【冬童話2026】薔薇ジャム作りのネネ
【冬童話2026】、参加作品です。
「おはよう。薔薇さんたち」
朝つゆがお日様に照らされてきらきら輝く朝、ネネは薔薇たちに声をかけます。
きれいに手入れされた薔薇たちもきらきらしています。
「今日もみんなの力を貸してちょうだい」
そして、薔薇の花を切り、家に戻って、丁寧に花びらをつみます。とった花びらに砂糖をもみこみ、鍋には水とレモン汁。鍋は今にもぐつぐついいそうです。
鍋に花びらを入れてしばらく煮ると完成するのは「薔薇ジャム」です。
亡くなったおばあちゃんから教わった「薔薇ジャム」を作って、パンに塗って食べるのがネネの毎朝の日課でした。
ネネの家の庭は薔薇の庭。生前おばあちゃんが薔薇いっぱいの庭にしていたのを、ネネが引き継ぎました。
いつも薔薇ジャムを作ってくれたおばあちゃんの真似をして、ネネも薔薇ジャムを作りはじめたのが5歳の時。その時、既に両親はいませんでした。おばあちゃんは、ネネが12歳になるまで大切に愛情深く育ててくれました。だから、ネネは何があっても前を向けるのです。
ネネはパンをほおばりながら、はぁと溜息をつきました。
「もう貯金がないわ。パンも買えなくなる。何とか仕事を見つけなきゃ」
ネネのような子供ができる仕事はおつかいや子守でしたが、この村の人たちはネネに仕事を頼むことはありませんでした。
それはネネが悪いのです。
ネネの住んでいる所には、「薔薇の架け橋」と言われている領主様が集めた、珍しい薔薇が咲き乱れている庭があります。薔薇が好きだった8さいのネネは、その庭を眺めるのが大好きでした。
ある日、「薔薇の架け橋」を眺めていたネネの目がある薔薇に釘付けになりました。
「この薔薇、図鑑で見たことがある。グロワール・ドゥ・ディジョンだわ。しわしわがおばあちゃんみたいで優しそう」
珍しさに心奪われたネネは、その薔薇を手折ってしまったのです。「薔薇の架け橋」の薔薇は決して手折ってはいけない。それが決まりです。思い出したネネは、自分のしてしまったことに震えました。領主様は大変厳しいことで有名で、その上とても薔薇を愛する方。ネネはその薔薇を放り投げて、急いで家に駆け込みました。
おばあちゃんにも言えず、ひとりで部屋でもうふをかぶってふるえていたら、おばあちゃんが謝っている声が聞こえました。
「家のネネがそんなことを……。本当に申し訳ございません。まだ8さいです。どうかお許しくださいませ」
おばあちゃんは何度も何度も頭を下げました。
ネネは怖くて震えながら、じっと耳をそばたてていました。
とうとうおばあちゃんが、ネネを呼びに来ました。
「ネネ、さぁ、謝りにいこう」
ネネは話をしに来た人をちらっと見て怖そうな人だったので、おもいきりいやいやをしました。
「いやだぁ、こわいよお」
「ネネ、悪いことをしたら、怖くても謝るのよ」
「いやだよお、こわいよお」
とつんざく声で泣き叫びました。それを聞いた領主様の側仕えは、
「まだこの子は8さいだ。あなたに領主様の所へきてもらうがいいかね?」
と言いました。
「はい。私がお詫びしにまいります」
ネネは自分が領主様の所へ行かなくてすんでほっとしました。でも、おばあちゃんのことを考えて、チクチクチクリと胸が痛みました。
こうして薔薇の領主におばあちゃんが詫びたことで一件落着かと思いきや、おばあちゃんが亡くなってからというもの、仕事をネネに頼む者はいないことで、あの時のことをみんなゆるしていないのだと分かりました。
(村の人にも領主様にも良く思われていないのなら、村にいることさえできなくなるわ)
ネネは、また溜息をつきました。
(おばあちゃん、あの時泣いていたっけ)
おばあちゃんは領主との約束を守れなかっただけでなく、薔薇を大切にできなかったことも「悲しい」と泣きました。だから、ネネはとても薔薇を大切にしています。
「仕事をもらえないなら、自分で仕事をしよう。そうだ!薔薇ジャムを作って売ろう!」
次の日からネネは薔薇ジャムをいつもよりうんと多く作って、空き瓶に詰めました。
ネネは、「おばあちゃん、美味しい薔薇ジャムの作り方を教えてくれてありがとう」と心の中でそっとつぶやきました。
そして、村の中で売り始めたのです。
「朝採れたての薔薇で作った薔薇ジャムです!美味しいですよ~」
村の人たちの大半は冷ややかでしたが、興味ぶかげに見る者もいます。すると親戚の家に遊びに来ていた村人でないお客さんがたくさん買ってくれました。
(村の人はやっぱり買ってくれないみたい。これでは明日からお金にならないわ)
次の日は少しばかりの薔薇ジャムを作って、売りました。
「朝採れたての…薔薇で作った…ジャムです」
声も小さくなりがちです。
そこへ薔薇の紋章が入った馬車が通りかかりました。
御者が聞きます。
「ここで何をしている?」
薔薇の領主様の馬車だと気づいたネネは震える声で
「はい。薔薇ジャムを売っています」
と言いました。
御者は何かを馬車の中で伝えてから、ネネに言いました。
「それを全部もらおう」
ネネはお代をもらって帰りましたが、なぜか気持ちが落ち込みました。
(自分はどうしてこんな気持ちになるのだろう?)
