10、ユリアとなぞなぞの魔女
本を読むとたくさん心と頭に栄養が注ぎ込まれますよね。
第10話はそんな経験をたくさんした女の子のお話です。
ユリアは本を読むのが大好きな女の子です。
朝から晩までひまさえあれば本を読んでいて、ケーキよりも洋服よりも本があればうれしいと思っていました。
ユリアのお父さんもお母さんも本を読むのはとても良いことだという考えだったので、ユリアに誕生日ごとに本を買ってくれていました。
ですが、お金がないのでたくさんの本は買ってあげられなかったのです。
そんなある日、森の奥の領主さまのお家からしょうたいじょうがとどきました。
『あなたは大変本がお好きだとききおよんでおります。我が家の図書室へご招待いたします』
お父さんはにこにこして「行っておいで」と言ってくれ、お母さんはお礼にと「ミートパイ」を持たせてくれました。
森の道を二時間歩いて、領主さまのおやしきにつきました。
ところが、人がまるでいるようすがないのです。
そのまま玄関までいくと、ギギーとひとりでに扉が開きました。
(なにかおかしい)と感じましたが、本を思い切り読めるというわくわく感がかって、ユリアはお屋敷の中に入りました。
「どなたかいませんか?」
ボっ。その声にこたえるように、昼間なのにたいまつの炎がひとりでにつきました。
ますますユリアは首をひねります。
(おかしいわ。だれもいない。それにしても領主様のおやしきはふしぎなしかけがあるのね。わたしをびっくりさせようとしているのかしら?)
ユリアはたいまつの炎にみちびかれて、奥の大きな木の扉の前に来ました。
ギギ―。
木の香りがするりっぱなドアが開きました。
「わぁ」
そこは図書室でした。
壁一面に天井まで本がぎっしり並べてあります。
ユリアは夢中で本を手に取りました。
「これは絵本。こちらは歴史の本。そして、こっちは世界の図鑑だわ。すごい!夢みたい」
ユリアが世界の図鑑を開こうとしたとき……。
「フォフォフォ。娘、お前はいかにもかしこそうだ。楽しみがいがあるねぇ」
ユリアがびくっとして声がする方を見ると、しらがのぼさぼさ頭をゆかいそうにゆらし、いぼだらけの顔をゆがめてわらっている緑のローブをきた魔女がいました。
「娘。わたしのなぞななぞに答えな。こたえられたら、家に帰してやる」
ユリアはこわくて口もきけません。
おやしきの人たちは、この魔女に何かされたのにちがいありません。
「娘。楽しませておくれよ」
「わたしは家に帰りたいです……」
「だめだね。なぞなぞに答えられなければ帰さない。やしきのものもみななぞなぞに答えられなくて、本になってしまったよ」
「本に?」
「ほら。お前が持っている図鑑はこのやしきの領主だったものだ」
ユリアはびっくりして、本をとじました。
「じゃあ、いくよ」
「あっ、ま……」
心のじゅんびができていないユリアはあせりましたが、魔女はにやりと笑って続けました。
「わたしが一番たべたいものはなんだ?」
(魔女の食べたいものなんて分かるわけがないわ。もしかして人間かも知れないじゃない!)
ユリアはこわくて下を向いていましたが、声をやっとしぼりだしました。
「ヒントをください」
「ヒントなんてあるわけないだろ。分からないかい?フォフォフォ」
魔女は黄色い歯をむき出して笑いました。
その時机の上に置いてあったかごからミートパイの香りがふわりとかおりました。
(ミートパイだわ。お母さん。わたし、お家に帰りたい)
そう思うと、涙が出そうになりました。
でもユリアは魔王と戦う勇者の物語を思い出し、じぶんをふるいたたせます。
(またお母さんとミートパイを作って食べるんだ。あっ、もしかして?魔女もこのにおいをかいでいるはず……だとしたら……)
ユリアは、魔女をよろこばせないために声がふるえないようにして答えました。
「それはミートパイです」
「くっ。答えやがった」
魔女は足をどんどんしてくやしがりました。
「娘。お前にはもう用はないよ。さっさと帰りな」
ユリアは自分だけぶじに帰るのはイヤでした。
お父さんとお母さん、そして本の中のそんけいしている人物もいつもだれかのために頑張る人たちです。
「このミートパイを差し上げます。だから、おやしきの人たちをもとのすがたにもどしてください」
「フォフォフォ。ミートパイだけでは足りないねぇ。娘。あと二問、わたしのなぞなぞに答えな」
魔女は意地悪そうにユリアを見ました。
ユリアはスカートをぎゅっとにぎりしめました。
あと二問、やるしかありません。
「ではいくよ。私が一番やりたいことはなんだ?」
(やりたいこと?なぞなそかしら?あれだけ楽しそうにしているんだもの、なぞなぞよね。でも、なぞなぞは人を本にするためにしているのよね。じゃあ、人を本にすること?いったいどっち?)
