よりも、(みずか)らの娼館(みせ)の売上に左右される事を発言してしまったことの方が、きつかった。


「しまったねぇ、あんまり顔には傷つけたくないのよ……立ちなさい?クソガキっ!」


 カリーナは(すで)にサクラを商品として見ているようで、顔には傷をつけたくないと言う。

 その為、一番初めに顔を叩き、心を()りに行った。


「お(じょう)ちゃん、顔()いいみたいだから、常客(じょうきゃく)も取れるだろうよ……あの貴族のお嬢様よりも……体つきもいいしねぇ」


 鼻血をぼたぼた()らすサクラを視界に入れながら、お嬢様(エミリア)を見る。


「……!!」


 その言葉を聞き、サクラは立ち上がる。

 一撃で()れかけた心を、敵の言葉で修復(しゅうふく)する。


(そっか……そっかそっか……あたしが負けたら、エミリアちゃんも……)


 最低(さいてい)旦那(だんな)様を(むか)えて、下手をすればエミリアも娼館(しょうかん)で働かされるかも、と、サクラの考えは(いた)る。


「なんだい?降参(こうさん)する気にでもなったかい?……うふふ、それでいいのさ、それ――」


「そうね……オバサンよりは売れるかもね。なんたってぴちぴち(・・・・)の十代だから……」


 ビキリ――と、カリーナの顔に()える数本の筋。

 ショックか怒りかで、カリーナは得物(えもの)を落とす。ガチンと音を鳴らして。

 そしてカリーナは、ずいっとサクラに肉薄(にくはく)し、両手で胸ぐらを(つか)んで身体を浮かせる。


「――ガキがぁぁ!!調子に乗るんじゃないわよっ!!」


「ぐぅっ……」


 両手で引っ張られて首にめり込むシャツ。

 呼吸(こきゅう)が苦しくなるのがはっきりとわかる。


「……まっ――」


「待ってなんて聞かないわよ!」


「……し、ないでよ」


「は?なに?」


 サクラの言葉を聞いてやろうと、カリーナはシャツを(つか)む力を(ゆる)める。


勘違(かんちが)いしないでよ……待ってた(・・・・)って言ったのよ!!」


「なん――だっ!?ぁぁぁ!ぁぁぁ!ぁぁぁ!ぁぁぁぁぁぁあっ!?ぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!」


 サクラがカリーナを(にら)みながら、その返答を(おこな)った瞬間(しゅんかん)