おばあちゃんのお月様のようなふっくらした笑顔と雷のように怒った顔を思い浮かべて、庭の薔薇にそっと手で触れます。
(私は何をすべき?おばあちゃん……)
ネネは、最後の薔薇をなでた後、顔を上げて決めました。
次の日、ネネは朝早く薔薇の領主の屋敷のドアを叩きました。あの薔薇を手折ってしまった時より、『庭の架け橋』の薔薇は美しく咲きほこっていました。そして、ネネもあの時とは少し変わっていました。
「昨日薔薇ジャムを買っていただいた者です。今日は領主様にお話ししたいことがあって参りました」
と言ったら、すんなり領主様に会えることになりました。
緊張した面持ちで扉を開け、中に入ると、領主様は静かに窓の外を見ていました。
ネネは上ずった声を出しました。
「あの……領主様」
「君がネネだね」
「はい……」
「あんな素晴らしい薔薇ジャムを作れるとは。美味しかったよ」
ネネはからからに乾いた喉から、声を振り絞りだしました。
「ありがとうございます。でも今日は領主様に聞いていただきたいことがあって参りました……。8さいの時、グロワール・ドゥ・ディジョンを折ってしまったのは私です。申し訳ございませんでした」
領主は意外にもにっこり笑って言いました。
「あのジャムを作れたのだ。反省したことは気づいていたよ。君は勇気があるね。きちんと詫びられた。だから、私からも村の人たちに伝えておこう。君はきちんとした子だということをね」
ネネは、ほうっと息を吐きました。
「『薔薇の架け橋』の薔薇は、外国のお客様からいただいた、とても貴重で大切なものなのだ。そしてそういった国や地域と仲良くしたいという村の願いでもある。だから、『薔薇の架け橋』の薔薇を折らないというルールを破ることはとてつもない苦痛を味わう。あの時のことは、よく覚えている。おばあさんは、君がこの村で生きていけるように必死で私に謝って、それから村人全員にも詫びたのだよ」
ネネは、村の人全員におばあちゃんが謝っていたなんて、全く知りませんでした。
「いつも君が村人から冷たくされないように心砕いて接していらしたよ。ある時は君を悪く言う人に謝りながら、明るい子なのですと良い所を分かってもらおうとしたり、責任を取らせろという人がいると、庭の薔薇で作った薔薇ジャムをその人や私の所へ届けてくれたりした。そしてね、決まってこういうんだよ」
領主は、優しい光を宿した目でネネを見ました。
「『あの子はきっと自分で謝りに行きますから』ってね」
ネネの瞳がじんわり潤いを帯びました。
「君が今までこの村で仕事以外のことで何一つ不自由しなかったのは、おばあさんのおかげだ。感謝しなさい」
(おばあちゃん!)
ネネは目頭が熱くなってどうしようもありませんでした。
「でもどうして謝ろうと思ったのだい?」
「それは……おばあちゃんを……おばあちゃんを裏切りたくなかったからです」
領主は、優しく微笑みました。
「ネネ。私の屋敷で薔薇ジャムを作る仕事をしなさい。君の薔薇ジャムは本当に素晴らしい。お客様にも出せるだろう」
ネネは初めての仕事を与えられて、胸がいっぱいになりました。
すっきりした心で屋敷を後にし、ネネはおばあちゃんが眠っている丘の上に行きました。
薔薇の花と薔薇ジャムを捧げて、
「ありがとう。おばあちゃん」
とつぶやきました。
空には明るい太陽が輝いていました。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
もう何年も前に書いてあった作品を引っ張り出してきました。
謝るって勇気が要ることだけれど、その勇気があるのとないのとでは、人生が変わってきますね。
私も子供時代、謝れないことがあって、未だに思いだすことがあります。
でも、大人になってからは謝れるようになったので良かったです。
私も謝る勇気を年下の家族に伝えていきたいと思います。
何か感じたことがございましたら、感想などで教えていただけましたら嬉しいです。