ユリアは、その時以前読んだ「魔女のしんじつ」という魔女について書かれた本を読んだことを思いだしました。
(たしか魔女は魔法を使うのには魔力が必要で、その魔力は限りがあると書かれていた。人を本に変えるのは魔法だから魔力が必要よね。でもなぞなぞは魔力を使わななくても知恵があればできることだわ)
ユリアは頭の中でかんがえをまとめていきます。
(魔女がなぞなそを一番好きだったら、二問だけとは言わず、おやしきの一人一人をもとにもどすことを約束させて何度もなぞなぞを出すはず……。二問。それはきっとわたしが強いから、こたえられるかもしれないのをおそれて二問なのだわ)
ユリアはまたまっすぐ魔女を見ました。
「それは人を本に変えることです」
「むすめぇ」
魔女はガシガシと歯ぎしりしてくやしがりました。
「お前にはふつうのなぞなぞではだめだ。最後は……今度こそぜったいに答えられないとっておきのなぞなぞをだしてやる!」
ユリアは図書室を見回しました。
そして、みんなをたすける!とあらためてちかいました。
「これで最後だ、娘。とても嬉しくて、楽しくて、必要なことなのに、だれにとってもすごくこわいことはなんだ?」
ユリアの顔がくもりました。
全く分かりません。
ユリアの好きなこと。読書もこわいことではありません。
必要なことということから考えて、食べることかもしれないと思いましたが、食べ過ぎはこわいけれど、だれにとってもこわいことにはなりません。
ユリアは一生懸命考えます。
(眠ることかな?でも嫌な夢を見たら、うれしくも楽しくもないわ)
「どうした。むすめ。こたえられないのかい?時間をせいげんしてもいいんだよ?」
魔女は目を猫のように細めて、フォフォフォと笑います。
ユリアが分からないのを楽しんでいるようでした。
ユリアは考えても全く分かりません。
そして、ぽろっと涙をながしました。
(お父さん、お母さん、ごめんなさい。わたしは家に帰れません。おやしきの人たちもごめんなさい。わたしでは力が足りません。あぁ、せめてあの物語だけでも続きを読みたかったな。あれからお姫様はどうなるんだろう?知りたかったな)
(あっ)
ユリアはぱっと顔をかがやかせました。
(そうよ。これだわ!)
それを見て、魔女が顔をしかめます。
ユリアは、まっすぐ魔女を見て、大きな声で答えました。
「答えが分かりました。それは知ることです。新しいことを知ることは、嬉しくて、楽しい。そして必要なこと。けれど、だれにでも言えることですが、まちがったことを知ることはとてもこわいことです」
「まいった」
それだけ言うと、ボン。
魔女ははいいろのけむりになって消えました。
図書室に人があふれて、歓声があがりました。
おやしきの人たちが元に戻ったのです。
領主さまはお年をめした優しいおじいちゃんでした。
「ユリア、魔女との対決をさいしょからさいごまで見ていたが、きみの知恵と勇気はすばらしい」と褒めてくれました。
ユリアはお礼に国のあちこちや外国から取り寄せた本を毎月十冊贈ってもらえることになり、大喜びです。
お父さん、お母さんにもたくさんのご褒美が贈られました。
ユリアはそれからも本が大好きで読み続け、成長すると国の図書館のかかりになって、本に囲まれて幸せに過ごしたそうです。
でも、やっぱりなぞなぞの本だけはどうしてもあまり好きになれなかったのですって。
おわり
最後までお読みくださり、ありがとうございました!
心より感謝申し上げます。