 身体を痙攣(けいれん)させて(さけ)ぶカリーナ。

 激痛(げきつう)に手を(はな)し、サクラは着地する。

 しかし、カリーナの胸に当てられた【スタンガン(・・・・・)】は離さない。


「そのデッカイ脂肪(しぼう)邪魔(じゃま)で!見えなかったでしょ!!あたしが隠し持ってたコレを!」


「――んがああああぁぁぁあっあああああ!!」


 カリーナの絶叫(ぜっきょう)は止まらなく、最大出力の未知の道具に、その身体からは液体(えきたい)()れ出る。

 太腿(ふともも)(つた)い、舞台(ぶたい)()らす液体(えきたい)に反応して、電流は更に力を強める。

 それでも、娼婦(しょうふ)として、戦士として無様(ぶざま)な負けは出来ないと、思い切り脚を()りぬいてサクラを蹴とばした。


「ああ――がぁっ!!」


「――!ぐぅっ……痛ったいなぁっ……!!」


 転がり、起き上がりながら、腹の痛みに文句(もんく)を言うサクラ。

 カリーナが感電して思うように動けない事は分かっている。

 追撃(ついげき)してやろうと、プシューと湯気(ゆげ)を立たせるカリーナに、サクラは走り出す。


「はぁぁぁぁっ!」


「ぐ……待っ――」


 (しび)れが取れず、両膝(りょうひざ)(くず)したままのカリーナは、電撃に髪を逆立(さかだ)てて(おび)える。


「――カリーナ!!【光のカーテン(・・・・・・)】を使え!!」


 外野から、カリーナに声がかけられた。


「――!?そ、そうだ……“魔道具”!」


 (おく)られた言葉に、カリーナは肩掛け布に付けられた装飾(そうしょく)()れる。


「それが――なによぉぉっ!!」


 カリーナがその装飾(そうしょく)()れた瞬間(しゅんかん)に、サクラも【スタンガン】を打ち込んだ。

 しかし【スタンガン】はカリーナに届くことはなく、(なぞ)の壁に(はば)まれてサクラの手は止められていた。


「く、う……うぅ!」

(……何よ!!これぇぇぇぇ!)


 無理矢理(むりやり)壁を突破しようと、【スタンガン】を持つ右手に力を込めるが、微動(びどう)だにしない。


「――は、はは。はははっ!!最高だよっ、セイドリック坊ちゃん!この“魔道具”【光のカーテン】!」


 カリーナは“魔道具”の効果に高揚(こうよう)したままサクラを前蹴(まえげ)りで()とばす。


「――あうっ!!」


 背中から叩きつけられ、一回転して寝転ぶサクラ。

 【スタンガン】は転がって、カラカラ音を鳴らす。


「いやぁ、(まい)ったわよ。あんたみたいなお(じょう)ちゃんにここまでされるなんて、でも……終わりよっ!――っぐ……な、なに?身体が……」


 サクラにトドメを差す為、歩み出そうとしたカリーナだが、脚が動かなかった。

 (しび)れはだいぶ(うす)れた、(むち)の痛みもない。

 では何故(なぜ)か。


「ちっ!この“魔道具”かっ……そういえばそうだったわねっ。(なげ)かわしい!!」


 “魔道具”【光のカーテン】は、見えない壁を使用者の前に発生させる。

 その力は非常に高く、サクラの腕力では突破できなかったのだ。

 カリーナが“魔道具”でごたついている内に、サクラはフラフラしながらも立ち上がって後方を見る。


(ああ……良かった、皆見てる……エド君も、ローザさんも。【忍者】も、エミリアちゃんも……あ、アルベールさんとメイリンさんもいる……)


 いざとなったら、ローザが助けてくれる。

 勝手にそう信じ込んで、サクラは前を向く。


「あたしは……何にだってなれる(・・・)、誰にだってなれる(・・・)!あたしはあたしじゃない、あたしじゃないあたしだってあたしだっ!!」


 矛盾(むじゅん)で意味不明。

 だが、その言葉はサクラの能力(スキル)を現す。

 誰にでもなれる、演じることの出来る力だ。


「あたしは……軍人、陸軍少佐……服部(はっとり)少佐!」


 サクラの(つぶや)きは、一種の暗示(あんじ)になる。


 能力(スキル)名は【ハート・オブ・ジョブ】。

 その詳細(しょうさい)は。自分の思った、想像(そうぞう)した職業(しょくぎょう)能力を()る事ができる能力だった。





 空気が変わった。

 サクラを(まと)う空気が、まるで歴戦(れきせん)の戦士のように変わったことを、ローザとサクヤだけが気付けた。


「……サクラ?」

「……む。サクラか?」


 舞台(ぶたい)の上の服部(はっとり)少佐が一人でブツブツ言っている間に、カリーナの“魔道具”解除(かいじょ)が終わり、落ちていたモーニングスターを(つか)んで走ってくる。


「……」


「ガキがっ!あんたがどんな“魔道具”使おうと、この【光のカーテン】があれば怖くないよっ!」


「……」


 服部(はっとり)少佐は無言のまま、(かばん)に手を突っ込んで何かを取り出す。

 それは、この世界には存在しない武器だった。

 歩兵式銃剣(じゅうけん)、軍用の短剣付き【アサルトライフル】。


<……ローザさん、障壁(しょうへき)を張って!観客(かんきゃく)に当たってしまう>


<――!?サ、サクラ……?>


 ローザは【心通話】を受けるが、サクラの口調(くちょう)や声のトーンの違いに(おどろ)く。

 そのサクラは、カリーナの攻撃を()ける、()ける、()ける。

 まるで別人のように。


<早くっ!!>


<分かったわよっ>


 モーニングスターを銃剣(じゅうけん)で受け止め、サクラはカリーナの太腿(ふともも)()り上げる。


「――ぐぅぅぅ!」


 【スタンビュート】で痛めた箇所(かしょ)だ。

 痛みと、思わぬ反撃にカリーナはいったん距離(きょり)を取って【光のカーテン】を再度使用し、サクラの攻撃を待つ。


「このまま待てば、時間切れ……ダメージは五分五分、見た目じゃアタシが不利かね……でも、この【光のカーテン】が好感触(こうかんしょく)だね……審査員(しんさいん)もアタシに入れるだろうよ!」


「……」


 カリーナも、サクラも動かない。

 カリーナは【光のカーテン】を発動させたままサクラの出方を(うかが)っている。


 サクラは、【アサルトライフル】をカリーナに照準(しょうじゅん)を合わせて待機。


「……」


 一言も言葉を(はっ)さずに、スコープを(のぞ)いていた。


「来ないのかい?お(じょう)ちゃん……その“魔道具”が何なのか分からないけど、この【光のカーテン】の壁を()えて来ないと、あんたに勝機(しょうき)は無いよ?」


「……」


 反応を(しめ)さないサクラに、カリーナはイラついて声を(あら)げる。


「――いい気分だね!このまま時間切れでアタシが勝てば、あんたたちは二敗、セイドリック坊ちゃんの出番が来る前に終わっちまうのさぁ……ちっ!――なんか言ったらどうなんだい!?」


「……(だま)れ。貴様と話していると、頭に(うじ)()くようだ……」


「――なっ!?」


 人の変わったような口調(くちょう)とトーンに、思わずカリーナは一歩下がる。

 威圧(いあつ)されたのだ。スコープ()しのサクラの視線に。


<……いいわよ>


「……了解(りょうかい)(ターゲット)排除(はいじょ)する」


 誰かに言われたかのように答えるサクラは、引き金を引く。


 ――それは、一瞬(いっしゅん)だった。

 轟雷(ごうらい)が鳴ったかのような耳障(みみざわ)りな音が数秒続いたかと思ったら、カリーナ・オベルシアは全身血塗(ちぬ)れになって倒れていた。


 会場の観客(かんきゃく)(ほとん)どは、その音に目と耳を(ふさ)いでいて、見れていない。

 見ていたのは、味方の陣営と、一部の人たちだけだった。


 【光のカーテン】など歯牙(しが)にもかけず、無数(むすう)銃弾(じゅうだん)はターゲットの手足に風穴(かざあな)を次々に開けていき、観客(かんきゃく)が音と光に(おどろ)いているうちに――勝負は決した。


 ドシャリと倒れるカリーナは、自分が作った血溜(ちだ)まりに(しず)む。

 静まる会場で、サクラがソイドに告げる。


「……審判(しんぱん)……勝者を」


 その言葉に職務(しょくむ)を思い出したソイドは、大声で()げる。


『――しょ、勝者ぁ!ロヴァルト側ぁ!サクラァァァァァっ!!』


 勝敗が決まっても、会場の静まりは続いた。

 (あま)りにも衝撃的すぎる光景(こうけい)に、声を出すことを忘れているようだ。

 そんな中、ロヴァルト側の待機所から拍手(はくしゅ)が行われる。

 エミリア、エドガー、ローザにサクヤも、アルベールとメイリンもが、サクラに()しみない拍手(はくしゅ)(おく)る。


 そして、パチ――パチ――パチパチ――パチパチパチパチ。

 と、徐々に増える音。

 そして()ぐに、会場は拍手(はくしゅ)(うず)に包まれたのだった。


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